ADV開発の未経験者チームが手がけた話題作『シュレディンガーズ・コール』―開発チーム「アクチリ」が語る、開発中止の危機を乗り越えた「もっとも大事なこと」とは?【ゲームメーカーズスクランブル2026】 | GameBusiness.jp

ADV開発の未経験者チームが手がけた話題作『シュレディンガーズ・コール』―開発チーム「アクチリ」が語る、開発中止の危機を乗り越えた「もっとも大事なこと」とは?【ゲームメーカーズスクランブル2026】

未経験者ならではの試行錯誤のようすが、ゲーム制作志願者へのエールになりますように。

ゲーム開発 インディー
ADV開発の未経験者チームが手がけた話題作『シュレディンガーズ・コール』―開発チーム「アクチリ」が語る、開発中止の危機を乗り越えた「もっとも大事なこと」とは?【ゲームメーカーズスクランブル2026】
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2026年5月28日にニンテンドースイッチおよびSteamでリリースされた『シュレディンガーズ・コール』は、「絵本を読んでいるかのように、優しさに包まれる感覚のノベルアドベンチャー」と銘打たれたノベルアドベンチャー作品です。

世界が終末へと向かう黄昏時、電話を通じて“生と死の狭間で彷徨う魂たち”に寄りそう物語。本作は京都のインディーゲーム開発チーム「アクロバティックチリメンジャコ」の3名が、集英社ゲームズとの二人三脚で完成させました。

しかし「アクロバティックチリメンジャコ」の3名はいずれもノベルアドベンチャー開発未経験者という、右も左も分からない状態でのスタートとなり、多くの試行錯誤を繰り返すこととなりました。中には開発断念へと転びかねない緊急事態もあったのだとか……。

2026年8月30日に東京・TOC有明で開催された講演イベント「ゲームメーカーズスクランブル2026」では、本作の企画から完成までを時系列に沿って解説。「どうやって作ったの?没入型ノベルアドベンチャー『シュレディンガーズ・コール』が出来るまで」のセッションタイトルで講演が行われました。

講演には「アクロバティックチリメンジャコ」より、ディレクター・アート全般・UI全般を担当した「Achabox」氏、シナリオ・作曲・演出プログラミングなどを担当した「Seishi Irimajiri」氏、プログラミング・サブシナリオなどを担当した「ame/tameyoshi」氏の3名が登壇。

「プロトタイプ制作」「独自スクリプトの導入」「ゲーム完成まで」の3つのトークテーマをそれぞれが担当しつつ制作裏話を語ってくれました。

◆無数のプロトタイプが制作された開発初期

『シュレディンガーズ・コール』はもともと、集英社ゲームズのインディーゲーム開発支援プロジェクトに応募した企画をもとに制作されたゲームです。しかし当初はノベルアドベンチャーではなく、もっと異なるゲーム体験を想定した別ジャンルを目指していたと言います。それではどうしてノベルアドベンチャーに決まったのでしょうか?

本作は「月が地球に落ちたことで人類滅亡した世界」を舞台に、電話を通じて死にきれない魂に寄りそう物語です。自分の名前もわからない、記憶も失っている、どうして自分がプレイヤーに電話しているかさえ分からない魂たちを導き、その魂がどのような人物だったかを解き明かしていくこととなります。ここで目指したものは、「1本の電話で相手を救うプレイ体験」です。

しかしプロトタイプの制作過程では「遊びの部分」に気を取られるあまり、なかなか理想の表現方法が見つからない事態に。結果として、エピソード1のビルドを提出するまでに1年以上かかってしまいました。

応募から完成までの道のり。

それではどのようにして、この第1の壁を乗り越えたのでしょうか?

プロトタイプを制作するうち、3名は「自分たちが本当にやりたいことはゲームメカニクスの実装ではなく、物語を描くことである」と“作品のもっとも大事な部分”に気付かされたと言います。そして複雑なシステムではなく、物語を表現することに全力を傾けた結果、ノベルアドベンチャーのジャンルにたどりついたといいます。それが功を奏し、結果的に「個性的である」「物語が普遍的だ」と海外で高い評価を得ました。

プロトタイプでめざしたものと、そこから学びを得て完成した製品版。

そこに至るまでのプロトタイプ数については「多すぎて数え切れないほど」と登壇したSeishi氏は語っており、実数は分からないものの、音ゲー型やリアルタイム会話型など、完成版とはまったく異なるジャンルまで手を伸ばしたそうです。

たとえば「ムーンビルド」と呼ばれる初期ビルドでは、バラバラに開示される通話相手との会話内容を時系列順に並べることで全貌が見えるようなゲームをめざしました。つまりパズルのようなものです。結果としてここで生まれた「月が落ちて通話が途切れた」という設定が本編にも組み込まれることとなりました。

そのほか、相槌や返答をリズミカルにおこなっていく音ゲータイプ、会話のどのタイミングで答えるかが問われるリアルタイム型などなど。しかしいずれもシステムが複雑だったことから、原点である「物語性の表現」に立ち返り、結果としてノベルアドベンチャーに落ち着きました。

月にまつわる設定が生まれたムーンビルド。パズルの要素で謎を解き明かすシステムをイメージしていました。
相槌をリズムとしてとらえた音ゲーバージョン。
選択肢に時間経過の概念を取り入れたリアルタイムビルド。このほかさまざまなビルドが存在します。

