eスポーツ領域への投資、その決め手は「熱量・若さ・知識」―「ABBALab」小笠原治氏インタビュー | GameBusiness.jp

eスポーツ領域への投資、その決め手は「熱量・若さ・知識」―「ABBALab」小笠原治氏インタビュー

eスポーツの大会運営やプロダクト開発を行う「RATEL」への出資を決めた理由や、投資の面から見るeスポーツ領域の可能性などを伺いました。

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eスポーツ領域への投資、その決め手は「熱量・若さ・知識」―「ABBALab」小笠原治氏インタビュー
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昨今、注目を浴びているeスポーツ業界。以前では考えられないほど認知度が上がり、様々な企業が参入を始めているこの業界には、投資家たちも大いに関心を寄せています。

今回e-Sports Business.jpでは、スタートアップ支援などを行う投資ファンド「ABBALab」の代表・小笠原治氏へインタビュー。高校生が起業し、eスポーツの大会運営やプロダクト開発を行う「RATEL」への出資を決めた理由や、投資の面から見るeスポーツ領域の可能性などを伺いました。

インタビュアー:森元行
執筆:e-Sports Business.jp編集部



――小笠原さんご自身のご経歴と、会社についての簡単なご紹介をしていただいてもよろしいですか。

小笠原:ネット業界ですと、六本木の「awabar」という立ち飲みバーでマスターを務めていますので、そちらのほうが有名かもしれません。六本木は、渋谷とはまた違った、ネット業界の縮図の一つでもあり、ネット業界で起業される方だったり、投資家の方が、お客様としては比較的多いですね。

特に、スタートアップをやってる人たちは、孤独な中働いている方もいまして、そういう人たちが来て、少し愚痴ったり、将来のことを話したりするような場所を開いています。一度TVで特集されたときは、客層が変わったこともありましたが(笑)。

この流れで、スタートアップ向けの投資ファンドをやらせていただいてまして、あまり他の方が投資しない領域に投資を行ってきました。

1号目のファンドは、いわゆるもの作りということで、まず事業会社として投資を始め、ファンドにしてという形で進めました。ちょうど3Dプリンターが話題になり、新しいもの作りというのに着目されつつも、実際に量産できるのか等の課題を含めて考えていきたく、ファンドを始めたんです。LPの中には「鴻海」や「双日」などに参加いただきましたね。

チャレンジブルな領域の、特にシードのタイミングで入るというのは、本当に誰もやらないんです、ファンドで入っていただいたLPは、お客様になるので、一緒に損してくださいというお願いは中々できません。

そして、2号目は、インターネットオールジャンルに関して「地方から東京」や「地方からグローバル」という面で投資をできたらと、ファンドを始めました。この中で今回の「eスポーツ」領域のお話をいただいき、「RATEL」への投資を行いました。

このときはかなり変わった投資でして、まだ「RATEL」自体高校生が集まって作っていた会社で、いわゆる未成年に出資するということになります。また、日本でのeスポーツ領域において、運営よりもその先を見たいというところも少なかったタイミングです。そういった意味では、面白い投資ができたとは思っています。

他は、京都芸術大学で自分のコースを持っておりまして、テクノロジーについて、いままでのデザイン思考だけではなくアート思考のように課題解決ではない形での問の持ち方などを、学生と議論しています。

――ありがとうございます。awabarをはじめ、DMMmakeAKIBAなど「誰かを応援する」「チャレンジする人を応援」するというマインドに至った根源はどこにあるのでしょう。

小笠原:いや、特にないですよ。根本的なところで言うと、今大学で教授をしていると言っても、私自身は高卒です。高校もスポーツで入りましたので、受験もほぼしたことがない。70年前後の生まれでいうと、いわゆる荒れてる時代です。

ですので、教科書を割ったようなこともなく、いわゆる「普通に学ぶ」ということをやってこないまま大人になり、大人になってから様々なことに興味・関心を持ち始めました。誰しも、いつ何を始めてもいいよねと思っているだけで、それが私はたまたまインターネット領域だったんです。それに関わる部分で、自分が何か役割を果たせたらいいなというくらいですね。

