
2026年7月22日から24日にかけて、パシフィコ横浜 ノースにてゲーム技術者やコンピュータエンターテインメントの開発者を対象とした、国内最大級のカンファレンス「CEDEC 2026」が開催されました。
24日午後には、株式会社バンダイナムコスタジオに勤める柿沢高弘氏が登壇し、レギュラーセッション「顧客志向で『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』を企画・開発した件 ~アイマス・モバイルゲームのコンセプト開発~」を実施。
『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ(ミリシタ)』の開発から10年が経過したことを受け、顧客志向でのゲームコンセプト開発、ユーザーに受容されるゲームを目指して作る考え方、ターゲット層のニーズやそれを叶えるアイデアについて、さまざまな角度から紹介されました。
◆“アウェイ”だからこそ、顧客志向でコンセプト開発
柿沢氏は、1992年に株式会社ナムコに入社し、転職を経て株式会社バンダイナムコゲームスへ加わった経歴をもちます。2008年から顧客志向でのゲームコンセプト開発を実践しており、『リッジレーサー』『レイブレーサー』といったドライブゲームの開発を担当していました。2016年3月に『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』のデベロッパー側の企画・開発プロデューサーに着任しました。

経歴として、そもそも「アイマス」シリーズをプレイしたことも、モバイルゲームの開発に関する経験や知識もなく、完全にアウェイな状況だったと振り返ります。
自身にとって未知の領域であったため、ゲームジャンルについて、ターゲットの客層、どういった内容が喜ばれて遊ばれるかを知ることも踏まえ、顧客志向でのゲームコンセプト開発を行ったといいます。


柿沢氏は、「アイドルマスター」とは「プロデューサーとなったプレイヤーが担当するアイドルを輝かせ、トップアイドルにプロデュースするゲーム」と要約できると語ります。そのうえで、「アイマス」の開発において、顧客志向でのターゲット定義、どのように絞り込んでいくか、ターゲットの記述方法、定量調査について説明に入りました。
そもそもターゲットとなるユーザーが少ないと、プレイヤー人口が少なく商売にならないため、ターゲット数が多いことが必須条件です。ターゲット数が多いということは、すでに市場があり、競合があることを想定します。柿沢氏は少なくとも次の条件を満たす必要があると指摘します。
プレイヤー人口が十分な数であること
その人々が持つニーズが未充足であること

市場に競合がいるということは、基本的にターゲット層はニーズを満たされていて充足している可能性があります。一方で、ニーズを満たす手段がまだ十分に存在していない未充足な状態であれば、参入できる余地があるといいます。
ニーズが潜在化している場合には、プロモーション時に「あなたはこういう商品を欲していたのではないか」と意識化を促す必要があります。つまり、ターゲット自身がまだ明確に言語化できていない欲求を、商品や訴求によって顕在化させることも重要になります。
次に、最大人数になるようにターゲットを定義していきます。今回「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」の要素や条件を分解して捉えると、柿沢氏は提示します。
2次元美少女アイドルコンテンツである
アイドルマスターコンテンツである
アイドルが歌い踊るリズムゲームである
商業ベースのモバイルゲームアプリである
これらを満たしながら、ターゲット層を最大化させるように定義すると、次のようになります。
2次元美少女コンテンツを好む
アニメ・ゲーム・マンガ・ライブなどに興味関心がある
リズムゲームに忌避感がない
ある程度自由にお金が使える20代から40代のスマホユーザー

ですが、ここまで広げてしまうと競合市場と重なりやすくなってしまいます。そこで柿沢氏は、グッと絞り込みを行います。ニーズを満たされていないターゲット層、つまり「ゲームを離れてしまった人」を調査したのです。結果、以下の3点が浮かび上がりました。
スキル不足
やり込む時間の不足
電車の中など、スマホの利用シーンに合わないこと


こういった要因を踏まえ、ターゲット定義に「手軽にゲームを楽しみたい」という条件が追加されることになりました。リズムゲームに興味はあるものの、高いスキルや長時間のやり込みを求められることに負担を感じる。他ゲームではスキルを求められたり、やり込みが求められるゲームが支持されることもあるので、この結果は重要な絞り込みと言えるでしょう。
◆「アイマス」のニーズを紐解くところから
次に柿沢氏は、「アイマス」IPの主なニーズとユーザーの求めるものを紐解いていきました。
「アイマス」IPの主なニーズとは、
好きなアイドルの様々な可愛さを愛でつつ
手塩にかけていく深い愛着の湧いたアイドルたちをステージに輝かすことができ、
プロデューサーとして感謝され、慕われる喜びを強く実感できること

こういった形になります。その中でも、「手塩にかけて育成した」を「育てる」「輝かす」の二つのポイントで分割し、それぞれの深層にあるニーズとして捉えます。
「かわいいさまを愛でたい」
「育成を実感したい」
「プロデューサーとしてアイドルときらびやかな世界を実感したい」
これらを強く実感することで、「プロデューサーとして感謝され、慕われる喜びを強く実感できること」という根底にあるニーズを強く実感できるようになる、このようにまとめられています。

そのためにも、深層ニーズの3点をどのように補強し、アイデアを出すかが各ブランドごとの差別点・魅力点につながっていきます。
くわえて「ミリシタ」としてのニーズも細かく検討、分析をおこない、さまざまなニーズがあることがわかりました。
ここで、ニーズに対するベネフィットとして分類すると、A~Gまでこのようになります。

