3つの『スコット・ピルグリム』、そして広がるゲーム音楽の輪
――ゲーム、Netflixのアニメシリーズ、そして最新作『Scott Pilgrim EX』と、15年以上にわたって3つの異なるScott Pilgrim関連作品の音楽を手がけてきました。作品ごとに、この世界へのアプローチはどう変化しましたか?
PeterLuke、Ary、そして僕は全員ソングライターだから、どのプロジェクトでもまず「どの曲を誰が中心になって手がけるか」を割り振るところから始まるんだ。バンドだからこそ、お互いに作曲やプロダクションを任せられる信頼関係があるのは本当に大きなアドバンテージだよ。でも、この3つのプロジェクトへの向き合い方はそれぞれまったく違うものだった。
『Scott Pilgrim vs. the World』のときは、僕が大学を中退して、作曲とプロダクションに全力を注ぐことになった。エンジニアのNathan Ritholzと一緒に、彼がAryやLukeと住んでいたブルックリンのアパートの地下室で、全曲をレコーディングしたんだ。

Jamesがインターンをしていたマンハッタンのマスタリングスタジオ、Sterling Sound【※】で、夜通しのセッションを重ねてミックスを仕上げた。ゲーム自体は一度中止になって、半分の予算で再始動することになったから、僕らはすべてを懸けて取り組んだ。
※Sterling Sound 1968年創業。1968年にニューヨークで創業した、アメリカを代表するマスタリング・スタジオ。レッド・ツェッペリンやボブ・ディラン、フリートウッド・マック、コールドプレイ、アデルなど、世代やジャンルを問わず数多くの著名アーティストの作品を手がけてきた。

全トラックはNESかゲームボーイと自分たちの楽器だけで作られている。ゲームという形式のおかげで、他では絶対に書かなかったであろう曲をたくさん書く機会に恵まれたよ。まるでオペラの作曲を依頼されたみたいな感覚だった。
ストーリーがあったからこそ、ボスバトル用の曲を書く理由ができたわけで、それがなかったらそんな曲は絶対に書かなかっただろうね。すごく近くで監修されていたわけじゃなかったけど、ゲーム自体の構造や、ユービーアイソフトのSimon LandryとDavid Laroseからもらったガイダンスのおかげで、ちゃんと良い手の中にいる感覚はあった。もう、カオスだったよ!
「スコット・ピルグリム テイクス・オフ(Scott Pilgrim Takes Off)」(Netflixアニメ版)は、まったく違う経験だった。関わる人がずっと多かったんだ。監督のアベル・ゴンゴラ(サイエンスSARU【※】所属)、脚本のBendavid GrabinskiとBryan Lee O'Malley(原作者)と直接やり取りしただけじゃなく、作曲面での本格的なコラボレーターとして、Joseph Trapaneseという作曲家とも組むことになったんだ。
※サイエンスSARU アニメーション監督である湯浅政明らが設立した日本のアニメーションスタジオ。「映像研には手を出すな!」「ダンダダン」「夜明け告げるルーのうた」などの作品で知られる。
Joeは、映画/TVの世界の外から来たアーティストと数多くスコアのコラボレーションをしてきた人でね。ダフト・パンクと一緒に「トロン:レガシー」のサウンドトラックを手がけたり、M83と一緒に「オブリビオン」を手がけたりしていた。

本当に素晴らしい経験で、ものすごくたくさんのことを学んだよ。僕らはずっと何かの「スコア」を手がけてみたいと思っていたから、そういう制約があることがすごく嬉しかったし、番組を作っているチームが思い描くストーリーや瞬間に音楽として奉仕できることが嬉しかった。こういう仕事をもっとたくさんやっていきたいと思っているよ。

AryとBendavid Grabinski監督のヴィンス・ヴォーン/ジェームズ・マースデン主演映画「マイク&ニック&ニック&アリス」のために楽曲を1曲書いたし、Lukeは新しい「ストリートファイター」の映画で、プロダクションとスコアの一部を手がけたばかりなんだ!
ここ1年の『Scott Pilgrim EX』は、何よりもプロジェクトの規模感が一番手強かったと思う。このゲームは『ダウンタウン熱血物語(River City Ransom)』のようなオープンワールド形式で、他のベルトスクロールアクションみたいに「ステージ」があるわけじゃない。だから「7ステージ、7体のボス」じゃなくて、まったく違う単位で考える必要があった。

