【DEVELOPER'S TALK】"プラチナ"クラスの作品が完成〜渾身のクライマックスアクション『ベヨネッタ』を手掛けたプラチナゲームズを直撃 | GameBusiness.jp

【DEVELOPER'S TALK】"プラチナ"クラスの作品が完成〜渾身のクライマックスアクション『ベヨネッタ』を手掛けたプラチナゲームズを直撃

セガとプラチナゲームズがタッグを組んだノンストップクライマックスアクション『ベヨネッタ』は『バイオハザード2』『デビルメイクライ』『大神』といった作品を手掛けてきた神谷英樹氏がディレクターを務める最新作です。ド派手なアクションや独特の世界観、魅惑的な

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セガとプラチナゲームズがタッグを組んだノンストップクライマックスアクション『ベヨネッタ』は『バイオハザード2』『デビルメイクライ』『大神』といった作品を手掛けてきた神谷英樹氏がディレクターを務める最新作です。ド派手なアクションや独特の世界観、魅惑的な女性主人公ベヨネッタで、東京ゲームショウ2009でも大きな注目を集めました。DEVELOPER'S TALKの最新号では大阪は梅田に赴き、開発元のプラチナゲームズにて開発秘話を伺いました。



参加者

プラチナゲームズ株式会社
・橋本 祐介 プロデューサー / プロジェクトの全体を統括
・神谷 英樹 ディレクター / ゲーム全体のデザインと開発を指揮
・山口 裕史 リードコンポーザー / 音楽を担当
・酒田 大亮 リードサウンドデザイナー / 効果音を担当
・大森 亘 リードプログラマー / サウンド周りのプログラムを担当

株式会社セガ
・藤本 光伯 CS研究開発統括部 CS R&D推進部副部長
PS3版ベヨネッタの移植開発を統括し、プラチナゲームズとセガの橋渡し的存在を務める。今回のインタビューにはオブザーバーとして参加。

―――発売から少し時間が経ちましたが、感触として作りたかったゲームをユーザの皆さんに届けられたと感じられていますか?

神谷: そうですね、ユーザさんからも良い評価をいただいているようなので、一安心といったところでしょうか。プラチナゲームズとして出来ることはやりきったという感触はあります。

―――『ベヨネッタ』というゲームはプラチナゲームズの中でどういう位置づけの作品だったのでしょうか

神谷氏
神谷: 『ベヨネッタ』はプラチナゲームズが出来て間もない時期に始まった、エース級のメンバーを集めた大きなプロジェクトだったので、社運が懸ったタイトルだというのは当然感じていましたし、「プラチナゲームズとはこういう会社だ」ということを宣言するタイトルに仕上げなくてはならないとも思っていました。

プロデューサーの橋本との会話の中で「神谷さんの作る3Dアクションを見てみたい」という言葉があって、それで企画書を作ってみたら好評で、実際に開発することになったんです。

プラチナゲームズの命運がかかったタイトルなので、正直に言うと、もうちょっと万人受けするような、商売を考えたゲームを求められるかと思っていたのですが、会社からも、コアなユーザを意識した歯ごたえのあるアクションゲームを作って欲しいと言われて意外でしたね。勝負に出るんだと。それで奮い立った面もあります。

―――神谷さんが言われるコアなゲームというのは

神谷: 最近のトレンドとして、簡単に遊べて、流してプレイすれば最後まで気持ち良く遊べる、ストレスなく快感だけを得られるといったようなゲームが増えていると感じたんです。

でも僕はゲームの一番の面白さは困難を乗り越えることだと思っていて、過去に作った『デビルメイクライ』も『ビューティフルジョー』も見た目はともかく、歯ごたえがあるゲームを制作したつもりです。アクションゲームでいえば、勝てそうもない強敵に向かって試行錯誤して、ようやく勝てたときに「やった」という快感が得られるものが王道だと思ってるんです。

ただ、それは昨今のユーザが求めているものとは若干違うのかな、という印象もあって心配もありました。それでも、ユーザに対しておもねるのではなく、面白さを提案していくのがクリエイターだと思っています。そういう作りが出来たので気持ち良く仕事ができました。

―――開発期間は約3年と聞いていますが、長かったという印象ですか?