インターネットは産業の先端領域であり、単純にそこにプレイヤーが少ないので、誰が入ってもいい。その産業自体が伸びれば、自分も伸びるわけです。なので、新しい物好きとかミーハーと見えるかもしれないのですが、今だと例えばWeb3領域は絶対にやるべきだと思いますし、eスポーツなど、ここ10年の日本で伸びきらなかった領域は、新しいものと混ぜてやるべきだという感覚で見ています。

――私自身も、社内で「これからの人生で今が一番若い」という話をよくしますが、そういう感覚に近いのかなと思いながらお話を聞いていました。

小笠原:そうですね。オープンキャンパスに来る高校生に私は「君達はあと100年生きるんです」と言います。十数年、洗脳されたようなことにこだわったり、何かにチャレンジしたらやり遂げなければならない、次のことよりまず手元足元を固めろ。そういう考えで、100年生きたらつらいよと話をしています。

私たちも残り50年ぐらいあるかもしれませんが、そんな人生嫌ですよねという。あまり堅い話ではなく、もうちょっと肩の力を抜いて生きよう、ぐらいの話です(笑)。

――やりたいと思ったことはやった方がいいと思うし、手伝えることがあれば手伝う。そういうスタンスに近いイメージですかね。

小笠原:私がやりたいことをやりたいようにするために、その中でもしかしたら、あなたのためになるようなことをするかもしれない。という感じです。応援とか支援とか、偉そうな話じゃないんです。

――なるほど、ありがとうございます。その中で、eスポーツ分野への投資を決めたきっかけというのをもう少し掘り下げて伺ってもいいですか。

小笠原:まず、eスポーツそのものは私の世代として考えれば、興味持って当たり前というか。ゲームというのが、家庭やゲームセンターで生まれてきた流れの中にいた世代ですから、そういうのが好きである以上そこに興味を持つというのは割と自然なことだと思っています。

『バーチャファイター』など、対戦系が生まれてきたときに、ちょうど高校生・中学生ぐらいの世代ですから、ゲームセンターでの熱気などは肌感として覚えてます。また、海外を見たときにかなり大きな市場になっているというのは、この10年の中で十分知っていることですね。

しかし、私自身がそこまで、元々ゲームに投資をするということをしてこなかったので、eスポーツ領域への投資もあまり考えてはいませんでした。興味はありましたが、投資領域として見てなかったというのが正直なところです。

ですが、大学で私のコースを受けていた1期生の中に、eスポーツのプレイヤーが1人いました。彼は『コールオブデューティー』専門のプレイヤーだったのですが、eスポーツプレーヤーのセカンドライフというのをすごく意識していて、それもあって大学に来たと。それを聞いたときに、いわゆるリアルなスポーツと一緒だと感じましたし、(選手を)リタイアする時期がかなり早いという話も聞いていたので、セカンドライフどころじゃないな、という感覚があったんです。

ちょうどそのころに、私と家入一真さん(株式会社「Now」代表)が、「RATEL」の吉村さんとたまたま福岡でのイベントで出会っていて。では「Now」と「ABBALab」で半分ずつ投資しましょうという話になったんです。

eスポーツに興味が出たタイミングで、吉村さんに出会ったというのが、本当にポイントでした。彼自身の熱量が、私がこれまでに出会ってきたeスポーツの人たちよりも高かったという。シンプルに個別事象でした。

――興味を持ち始めてこれからリサーチする可能性がある手前で、運命的な出会いをされたということですね。もちろん、その場で即決したわけではないと思うのですが。

小笠原:いや、もうその場ででしたね(笑)。もし何かあれば(投資を)やめればいいだけなので。

――そんな小笠原さんを引き付けた「RATEL」ですが、どのような事業を行っているのでしょう。

小笠原:(投資を決めた)当時でいうと、プレイヤーの戦績を残していける大会の運営をし、そこにまつわるチームでのクリエイティブを受けていました。特に何か主力事業が決まっているわけではなく、eスポーツというものを10代という立ち位置から当たり前にしていく、そのために起業されていました。

