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『エースコンバット7』VR開発TXMセッションレポ―VRは『ギャラクシアン3』から始まる約30年の挑戦

Tokyo XR Meetupは、「Tokyo XR Meetup #27 開発チームに聞く「エースコンバット7」VRモードに込めた想い」を開催しました。VRモード開発の歴史が語られたレポートをお届けします。

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『エースコンバット7』VR開発TXMセッションレポ―VRは『ギャラクシアン3』から始まる約30年の挑戦
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■パネルディスカッションで語られる様々な要素―演出、ボツ仕様、サウンドなど


VRモードの解説が終わったあと、第2章として玉置絢氏、夛湖久治氏、山本治由氏によるパネルディスカッションが行われました。初めのトークテーマは「それぞれのバーチャルリアリティとの出会い」です。

左から玉置氏、夛湖氏、山本氏。
ちなみに夛湖氏が来ているジャケットは『ギャラクシアン3』のロゴが入ったもの

この登壇者の中で一番の古参で1994年入社の夛湖氏は、『エアーコンバット22』の開発に関わった他にも、90年代の中・大型アーケード機を開発したと回顧。それらを開発していたなかでVRと繋がったと振り返ります。そのなかで『パックマン』を開発した岩谷徹氏から、先に解説された「ベクション効果」については、90年代後半に説明を受けたようです。

山本氏は、他のVR開発者と同じようにOculus Rift DK1からで、大学時代では大型のノートPCとWebカメラを利用したMRの研究を行っていたとのこと。入社後はMRから離れていたが、DK1が出たときに過去やっていたことを思いだして試したところからと振り返ります。他にも『鉄拳』チームにいたため、近くにある様々なプログラムをVR化してみたりだったようです。玉置氏は、山本氏からオススメされたタイトルを遊んでいたことが初めての出会いと振り返ります。


続いてのトークテーマは「エースコンバットはVRに向いていた?」です。夛湖氏は、『エースコンバット』チームに入ったのがいちばん最後でしたが、途中まで出来ていたものを見て「勝ったな」と確信したそうです。また、夛湖氏の答えとしては「最初から向いていた」です。

山本氏は、『サマーレッスン』の知見から「動くものは難しいだろう」と考えていたことに加え、敵機と近づくことはあっても一瞬で通り過ぎてしまうことから、VRらしい迫力ある体験を演出することに「難しいだろう」と考えていたと振り返ります。実際遊んでみるとロックオンコンテナや爆発エフェクトを目で追うのは楽しく、一瞬で通り過ぎてしまうからこそ印象に残る体験となり、「面白くなりそうだな」と感じたそうです。


一方玉置氏は、『サマーレッスン』は動かない題材であったため、周囲がVR酔い対策に苦労していたことに関して「周辺に地雷(VR酔い)が埋まっていることを知らずに地雷原をダッシュで走り抜けたら、たまたま地雷を避けていた」ように平和だったと振り返ります。そのため『エースコンバット』がVRに向いていたのかどうかは「分からなかった」と話します。

このイベントも発売前に実施していてもよかったところを、実際のお客様の評価で受け入れられてからでないとどう転ぶかわからなかったので、発売後の実施でお願いしたと振り返りますが、『エースコンバット7』が発売となってからのユーザー高評価の理由に「VRモードがある」というレビューがあることから「努力したことを話していい時期になった」と判断したため、玉置氏は「わからなかったけれど、向いていたんだな」と答えました。


続いては個別テーマで「コックピット演出編」が語られました。MFDについて玉置氏は、MFDがあることで「ゲームとしてのUIの存在」が1つも存在しなくなったと解説します。それは、「視線を集中させることも重要」という部分に関わっています。当初のMFDには、コックピット上にスコアや制限時間が表示されていましたが、表示されているとどうしても「遊園地のアトラクション」のようになり没入感が阻害されてしまうため、それらの情報はポーズメニューに表示するようにしたと振り返ります。

一方夛湖氏は、MFDへの表示について開発チームがとても強く推していたと話します。なぜなら、没入感が小さくなってしまい、興奮が「醒める」しまうことに繋がってしまうため、積極的にリアルな演出を推し進めています。ダメージを負った際にコックピットで光る「赤ランプ」は、当初から存在していた要素ですが、どうしても処理が重くなってしまうため、残す・残さないの論争が激しかったそうです。


山本氏は、「近くで起こるイベントはなるべく残したい」という観点を持っていて、「コックピット内部に落ちるフレームなどの影」は削っても良いんじゃないかと言われていましたが、なんとか残すことに成功したと語ります。