神谷: 特段長いとは感じませんでしたね。今までのゲームと違って順調に進みました(笑)。今回は迷いはなくて、ただ単純に物量と求められるクオリティの高さで時間がかかったという印象です。

企画の仕事はあまり変わらないのですが、ハードの性能が上がれば、表現できる幅も広がるので、クリエイターとしては突き詰めたい部分も出てくるし、ユーザの皆さんも当然そういうものを要求されますよね。それに、プラチナゲームズとしては初めての現世代ゲーム機で、会社を立ち上げて間もない状態でライブラリから整備しなきゃいけないという二重苦もありました。それに加えて、我々のチームは、その場で思いついたことを肉付けしながら、クラッシュ&ビルドを繰り返すような作り方をするので、チームの負担はかなりのものがあったと思います。

本当に頑張ってくれたチームには感謝したいと思いますし、元々はカプコンの第4開発部で、クローバースタジオを経てプラチナゲームズに集まったチームの団結力というか馬鹿力というか、何かスピリットのようなものを感じましたね。

―――チームの人数はどのくらいだったのでしょうか

神谷: コアなスタッフは50人程度でした。恐らく、この規模のゲームでは少ない方じゃないでしょうか。その分、汗と涙と友情で・・・(笑)。

―――某マンガ雑誌ですね(笑)

神谷: いいところもあると思うんです。やはり人数が多くなると、作業も細分化されてシステム化されていってしまいます。その分、誰が何を作っているのか分からないような体制になっていきます。そういう意味では、僕らの作り方は血の通ったモノ作りができる体制だったと思います。代わりに寿命は縮んだと思いますが(笑)。

■譲れない一線

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■譲れない一線

―――魅惑的な女性主人公が特徴的ですね

神谷: そうですね。よく聞かれることですが、アクションゲームで敵を倒すのは当然です。でも、単にパンチやキックの力押しで倒せばいいというだけでは面白くありません。どう倒すかというところで個性を演出したいと思っていて、その味付けを考えた時、最初に思い浮かんだのが女性キャラクターです。

チームの中では、女性キャラクターには感情移入できないという意見や、一般的に女性キャラクターのゲームはあまり売れた実績がないということで心配する声もありました。ただ、そう大きな反対はなく、会社から特に言われることもなかったです。キャラクターに魅力があれば作る側の人間も乗って仕事ができるので、楽しく仕事ができたのは「ベヨネッタが魅力的なキャラクターだったというのもあるんじゃないか」と今となって思いますね。



―――独特の戦闘スタイルはどのように作られていったのでしょうか?

神谷氏
神谷: ゲームのために考えた武器をメインに据えるということに僕はちょっと違和感を持っていて、何か実在する武器の斬新な使い方をさせたいと思ったんです。

最初の着想としては、銃そのもので敵をぶん殴ると。するとあれも鉄の塊だから相当痛いわけです。なので、ぶん殴って至近距離で引き金を引くというのはなかなか面白そうだと。そこで、『ビューティフルジョー』から一緒に仕事している、モーションデザイナーの甲斐(秀敏氏)に相談すると、足に銃を装備して蹴りで銃を撃つってのもどう? という話になって、せっかくなら、手の武器も足の武器もゲームを進めるにつれて入れ替えていくと攻撃のバリエーションも増えてゲーム的に面白そうだという風になりました。

それで最初は1つのボタンでパンチ、1つのボタンでキックという単純なアクションだったのですが、もう少しゲーム性を高めた方がいいという意見がありミーティングを重ねた結果、ボタンのコンビネーションで色々な攻撃パターンが出るという今のスタイルに落ち着きました。

―――ゲームを遊んでいると、シームレスかつノンストップでゲームが進行していくというのが強く印象としてありますが、そのあたりは意識されていますか?

