【TGS 2012】22世紀の子供たちに向けたゲーム作り―飯田和敏氏・・・・・・「新しいゲームのカタチとは?」(後) | GameBusiness.jp

【TGS 2012】22世紀の子供たちに向けたゲーム作り―飯田和敏氏・・・・・・「新しいゲームのカタチとは?」(後)

TGSフォーラムとして行われた「新しいゲームのカタチとは? ネットワーク時代のゲームビジネス新事情」では3人のクリエイターが登壇し、自身のゲーム作りについて語りました。

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TGSフォーラムとして行われた「新しいゲームのカタチとは? ネットワーク時代のゲームビジネス新事情」では3人のクリエイターが登壇し、自身のゲーム作りについて語りました。

最後の報告者はグラスホッパー・マニファクチュアの飯田和敏氏です。「22世紀のための準備運動」と題された飯田氏の報告は、「遊びとは何か?」、「ゲームとは何か?」という哲学的な問題に取り組んだ内容でした。個性的なキャラクターの飯田氏の発表は雑然としながらも、ゲームクリエイターらしいアーティスティックなもので、創作行為の楽しみと苦しみが相混じった独特なものとなっています。

まず飯田氏は過去、現在、未来と人類の歴史を俯瞰して、我々がどういう未来に向かっており、その中でゲームはいったい何の役に立つのかを問い直しました。飯田氏自身は、東京ゲームショウの会場である幕張周辺で生まれ、子どものころに通っていた駄菓子屋にあったスペースインベーダーの筺体との出会いが最初のゲーム体験であったと振り返っています。その後、スターウォーズの大流行、パンクロックとの出会いなどに影響を受けクリエイターを志し、22世紀の子どもに影響を及ぼすようなゲームを作って行きたいと展望を語りました。

自身が子ども時代は未来に対する期待が強かった反面、現在のコンソールゲーム市場が芳しくないことから、ゲーム業界全体に暗い雰囲気があることも飯田氏は指摘します。しかし一方で、スマートフォンなどでは面白い試みがなされ、ゲーム産業が滅ぶことは決してないと力強く語りました。

飯田氏は、主にコンソールゲームを制作してきましたが、その過程でいくつかインターネットを用いた試みを行なってきたと説明しました。Nintendo64の周辺機器として作られた64DDはネットワーク端末であったため、『巨人のドシン1』では、テキストベースのユーザーコミュニティを自身で運営していたそうです。

『ディシプリン*帝国の誕生』では、任天堂Wiiウェアでのダウンロード販売を行ないました。パッケージソフトと異なり、ダウンロード販売のためのプロモーション手段が分からなかった飯田氏は、発売前にニコニコ動画の実況プレイヤーにゲームを遊んでもらい動画を公開しました。その結果、アップロードと共に10万件ほどのアクセスが集まり、話題になったものの、当時のニコニコ動画の規約に違反していたため、結果として削除せざるを得なかったといいます。

次に現在取り組んでいるスマートフォンゲーム『イージーダイバー』について説明されました。『イージーダイバー』は、飯田氏の原点となる『アクアノートの休日』と類似したコンセプトの海底散策のゲームです。2011年の夏に開発をスタート。『アクアノートの休日』をベースとしながら、オンライン上でマルチプレイが可能、タッチデバイスに特化したUIなどスマートフォンらしい作品になる予定です。

2012年の夏にいったん完成しましたが、爆発的にユーザー数を増やしているNHNのSNSアプリ「LINE」と連携したゲームとしてリリースすることが急遽決定し、現在、開発をやり直しています。

そもそもオンライン版『アクアノートの休日』として『イージーダイバー』を開発していた飯田氏は、できるだけ多くのユーザーに遊んでもらいたいと思っていたため、LINE GAMEからのリリースのお誘いを大変喜んだといいます。しかしながら、現状のLINEの普及率やユーザー層を考えると、自らの個性を詰め込んだこのようなゲームを万人向けのプラットフォームに出していいものかと悩んだ末、苦渋の決断としてゲームの作り直しを決定しました。飯田氏は、自らの作家性が薄くなることには、複雑な心境があると言いながらも、新しいプラットフォームに挑戦する意気込みを述べました。