代わりに、Bryan Lee O'Malleyが考えた「3種類の超自然的な敵(デーモン、ヴィーガン、ロボット)」という枠組みが、曲作りの指針になったんだ。結果的に、すごく『時のオカリナ』に近い感覚になった——バンドの楽器が世界のさまざまなエリアを開いていくサブプロットがある、という意味でね。
それから、楽曲「United By Fate」の舞台設定では、『MOTHER』の「エイト・メロディーズ」への大きなオマージュもある。この頃には、「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」のときと同じように純粋なチップチューン以外のプロダクション手法もたくさん音楽に取り入れていたから、ロボット、ヴィーガン、デーモンという各モードを表現するために幅広いスタイルを使い分けているんだ。
あと、トロントの自然な舞台設定のために使った、僕らが一番「ニュートラル」な状態のときの音もあるよ。

――これら3作品の中で、特に思い入れのある楽曲やシーンはありますか?
Peter2つ思い浮かぶね。1つは「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」で、ナイブス・チャウとキム・パインがリビングで一緒に演奏するシーン。シンプルな音とシンプルなビートだけで、ひとつの空気が生まれる。僕らはああいうふうに音楽を作りながら育ってきたから、あの感覚を一瞬で理解できたし、すごくノスタルジックな気持ちになった。
2024年にアニメが公開されて、あのシーンへの反応を見たとき、僕にとってはすごく馴染みのある経験——目的もなく、ただ部屋に集まって楽器を演奏すること——が、インターネット中心に育った今の子供たちにとっては、もしかしたら異質なものなのかもしれないと、ふと気づいたんだ。

もう1つ思い浮かぶのは、「United By Fate」という曲だね。この曲は、僕にとって「スコット・ピルグリム」という作品の音楽性を、すごく身近に感じさせてくれるんだ。『Scott Pilgrim vs. the World』のために作った音楽は、たくさんのゲーム音楽や、たくさんのエモバンドからインスピレーションを受けたものだった。
それから何年も経って、トビー・フォックス【※】が、『UNDERTALE』の「Hopes & Dreams」という曲が僕らの音楽、特に僕らのサントラのいくつかのアレンジからインスピレーションを受けたものだと書いてくれたんだ。
※トビー・フォックス(Toby Fox) アメリカのゲームクリエイター・作曲家。『UNDERTALE』『DELTARUNE』の開発者として知られる。
『UNDERTALE』をプレイしたとき、僕はかなり深く心を動かされたから、彼に何か恩返しをしたいと思った。「United By Fate」はトビー・フォックス、Hip Tanaka【※】、そしてRival Schools【※】というバンドへの言及を同時に含みながら、ゲーム全体を通して何度も流れる、すごくシンプルな曲なんだ。
※Hip Tanaka Chip Tanaka、田中宏和。任天堂で『スーパーマリオブラザーズ』『メトロイド』などの初期作品の音楽を手がけた作曲家。Anamanaguchiの来日公演に出演予定。
※Rival Schools アメリカ・ニューヨーク出身のポストハードコア/オルタナティブロックバンド。バンド名はカプコンの格闘ゲーム『ジャスティス学園(Rival Schools: United by Fate)』に由来する。

Machine Girl、Maxo、Lucy Bedroque――注目するゲーム音楽の作り手たち
――以前からバンドがゲーム音楽を手がけることはありましたが、近年は特に増えてきました。ゲーム音楽を手がけているバンドやアーティストの中で、注目している人はいますか?また、最近プレイしたゲームの中で、サウンドトラックが特に気に入っているものがあれば教えてください。
PeterMachine Girl【※】の『Neon White』のスコアは、史上最高の作品のひとつだと思う。もちろん、ゲーム自体もすごく出来がいい。
※Machine Girl アメリカ・ニューヨーク、ロングアイランド出身のエレクトロニック・ミュージック・プロジェクト。Matt Stephensonを中心に2012年始動。ブレイクコア/ドラムンベース的な激しいサウンドで知られ、2022年にはインディーゲーム『Neon White』の音楽を全編手がけている。2025年にはMELT-BANANAをゲストに迎え来日公演を行った。