神谷: シームレスということに関しては、昔から実現したいと思っていました。ただ、技術的な都合でどうしてもローディングが発生してしまうんですね。でも、繋ぎ目で画面が暗転することで、次はムービー、次は戦闘、という風に段取りのようなものができてしまうのが非常に嫌だったんです。ただ、技術的に難しいことは分かっていたので、今回は強くは言わなかったのですが、プログラマーが自主的に頑張ってくれて、出来上がったものを見たら非常にシームレスで僕も驚くようなものができていたという(笑)。ゲームの冒頭では、プレーヤーを、いきなり何の説明もないまま時計塔の落下のシーンに放り込んでます。とにかく無茶苦茶な状況に落として、もがいて学べというスパルタ方式です(笑)。

橋本氏
橋本: しかも制作当初はそのシーンにも体力ゲージがあり、ゲームになっていましたね(笑)。スタッフがテストプレイをしても何の説明もないままなので、いきなりゲームオーバーになっていたんです。最初に出来たクライマックスシーンでもあり、スタッフが「クライマックスとは?」ということの答えが出たシーンでもあります。

※ 製品版では当該シーンに体力ゲージがないのでゲームオーバーにはなりません

―――その気の抜け無さが『ノンストップクライマックス・アクション』の没入感を高めていますよね

神谷: 実は反省から生まれた面もあって・・・。最初に『バイオハザード2』を作った時、凄い演出を入れたいという欲が出てきて、ムービーシーンを多様して、エンディングにも立派なムービーを入れて、自分でも満足の行くものができたんです。でも、それって自己満足だったなって。だってエンディングの一番美味しい場面にプレイヤーはお茶飲んで画面を見ているだけですから。それはおかしいですよね。だから『デビルメイクライ』では脱出シーンではプレイヤーに渡して操作させたんです。別にムービーを突然終わらせてユーザーをいじめたいというわけではないんですが(笑)。

―――今回ももちろん・・・?

神谷: はい、お楽しみに(笑)。今回は特にノンストップクライマックス・アクションということをコンセプトにしています。本当にコントローラーを握りっぱなしになるようなエンターテイメントを目指したので、その辺りは技術的なサポートもあって上手く表現できたかなと思います。

―――シームレスなゲーム展開を実現するにあたって、技術的にはどのように実装されたのでしょうか?

大森: 常にデータの裏読みを行っています。実は『大神』の頃からやっています。次の場面に必要なリソースの管理は独自で行っているのですが、実際のファイル読み込みやデータの流量管理はCRIさんのミドルウェアに任せています。『大神』の頃は、部屋などの空間自体は裏読みができなくて、その空間にあるオブジェクトやイベントシーンを裏読みしていたのを、今回は更に一歩進めて、あらゆるものを裏読みできるようにしました。

―――アクションではベヨネッタの黒髪も非常に魅惑的ですね

神谷: そこに辿り着くまでは大変でした。

ある日、誰かのアイデアで、攻撃ででっかい手とでっかい足を誇張として出すというネタが生まれたんです。凄く面白そうだと直感で思ったのですが、あまりにベヨネッタの戦闘スタイルに馴染まなかったので保留にしていたんです。

ちょうどその頃、ベヨネッタのデザインも悩みの種でした。僕は主人公を際立たせる、アクションを派手に見せる小道具があるべきだと思っていて、戦闘を美しくするスパイスがベヨネッタにも必要だと思っていました。今回は魔女なので、それが黒髪というのは絶対だなというのもありました。ただ、長い髪でアクションさせるとぐちゃぐちゃになってシルエットが崩れてしまうんです。それだと戦闘し辛いという声も上がって、ベヨネッタのデザイン自体の見直しをしていたんです。

髪の毛にこだわるのはやめてショートヘアにしたらどうか? とか、三つ編にくくったらどうか? という話もあったのですが、デザイナーが一番最初に描いた、長い髪の毛を腕に絡めたデザインは譲りたくなかったんです。そのデザインはベヨネッタが腕に髪の毛を絡めていて美しかったんです。最初はゲーム中で常にそうすることを意識したわけじゃなかったんですけど、悩んだ時には原点に戻ろうということで、魔女だから髪の毛を服にしていて、余った部分を腕から垂らしているという設定にしてみました。すると、そこからベヨネッタは魔法で髪の毛を何かの用途に使うという設定ができて、「でっかい手とでっかい足」というアイデアと結びついたんです。髪の毛を使って魔界から魔物の手足を召喚して攻撃するという「魔女」らしい設定やデザインとも合致しました。服が脱げるのは髪の毛を触媒として使うからですね。デザインは右往左往しましたが、最後の脱げる部分はパッと気づいたら出来ていましたね(笑)。

最後の最後で色々なアイデアが結びつきました。ゲームの神様っているんだなと(笑)。

―――なるほど。モーション(動き)に関してはいかがでしょうか?