またこれらニーズとターゲット層を調べる中で、
等身大の女の子
アイドルがそこにいる実感
スマホの中で出会えるアイドル
どこかに存在している実感
こういった"リアリティ"が、ニーズをより強く実感できるためのキーになっていることがわかり、劇場が舞台となっている「ミリオン」ブランドの世界観を組み込み、シアターでの生活・アイドル活動を楽しんでもらうという基本的な世界観構築へとつながったといいます。

◆ニーズを満たすためには?2軸での評価軸
続いて、柿沢氏は、こういったニーズに対応したアイデアの導き方について話題を進めました。
ニーズを満たすためには、多くのアイデアを実装することではなく、不足・過剰どちらでもなく、過不足無く実装することにあると強く指摘します。アイデアが不足すればユーザーが興味を失い、満足してもらえなくなります。逆に過剰に実装すれば開発コストが増大し、他のアイデアに埋もれてしまう可能性もあります。ユーザー満足度100%のアイデアを実装する見極めが、非常に重要になるのです。
そこで考えられたのは、「トライアル」「パフォーマンス」という2つの評価軸です。
トライアル:手に取ってもらえるか?
パフォーマンス:何度もプレイしてもらえるか?
ゲーム以外のさまざまなエンタメを差し置いて、本ゲームをプレイしようと選ばれるか。そしてプレイしたあとに自分好みだと感じてもらい、再度プレイしてもらえるか。この2つの評価ポイントを設けたと言います。


アイデアを検討する際には、目的と手段を明確化し、「このアイデアが、このニーズ(ベネフィット)を満たしている」かを具体的に示すように捉えていたといいます。その中でリリース時とアップデート時とでは、アイデアの種類や意図が異なる中、それぞれの狙いを明確にしていたようです。
今回の講演では、そのうちの一部を見せていただけました。数理的な足し引きを簡潔につづった文章ですが、読んでみると納得できる内容です。





ここからは、実際に実装されたアイデアについて、いくつかのケースを取り上げていきました。
まず多彩な衣装・ヘアスタイル・アクセサリーを導入し、多人数ライブや歌い分け、光影を際立たせるシェーダーの実装など、ユーザーのニーズ・ベネフィットに応じ、アイドルとともに最高のステージを生み出しました。
また、タイトルネーミングや説明文にもアイデアを凝らし、何であるかを端的かつ最短のワードで決め、制作陣の提供したい意図やイメージをユーザーが正しく連想できるようにし、「ミリシタ」の基本的な世界観が伝わるようにしたといいます。


ターゲット層、アイデア、ジャンル、ベネフィット(ニーズ)が揃ったところで、ライブ(リズム)パートと劇場パートでそれぞれに狙うステートメントも決定し、ゲームコンセプトが定まりました。
ここまでの流れにまとめると、ターゲット層、ニーズ(ベネフィット)、アイデア、ネーミングの4つの定義をしっかり定めたあと、ゲームコンセプトを固め、需要の調査を重ねて十分な結果が出るまで4つの定義を吟味、改善、改良をかさねて「ミリシタ」のゲームコンセプトを完成させた。そのようなフローを経ていることがわかります。

◆ゲームがリリースされたあとも、SNSやファンのトレンドを調査
ゲームが完成してリリースしたあとも、ゲーム開発が止まることなく動き続けたケースが紹介されました。
SNSやファン主催イベントなどを調査し、ユーザーのトレンドが何かを分析・予想していく中で、「優しいギャル」がキーとなって流行りそうと判断し、実装されたと明かします。

企画から実装まで半年から10ヶ月かかるため、その時々の瞬間最大風速の流行りではなく、1年後まで継続して流行しそうなトレンドを見極めているといいます。2023年12月、2024年8月、2025年4月と、昭和風・平成風・令和風のギャルを表現したイベントを開催しました。

またゲームコンセプトを少しずつ更新することも怠りません。
リリース時から「手間なく楽しめる」ようにオートライブパスやオート進行を実装、ローディング時間が長くなってしまうことを逆手に取って、アイドルのSSRカードのビジュアルを宣材ポスターのように貼り付け、売出し中のアイドルかのように見せるなど、劇場(シアター)での日々を楽しむためのアイデアを加えました。


また、担当のアイドル1人を決めて楽しんでいると、やがて当該アイドルに関わるコンテンツをすべて消費してしまい、コンテンツの追加待ちが発生し、次第に興味を失ってゲームから離脱する流れが起こっていました。
そのため、いずれは52名いるアイドルたちの全員を好きになってもらう"箱推し"を推進させるため、劇場ホーム画面にさまざまなアイドルが出入りすることで興味を持たせたり、ストーリーに合わせて新ユニットを組ませたり、衣装付きカードを実装するなどして、52人のメンバー全員に注目してもらえるように図ったといいます。


ほかにも3Dモデル表現の強化、セカンドヘアスタイルの実装、「ミリシタ」から入ったファンを「アイドルマスター ミリオンライブ!」ブランドのファンへと昇華させていくためにリアルライブとの間でさまざまなアイデアを講じたことを明らかにしました。


最後に柿沢氏は、市場やユーザーを調査した上で顧客志向でゲームコンセプトを開発していくという考え方は、ゲームジャンルを問わずに通用するとそう。より多くのユーザーに受容されるゲームを目指そうという考え方の1つとして知ってもらえれば嬉しいと話し、レギュラーセッションを終えました。

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