あとMaxo【※】も、アメリカにいる信じられないほどの才能として思い浮かぶね。最近だと、deadAirのアーティストLucy Bedroque【※】が、新作アルバム『C』に合わせて、サバイバルホラーをテーマにしたブラウザゲーム『Paradise Chateau』をリリースしたんだけど、あれはすごくかっこよかった。
※Maxo 本名Max Coburn。ニューヨーク出身の音楽家/サウンドデザイナー。ジャズからデジタル・フュージョン、各種ダンスミュージックまで横断する作風で知られ、インディーゲーム『Celeste』『Spin Rhythm XD』や、Netflixのインタラクティブシリーズ「Battle Kitty」の音楽も手がけている。
※Lucy Bedroque アメリカのラッパー/プロデューサー。レイジやdigicoreを基調にしたサウンドで知られ、2025年のミックステープ『Unmusique』に続き、2026年にアルバム『C』をリリースした。

ああいうふうに自分の表現に大胆な選択をする人たちを見るのは、本当に嬉しいよ。もっとたくさんの人がインタラクティブな形でそういうビジョンを形にしていってほしいと思ってる。僕らがビデオゲームというメディアを愛しているのは、見ての通りだよね!
新曲「Yeah I Guess」に込めた自由意志とテクノロジー論
――新曲「Yeah I Guess」は、どんなサウンドとテーマを持った曲ですか?
Peterこの曲は、プログラムされた環境の中での自由意志についての曲なんだ。BEMANI【※】的な要素も少し入っているし、ベッドルームポップ的なプロダクション、ちょっとしたポップパンクやハードコアの要素もある。
※BEMANI コナミが展開する音楽ゲームシリーズのブランド名(『beatmania』『Dance Dance Revolution』など)。独特のシンセサウンドやダンスミュージック的なプロダクションで知られる。
声がオーディオのパケットロスや信号劣化で歪みながら、跳ね回って叫ぶっていう、あの身体的な感覚は、歪んだギターのオクターブと大きなスーパーソーを組み合わせるのと同じくらい、僕にとってはワクワクするものなんだ。すごく怖い問いを含みながらも、前向きな姿勢を持った曲だよ。
――パンクとデジタルを両立させるうえで、特にこだわった点は何ですか?
Peter僕のこだわりは、いつも「違う種類の歪みをどうブレンドするか」なんだ。ギターのトーンノブにはいつも気を配っているし、ピックアップの選び方もすごく慎重にやっている。
ドラムに関しては、Dave Fridmann【※】が捉えた派手な部屋鳴りのサウンドと、BEMANI/ベッドルームプロダクション的な「部屋鳴りのない」サンプルサウンドのバランスを取ることがポイントだった。
※Dave Fridmann アメリカのレコードプロデューサー・エンジニア。自身のスタジオTarbox Road StudiosはAnamanaguchiが『Anyway』を録音した場所でもある。The Flaming Lips、Mercury Rev、MGMT、Weezer、Mogwaiなど数多くのアーティストを手がける。
ベースはサチュレーションをかけて、サブベースもたっぷり使ってやりすぎなくらいにした。ボーカルはただビットクラッシュされているだけじゃなくて、部分的にはクリアに部分的には別のデジタルな方法で歪ませている。初めて「サイバーパンク」という言葉を目にしたときに思い描いていたイメージって、たぶんこういう感じだったんじゃないかな(笑)。
――この曲はジーン・ウルフの『新しい太陽の書』に着想を得たそうですが、この小説のどんな部分が曲につながったのですか?
Peterあのシリーズは「100万年後の未来」が舞台で、人類のテクノロジーはすべて存在しているのに、その本来の目的は忘れ去られている、という世界観なんだ。
結局、僕らが自分たちの人生を形作っている力を理解できなくなるのに、100万年も待つ必要はないんだよね(笑)。だからこそ、問いが生まれる——結果があらかじめ予測され、織り込み済みになっている世界で、その結果を生み出した人間的な装置そのものはもう失われているとき、自由意志のようなものがどうやって成立し得るのか?
僕らはそれでも人間でいられるのか? Yeah I guess :)