神谷: モーションは前述の甲斐が担当しています。モーションキャプチャーをして、それをベースにしながら、ダイナミックな動きに膨らませていきました。ベヨネッタに関してはリアリティにとらわれるよりも、「けれん味をさらに誇張する」という点が、モーションも、デザインも、エフェクトも全部でこだわった点ですね。

―――あとは、眼鏡も譲れなかったと聞いています

神谷: 眼鏡も譲れなかったですね。キャラクターデザインは万人受けするに越したことはないですけど、みんなが納得するデザインを目指す必要もないんです。納得するというのは特に気に入っているという意味ではないですから。なので、デザイナーの島崎(麻里氏)とベヨネッタのデザインを詰めていって、最初に定例ミーティングで披露したとき、綺麗に賛否両論になったんです。それは余りに印象的で強烈なインパクトがあったからだと思うんです。その瞬間、僕はこのキャラクターはいけるなと確信しましたね。良い印象でも悪い印象でもどちらでも良くて、「まあいいんじゃない?」とか「どっちでもいいんじゃない?」はダメですね。心に引っかからないということなので。

その折角の「武器」にしている部分を取れという指示もありましたが、強烈に反発しまして今のスタイルに落ち着きましたね。


ベヨネッタの設定画


―――今回、セガさんと一緒にやられて、ちょっとニヤっとするネタも散りばめられていますね

神谷: そうですね。ゲームはやっぱりエンターテイメントなので、ユーザさんの喜ぶ顔が見たいですよね。そう考えると、色んなネタを仕込みたくなるんです。隙あらばという感じで(笑)。

それにプラチナゲームズとして僕らは過去の資産が全くないので、出来る事が限られるんです。でも今回はセガさんのネタは大手を振ってできたので、ゲームの中に『スペースハリアー』や『アフターバーナー』の曲を入れたり、ステージ構成も2つのタイトルをモチーフにしたり、勝手に夢の競演を楽しんでました(笑)。

藤本: セガの役員が集まる会議で「ベヨネッタにセガの楽曲を使わせてください」と提案をいただき実現しましたね。

神谷: 一番緊張したのは、HIRO(川口博史氏)さんという『アフターバーナー』『スペースハリアー』『アウトラン』といったゲームの作曲をされた方に話を通しにいった時ですね。僕が高校時代から大事に持っていた『アウトラン』のサントラにサインをお願いしようかと考えたものの、実際に会ってイヤな人だったらどうしようと悩んでたんですが・・・。全くの杞憂に終わりました(笑)僕が高校時代から大事に持っていた『アウトラン』のサントラにサインをしてもらおうと持っていったんですが、「ダメ」って言われたらどうしようと・・・。全くの杞憂に終わりましたけど(笑)非常に寡黙な人ですけど、「この曲もどうですか?」という提案ももらって、感動しましたね。

(実は『アフターバーナー』の曲が流れるシーン、通常はアレンジ版が流れるところ、ある特殊な操作をすることで、オリジナル曲を聴くこともできるのだそう。その方法は秘密ですが、ぜひ色々と試してみましょう。通常は上田(雅美氏)によるアレンジ版ですが、ある操作をすることで、『アフターバーナー1』のバージョンと『アフターバーナー2』のメロあり/メロなしの3つに切り替えることができるとのこと。『アウトラン』『ファンタジーゾーン』『スペースハリアー』の曲が流れるシーンでも、それぞれオリジナル曲を聴く事が出来るそうです」)

―――海外市場は意識されましたか?

神谷: あまりしなかったですね。当然、市場としてはワールドワイドを考えていましたが、ことさら海外向けにと考えても、やっぱり僕らは日本人なので、アメリカ人と同じ感覚は持ちようがないですよね。なので、ワールドワイドを目指すことは皆が共有していましたが、どちらかというと、変に意識することによってゲームの中身がおかしくなってしまうよりも、シンプルに自分達が思うものを形作っていこうと思っていました。

