100億円超調達のGenvidがコンテンツ開発とIPに投資する理由―今後の戦略と展望をJacob Navok CEOに訊く | GameBusiness.jp

100億円超調達のGenvidがコンテンツ開発とIPに投資する理由―今後の戦略と展望をJacob Navok CEOに訊く

インタラクティブ・ストリーミングのトップランナーであるGenvidはなぜコンテンツ開発に注力するのか―調達した資金の使途や今後の展望をCEOのJacob Navok氏にたっぷりと伺いました。

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100億円超調達のGenvidがコンテンツ開発とIPに投資する理由―今後の戦略と展望をJacob Navok CEOに訊く
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Facebookのライブ動画サービス「Facebook Watch」上で配信され世界中で大きな話題を呼んだ「Rival Peak」など、インタラクティブ・ライブストリーミングにて革新的な事業を展開しているGenvid Holdings。

7月16日には、シリーズCラウンドで1億1,300万ドルを調達したことを発表しました。調達した資金は大規模インタラクティブ・ライブ・イベント(Massive Interactive Live Events:MILE)の制作に特化したパブリッシング会社「Genvid Entertainment」の設立等に用いるなど、今後のコンテンツ開発やIPの調達について注目を集めています。

編集部では、Genvid共同設立者兼CEOであるJacob Navok氏に対して、オンラインインタビューを実施。これからのGenvid Technologiesのビジョンや、日本国内での活動についてお話をお伺いしました。

――本日は宜しくお願いします。Jacobさんのバーチャル背景は、『ファイナルファンタジーVII』の神羅ビルなんですね

Jacob Navok氏(以下、敬称略)そうなんですよ(笑)。スクウェア・エニックス元社長・和田洋一さんが設立したシンラ・テクノロジー(2016年解散)で、シニア・バイス・プレジデントに就任していたこともあり、バーチャル背景には神羅ビルの画像を使用しています。

背景の神羅ビルのロゴのように『ファイナルファンタジーVII』の神羅カンパニーのロゴは赤でしたが、シンラ・テクノロジーのロゴは青にしました。星の命を奪おうと野望を砕かれた神羅カンパニーではなく、星の命を救うシンラ・テクノロジーでありたいという意図だったんですよ。

――冒頭から、良いこぼれ話をうかがえました(笑)。それでは、これからのGenvid Technologiesのビジョンと、日本国内での活動について聞かせてください。

Jacob2020年より、Facebookライブ動画「Facebook Watch」上で「Rival Peak」の配信をスタートさせたのですが、その制作過程でプロデューサーやクリエイティブディレクター、アーティストデザイナーといった、パブリッシングに関する人材が弊社になかったことに気づかされました。

また、ユーザーデータを安全かつ効果的に取り扱うようなアカウントシステムについても、まだまだ改善の余地があるということも「Rival Peak」を手掛けてきた中での新たな発見です。今後ビジネスを拡大していくためにも、パブリッシング機能を整える必要性を強く感じ、大規模な資金調達を通じて専門会社を設立することにしました。

――Genvid Technologiesは創業してから5年間、「Genvid SDK」の開発と機能の拡充、開発者への導入に力を入れてきたと思います。昨年のインタビューでもそのような話がありましたが、新たな方向に踏み出そうとしているということでしょうか?それは「Rival Peak」の成功も影響していますか?

Jacobそうですね。方針を変えた理由として、もう一つ大きな理由があります。それは、ゲームエンジン(技術)の収益の低さです。事業展開を模索するなかで様々な市場分析をしてきて分かったことですが、例えば、Epic Gamesは全体の収益が約42億ドルである一方で、世界で最も使用されるゲームエンジンの一つ「Unreal Engine」の収益は約9,700万ドルに過ぎないというデータ(2019年時点)があります。

Unreal Engine 5 Revealed! | Next-Gen Real-Time Demo Running on PlayStation 5

同じくUnityも世界最大の一番使われているゲームエンジンの一つですが、去年の売り上げが約5億ドルで、その内3.5億ドルが広告収入でした。これほどまでに業界で採用されているエンジンにもかかわらず、収益はわずか1.5億ドルしかないのです。

あなたもUnity、はじめてみませんか?(字幕版)

――近年のゲーム業界全体のマーケット規模に対して、コア技術だけの売上がいかに小さいかが分かりますね。

Jacob世界最大のゲームエンジンが、2,000億ドル近い市場規模に対して僅かな利益を生んでいないという事実を鑑みて、今後はコンテンツ開発に注力する必要があると判断しました。もちろん、技術開発も続けてはいくのですが、ベンチャー企業としてリターンに値するものを得ようとすると、コンテンツのパブリッシングを無視することはできません。

――コンテンツを利用したマネタイズを行うことは、元々の選択肢としてあったのでしょうか?