次は『エースコンバット7』のテーマの一つ「空の革新」にも繋がる「雲演出編」です。山本氏は、雲がミドルウェア(tureSKY)を使っていたことから、ゼロベースでは調整出来なかったと話します。他にも、玉置氏は開発チーム内に出ていた「VR自体が新しいものだし、雲は必要ないんじゃ?」というエンジニアの雰囲気を感じていたものの、ブランドディレクターの河野氏に「雲がないとダメ」と言われ、導入する事に。本当に大変だったのは山本氏だった、と笑顔を交えながら話します。


そんな山本氏は、雲演出について、描画パラメーターで軽くしようとする方法はいくつかあったもののVR特有のノイズなどを対策。最終的には、雲中央部の解像度を高くし、周囲は落とすことで乗り切ったようです。

VRミッション1の雲設計で地獄を見た事について玉置氏は、VRミッション1のミラージュ2000編隊を迎撃しに行くフェイズで、雲の中に入りたくないため雨雲の下を通ると、雲と海の間にプレイヤーが位置することになるので、圧迫感を覚えると説明します。その後、VR感を高めるためマップの各所に雨雲を設置したところ「完璧だ」と感じたそうですが、いざ改めてテストプレイしてみると、最初の出撃するシーンで空と太陽が全部雨雲で隠れてしまうことに。

VRモードにおいての雲は、VR体験の為の道具として細かく使いこなしていくための雲であり、これまでのような「美術演出で使う雲」ではない使い方にこだわったため、プログラムリーダーからは「雲ってそうやって使うために入れていないから!」と苦情を言われたことも明かしました。また、夛湖氏は、雲の位置を変更することは、敵機の出現位置にも影響を与えるため、雲を動かすことによるゲームペーシングへの影響を小さくすることにも苦労したようです。


個別テーマ(3)は「UI編」です。『エースコンバット7』本編では老パイロットのミハイが登場しますが、ミハイのHMD起動演出と、今回のメビウス1が被っているHMDの起動演出は、それぞれ時代(VRモード2014年、本編2019年)からSF的な機器の進化を感じられるようになっています。

またVRモードでハンガーへ入る時に一瞬暗くなるのはHMDが起動したことを示していて、ゲームの世界観的に「これは自分のヘルメットに映っているものであると理解すれば上手くいくだろう」という観点から、本来はやってはいけない追従型UIを演出しても納得して貰えるようにしたと話します。


次は「レベルデザイン編」です。玉置氏は敵数について、『エースコンバット』はシリーズが進む事に大規模戦になっていったと話します。しかしながら、『エースコンバット7』のVRモードでは、60fpsで描写しなくてはならないことから、敵の数を最新作と同じほど多くは出せない事が分かり、VRモード自体が「体験」に重点を置いたものでもあったことを考慮して敵の数を絞ったことが明かされました。

夛湖氏は、「数の暴力」はプレイの質を変える事が出来ますが、敵が少なくなると違いを出しにくくなると話します。また本編のキャンペーンとVRでは、敵の出現パターン構造が異なると話します。キャンペーンでは、2番目に出現するグループは1番目のグループと重なるぐらいの勢いでだしています。

このため、「至る所から出現する敵から任意に目標を選択・撃破する喜び」が感じられますが、VRで大量に敵を出してしまうと視線が散らかってしまう事態になり、ベクションによる酔いを誘発しやすくなります。そのため、VRにおいて敵の出現パターンをある程度ぶつ切りにしたのだとか。


それに関連して、キャンペーンのミッションをそのままVRに持ってきても、「ゲーム」として見てしまうことから、VR体験では無くなり「単純にゴーグルを被ったゲーム」に墜ちてしまうとの懸念点を明らかにしました。

また玉置氏は、『エースコンバット7』においてVRモードを作ると決まった後に担当プロデューサーとなりましたが、キャンペーンをVRに移植する前提での仕事であったら、担当を受けていたかはわからないと胸中を打ち明けました。それは、ゼロからミッションを作り起こせるぐらいには相応の裁量がなければ良質なVR体験が作れないからという理由からです。

VRミッション2冒頭については、アニメーションを作る人員が足りないことから、VRディレクターである夛湖氏自身が率先して対空車輌の攻撃や離陸演出などを作る事にしたそう。また、ここではアートディレクター菅野氏による絵コンテを半分ほど使いましたが、没入感を高めるため、登場するパイロットや地上で撃ちつづける対空車輌の中の人の気持ちなど、まるで彼らに人生があるかのように組み込んでいったと語ります。

また玉置氏は、VRディレクターの夛湖氏が就任したときから、自らUnreal Engine 4を使い調整+制作を続けると半分期待していました。それは、ディレクターの夛湖氏であれば納得いかない事があっても諦めずに自分で制作してしまうだろうと思っていたからです。