本当に魅力的なものは文化の違いを乗り越えられると思っていて、それはある程度今まで作ってきた作品で証明されているとも思います。

■技術的な側面

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■技術的な側面

―――今回、CRIのミドルウェアを採用した経緯を聞かせてください。

酒田: 以前にサウンドリーダーをやっていた人間が、他のタイトルでCRIさんとやり取りをしていたんです。それで今回もCRIさんのミドルウェアを採用することになりました。個人的には今までにそういうものを使ったことがなかったのですが、CRI Audioのツール画面を見て、全てが1つの画面で操作できる利便性に驚きましたね。

CRI Audioのツール画面。グラフィカルな操作でさまざまな効果音などを生成できる。


山口: サウンドのエンジンを1から作るというのは現実的ではなかったので、CRI ADXに関しては『大神』のときから採用して慣れているという意味もあって決まりました。自分達で全部作るよりは、良い物が既にあるなら使えればいいという姿勢ですね。

大森: 慣れ親しんで信頼感があるミドルウェアだったので、特に他社のものとの比較検討などはしませんでしたね。立ち上がりのスピードも要求されたのですが、組み込みもかなり早い時期に出来ました。

―――マルチプラットフォーム制作でのミドルウェアはどうでしたか?

藤本: PS3版はセガが担当だったのですが、サウンドやムービー再生に関しては、マルチプラットフォーム対応のCRIさんのミドルウェアを使っていたので、開発は格段にやりやすかったです。もし各プラットフォーム独自のものを採用していれば、もっと大変だったでしょうね。

―――今回は、ADX、Sofdec、CRI Audio(※)という3つのミドルウェアを採用されていますが、それぞれどういった用途で使われたのでしょうか?

※CRIが提供するミドルウェア群
CRI ADX・・・マルチストリーム音声再生システム。複数の音声を再生しながらデータを高速に読み込むことができる。
CRI Sofdec・・・高画質ムービー再生システム。高画質なHDムービーをなめらかに再生できる。
CRI Audio・・・統合オーディオソリューション。効果音や環境音、ゲームの状況に応じて変化するサウンドなどをデザインし、再生できる。サウンドデザイナー主体の音楽制作が可能。


大森氏
大森: 「CRI Audio」は音全般を鳴らすのに使っています。SE(効果音)、BGM、ボイスなど分け隔てなく全てCRI Audioを使っています。プリレンダムービー以外の音は全てということになります。Sofdecは過去の回想シーンのムービーに使っています。ADXは直接触っている箇所は少なくて、ムービー用の音声を再生させる手段として使っている感じです。また、ファイルの読み込みやバッファ管理、データの圧縮・パッキングなどは、CRI Audioに含まれているファイルシステムを使って行っています。

―――なるほど。ゲームを遊んでいると、リアルタイムとプリレンダのムービーの区別が全くつきません。見分ける方法ってあるんでしょうか?

大森: ゲーム中でプリレンダのムービー(Sofdec)を使っているのは、フィルムタッチで描かれている過去の回想シーンだけなんです。実はゲーム中のその他の現代の場面は全てリアルタイムです。これはベヨネッタが衣装を変更したり、武器を変更したりした際、デモに反映させたかったからです。

橋本: やはり女性主人公ならではの部分として、衣装を変えることで印象が結構変わってきます。男性だと余り大きな印象の違いはないんです。なるべくバラエティの富んだものにしたいと思うと作業量も増えますし、イベントシーンの尺も増えていって結構大変でしたね。その甲斐あって見応えのあるものになっていると思います。

酒田: 最初は1時間ちょっとという話だったのが、1時間半になり、2時間になり・・・。

―――Sofdecのプリレンダムービーの尺はどのくらいだったのでしょうか?

大森: そんなにはないですね。全部で10〜15分くらいだったと思います。ムービーのビットレートは大体4〜8Mbpsでクオリティが高くサイズが一番小さいものを採用しています。

―――ゲームのボリュームとしてもかなり盛りだくさんだと思いますが、ディスク容量が足りなくなるといった問題に直面しませんでしたか?

大森: 特にDVDメディアであるXbox 360はシビアでしたね。かなり減量しました。運良く入ってくれたという感じです。残りは10MBくらいしかなかったです。ディスクに収まらず溢れていた時期もあって、あと500MB削れ、とかやってましたね。定期的にディスクに焼いてチェックするんですけど、焼こうと思って全部のファイルを圧縮してみると、ディスク容量が足りないというのは良くありました。全セクションで無駄なデータを使ってないか総洗いしましたね。

橋本: 1枚では収まりそうにない、という心配が出てきたので、そうなる前にスタッフには釘を刺していたんです。「アクションゲームで2枚組はないぞ」って(笑)。なんとか1枚に収まって良かったです。

―――ディスクではどういったデータが多いのでしょうか?

