暴力的なゲームをすると暴力的になる?プレイ時間を制限すれば問題解決?“ゲーム障害”認定を疑問視するオックスフォード大教授の論文を読み解く 2ページ目 | GameBusiness.jp

暴力的なゲームをすると暴力的になる?プレイ時間を制限すれば問題解決?“ゲーム障害”認定を疑問視するオックスフォード大教授の論文を読み解く

「ゲーム障害」を疑問視するアンドリュー・シュビルスキー教授と、同教授が携わった研究論文をご紹介します。

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暴力的なゲームをすると暴力的になる?プレイ時間を制限すれば問題解決?“ゲーム障害”認定を疑問視するオックスフォード大教授の論文を読み解く
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  • 時期毎のプレイヤー数の移行出典
  • Oxford Internet Instituteプロフィールより
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  • 暴力的要素の存在を示すPEGIのロゴ
  • 暴力的ゲームと青年の攻撃性の関係を検証する仮説検定
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ゲームで人は幸せになれるのか

次に紹介するのは、2021年2月17日に公開された論文で、『あつまれどうぶつの森』と『Plants vs. Zombies ネイバービルの戦い』にフォーカスした研究が掲載されています。この研究は、プレイヤーの自主回答により収集された幸福度のデータとゲームのプレイ時間を基に行われましたが、特筆すべき点として、自主回答のほかに、エレクトロニック・アーツ(以下、EA)とニンテンドー・オブ・アメリカ(以下、米任天堂)から公式にデータ提供を受けることで、“より正確なプレイ時間”の計測を可能にしたとのことです。

まずEAはデータ計測にあたり、オンライン調査プラットフォームを通し、アメリカ、カナダ、イギリスに在住する18歳以上の『Plants vs. Zombies』プレイヤーに招待メールを2回に分けて送りました。メールには、研究の主旨や、そのために幸福度に関するアンケート回答やプレイデータが使われることが記されており、参加者はいつでも参加を中止できることが知らされたとのことです。最終的に実験参加に合意したのは、1回目にメールが送られた5万人と2回目の20万人のうち、518人(平均年齢:35、男性:404、女性:94、その他:2、性別非公開:17)でした。

一方で『あつまれどうぶつの森』プレイヤーの調査において、シュビルスキー教授とそのチームは、『Plants vs. Zombies』プレイヤーに送ったものとレイアウト以外同一のメールをアメリカ在住の成人プレイヤー342,825人に送信しました。そのうち実験参加を希望したのは、6,011人(平均年齢:31、男性3,124、女性2,462、その他:153、性別非公開:88)で、アンケートにて収集したID情報をハッシュ化した上で米任天堂に送信し、その調査データを受け取ったとのことです。

研究結果によると、プレイヤーは平均的にプレイ時間を実際より多めに見積もっていたとのこと。そして、実プレイ時間が10時間伸びるたび、両ゲームプレイヤーの幸福度に増加傾向があることを確認したそうです。プレイ動機の観点で見ると、ゲームを自発的に楽しんでいたプレイヤーの幸福度は全体的に高くなった一方で、「ゲームを(現実)逃避のためにプレイした」などの外的な動機で遊んでいたプレイヤーの幸福度は低い傾向を示しました。シュビルスキー教授は「全体として、この結果は時間に基づいてゲームを規制することは、多くの人が期待するような利益をもたらさないことを示唆している」として、「本研究は、ゲーム依存を抑制するための予防策として、ゲームを規制する必要性に反論している」と主張しました。

また、シュビルスキー教授はBBCのインタビューにて、今回の研究に使われた両ゲームの他プレイヤーと交流できるソーシャル要素が、幸福度上昇に繋がったのではないかと考察し、「『どうぶつの森』をプレイすることが即ち幸せになるというわけではないが」と付け加えた上で「『どうぶつの森』を1日4時間毎日プレイする人は、そうでない人よりもかなり幸福感を感じるだろう」と述べています。

コロナ禍はゲーマーをどう変えたのか

最後に紹介するのは、Steamのアプリケーション・プログラミング・インタフェース(以下、API)と、非公式データベースサイトSteamDBを基にした、コロナ禍のゲーマー動向に関する研究論文です。SteamDBを参照した分析は、Game*Sparkでも軽くご紹介しましたが、こちらはマルチプレイとシングルプレイ別のデータも考慮したより精確なものです。

