人間拡張がもたらす未来―AIなどのテクノロジーは人間の認識をいかに変えていくのか?【CEDEC2021】 | GameBusiness.jp

人間拡張がもたらす未来―AIなどのテクノロジーは人間の認識をいかに変えていくのか?【CEDEC2021】

古くから「人間の能力を拡張する」という概念で、様々なテクノロジーが開発されてきました。AI、Iotなどなど現代のトピックスですが、これらを人間拡張のケースとして捉え、今後の未来についてを考えていきます。

ゲーム開発 人工知能(AI)
人間拡張がもたらす未来―AIなどのテクノロジーは人間の認識をいかに変えていくのか?【CEDEC2021】
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国内最大のゲームカンファレンス「CEDEC2021」が8月24日から26日にかけて開催され、「Human Augmentation:人間拡張がもたらす未来」のセッションが公開されました。

「人間拡張(Human-Augmentation)」とは、人間の能力をテクノロジーによって増強・拡張させる技術を中心とした学問領域を指しています。拡張の対象は、知的な能力に加え、身体能力・認知能力や人間の存在などを含み、さらに障害者や高齢者の能力補填 や能力の回復についてもその対象となっています。

こうした人間拡張が一般化したとしたら、人間の働き方や交流の仕方も含め、社会全体の構造も変化していくと見られています。東京大学情報学環教授、ソニーCSLフェロー副所長である暦本純一氏がスピーカーとなった本セッションでは、現在のそんな人間拡張技術の状況についてが語られました。

様々な種類での人間拡張

まず暦本氏は、「人間拡張というテーマが語られるようになったのは2019年から」なのだと振り返りました。そこから徐々に本テーマは各メディアにて盛り上がってきているとのことですが、「用語としてはそれほど新しいものではない。AIという言葉と同じくらいの時に生まれています」と説明しました。

古くから「鉄腕アトム」や「サイボーグ009」のようなフィクションに見られるように、人工知能で動くアトムだとか、人体を機械化したサイボーグといった新しい身体や知性の可能性が描かれてきたといいます。現在の人体拡張研究も、そうした時代から醸成されてきたものなのでしょう。

暦本氏はこうした人間拡張については、おおまかに4つに分けられるのだと説明。主に「身体」、「知覚」、「存在」、「認知」に区分します。

まず「身体」の拡張とは、わかりやすいところでは義足や義手がそれにあたり、ウェアラブルや外骨格がそれに当たると言います。続いて「存在」の拡張とはZoomでのリモートのように、その場にいなくとも講演のようなことを同じように出来ることを指しています。これは専門的にはテレプレゼンスや体外離脱であるとのことです。

「知覚」の拡張では、VRやARといったテクノロジーのように見えないものを見る、聴こえないものを聴くというこ戸を指しており、最後の「認知」の拡張とは、AIと人間の融合のように人間の知能を広げるものだそうです。たとえばIOTのように、人間の能力がネットに繋がって、現実にある物事を動かしているのも拡張を示す事例になるとのだといいます。

身体拡長技術の一例として 手でものを握る力が弱くなってしまった人向けに握力を補完してくれるデバイスを紹介。この事例を外骨格による拡張のひとつであると暦本は説明し、世界的にこうして技術の研究が進んでいるとのことです。

また、AIと人間との融合についての研究についても解説。例として「サイレントボイス」という技術を紹介しました。これは口の動きや喉の動きをAIが感知し、そこから想定しうる声を代わりに発声するという技術であり、現在は研究を進めているといいます。

研究では主に、妊娠時の胎内の状態を探る超音波エコーを使って喉の様子のデータを取り、AIのディープラーニングの元にしていくほか、顎やのど周りの筋肉や皮膚の動きからデータを取るといった方法でデータを取得していったそうです。

こうした技術はサイレントスピーチインタラクションというかたちで今後起用できるのではないかといいます。たとえば電車内など声が出せない公共空間でも会話ができるようにするとか、声帯にトラブルがあって声を出せなくなってしまった人などがコミュニケーションをできるようにする機能にするとのことです。