最後に飯田氏は7インチのレコード盤をスライドに映しながら、メディアが変化しても常に「かわるもの、かわらないもの」があると説明しました。ゲームの場合、プレイヤーの消費のスタイルやクリエイターの制作のスタイルは常に変化してきましたが、「コンピューター(最新の技術)を遊びたい欲求」自体は変化せず、現在も生き残っているといいます。そして、ゲームにおける成功とは、プレイヤーとクリエイターが近い距離で遊べることと主張しました。

さらにビジネスやメディア、ハードウェアが変化しても「遊び」そのものは変化しないことを強調して、発表をまとめにかかりました。ここでいう「遊びとは何か?」という問題は大変難しいものながらも、飯田氏は「現在は役に立たないが、遠い未来には役に立つかもしれないもの」と定義します。そして、今はまだコミュニケーションを取れない他者であっても、今後のテクノロジーの発展によってコミュニケーションが可能になれるかもしれない動物や生物、そのような存在とのコミュニケーション欲求がソーシャルゲームへの欲求につながっているのではないかと述べました。

『アクアノートの休日』や『イージーダイバー』における海底での謎の生物とのコミュニケーションは、明らかに現在は役に立たない「遊び」です。しかしながら、そのようなコミュニケーション欲求は将来、まだ知らぬ他者とのコミュニケーションの基盤となる体験を与えるかもしれないと、自身の哲学を述べました。

マーク・ロスコの抽象絵画、セル・オートマトンで作られた生命のシミュレーションのライフゲーム、自身の『アクアノートの休日』の謎の生物などのスライドを紹介しながら、未知なものへの探究心を語った飯野氏の発表は、「ゲームビジネスセッション」という内容からはかなり外れたものでした。しかしながら、ゲームクリエイターの使命を長い展望で強調する姿は、現在のゲーム業界においては貴重なものであり、個人的には大きく感銘を受けました。

まだまだまったく先が読めない22世紀。そんな遠い未来の子どもたちに伝えために、「正々堂々と役に立たないこと」を積極的にやっていくのが自身の使命であると、飯野氏は壮大な夢を語りました。


3名のクリエイターによる発表が終了した後、トークセッションが始まりました。司会の瀬川氏はビジネスから距離を置いたそれぞれのクリエイターの熱意を評価しつつも、それらのプロジェクトの資金を集めるため、どのように人々を説得しているのかについて質問を投げかけました。

セガの酒井氏やガンホーの山本氏は、短期的な利益ではなく、長期的な利益をあげるためにスケールしやすい運営環境を作っていることを主張しました。また、山本氏は『パズドラ』の開発に関しては、カジュアルなユーザーの意見を取り入れるために、まずは自分の妻や親戚など身近な人に聞いてみたと述べました。

他方、グラスホッパーの飯野氏は、「正直、ビジネス的にはわからないが、100年待ってろ!」と大胆な発言を行ない、会場をわかせました。実際に絵画などの芸術には、何百年もの間、修復されつつも残っているものがあり、ゲームは文化としてそのレベルに至ることができると、強調しました。一方、投資家相手にはそういった壮大な野望を語りつつも、社内においては仕様書などをしっかり作り、説得にあたるという二面作戦のしたたかさも必要だと述べました。

「ゲームビジネスセッション」と題されたフォーラムでしたが、結果として浮かび上がってきたのは、ゲームクリエイターの熱い気持ちでした。ソーシャルゲームの躍進を受けて、どうしてもビジネスばかりが話題となるゲーム業界の中で、クリエイターは収益を意識しながらも自身が理想とする作品を作っているのだということを再確認した情熱的なセッションでした。討論の末、「結局は面白いゲームが残る」と3人のクリエイターたちは結論に至ったのは、ゲームを愛する人間としては感銘を受けました。
《今井晋》

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