――この曲はゲームボーイで書いたメロディから始まったそうですが、どのようにパンクの曲へと変化していきましたか?
PeterLukeはいつも、ちょっとしたアイデアをプログラムしているんだ。この曲のメロディもかなり完成された形で持ってきた。でも、ちょうどDave Fridmannとレコーディングしていたときで、帰る前に数時間空き時間があった。彼が「何か録ってみようか」って言ってくれて、2テイク録ったらバッキングなしの大音量でノイジーなパンクデモができあがったんだ。
それから、その2つの要素(ゲームボーイのメロディとパンクデモ)を組み合わせ始めたとき、すべてがぶつかり合って、補い合って、ちょっとお互いを壊し合うようなその感じに、僕はすごく興奮したんだよ。
――あなたたちにとって、バンドとテクノロジーはどんな関係にありますか?
Peterアメリカでも他の場所でも、テクノロジーをめぐる哲学の多くは、「より大きな力で何ができるか」ということばかり考えている。僕らはそういうふうに感じたことは一度もなくて、むしろちょっと面白いと思ってる(悲しいことでもあるけど)。
ただ「できるから」という理由だけで、物事をより速く、より効率的に、より小さく洗練することが、産業の一種の法則になっているように見えるし、それはいろんな意味で世に広く押し出される商業的なアートのあり方にもなっている。
僕らがずっと興味を持ってきたのは、それとは違う種類の「熟達」なんだ。すでに自分が持っているものを、本当に理解すること。2004年、それは僕らの古いファミコンだった。2016年には、ラップトップとボイスサンプルになった。2025年、『Anyway』では、不思議なことに僕らのロックの楽器と自分たち自身の声になった。
今のAnamanaguchiにとっては、それらすべてを一種の「エコロジー(生態系)」としてオーケストレーションすること——曲が求めるどんな感情、ムード、質感にも合わせられるだけの、道具に対する熟達を持つこと——がテーマになってきているんだ。

