ビデオゲームの世界でも生物多様性の実現を!オンライン公開中の「3Dデジタル生物標本」の多様な展開について紹介【CEDEC 2023】 | GameBusiness.jp

ビデオゲームの世界でも生物多様性の実現を!オンライン公開中の「3Dデジタル生物標本」の多様な展開について紹介【CEDEC 2023】

オンラインの3Dデジタル生物標本が、どのようにゲームなどの他業界に役立っていくのかが、実際の研究員を務める鹿野氏より解説されました。

ゲーム開発 3DCG
ビデオゲームの世界でも生物多様性の実現を!オンライン公開中の「3Dデジタル生物標本」の多様な展開について紹介【CEDEC 2023】
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ビデオゲームがリアルな世界を構築するようになってかなり長い時間が経過しており、ゲームの世界で息づく生物や植物もまた、現実的に描写されています。たとえば『レッド・デッド・リデンプション2』ではオープンワールドのアメリカ西部を高いリアリティで描くうえで、多様な生物たちが息づく世界を実現しています。これもプレイヤーがゲームプレイする世界を、より生々しいものとして感じるためにそこまで作りこんでいるわけです。

このようにビデオゲームの世界をより生きたものとして描写するためにも、いまリアルな生物の情報の需要は高まっているのです。CEDEC 2023の講演「3Dデジタル生物標本:ゲームに生物多様性のリアリティを!」では、一般社団法人九州オープンユニバーシティにて研究員を務める鹿野雄一氏が登壇。鹿野氏は「ゲームの世界とは縁遠かった」と前置きしつつ、Sketchfabにてオンラインで公開している3Dデジタル生物標本が、ビデオゲームをはじめさまざま分野に活用できることなどが語られました。

そもそも生物多様性とは何か?

まず鹿野氏は「そもそもの生物多様性それ自体が美しいものである」ということから講演をスタートしました。これまでモンスーンアジア地域を中心に、陸水生態系とその多様性の研究を進めてきた経験から、その根拠を語っていきました。

まず鹿野氏は「そもそもの多様性とはなにか」について説明します。鹿野氏は「多様性とは個々の唯一無二な、他とは本質的に異なる要素を持つ固有性と切り離せないもの。こうした固有性の集合体こそが、多様性の実態」だと述べています。

「そうした固有性からなる多様性がなければ、世界のあらゆるシステムが成立しない」と鹿野氏は続けます。かなり単純な例を上げても、たとえば原子が水素だけの存在で世界は成立しておらず、人間の身体の器官は肺だけでできてはいないわけです。

鹿野氏によれば、生物多様性にはふたつの概念があるといいます。ひとつは「アルファ多様性」。これは絶対的に数多くの種が存在することを指しています。ふたつめは「ベータ多様性」です。こちらは相対的に他とは異なる種が存在するということだと言います。

ただベータ多様性については直感的に理解しにくい部分があるのは確かで、鹿野氏はわかりやすく説明する図を用意していました。多様性の高さという言葉からイメージしやすいのは、上記スライドにおける地域Aのようなカラフルな図です。

しかし鹿野氏によれば、真に多様性が高い状態とは地域ごとに種が偏っているものだといいます。地域Bでは2種しかなく、地域Cに至っては1種しか存在しない。これらの地域は多様性が無いように見えますが、他地域と相対的に見ることで多様な環境が実現していると言えるのです。これがベータ多様性とのことです。

こうした生物多様性をなぜ守らなくてはならないのでしょうか? 鹿野氏はその理由として「生態系サービス」と呼ばれる概念を説明します。これは生態系の多様さによって、食料の供給や酸素の形成、そして自然景観や観光が可能であることを指しています。

ただ、それらはサービス的な価値であるため即物的であり、鹿野氏は「生物多様性はそれ自体に内在的価値がある」と認識しているとのことです。そうした生物多様性は非常に面白く、エンターテインメントとの親和性が高いと鹿野氏は指摘しており、以降の3Dデジタル標本制作などに繋がっていったと言います。