個別テーマ(5)は「サウンド編」です。VRミッション2冒頭は夛湖氏による演出だけでなく、サウンドもこだわって作られており、特にキャノピーに当たる残骸の音が満足できるまでにはいかないため、「サウンド担当に車の運転席に座ってもらって、フロントガラスに小石をぶつけてみる」ことでなら理解してくれるか……などとまで思いつめていたと玉置氏と夛湖氏の両名が話しました。また、サウンドはVRミッション1の発艦シーンを含め状況のリアリティを高めるための臨場感を高める力を発揮します。

またVRミッション2の離陸シーンでは、墜落する爆撃機を目立たせるために調子が悪いエンジン音を描くため「高い音」を導入したそうです。


個別テーマ(6)は「ボツ仕様をまとめて語る」です。ここからは時間が押していた関係から簡潔に語られます。玉置氏は、ボツになったベイルアウトはやられ演出として作ったもののコントローラーとの相性が悪く、ベイルアウトからパラシュートによる揺れの酔いが解決出来なかったためボツに。

スタンダード操作は予想出来る動きにならず酔いやすかったためボツ。動的アイリス演出(高速移動時や急旋回時に応じて周辺の視界を黒く狭めて酔い難くする仕組み)は有望であったものの、VRフライトの醍醐味である浮遊感までも殺してしまいそうだったためボツ。

酸素マスクはバーチャルノーズの延長線にあり、一度導入したところ、鬱陶しさが勝り、外したくて仕方が無いためボツ。タキシング矢印は画面上に出すととても醒めるためボツ。完成するまで様々な試行錯誤が行われたことがわかります。


次のトークテーマは「業務用から家庭用VRにきてどうだったか?」。夛湖氏は、自身がもっていた体験型ゲーム知見を発揮すると共に、玉置氏と山本氏の両名が持つ『サマーレッスン』から得た知見を逆に新しく貰ったとのこと。夛湖氏が以前にこういったゲームを作る際には経験則的に、酔い防止や興奮を上げていくには演出的に誘導して行く、という作り方でしたが、新たな知見を得たことで、これらが具体的に「視線誘導」や「興奮が醒める」といったように言語化されていたことに「家庭用VRって進歩しているな」と感じたそうです。


続いての「サマーレッスンから受け継がれたプロジェクトスキルの話し」では、玉置氏が、「60fps至上主義」について話します。「60fps至上主義」とは、開発時に色々なことを表現したいから数十fpsしか出なくともまず色々なものを詰め込んで、表現を詰めたあとから徐々に最適化して60fpsにするという一般的な作り方ではなく、常に60fpsを担保して作るというものです。

VRレビューは、VR開発に関わっている人間がちゃんとPS VRでプレイし、自分が思った文句はどんな細かいことでも、どんな立場の人でも全部正方形の付箋に書き模造紙に貼りレビューする『サマーレッスン』のアリソン開発時に出来たものです。

レビューの頻度としては2週間に1回の頻度で前回の課題を解消した部分を出し、スタッフが見終わったあたりで一度回収し、次の作戦を立てるというローテーションを組んだと山本氏が説明しました。PS VRと平面モニタでは体験が大きく異なるため、レビューではPS VRを被って実際にプレイした人の発言を重視した開発を行っています。


最後は、「ACE7VRがモノになったと思った瞬間は?」というものです。山本氏は、MFDにレーダーと兵装情報に加え、ライトの影響で影も落ちるようになった瞬間に「戦闘機になったな。1つの機体になったな。このビジュアルなら勝った」とコメント。続いて夛湖氏は最初に「出来かけのVRモードに触れた時」と答え、そのときに完成形が見えたとしています。仮説ではあっても想像出来たので、後は完成形に沿った各人の意見を取捨選択するだけと述べました。


玉置氏は、VRがモノになる瞬間は些細なことがきっかけと答えます。『サマーレッスン』の場合は、ひかりちゃんが化粧のテクスチャが入った瞬間にとても可愛くなったことで、「現実と一緒だ!」と思ったそう。『エースコンバット7』VRモードの場合は、炎上して機内に煙りが溜まった瞬間に「自分死ぬかも、こんなに敵に向かってミサイル撃たなきゃ良かった」「自分が倒されるってこんなに怖いことだったんだ」と思ったときだった、というコメントを残しました。



なおGame*Sparkでは、このセッションに登壇した3名への「『エースコンバット7』VRモード発売後インタビュー!何故メビウス1は再び最前線へ復帰したのか?」としてインタビュー記事を掲載しています。体系的な解説と補足とも言える内容でもあるので、こちらも合わせてお楽しみください。
《G.Suzuki@Game*Spark》

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