なお、論文にはネットに接続していないプレイヤーは計測されないこと、特定のダウンロードコンテンツ(DLC)をプレイしている場合はオリジナルと別枠でカウントされること、SteamDBでは時刻を協定世界時(UTC)0時に記録しているので、金曜夜にゲームをしているアメリカ西海岸のプレイヤーは土曜日にカウントされる可能性が注記されています。

まずシュビルスキー教授らは、調査期間を2019年1月1日から2020年12月31日に定め、2019年の年間ピークプレイヤー数のうち91.3%を占めていた人気トップ500位のゲームタイトルを分析対象として決定。これらのマルチプレイ要素の有無を公式のテキスト、Wiki、ゲームに関する投稿、プレイ動画を閲覧し、果てには実際にプレイして確認したとのことです。

分析の結果、プレイヤー量が急増し始めたのはWHOがパンデミックを宣言した2020年3月の中旬で、4月上旬にはピークを迎え、各地でロックダウンや各自粛勧告が緩和された6月下旬には、1、2月時点と同程度の水準に落ち着いていることが確認されました。さらにプレイヤー数をシングルプレイとマルチプレイに別けて確認すると、全体的にマルチプレイの方が多いとした上で、2020年2月のシングル、マルチにおける人数差は352万だったのに対し、2020年4月には438万にまで増えました。

シュビルスキー教授らは、マルチプレイヤーの急増は、コロナ禍で現実世界では満たせなくなった「社会的帰属感などの心理的欲求が鍵ではないか」と考える一方で、「マルチプレイゲームの方が安価かつ、プレイ時間が長くなる傾向などの第三の要因(潜在変数)の影響」も可能性として挙げています。

週単位のアクティブプレイヤー数はというと、2019年から2020年初頭までは月曜日から木曜日まで比較的一定で、金曜日にやや増加し、土日には大きく増加する傾向があったそうです。しかし、2020年3月11日以降は、平日と休日のアクティブプレイヤー数差が減少傾向にあり、シュビルスキー教授らは、コロナウィルス流行がプレイヤーの“週にいつゲームをプレイするか”の選択に影響した可能性があるとのことです。

論文を締めるにあたり、シュビルスキー教授らは、今回の研究はあくまでSteamというプラットフォームに限定したもので、コロナ禍で絶大な人気を博した『あつまれどうぶつの森』のような、Steamではリリースされていないゲームがカウントされていない点や、ゲーム内の動向を観測していないため、単なるアイテム取引などもマルチプレイとして扱われている可能性、そしてシングルゲームだったとしてもDiscordなどの他プラットフォームで社会的交流が行われている可能性を指摘しています。

さいごに

筆者の個人的な見解ですが、シュビルスキー教授が携わった研究は、一部研究対象(サンプル)が不安材料になるものもありますが、概ね大規模かつ徹底しており、とくに研究手順やその考察では教授のゲームへの造詣の深さがうかがえます。実はシュビルスキー教授は、ゲーム障害のあらゆる側面を否定しているわけではなく、「ゲーム依存症が一部の人にとって大きな問題となっていること」には同意しています。そんな彼でもWHOのゲーム障害認定を看過できない理由が、“その定義や証拠が不明瞭だから”という立場に立脚していることも、教授のゲームやその文化に対する真摯な姿勢の表れといえるでしょう。シュビルスキー教授プロフィールページには、他にも多くの論文が掲載されていますので、ご興味があれば是非読んでみてください。


編集部では、いわゆる「ゲーム障害」について専門家や関係者に取材を重ねながら、どういった問題や課題があるのか、我々ゲーマーはどのように向き合うべきかを連載形式で深掘りしていきます。初回はネット・ゲーム依存についても積極的な発信を続けている井出草平氏にお話を伺いました。近日中に公開予定ですのでどうぞお楽しみに。

※UPDATE(2022/01/30 18:43):記事前段の本稿のポイントを一部修正しました。

※UPDATE(2022/02/03 4:59):記事本文と関連リンクにて、本来引用元が「BBC」にもかかわらず「CNN」と記載していた部分を修正しました。

《ケシノ@Game*Spark》

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