――投資をするにあたって、熱量以外の判断材料は何かあったのでしょうか。

小笠原:熱量と若さ、そして知識ですね。

シンプルに、熱量が高い・低いなら、高いに越したことはない、知識もそうです。そして、若いというのは失敗ができる可能性があるということ≒時間があるということですね。

何に置いてもそうだと思いますが、新しい領域であればあればあるほど、主体者としては時間や可能性を持ってる人の方がいいという。

――ビジネス経験などは、あまり気にならないのでしょうか。

小笠原:逆に経験則で語られるとしんどいです。例えば海外のどこかの国で、eスポーツ産業をその国で盛り上げて作ってきた人が日本に来てやってくれる。これは期待しますよね。でも、そんな人はほぼいませんので。

何か他のビジネスの経験があったほうが、というお話もあるとは思うのですが、逆に言うと6、7割ビジネスの経験としてはマッチしていても、残り3割で大きくしくじる可能性もあるわけです。また、残り3割を学ぶのに成功体験が邪魔することもあります。要するに、うまくアンラーニングできないぐらいだったら、初心者の方がいいのでは、ということです。

その地域において新領域ということは、その地域に経験者とか引っ張っていく人がいない状態ですから、誰がなってもおかしくないんです。これはもう本当に、投資スタンスの話なので、皆さん違うとは思いますが。

――すごく勇気づけられると思います。ビジネス未経験だけどやってみたいという若い人たちも多いと思うので、小笠原さんのスタンスを伝えられるのは、希望が出てくるのではないでしょうか。

小笠原:ビジネスってそんなにややこしいことないんですよ。例えば、金融工学がわからなくても、デリバティブ先物とかオプションで儲けている人がいるじゃないですか。

オプションはすごく難しく感じられますけど、結局は権利の売り買いの話なので、徹底的に理解しようと努めたら丸一日でも理解できる話だと思います。これはもう投資云々関係なく、「ビジネスは難しい」と思わせたい人がいるんだろうなと思ってます。

必要とされたらみんなそこに参加したくなって、やってくれる人が増えますよね。今はほとんどビジネスマンですが、インターネット界隈だって昔はビジネスマンなんていなかったわけで。

なので、「RATEL」で言えば吉村さんがビジネスマンである必要性というのは全く感じなかったんです。

――「ビジネスはシンプルである」というのは若い人にも伝えていきたいですね。ありがとうございます。ちなみにその「RATEL」への投資ですが、リターンというのは現状ありますか?何を持ってリターンとするのか、というのはあると思いますが。

小笠原:いわゆる貨幣価値としてのリターンはまだないですね。それ以外の部分として言えば、eスポーツ領域のトレンドをすぐ知ることができますし、例えば私が興味を持っているWeb3領域とeスポーツ領域がどのように関われるのかなどを、彼らとディスカッションできるというのは大きいですね。

――今後も何かeスポーツ領域への投資は続けていくのでしょうか。

小笠原:京都芸術大学で新しくファンドを作って出資していこうと考えていまして、そこにはeスポーツなどのエンタメ領域も入っています。そういう意味では出資の可能性はありますね。

――それは、eスポーツ単体というよりかは、Web3寄りになる?

小笠原:それはどちらでも、ですね。もちろん、Web3と重なってる方が投資しやすいという気持ちはありますけど、例えばギルドに出資する、運営に投資するというのがあってもいいと思いますし、プレイヤー自体が会社として業務委託を行っているところに投資する、というのもいいのではないかと。プレイヤーは雇用ではなく、自分の会社で必要な業務を委託されてチームを組んでいる方が、私には自然に見えるので、何かそういうのがあれば面白そうだなと思ってます。

――今は様々な企業がありますが、日本のeスポーツ企業の目指すべきところ、というのはどう見られていますか?

