(文字通り)消費されるコンテンツ・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第32回 | GameBusiness.jp

(文字通り)消費されるコンテンツ・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第32回

人間の思考や行動は、脳に蓄積された知識や経験に基づく思い込みや勘違いによって行われているということを知りました。人間の脳は高度すぎるがゆえに、過去の自身の経験や知識に則り、事象や五感を通じて入ってくるものを分析して分類して判断していると言ってもいいの

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人間の思考や行動は、脳に蓄積された知識や経験に基づく思い込みや勘違いによって行われているということを知りました。人間の脳は高度すぎるがゆえに、過去の自身の経験や知識に則り、事象や五感を通じて入ってくるものを分析して分類して判断していると言ってもいいのではないでしょうか。

故に、何か面白いことがあっても、「ああ、これは前に見たことがある」とか「何かに似ている」とかになります。

味覚も同じでしょう。どんなにおいしいものを食べても過去の経験などと照らし合わせて「あそこの味に似ている」という、知らず知らずの分類や分析を行っているはずです。

ただし経験値や知識が各人によって異なりますので、一概に乱暴なことは言えませんが、その人なりの脳のなかの智のキャパシティのなかで判断がされていると思います。

さて、ゲームや音楽、映画、映像などのコンテンツも同じようなことが言えるのではないでしょうか。

子供の頃に遊んだゲームの感動が素晴らしかったので、その後もゲームをプレイするようになったとか、音楽もシチュエーションによっては、自分の人生の名場面が浮かんでは消えたりするような印象的な思い出の音楽があるのではないでしょうか。

おそらく、それらは感性という名前の脳のなかのある機能(このあたりは詳しい機能はわかりませんが)で海馬あたりに今まで経験したことのないエンタメとして初めて体験した「ゲーム」や「映画」や「音楽」の感動や印象が記録されることでそのあたりの経験値や思い出が構築されていくものと思います。

つまり「想い出が美しすぎる」のはこのあたりに秘密があるのかもしれません。その当時のままの印象や姿を記憶のなかで保存したり増幅したりすることに依るのではないでしょうか。

僕の場合は学生時代に音楽が好きだったこともあり、今も80年代の音楽を聴くと心がゾワゾワと動きます。

映画もその傾向がありますが、映画は今も観つづけているので、この映画、映像というジャンルは常にデータが上書きされています。

その想い出のなかの音楽ですが、先日ネットで偶然、80年代にリリースされた山根麻衣(やまねまい)さんのデビューアルバム「TASOGARE(たそがれ)」がタワーレコードの手によりテイチクさんとのコラボで再発売されているのを知りました。アルバムの内容は割愛しますが、今聴いても十分新鮮に思えるのは僕の感性(脳)が、その時代のまま、時を止めてしまったからかもしれません。

山根麻衣さんは、アニメ「カウボーイビバップ」やアニメ「マクロスプラス」のボーカル(菅野ようこさん作品)に参加していますのでご存知の方もいると思います。このように少数派のファンがいる作品の過去のCDが再発売されることは珍しくないことではありますが、個人的には再発売を希望するアーチストさんのアルバムがいくつかあります。そのあたりはiTunesなどにも無いので何か権利的な問題があるのかもしれません。

さて、ゲームはどうでしょう。一部には過去のゲームがリイッシュー(再発売)しているケースもあるようです。またはダウンロードコンテンツとして今も遊べるようなになっているものがあります。

さきほど知ったニュースによればアメリカの「MOTHER」シリーズのファンが米国内での広がりをどのように行ったかというドキュメントリー映画を制作中というニュースがありました。開発者の糸井重里氏のインタビューを行ったようです。このように国境を超えてエンタメの感性が拡がったことが素晴らしいことだと思います。

しかし少々危惧するのは、現在のゲームコンテンツはスマートフォンをデバイスとしたものに変容していることです。

ゲームをプレイをしているとはいえ、アップルやグーグルのプラットフォームの上で展開しているということです。つまり任天堂やプレイステーションではなくスマートフォンが彼ら彼女たちのデバイスというのが昨今です。

そして、仮に、ユーザーの目に留まらないなどの理由で、売り上げが上がらないとか、運営が厳しくなってくるとゲームサービスをクローズせざるを得ないケースも出てくると思います。その時は、ゲームで遊んだデータやアイテムなどすべてをパブリッシャー側の都合で失うことになります。他のゲームに誘導できればそれでいいのかもしれませんが、ユーザーにとって、プレイ期間はどうあれ、そこにつぎ込んだ情熱とお金はもろくも消えてしまうわけです。

おそらくこれからこのような事例はどんどん出てくることでしょう。想い出は美しく、いえ、楽しすぎるのかもしれませんが、それを実証、体験するデバイスやコンテンツが伴わないという事態が生まれてくるでしょう。

それも時代と言えばそうなのかもしれませんが、ある程度時間が経過したときに振り返るべき何かがないというは悲しいことかもしれません。

■著者紹介

黒川文雄
くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHNjapanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。

現在はインディーズゲーム制作中「モンケン
電子書籍 「エンタメ創造記 ジャパニーズメイカーズの肖像 黒川塾総集編 壱」絶賛販売中

ツイッターアカウント ku6kawa230
ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』
ニコニコチャンネル 黒川塾ブロマガ」も更新中。
《黒川文雄》

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