大森: 多いのは、やっぱりムービーとサウンドでしょうね。意外に容量を使っているのは、サブ画面やコクピット画面で、圧縮後も150MBくらいあったりしました。あとは、最後に入ったおまけのムービーが・・・。

―――ファイルの圧縮やパッキングもされているようですね

大森: CRI Audioに同梱されている圧縮ツールを使ってパッキングしています。ストリームのデータを除いて、6つほどのファイルにパッキングしています。

―――圧縮率はどのくらいでしたか?

大森: 12〜13GBあったものが6.8GBまで圧縮できました。圧縮率としては60%らいにはなったと思います。CRIさんの圧縮ツールがなければディスクに収めるのは無理だったでしょうね。

■こだわりのサウンド

―――次はサウンドに焦点を当てたいと思うのですが、今回、CRI Audioの新機能として「マトリックスサラウンド(逆相送出)※1」を採用されていますね。この技術はCRIが以前CEDECでご紹介し、お問い合わせいただいて実装された機能ですが、どのようにお使いいただいたのでしょうか?

※マトリックスサラウンド・・・もともと2chのステレオデータを、疑似的にサラウンド化する手法。CRI Audioにも搭載されている。ステレオの音声データを、波形の位相を逆転しリアのスピーカーから出力する。詳しくは下図参照。

マトリックスサラウンドの解説図。CEDECの説明資料より。


大森: ええ、僕がCEDECに参加して、資料を持ち帰って山口に渡したんです。

山口氏
山口: 主に使っているのは、BGM及び、雨や風といったストリーム再生している環境音です。今回プラチナゲームズとしても5.1chのミックスをするという選択肢もありましたが、限られた時間の中で、作曲する事に最大限時間を使いたかったので、今回はステレオ素材を簡単にサラウンド化してくれるマトリックスサラウンドを有用な機能として使わせてもらっています。この機能のおかげで、かなり空間に広がりを持たせる演出ができました。加えて環境音では、カメラを回すと、それに合わせて各スピーカーから出ている音も回るように大森に実装してもらいました。こうすることで、例えば雨が降ったり風が吹いている場面で、カメラを動かすと、雨風の音も違った方向から聞こえるようになります。ステレオの素材で実現できるので、データ量も単純に減りますし、演出的にも面白いことができました。

―――効果音に関して、工夫したことや、現世代機になって制作で変わった部分があれば教えてください

酒田: 一番大きいのはサラウンドで作るということでしょうか。音の素材自体はモノラルもしくはステレオなんですが、空間の中に配置していくので大変でした。カメラが回れば音も回りますので。常に正面だけでなく、後ろ側の情報も頭の中で考えながら、カメラが動いたから、こっちを上げて、逆になったら今度はこっちを上げて、という感じですね。気を付けたのは、スピーカーの位置のまま配置すると、少しパンが気持ち悪くなってしまうんです。特に人物が発生させるSEに関しては、若干狭めのパンを取っています。逆に空間の音はフルレンジでダイナミックに使っています。

―――効果音にはリアルタイムでエフェクトなどはかけられているのでしょうか?

酒田: 例えば建物の中に入ったらリバーブやディレイを使ったり、ウィッチタイム(※)中ではディレイを使ってスロー空間を表現したり、周りの音を全てピッチを下げたりといった処理をしています。これはCRI Audioを使うことで簡単に実装できました。

(※ウィッチタイム 敵の攻撃を寸前でかわすことで発動する。限られた時間、敵の動きがスローになる)

―――なるほど。逆に困った部分はありませんでしたか?

酒田氏
酒田: マトリックスサラウンドは凄く良かったのですが、サラウンドヘッドフォンを使うと音が打ち消し合って変な音になってしまうんです。スピーカーだと距離が離れているので、気にはならないのですが。解決法としては、ヘッドフォンモードを用意して、オンにすると逆相成分を減らして鳴らすという方法を取ったのですが、ヘッドフォンモードに気づかずに遊んでしまう人もいるだろうというのが心残りでしたね。

もちろんステレオのヘッドフォンで遊んでらっしゃる方も、ヘッドフォンモードにしていただいた方が良いです。ヘッドフォン用にパンなどが調整されていますので。

―――技術的な面以外の音作りとして、ベヨネッタらしさ、クライマックス感を演出するような工夫をした点というのはありますか?

