明和電機の新感覚楽器「オタマトーン」の呪術性は、アメリカ先住民の「魚を殴る棒」から学んだ!?【CEDEC 2023】 | GameBusiness.jp

明和電機の新感覚楽器「オタマトーン」の呪術性は、アメリカ先住民の「魚を殴る棒」から学んだ!?【CEDEC 2023】

メディアライターの特権のひとつ、それは「憧れていた人物に会えること」です。

その他 その他
明和電機の新感覚楽器「オタマトーン」の呪術性は、アメリカ先住民の「魚を殴る棒」から学んだ!?【CEDEC 2023】
  • 明和電機の新感覚楽器「オタマトーン」の呪術性は、アメリカ先住民の「魚を殴る棒」から学んだ!?【CEDEC 2023】
  • 明和電機の新感覚楽器「オタマトーン」の呪術性は、アメリカ先住民の「魚を殴る棒」から学んだ!?【CEDEC 2023】
  • 明和電機の新感覚楽器「オタマトーン」の呪術性は、アメリカ先住民の「魚を殴る棒」から学んだ!?【CEDEC 2023】
  • 明和電機の新感覚楽器「オタマトーン」の呪術性は、アメリカ先住民の「魚を殴る棒」から学んだ!?【CEDEC 2023】
  • 明和電機の新感覚楽器「オタマトーン」の呪術性は、アメリカ先住民の「魚を殴る棒」から学んだ!?【CEDEC 2023】

メディアライターの特権のひとつ、それは「憧れていた人物に会えること」です。

CEDEC2023に明和電機の土佐信道氏が登壇すると知った時、筆者は興奮しました。小学生の頃、「地球のプレゼント」を聴いた時はその創造性豊かなサウンドに驚いたものです。「こんな音楽があるのか!?」と……。当時の日本はいよいよ先の見えない不景気に突入し、しかも阪神淡路大震災やオウム真理教のテロリズムが大きな影を落としていました。大人たちが気丈を装いつつも明らかに動揺している中、明和電機の曲は「新しいもの」を子どもたちにプレゼントしてくれたのです。

ただ、筆者より一回り年下の読者にとっての明和電機とは“オタマトーンの開発者”として有名かもしれません。今回の講演でも、オタマトーン制作に至るまでの道程を土佐氏自らが説明しました。

明和電機と「ニュー・ウェイヴ」

土佐氏の父は、かつて新明和工業の社員でした。この新明和工業という会社ですが、戦前は「川西航空機」という名で二式大艇(二式飛行艇)紫電改などの傑作機を開発しています。戦後も数々の飛行艇を作り、自衛隊に納入しています。

そんな会社から土佐氏の父は独立し、「明和電機」という会社を設立します。これは新明和工業の分社……というわけではまったくないようで、土佐氏曰く「勝手に名前を拝借した」そうな。一時期は100人ほどの従業員を抱えていた明和電機ですが、オイルショックのあおりを受けて倒産してしまいます。

一方、打楽器大好き少年だった土佐氏はロックの一大潮流であるニュー・ウェイヴの影響を受けます。この時代、電子計算機が電卓として小型化したのと同様にシンセサイザーも小さくなっていきます。ヤマハやローランドが手軽なサイズのシンセサイザーを次々に発売し、音楽に大革命をもたらしました。

「魚打棒(なうちぼう)」と呪術性

筑波大学に進学した土佐氏は、音楽と並行して電子工作に打ち込みます。卒業制作に選んだのが、何と「妊婦のロボット」。我々凡人にはいささか突飛な話ですが、とにかく土佐氏は「妊婦のロボット」を制作しました。

しかし、これが一時期のスランプを呼び込むきっかけとなってしまいます。

「私は生命を作りたかったのに、“生命のハリボテ”を作ってしまいました」

そのスランプを経て、大学院進学後に作ったのが「魚器(なき)シリーズ」。その第1弾は「魚打棒(なうちぼう)」という、魚を撲殺するための棒でした。

「大阪の民泊に行った時、“ネイティブアメリカンが魚を殴って殺すための棒”というものがありました。それには表面に魚の顔が描かれています。歯を剥き出しにした、非常におどろおどろしい顔です。これにはピーンと来ました。本来であれば、魚の顔を描く必要はありません。ですが、“命を締める”行為に対する弔いの意図があったのでしょう」

土佐氏はこの魚の顔を「呪術性」と形容しました。

「不安定」を楽しむ

さて、話はオタマトーンに戻ります。

オタマトーンには「顔」がついています。この顔は明和電機が2004年に制作した「チワワ笛」がきっかけになっていますが、製品に「呪術性」という概念がちゃんと存在することにも注目。「顔」があるからこそオタマトーンは大衆に広く受け入れられた、と言っても過言ではないはずです。

2003年制作の「SEAMOONS」は、人間の声帯や肺、唇を人工的に再現したロボットのような装置です。モーター駆動でフイゴに風を送ってゴム製の人工声帯を鳴らす仕組みですが、これはコントロールが難しくて音がズレてしまうということが多々起こってしまいます。

ですが、この不安定さを人間に当てはめればどうでしょうか? 音のズレとその修正をリアルタイムで繰り返すのはまさに「コブシ」や「ビブラート」そのもの。つまり、「不安定な音」は決して悪い要素ではないというわけです。

オタマトーンは、当初ギターのようなフレットが装着されていました。しかし、きっちり演奏するのではなく敢えて不安定さを加味するためにフレットを省きます。

オタマトーンは人生で最も大事なことを教えてくれる!

土佐氏の話を聞きながら、筆者は目をつぶってあることを思い出していました。それは、中学生の頃に散々お世話になったとあるジャズミュージシャンのAさんのことです。

一時期はAさんのボーヤ(バンドボーイ)になろうかと本気で考えていた筆者ですが、毎回のようにAさんの演奏を聞いているうちに「同じ曲、同じライブハウスでもAさんの気分次第で弾き方や曲調が大きく違う」ということに気がつきました。その理由は、本当に「気分次第」。Aさんに言わせれば「日毎に弾き方が違うのは当然だろ。野暮なことは聞くな」とのことでした。

この当時は冒頭に書いた通り日本は不景気の真っ只中で、上司の言うことを1mmのズレなくきっちりやらないとリストラされると言われていた時代。そんな中、己の気まぐれで毎回の曲調を変えてしまうという発想は決して良くは思われていませんでした。

ですが、人生はどうなるか分からないもの。「不安定」を拒まず、むしろ己の身体に装着する発想が魅力的な作品や製品を生み出し、また多くの人の心を掴んでいます。

可愛らしい顔のオタマトーンには、人生で最も大事な要素が詰まっています。

《澤田 真一@インサイド》

この記事の感想は?

  • いいね
  • 大好き
  • 驚いた
  • つまらない
  • かなしい
【注目の記事】[PR]

関連ニュース

特集

人気ニュースランキングや特集をお届け…メルマガ会員はこちら