ゲームとオルタナロックが交差するシーンで、Anamanaguchiが見つめる未来
――近年は、cybergrind【※】や5th wave emo【※】など、ゲームやアニメを参照するインディーシーンが盛り上がっています。その中で、自分たちの立ち位置をどう捉えていますか?
※cybergrind(サイバーグラインド) 元はグラインドコアに打ち込みの高速ドラム、シンセなど電子音楽の要素を取り入れたスタイルのこと。2000年代にはGenghis TronやGigantic Brain、The Berzerkerらが知られる。2020年あたりからは、Thotcrime、ZOMBIESHARK!、DEATHTRIPPAのようにエモ、スクリーモ、ハイパーポップやインターネットカルチャーの感覚を持ち込んだ世代が注目を集めている。KotsやS.M.E.S.、Libido Airbagといったエレクトロ要素を取り入れたゴアグラインドもこのジャンルの重要バンドとしてくくられることもある。
※5th wave emo エモを世代(wave)で区切る見方のうち、2010年代後半以降に登場した世代を指す言葉。一般的に第1波が80年代のエモコア、第2波が90年代のミッドウェスト・エモ、第3波が2000年代初頭のエモ・ポップ、第4波が2000年代後半~2010年代前半のエモ・リバイバルとされる。5th waveはリバイバルを受け継ぎつつ、ベッドルームポップ、チップチューン、シューゲイザー、ジャズ、ハイパーポップなどを取り込んだ、越境的な作風が特徴で音楽的な特徴はバラバラ。インターネットを通じて育った世代が中心で、ゲームやアニメへの参照が目立つバンドも多い。
Peter僕らは本当に最高だと思ってるよ。Lukeはガンダムをテーマにしたskramz【※】バンド…and its name was epyonでも演奏しているんだ。LukeはAnamanaguchiの一員であることを前面に出さないから、どちらかのバンドのファンが、2つのバンドのつながりに気づいていないことも普通にある。僕らはああいう世界にすごく居心地の良さを感じているし、Anamanaguchiの次の展開でも、自然なクロスオーバーが起きるんじゃないかと思ってるよ。
※skramz エモやハードコアから発展した音楽ジャンルであるスクリーモの別名。日本では激情ハードコアと呼ばれることもある。
こういうシーンの中での僕ら自身の立ち位置について語るなら、ポーター・ロビンソン【※】のことに触れずにはいられない。彼は、日本のゲームとエレクトロニックミュージックの間にある深いつながりを、世界中で、特にアメリカでずっと鮮明で生き生きとしたものにしてくれた存在だからね。
僕らは彼の曲「Sad Machine」「Get Your Wish」のリミックスをやったり、「Air On Line」のようなコラボレーションもしたりしてきたけど、あれは、自分たちにとってそれがどんな形になり得るのかを探る、ひとつの試みだったと思う。
※ポーター・ロビンソン(Porter Robinson) アメリカのDJ/音楽プロデューサー。2014年のアルバム『Worlds』は、幼少期に親しんだ日本のゲーム音楽やアニメへのノスタルジアを基調に作られた作品で、EDM以降のシーンに大きな影響を与えた代表作とされる。2016年にはマデオン(Madeon)とのコラボレーション曲「Shelter」を、日本のアニメ制作会社A-1 Picturesとクランチロール(Crunchyroll)との共同制作で短編アニメーション化した。
「Yeah I Guess」にも、間違いなくそのあたりからの影響が大きく出ているよ。でも、そこから育ってきた自然なコミュニティもあって、ゲームと音楽、その両方の深さがちゃんと見えるような形でユニークな形に統合したいという思いもある。今は、プログラミングであれ、プロダクションであれ、パフォーマンスであれ、あらゆる場所で「圧倒的な腕前」が見られるのが、より当たり前になってきてると思う——それも、わくわくするような形で抑制の効いた熟練度としてね。
――昨年(2025年)9月のシカゴ公演では、CocojoeyやThotcrimeといったcybergrind系のバンドと共演しました。どちらもゲームやインターネットカルチャーの美学と、激しいデジタルサウンドが交差するアーティストです。ステージから見て、どんな印象を持ちましたか?親近感を覚える部分はありましたか?
Peter100パーセント親近感を覚えるね。活動を始めた最初の頃から、僕らはずっと対バンのラインナップにできる限り口を出したいと思ってきたんだ。たとえば、東京公演ではChip Tanakaに出演してもらうくらいだからね(笑)。
Thotcrimeのことは、アーバナ(イリノイ州)で『Anyway』を書いていた頃からの知り合いなんだ。滞在最終日にMelody(Thotcrimeのギター)が来てくれて、アルバムのリリースに合わせたライブ配信をやったときに、マイクスタンドを貸してくれたこともあったよ。彼らがやっていることが、僕らは大好きなんだ。
Cocojoeyは、The Metroにいた全員(僕らも含めて)を圧倒したよ。ドラムにはTrust Fund Ozu【※】を迎えて演奏していた。コード、リズム、メロディが、ものすごく力強くて複雑なのに、自然な流れも持っている。Cocojoeyが自分たちのコード進行を『ダークソウル』のショートカットに例えていたのをよく思い出すんだけど、僕らも同じような感覚で捉えているんだ。
※Trust Fund Ozu Faye Fademによるソロプロジェクト。プログレッシブロックバンドThank You Scientistのドラマーとしても知られ、ハイパーポップ的な作風とテクニカルな生ドラムを組み合わせたサウンドが特徴。
――5th wave emoの周辺には、ゲームやアニメを参照するインディーオルタナのバンドが多くいます。中には、影響源として過去のエモバンドよりもゲーム音楽を挙げる人もいるようです。若い世代のバンドを聴いていて、そうした傾向を実感することはありますか?
Peter本当にその通り。hey ily、No problemo!、あとOvlovも含めていいと思うけど、彼らの音楽性は、アメリカのラジオ、それもオルタナティブ系のラジオですら、これまであまり触れられてこなかったものだった。ビデオゲーム音楽は、今の世代の多くにとって、ジャズ的な感性への「次元の扉」を開くものだったんだ。その感性は、何十年ものあいだ、あらゆる種類の日本のポップミュージックの中には当たり前に存在していたものなんだけどね。
こういう感性は、かつては1960年代・70年代のアメリカ音楽の中にもすごく当たり前にあったものだった。でも僕が見る限り、そういう要素は徐々に、できるだけ多くの人にウケようとする「口当たりの良い」商業的なスタイルの中に薄まっていって、結果としてこの国の商業音楽の多くはどこかよどんだものになってしまったんだと思う。
でも今、2020年代の今は、ハイパーポップの中にすら、ヒップホップのプロダクションを通じて生き延びてきた、ゴスペルやソウルのコード進行に影響を受けた人たちがたくさんいるのが見える。そしてファンク、ソウル、ヒップホップの中にも、日本発のビデオゲーム音楽への、あの自然な親和性が見て取れるんだ。