酒田: SEに関しては、迫力のある音、というのは繰り返し言われてきたことで、他のメーカーさんであればNGになりそうな低音もふんだんに使っています。

山口: オーケストラの曲なら、コーラスを入れてこれでもかというくらい壮大に、ベヨネッタらしいノリの良い曲なら、負ける気が全くしないというくらいイケイケに、プレイヤーのテンションを最高潮に持っていく為に、どれも力を入れて作りました。クライマックスの一つである四元徳戦では、最初は天使寄りのオーケストラによる壮大な曲調に圧倒されるんですけど、優勢になってくると徐々にベヨネッタ寄りの曲調になっていって、最後の大魔獣召喚を決めるときにはもうイケイケでとどめを刺す、というような、終止クライマックスな音楽の流れが、自分でも気に入っています。

橋本: 全体の音楽のコンセプトとしては、今回はギターサウンドを最初からナシにしようと言っていました。大人の女性が主人公なので、華麗でエレガントなキャラクターを象徴する音楽をというリクエストを出しました。余裕がありつつ優雅に戦う通常シーンと、オーケストラの派手な音楽のクライマックスシーンと、緩急をつけたバラエティに富んだ内容になっています。

山口: 『デビルメイクライ』の全編を通してロックでノリノリなギターサウンドとは対照的ですね。でも、ギターが入らないと、気持ちが高ぶるような音楽がなかなかできなくて、苦労しましたね。一番最初はスパニッシュから始まって・・・。

酒田: 次にジャジーな感じ。

橋本: ジャズの雰囲気は最後まで残ったよね。

山口: なんとか大人な雰囲気にはまとまったと思います。サントラも既に発売されていますので、是非聞いてみて下さい。
絶賛発売中のサントラ、「BAYONETTA ORIGINAL SOUNDTRACK」


■神谷氏に聞く"次"

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■神谷氏に聞く"次"

―――今後のベヨネッタについて考えてらっしゃることはありますか?

神谷: 『ベヨネッタ』というタイトルは大切にしていきたいですし、キャラクターや世界観などもっと広げられればと思うところはあります。作っているうちにとても愛着が湧いたタイトルでもあるので、一ファンとして続きを見てみたいというのもあります。

―――少々早いですが、続編も期待できるのでしょうか?

神谷: 単純に『ベヨネッタ2』という形でなくても、せっかくの世界観を掘り下げる方法というのは色々あると思います。ただ、僕の場合、今までのタイトルは巡り合わせが悪くて続編を作れませんでした。僕以外の人が続編を作って、それを傍から眺めているだけという歯がゆい思いも体験してきました。腰を据えてという言い方はおかしいかもしれませんが、今回くらいは、という気持ちもあります。

―――アクションゲームで神谷さんといったらブランドです。でも、他に挑戦したいジャンルなどはあるのですか?

次に手がけたいものとは
神谷: これまでは自分でも漠然となのですが、プレイヤーを選ぶゲームを作ってきたと思っています。100人が良かったと思うゲームじゃなくて、10人でもいいから好き過ぎて困るくらいのゲームを作りたいという気持ちが今まではありました。そう思って『デビルメイクライ』や『ビューティフルジョー』を作ってきたんです。『大神』はちょっと裾野を広げようという気持ちがあったもののあまり上手くいかず、『ベヨネッタ』で昔のやり方に戻した感じです、10人好きでいてくれたらいいやって(笑)。『ベヨネッタ』は作っていたら楽し過ぎて、はっちゃけ過ぎました。次は、贅沢に100人が100人もう好き過ぎると思えるようなゲームを考えてみたいですね。

