フォトグラメトリーとプロシージャルを利用したCygamesの3DCG背景制作-『Project Awakening』における技術とABC理論【CEDEC 2019】 | GameBusiness.jp

フォトグラメトリーとプロシージャルを利用したCygamesの3DCG背景制作-『Project Awakening』における技術とABC理論【CEDEC 2019】

主にフォトグラメトリーとプロシージャル技術を軸に、ハイエンドな背景を制作するには何が必要なのでしょうか?Cygamesの『Project Awakening』を題材にしたCEDECのセッションをレポートします。

ゲーム開発 3DCG
フォトグラメトリーとプロシージャルを利用したCygamesの3DCG背景制作-『Project Awakening』における技術とABC理論【CEDEC 2019】
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ビデオゲームのグラフィックはどんどん質を高めており、量産していく技術も発達しています。

2019年9月6日、パシフィコ横浜にて開催された「CEDEC 2019」にて「フォトグラメトリーとプロシージャルを用いた最新ハイエンドゲーム3DCG背景制作手法 ~ハイエンドゲーム開発の経験がない会社がいかにしてそれらを生み出したか~」と題したセッションが行われました。ハイエンドなグラフィックを生み出す手法について、Cygamesの吉冨直隆氏が解説します。

フォトグラメトリとプロシージャルとは?



最初に吉富氏は同社が開発中である『Project Awakening』のトレーラーを公開。「主に背景を見てください」と参加者に呼びかけました。今回はこの精微な背景がどのように作られるのかが語られます。

これらの背景を生み出す主な技術はフォトグラメトリとプロシージャルです。フォトグラメトリとは複数の角度から撮影した写真から3DCGモデルを生成していく技術であり、プロシージャルとは(ビデオゲームにおいては)モデルなどを自動生成していく技術を指しています。


普通フォトグラメトリで人物を撮影するときはスタジオで行いますが、吉富氏は背景制作において、屋外へ撮影ロケを行っているそうです。写真の撮影を終えたら、3Dモデルを生成するソフトウェアである「RealityCapture」を使用することで、背景の素材を作り出します。生成段階の3Dモデルはまだ荒いので、ポリゴンを仕立て直したり、ポリゴン数を整理しなおしたりする過程もあるそうです。


一方のプロシージャルは「3つの部分で使っている」と吉富氏は説明します。主にテクスチャーや樹木、遺跡などで使用されるレンガの生成に利用しているとのこと。

フォトグラメトリとプロシージャルの技術を使って制作された冒頭のトレーラーは、VFX-JAPANアワード2019のゲーム映像部門を受賞。しかし受賞にたどり着くまでは「紆余曲折あり、本当に苦労した」と吉富氏は振り返りました。

2つの技術は万能だと思い込んでいた


吉富氏はあらためて『Project Awakening』について「AAAタイトルを作ろうと、フォトリアルなゲームを目指していた」と解説します。フォトグラメトリとプロシージャルを使えば実現できそうだと思っていたところ、「壁にぶち当たった」と言いました。


フォトグラメトリのメリットには、自然物の情報量をそのまま3Dモデルに起こせることです。実際の岩は、色や形も膨大な情報量を持ちながら、しかも自然に見えると吉富氏は指摘し、「3Dアーティストが岩ひとつ作るのも手間がかかりすぎるんです」と言います。

また自然物ならではの統一感も特徴に挙げました。アーティストが作ると岩もばらつきが出てしまうが、自然には統一感があります。フォトグラメトリであれば、形はばらばらでも統一感を作ることができるとしていました。

ハイエンドな背景制作に必要な「自然さ」を容易に実現できることから、吉富氏は「全部フォトグラメトリで背景制作を出来る!」と思ってしまったといいます。だが「そこで壁にぶち当たってしまいました」と振り返りました。


フォトグラメトリは撮影した被写体を再現する技術ですが、コストの問題がいくつか浮上しました。

「まず加工にコストがかかりすぎた」と吉富氏は言います。「カンボジアで撮影した遺跡ひとつ作るのも大変でした」と語りました。フォトグラメトリの3Dモデルを、ゲーム内のマップに合わせて縮尺を変えると、テクスチャーやメッシュも引き延ばされて不自然に見えるため、その後の修正に大きく時間が取られることとなったそうです。

そもそもの「撮影のための取材にもコストがかかった」とも説明。撮影時の天気は曇天を狙って撮らなけらばならなかったといいます。というのも晴れの日だと被写体に影ができるため、3Dモデル化したときテクスチャーに影が出来てしまい、ゲームには使えなくなるからです。ロケ地への移動はもちろん、曇天を待つための滞在費も大きなコストなったそうです。