――このようなシーンのバンドで、日本の読者にチェックしてほしい人はいますか?
Peterたくさんいるよ!もう一度名前を挙げるけど、Machine Girl、Cocojoey、Thotcrime、そしてTrust Fund Ozu。Fire-Toolz【※】の今年の春のアルバム『Lavender Networks』も完璧だね。
※Fire-Toolz シカゴを拠点とするAngel Marcloidによるソロプロジェクト。2015年に始動し、ブラックメタルやグラインドコア、サイバーグラインド、インダストリアルから、ニューエイジ、スムースジャズ、ヴェイパーウェイヴまでを一曲の中でつなぎ合わせるサウンドで知られる。ミキシング/マスタリング・エンジニアとしても活動しており、Trust Fund Ozuの作品も手がけている。2026年にWarp Recordsと契約し、第1弾として『Lavender Networks』を5月にリリースした。

Cybergrindじゃないけど、同じシカゴ公演で演奏していたFull Body 2も、穏やかで癒やされるような形でありながらデジタル的な激しさとビデオゲームミュージック的な雰囲気を併せ持った、圧倒的なパフォーマンスだったよ。
あと、その周辺にいる若手・新人アーティストでワクワクしているのは、Sueter7、Jamie Penn(Shoplifting名義)、Akriila、Drook、Saoirse Dreamだね。
――こうした若い世代のバンドが活躍する中で、Anamanaguchi自身は今後どのように進化していきたいですか?
Peter『Anyway』は、自分たちであえて制限を課しながら書いた作品だったんだ。American Football house【※】で一緒に書いた曲は他にもたくさんあって、もっとシンコペーションの効いたジャジーな雰囲気のものもあったんだけど、アルバムには入れないことに決めた。その代わりに、友達にギターやドラムで「ここをこうやって弾いてる」って見せるだけで教えられるような曲にしたかったんだ。


※American Football House アメリカ・イリノイ州アーバナにある一軒家。1999年、ミッドウェスト・エモバンドAmerican Footballの1stアルバム『American Football』のジャケット写真の舞台として知られるようになり、以来エモシーンの"聖地"として多くのファンが訪れる場所になっている。2023年にはAmerican Football本人たちが、所属レーベルPolyvinyl Recordsらと共同でこの家を買い取った。Anamanaguchiとこの家との縁は2020年、コロナ禍のMinecraft内バーチャルライブでAmerican Footballと共演したことに遡り、2024年にはこの家に滞在しながらアルバム『Anyway』を制作。ジャケットにもこの家が使われている。

これから僕らがやることは、いろんな方向にすごく振り切ったものになると思う。すごくワクワクしているよ。「Yeah I Guess」は、ある意味、その橋渡しのような曲なんだ。まだあの「シンプルさ」は残っているけど、同時に、いろんな楽しい形で音がぶっ壊れてもいる。これからはぶっ壊れていて、なおかつ複雑なものを作っていきたいと思ってるよ。楽しみな未来になりそうだね。