◆「あえて」を重視した独自スクリプト言語の導入

Seishi氏からマイクを引き取る形で壇上に上がったame氏は、「シュレディンガーズ・コールエンジン」の実装とその活用例を解説してくれました。

「シュレディンガーズ・コールエンジン」とはUnityをベースとした独自のツールのことで、プロトタイプ開発を進める中で見えてきた問題点をクリアするためにame氏が開発したものです。

プロトタイプを制作する上で、プロジェクトをリードしていたSeishi氏がシステムなどのアイデアを提示し、それを議論して実際にプロトタイプを作っていたのですが、実際に出来上がったプロトタイプがイメージと違っていたり、レスポンスに費やす時間をテストプレイに振り分けたかったことから、それを実現するための環境整備が急務となりました。

そこで「実際に触って次のプロトタイプに活かす」というサイクルを早めるため、提案者が直接プロトタイプを作れるようなゲームエンジンを開発するに至ります。それが「シュレディンガーズ・コールエンジン」でした。

設計の原則は「seishi氏がストレスなく使える」こと。そのため、シナリオ全般を抑制する「Yarn Spinner」、手帳機能全般を制御する「Adobe XD」、シーンに合わせて選択肢を自由に配置する「プレファブ」を活用し、よりスピーディーな制作現場を構築します。これにより、エンジニアをほぼ介さず、各クリエイターがそれぞれの得意分野を活かしつつ全体に関わる環境を完成させたのでした。

制作サイクルをスムーズに回していくにはどうしたら良いのか?というポイントを重視して、結果的に誰でも触れられる開発環境を構築しました。
「Yarn Spinner」はおもにシーン全体を構築するために使用。ビジュアルとテキストを表示しながら、基本的なゲーム進行を制御します。
「Adobe XD」は手帳システムを構築するための、いわば専用ツールとして使用。文字や画像のレイアウトがそのまま最終画面になる手軽さが売りです。
「プレファブ」は選択肢の自由配置を目的としたものです。選択肢の表示を画一的にするのではなく、その場その場に適した形でレイアウトするために使用しました。

また各演出では自動化する方法もありながら、あえて個別に対応し、すべて手動で調整したといいます。たとえば選択肢の表示ひとつを取っても、運命の分岐点のような重要な選択肢は横に並べ、情報収集のような総当たりの選択肢は縦に配置するよう徹底しました。

これは、運命を二分するような選択肢の場合、縦に積むとどちらかに優位性が生まれるのに対し、横に並べると公平な立場となり、より“重要感”が表現できると判断したからでした。

このように「何を見せたいか」という視点を重視し、それぞれのシーンに合わせた演出を試行錯誤しながら表現するため、あえて自動化をしないという判断に至ったのでした。

選択肢の表示方法など細部に至るまで演出にこだわり、結果として繊細な物語を表現することができました。

◆開発中止の危機にも直面した完成までの道のり

続いてはAchabox氏による、ストーリーの全体構成の解説です。本作では企画段階である程度の着地点を決め、そこから全何章で物語を語るのか決定しました。その際、第1章のプロトタイプが90分程度のプレイ時間だったことから、8時間から10時間ほどを目安とした全5章構成に。第3章で転機が訪れ、第4章で真相に近づき、最終章となる5番目の章で締めくくる形となりました。

ひとまず「最後まで通す」をコンセプトに全5章で物語を構成しました。

大まかなビジョンが決定したら次は1章ごとのロードマップの作成です。これが各章の全体構成にあたり、どういった展開にするのか、どのようなビジュアルを実装するのか、アニメ制作で言うところの絵コンテに近い、すべての情報を盛り込んだ青図として活用されました。

重視したのは「最後まで一旦物語を構築する」こと。プレイ体験の根幹が分かるような俯瞰図を作成するようなイメージです。

各章、このようなマップを制作して表現したいことを可視化しました。

しかしマップに沿って5章まで作成してみたところ、思わぬ事態が発生します。それは「物語性を重視したのに、まったく感情が動かない!」ということ。

それはプロジェクトが打ち切りになりかねない危機的な状況です。そこで緊急会議の後、感情曲線を見直すことで問題点を浮き彫りに。どうして没頭できないのか、どこがどう機能していないかを可視化し、3名の得意とする部分に役割分担する形で修正箇所を割り振りました。

この作業によりようやく目指すものに手が届き、以後は細かくブラッシュアップを重ねることになります。そしてテストプレイを繰り返すことで理想とするプレイ体験へと一歩ずつ近づいていったのでした。

主要スタッフ3名はそれぞれ得意とする表現があったため、修正点をそれら得意分野に振り分け、全員でポイントを絞った修正作業をおこないました。

助けになったのは、seishi氏のために作られたツールの数々です。全員が本編に触れられる環境が整っていたからこそ迅速に対応でき、少数チームでありながら完成へと至ることができました。

とはいえ修正期間でも、知らない間に不必要な部分まで誰かが触ったことで再び迷走する危機に直面しましたが、それでも必要最低限の調整だけにとどめるよう注意することで改善。結果として「紆余曲折あってもゲームは完成できる!」と本講演で訴えることができるくらいの成功体験を得ることができました。

作業終盤はテストプレイを重ねながらブラッシュアップを重ねました。

もっとも大事なのは「コンセプトを最後まで貫き通すこと」。開発中は紆余曲折ありましたが、目標を最後までブレさせずに守り通したからこそ、地に足がついた状況で逆風にも耐えられました。そのことをチーム一同、最後に強調して講演を終えました。

なお本作『シュレディンガーズ・コール』は、本編のほか、第1章体験版も配信中です。

©Acrobatic Chirimenjako / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES

《気賀沢 昌志》

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