―――最近だとiPhone向けのゲームアプリやソーシャルゲームのような軽く遊べるゲームが流行していますよね

神谷: そうですね。具体的には本当にぼんやりしているんですけど、より沢山の人に遊んで貰えるゲームを作る・・・いや、沢山の人に遊んで貰えるような呼びかけや働きかけをしていかなきゃいけないと思っています。『ベヨネッタ』にイージーオートマチックを導入したのも、ゲームが苦手な人にも触って欲しいという気持ちがあったからこそなんですね。沢山の人に遊んで欲しいというのは今までもありましたが、その気持ちはどんどん強くなってきてますね。


■最後に

―――では最後にDEVELOPER'S TALK恒例の質問なのですが、まだゲームをプレイされてないユーザさんと、同じ業界にいる同業者の方に、一言ずつコメントをいただけないでしょうか? まずはユーザさんにお願いします。

大森: まずはとにかく手に取ってもらって、この世界観を存分に楽しんで欲しいですね。他のゲームにはない、類を見ない世界観だと思いますので、どっぷり浸って欲しいというのが一番です。

酒田: ちょっとでも興味が沸いたら、とりあえず触ってみてください。体験版もリリースしていますので、気になればぜひ製品版もよろしくお願いします。

山口: 一見、好き嫌いが分かれてしまうゲームかもしれません。僕はこのゲーム、凄く元気の出るゲームだと思っていて、お馬鹿なノリもあり、下らないシーンもあり、でも滅茶苦茶カッコいいスーパーヒロインのベヨネッタが華麗に舞う姿には元気を貰えます。ぜひ多くの方に遊んでいただきたいと思います。

神谷: この記事を読んでいる方は、ある程度開発者に対しても興味があるのかなと思いますので、僕たちが今まで作ってきたものや、このインタビューで言っている事を見て、ゲーム選びの足しにしてもらえればと思います。

橋本: 見た目はちょっと敷居が高くて難しそうなアクションゲームに感じられるかもしれませんが、ワンボタンで華麗な技が繰り出せる初心者大歓迎の「イージー・オートマチックモード」、通称「おかんモード(ディレクター曰く、自分の母親でもプレイ可能!をコンセプトに制作したモード)」もありますので、インタビューを見て少しでも興味を持たれた方はぜひ手にとってチャレンジしてみてください。

―――では最後に、他のゲーム開発者さんに一言をお願いします

大森: 僕はプログラマーで技術寄りの人間なので、システムや効率化という言葉をよく言いますし、周りからも聞きます。でも結局ゲームで一番重要なのは、情熱とかこだわりとか、意外に職人的なモチベーションだと思うんです。安易に効率化みたいなものに走るよりは、一回死ぬまで本気でモノ作りに取り組めば、また開けてくるものもあるんじゃないかと思います。

酒田: 難しいですね・・・。あ、いまスタッフの募集もやっていますので、ぜひ一緒に面白いゲームを作りましょう(笑)

山口: 大阪で面白い事やってますので、チェキラ☆してみて下さい。

チェキラ☆


―――(一同笑)

神谷: それぞれの会社で色々都合があるとは思います。でも、たまには遊び心から生まれるゲーム作りもして欲しいと思います。ユーザのためにナンバリングタイトルも大事ですが、それ以外のこともやって欲しい。同じ事の繰り返しでは縮小再生産です。業界の発展のためにもなりません。ちょっと化学変化を起こすような新しいチャレンジがもっと色々な方向から起きることを期待しています。僕らも頑張ります。

橋本: 『ベヨネッタ』というタイトルは、我々の遊び心と持ちうる技術の集大成とも言えるタイトルです。国産と海外産のゲームの格差が言われる昨今ですが、僕らももっと良いタイトルをどんどん作って、皆さんと一緒にゲーム業界全体を盛り上げていければと思います。

―――本日は長時間にわたりありがとうございました!

プラチナゲームズ本社にて


(C)SEGA

株式会社CRI・ミドルウェア
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《土本学》

メディア大好き人間です 土本学

1984年5月、山口県生まれ。幼稚園からプログラムを書きはじめ、楽しさに没頭。フリーソフトを何本か制作。その後、インターネットにどっぷりハマり、幾つかのサイトを立ち上げる。高校時代に立ち上げたゲーム情報サイト「インサイド」を株式会社IRIコマース&テクノロジー(現イード)に売却し、入社する。ゲームやアニメ等のメディア運営、クロスワードアプリ開発、サイト立ち上げ、サイト買収等に携わり、現在はメディア事業の統括。

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