そこで対処法として、吉富氏はプロシージャルを利用することを挙げました。「早い、安い、うまいなんですね!」と某大手飲食店のフレーズを挙げながら、イメージボードの建造物をスピーディに作成でき、ある程度のクオリティは担保できることを説明しました。


しかしここでも躓きます。「すべてをプロシージャルでできると思っていました……」吉富氏は特定の技術に偏り過ぎたと反省し、そもそもの「魅力的な背景とは何か?お客さんがずっとここにいたいと感じさせる世界は何か?」を考え直しました。

考えの末、テクノロジーとは関係ないスタンスとして、ABC理論を考え出しました。これはシンプルに「(A)当たり前のことを(B)馬鹿にせず(C)ちゃんとやる」理論です。「焦りすぎて足元がバカになっていた」と反省し、やり方を再構築し始めます。

背景制作の当たり前をちゃんとやる



あらためて背景制作の当たり前とはなんでしょうか?吉富氏は「グラフィックの技術を愚直に上げること」だと指摘します。具体的には、PBR(Physical Based Rendering、物理ベースレンダリングでフォトリアルな表現に向く)をきちんと行うことを挙げ、「現場のスタッフもPBRについて知っているだけだったが、それをできるようにPBRの精度を上げていった」といいます。 

次にフォトグラメトリの技術を上げ、同時に技術を使うシーンを絞っていきます。フォトグラメトリでは「一か所しか使わないアセットは使い勝手が悪い」ため、「汎用的なアセットにこだわること」を重視しました。

取材も、汎用的に使える素材が撮れる場所へ絞りました。そこで自然物を撮影するのは国内ロケが適していることを発見したといいます。自然物はそもそも国内のもので問題ないうえ、国内であれば手軽に何度もロケが敢行できるからです。吉富氏は「東北地方がいいですね!火山が多く、素材も多い」と語りました。

撮影手法のブラッシュアップにも気を配ります。そもそものカメラのスキルを上げ、現場での失敗を減らしたほか、3DCG化するプロセスでも最適な撮影を目指しているそうです。


吉富氏は「根本的なセンスを上げる」必要も論じます。フォトグラメトリには、スタッフがカメラに慣れ親しむ必要はあると判断しました。そのために、社内でカメラの勉強会を実地し、元プロカメラマンのスタッフを集めて学んでいったほか、プロのカメラマンをまねいて講演会も開いたそうです。

さらに定期的に撮影会も実地しました。目黒川を被写体にしたり、モデルを呼んでポートレート撮影会を行うなど、カメラの技術を上げていきました。「それがトレーラー制作にも反映されていったんです」と吉富氏は振り返ります。


続いてプロシージャルの問題を解決する方法を解説しました。プロシージャルの弱点は差別化できないことです。こちらは3DCGソフトウェアであるHoudiniをつかったモデリングで解決しました。吉富氏は「人間の手で作ると、どんな上手い人でも作為的になってしまう。でも数式計算でやることで、自然さを生み出せるんです」と解説。スライドに上がったような、何年も立った遺跡を自然に見せることができるようになったそうです。

ツールや技術に振り回されないリテラシーを持つこと」も重要だと吉富氏は指摘します。「自動化を疑え!」と吉富氏は強調し、CG制作に対するリテラシーを高め、常識と思われていたフローや自動化ツールについて考え直す必要があるとも説明します。

テクノロジーとアートのバランス



「こうしてABC理論に基づいて、愚直にやることで背景のクオリティを上げていきました」と吉富氏はまとめます。ですが「ただここまでは他社もやっている」と付け加え、Cygamesならではのオリジナルは何かを追求することを考えました。

吉富氏はそれを「テクノロジーとアートのバランス」だといいます。「テクノロジーを極限まで高め、アートも高めることでシナジー効果を出す」といい、フォトグラメトリを使えるところは使い、プロシージャルも織り交ぜることで、「全部フォトグラメトリに見える」背景を目指したそうです。

「アートでもパワーを上げていく」ために、ベテラン勢の経験に裏打ちされたアセット配置も効果的だったそうです。PS1の時代からやってきた伝統技法は、ゲームプレイのしやすさなど、さまざまな要件を満たす背景制作にも生かせたといいます。

背景も、かっこいい構図から逆算して作っていくと、上手くいくといいます。また自然な配置を目指すためにも「大中小を意識すること」が大事だと説明。自然界のどこでも密度の高い部分と薄い部分が大中小で存在しており、それを注意して作ると自然らしく見えるといいます。

背景制作の「当たり前」をちゃんとやる。それがクオリティを上げていくのだと、吉富氏はセッションをまとめました。
《葛西 祝》

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