小笠原:まだ日本だと見えないですね。これから本当に日本型のプロスポーツ的な存在になっていくのか、そもそもグローバル領域での1チームになっていくのか、日本にグローバルで受け入れられる運営ができるのか、それともeスポーツでデファクトになるようなゲームが日本から生まれるのか。まだわからないですね。

例えば『フォートナイト』などのバトロワ系は、eスポーツ領域も熱いのですが、私から見るとクリエイティブ系に興味があります。『フォートナイト』では自分たちでミニゲームが作れる状態なので、『フォートナイト』そのものがプラットフォームになってきたときに、フィジカルのところはそこでものすごい鍛えられて、対戦は後になる可能性もありますよね。

そのフィジカルの底上げがされた上で、リーグや運営、もしくは大規模なゲームができるなどの、地殻変動が起こりそうな感覚はあります。

本当に先が見えないですし、eスポーツ業界の人たちは大変ですが、楽しいフェーズにいるんだろうなという感覚で見てます。

――デバイスやメーカーなども含め、今のゲーム業界はカオスな状態になってきていると感じますね。

小笠原:草野球がいっぱいみたいな状態で、野球だけじゃなくてサッカーも人気だよねと。そんな状態に見えます。やはりみんなが憧れる運営がないと、全体が進むということにはならないと思うんです。それが何なのかというのは、深く業界にいない自分としてはあんまり見えないところですね。

――日本はやはり特殊な環境だと思います。ただ、配信文化やゲーミングPCの普及率も増え、PCゲームに触れる人が多くなっていますので、チャンスはあると思います。

小笠原:韓国が芸能コンテンツをグローバルに持ってったような事例、例えば日本の配信が世界で人気を得るなどが日本のeスポーツでもあってもいいとは思うんですけど、配信等に関して言えば「日本語」というのが一つ、ボトルネックになっているというのはあると思います。

ちなみに、世界中のみんなが見たいと思うチームが参加するようなリーグや年間通じての試合などを、日本で作ろうと思ったら、いくらぐらい掛かるんでしょうね。

例えば1000億あれば、世界中から人が集まってくるという規模感なのか、とにかく100億で一年間走れるのか。桁がわからないんですよね。

――それで言うと、前者だと思います。どのタイトルを採用するかにもよりますし、結局のところ大事なのはコミュニティです。このコミュニティをどううまく機能させるかが重要だと思います。これをやればOK、というような方程式はあまりなく、大会をしっかり運営できて、選手にもスタープレーヤーがいて、見る人・応援する人たちを大会がないときでも留められるようなコミュニティがちゃんとあれば、人は集まると思います。

小笠原:そういう動きをしているところはあるのでしょうか。

――日本で言うと、NTTドコモさんなどが「X-MOMENT」というリーグを開催していますが、視聴者やコミュニティに対してはサポートがしきれてない部分もあると思います。

小笠原:それが上手くいっているかは別ですが、例えばBリーグ(ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ)のように、観客のことをブースターと呼んで盛り上げる方式を考えようとしているという流れは、日本のeスポーツリーグ日本ではまだないんですね。

――日本のeスポーツのボトルネックというか、解決できる部分はまだまだあると思います。色々とお話いただきありがとうございます。それでは最後に、投資という側面から見るeスポーツの可能性をお聞かせいただければと思います。

小笠原:プレイヤーという属人性であったり、先ほどお話に出たようなファンとのコミュニティなど、いわゆるネット業界が特にしてたことと、今までスポーツ業界が得意にしてたことなどの一部分については詳しいだろうなという人が世の中にたくさんいます。でも、その人たちがそれぞれの役割をやるというよりは、その知見を集約する会社ができる、というのがいいんだろうと想像していますので、そこに対しての投資はすごく魅力的だと考えています。

規模もまだまだ小さいので、新興のファンドとかでも5、6年前にVTuber事務所への投資をしようという話が出たときとあんまり変わらない感覚で見ていますね。グローバルで見たらかなりのパイがあることも見えていますし、日本に独自プロトコルがあり、少し遅れているのであれば、戦いようはあると思っています。

――可能性は無限大ということですね。ありがとうございました。

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