Jacob「Rival Peak」のリリース後に色んな会社さんからアプローチをいただくなかで、考え方が変わっていきました。パブリッシングビジネスを一切行わないというのは、ともすればCEOとして悪い印象を与えてしまいかねませんから(笑)。

例えば、ナイアンティックが「一緒に『ポケモン』作品を作りましょう」というオファーを受け、「弊社は技術を提供しますので、コンテンツは御社の方で作って下さい」と返答していた場合、現在大ヒットしている『ポケモン GO』は生まれなかったかもしれません。IPホルダーからのアプローチを受けた場合には、パブリッシングビジネスを行うべきであると考えています。

――今後の事業の方向性としては、Genvidの機能を引き続き拡張・進化させながら、IPホルダーや様々なパートナーと協業してコンテンツをパブリッシングすることで更なるマネタイズを狙うということでしょうか?

Jacobそうですね。世界的によく知られている欧米と日本のIPのタイトル作品について、数点リリースしていく予定です。弊社でファイナンスするプロジェクトについては、予算規模が10億~20億円ほどの、AAA作品を想定しています。コンテンツはF2Pで、クロスプラットフォームにする予定です。

――クロスプラットフォームの展開について、詳細をお聞かせください。

Jacob「Rival Peak」のようなインタラクティブ・ライブ配信のフォーマットを、クロスプラットフォームに対応させる形になります。コンソール向けには、例えばアカウントシステムやペイメントシステム、コントローラに対応したUIの準備を想定しています。基本的にはストリーミングになるので、ハードを限定せず全てのプラットフォームに向けて展開したいですし、様々な動画配信サービスでも提供できると思います。

――Netflixなどの映像配信のプラットフォームと提携して、コンテンツを製作することは考えていますか?

Jacob我々はソーシャル機能を重要視していますが、Netflixにはそれがありません。制度上の問題によってそうなっているのであればハードルは高いですね。なお、ライブ機能も新しく実装する必要がありますが、こちらは技術的な課題に限ればそれほど困難ではありません。

将来的には弊社の方でアカウントシステムを構築し、ユーザー同士でコンテンツを作り上げていくようなシステムの構築も予定しております。

――「Rival Peak」ではキャラクターを応援するといった機能はありましたが、ユーザー同士のコミュニケーションや行動を促すといった機能はありませんでしたよね。具体的には、どのようなシステムになるのでしょうか。

Jacob例えば、コンテンツの中で「二股道を右に行くべきか、左に行くべきか」といった、物語に影響が出るような場面があるとします。「Rival Peak」ではキャラクターの運命を、ユーザー全体の投票で決定しましたが、今後予定しているシステムでは、ゲームプレイを通じて得たゲーム内通貨を使用して、オークションのような形でキャラクターの運命を決定することになります。コミュニティー対コミュニティのような雰囲気の中で、物語が進んでいくイメージです。

さらには、ポイントを使って、プレイヤーが製作したアバターキャラクターをゲーム内に実際に登場させることも可能です。「Rival Peak」はオリジナルキャラクターが登場するため、物語の冒頭ではキャラクターに思入れが湧きにくいという問題がありました。その一方、メジャーIPの作品を使うことで、キャラクターへの親しみはグンとアップさせることができるだろうと考えています。

現在、いくつかの日本のメジャーIPホルダーの会社とも話は進んでおり、弊社がファイナンスするプロジェクトがあります。もちろん、プレイヤー向けに日本語対応も行う予定です。

Genvid Holdingsのウェブサイトもリニューアルされ、日本語対応している

――先日公開された「Project Raven」について、今お話いただける範囲で、詳細をお聞かせください。

Jacob先日「Project Raven」のコンセプトトレーラーを公開しましたが、これはあくまでプロトタイプです。「Project Raven」としてコンテンツが出るわけではなく、こうした要素をベースに、キャラクターやストーリーなどは、映画やコミック、ゲームなどのメジャーなIPの内容に変わっていく予定です。

――なるほど。あくまでデモであり、このまま公開されるというわけではないのですね。少し話は変わりますが、Genvid Technologies全体では現在はどのくらいのメンバーがいるのでしょうか?