3Dデジタル生物標本制作のきっかけ

さて、鹿野氏が実際にデジタル標本を手掛けるようになったのは「タイワンコオイムシ」を発見したことがきっかけといいます。この虫は国内で絶滅したと見られており、56年ぶりに鹿野氏が見つけたことが大きなニュースとなりました。

そこで珍しい生物を発見したとき、ふつうは標本にして博物館に寄贈することが通例になっているとのこと。しかし鹿野氏はそのまま寄贈するのはもったいないと思い、「CTスキャンにかけて、デジタル化しよう」と考えたのです。

ところが普段使用していたCTスキャンが故障しており、代案としてフォトグラメトリを採用することに。フォトグラメトリとは被写体を全方位から撮影した写真から3DCGモデルを起こすという技術です。鹿野氏はフォトグラメトリ専用ソフトの3DF Zephyrを使用し、本格的に3D標本化を進めていきました。

鹿野氏はこの技術で早速タイワンコオイムシを3DCG化します。そのモデルをSketchfabにアップし、科学論文をアップしたページのURL付きで発表していきました。

その後も鹿野氏は魚やカエルなど様々な標本の3D化に挑戦します。しかし、柔らかい標本は台の上に載せて撮影するしかなく、どうしても地面や台も3Dの一部になってしまうという壁にぶつかっていました。鹿野氏はなんとか綺麗な3Dモデルを作れないか考える内に、趣味の釣りからあるヒントを見つけ出します。それが標本を意図で吊るし、くるくると回しながら撮影するという手法でした。

この手法は見事に上手くいきました。鹿野氏は次々と生物標本を3D化します。それだけではなく、植物の3D化も手掛けていきます。こうした経験を元に、鹿野氏はフォトグラメトリのコツとして「背景を黒にして、できるだけ奥行きを取ること」や「死角のないように、さまざまな角度から撮影」などなどを挙げました。

このあたりは他のフォトグラメトリのレクチャーでも共通しているのですが、3D標本ならではのコツとして「2、3分のできるだけ短い時間で、500枚ほどのできるだけ多くの写真を撮ること」が興味深いものでした。実は標本は時間が経つと形が動いてしまうため、「10分も経つと、湿度などの影響で1ミリくらい動いてしまう」と鹿野氏は指摘します。そのため早い撮影が必要になるとのことです。

鹿野氏が撮影してお気に入りの標本も紹介されました。なかでもカブトムシの標本はかなりリアルに上手く撮影できたそう。足の毛が生えている様子などがよく映っているのがモデルからわかります。

特に3Dモデル用の撮影が難しかったという標本も紹介。いずれも、薄い部位を持つ生物や、細い部位を持つ生物たちです。

トクビレ ハッカクという魚はヒレが薄かったため、撮影が難しかったとのこと。またミナミテナガエビのような、細いひげを持つ甲殻類も3Dモデルに表現するのが苦労したといいます。特に苦労したのはテナガダコだと鹿野氏は語ります。非常に柔らかく、さらに細い足を持つ標本のため、綺麗な3Dモデルにするための撮影はとても大変だったそうです。

その他の3D標本化の課題として、さまざまな表現の難しさがあったといいます。難しい部分にはギンヤンマの目や、サザエの貝の内側のように滑らかな質感をを再現することも難しかったそうです。

また、半透明の部位の再現も難航するポイントに挙げられました。魚のヒレのような半透明の部位は、3Dモデルではグレーで再現されてしまう問題もでてきたそう。Sketchfabにアップするときは。背景を黒くすることでなんとか半透明に見せるといった処置を取っています。鹿野氏は3DCG制作の専門ではないものの、こうした生物や植物に特化したフォトグラメトリの制作に関しては、ゲーム業界側にもさまざまなヒントがあると言えるでしょう。

3Dデジタル標本の意義

こうして鹿野氏は1000体以上の標本を3Dモデルにしてアーカイブ化し、科学論文として発表を続けました。


《葛西 祝》

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