Jacob全体で80人ほどですが、年内に200人まで増員したいと考えています。私とChris Cataldi COOがいるニューヨークのオフィスはそこまで社員数が多くなく、モントリオール、ロサンゼルス、ヨーロッパ、そして日本にオフィスがあります。ヨーロッパはベルリンを拠点にしていましたが、最近イギリスにもオフィスを開設しました。オフィスは全世界で7箇所ですが、それぞれメンバーを拡充し、事業展開のスピードを加速させていきたいです。

――7月には、Netflixの元コンテンツ担当副社長であるCindy Holland氏をコンテンツ戦略及び獲得支援のアドバイザーとして迎え入れたことを発表しましたよね。

Cindy Holland氏

JacobCindyはNetflixで、インタラクティブストリーミング作品である「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」などの革新的なオリジナル作品はもちろん、18年間に渡り皆さんもご存知だろう数多くのオリジナルシリーズを手掛けてきました。ストーリー構造やキャラクター造形に精通しており、彼女に参加してもらうというのは、弊社にとって大変心強いです。

また、弊社にはアドバイザーとして、スクウェア・エニックス元社長の和田洋一氏をはじめ、Matthew Ball氏、Anna Sweet氏(Bad Robot Games CEO)など、様々な分野の方々に参加していただいております。

和田さんはご存知の通り、スクウェア・エニックス時代から長くサポートしていただいておりますし、ゲームのパブリッシングに関しても世界で最も知見のある人物の一人です。マシュー氏は、メタバースについて、おそらく最も知られているアナリストです。彼はAmazonのオリジナル映像コンテンツを手掛けるアマゾン・スタジオのストラテジー責任者だった経歴もあり、今後の方針についてよく会議を行っています。Anna氏は、現在Bad Robot GamesのCEOを務めていますが、Valveでのコンテンツ・事業開発経験も長く、OculusでもVRコンテンツに携わってきた人物です。現在Genvidの事業開発で色々と貢献してもらっています。

また、今回の調達ではメディア系のVC(ベンチャーキャピタル)も参画してもらいました。ほかにも、アメリカを代表するアクティビストである「サード・ポイント」など、ゲーム業界だけでなく、幅広い業界から投資してもらうことで、事業をさらに拡大できると確信しています。

――資本政策も順調に進んでいますが、やはりIPOが一つのゴールになるのでしょうか?

Jacobそうですね。先ほどお話したようにコンテンツでマネタイズしながら、基幹となるGenvidのシステムもしっかり開発していければ、十分に現実的な目標になるだろうと思います。

――今回の資金調達でかなり戦力のバランスや戦略もはっきりしてきたと感じました。最後に、あえてGenvid Holdingsに今足りないピースがあるとすればどこにあるのか教えてもらえますか?

Jacob大きなピースが2つ足りていないと思っています。1つ目はマーケティングサイドで、技術データの管理について、万全の体制を整えていきたいです。2つ目はプロダクションサイドで、ニューヨークのオフィスだけでなく、日本のオフィスにもエグゼクティブプロデューサーやプロデューサーを雇いたいと思っています。

8月から日本でもデベロッパー開発者エンジニアの方が入社する予定ですが、今後もアカウンティングシステムや、オペレーションIPホールドマネージメントなどのチームを揃えて盤石な体制を整えていきたいです。

――楽しみですね!ありがとうございました。


なお、Genvidでは8月13日19時30分より、Genvid SDKを活用した動画オーバーレイの実装を解説するオンラインミートアップを開催予定です。興味のある方は下記リンクからご参加ください。

Genvid Japan Online Meetup vol.4[シンプルjsオーバーレイ解説編] 参加申込ページ

※ UPDATE(2021/8/13 18:40):一部数値、通貨単位に誤りがあったため修正しました。

《島中 一郎》

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