こうしたサイレントボイスの事例や、過去の研究事例はHuman-AI Integrationと呼ばれるものだと暦本氏は説明。今後、AIを通して何らかの活動が含まれるようになることで「人間はAIを単なる外部のものではなく、AIも含めて自分だと認識するようになるだろう」と展望を述べました。

「AIを含めたループで人間が学習することで、単にAIが学習するのではなく、AIを前提として我々の能力を発展させることができる」ゆえにそうした認識になるのではないか、ということです。

ややSFめいた話にも聞こえますが、これは身近な例で言えば、車を運転するとして非常に習熟した技術と経験を持つドライバーが「まるで自分の身体を動かすのように運転している」みたいなイメージに近いとのことです。

今後のユーザーインターフェースの未来を考えた時、AIを無視した未来は考えられないとも観られています。今までのインターフェースはスマートフォンやVR機器みたいなダイレクトなインタラクションが主流でした。今後はHuman-Robot Interractionという時代になるとして、たとえば自立型のロボットを扱うとしてどのように関わるか、などがテーマになるとも解説されました。

人間とコンピューター、AIの視点が掛け合わさった視点による現在の技術の方向性

人間とコンピューターの関係(HCI)に加え、AIの視点が掛け合わさることでどのような認識に変わるのでしょうか。暦本氏は続いて簡単なマッピングを用意。1つの軸は自分(Self)と環境(Other)の観点。もうひとつの軸は見えるもの(Visible)と見えないもの(Invisible)と設定しました。

このマップから、「自分に近く見えるもの」ではAIとツールがミックスされた、先ほど紹介されたサイレントボイスみたいな技術であり、「環境に近く見えないもの」ではIOTやIOXといったスマート環境を差すとのこと。

「環境に近い見えるもの」では、先述したようなHuman-Robot Interractionが該当するといいます。そして「自分に近い見えないもの」として冒頭に上げたような人間拡張があるのだと説明しました。

「自分に近く見えないもの」とは決して概念だけに留まっているのではなく、具体的な事例も出てきていることも紹介。

一例として、「サイボーグとして生きる」の著作を残したマイケル・コロスト氏のケースを上げます。マイケル氏は自分の聴力を完全に失ってしまい、後でコンピューターで制御される人工内耳を埋め込む手術を行った人物です。

暦本氏はこのコンピューターは後でプログラミングを書き換えることができることに触れ、そうすることで周りの環境自体も変えてしまえることを取り上げました。マイケル氏の事例からは、「自分の能力を、自分でリプログラミングできる」可能性を示すのだと言います。

その他にも皮膚の下にチップを埋め込むボディハッキングの事例や、イーロン・マスクNeuralinkによる脳に埋め込むマシンから直接思考のデータを収集する事例などが紹介。さらには映画「マトリックス」にて登場人物が脳に能力をダウンロードするシーンを挙げ、暦本氏はこれを荒唐無稽ではなく、ある種の人間拡張の究極形であり、「実はそんなに未来の話でもない」と語りました。

その身近な事例としてAppleの高性能イヤホンであるAirPodsを紹介。このツールのノイズキャンセルの機能は高性能コンピューター並みのため、「言うなればスーパーコンピューターを耳に埋め込んでいるようなもの」とも言えるそうです。暦本氏は、今後の人間拡張の主戦場はこうした機器にあるかもしれないのだと展望を述べていました。

これから人間拡張される対象とは?

暦本氏はこれからの人間拡張において「時間」もまた拡張の対象になるのではないか? と考察しています。

現在、Youtubeなどの動画では時間を倍速で試聴できる機能が一般的ですが、暦本氏によればこれも時間をいじる拡張のひとつなのだと捉えられるとのこと。これが現実世界においてはそうそう出来ないことですが、仮に実現できたとしたら最上位の拡張になるのだと考えているそうです。

そんな時間をいじる拡張を考える一例も紹介。たとえばテニスやキャッチボールのようなスポーツを遊ぶとき、ボールの動く速度が選手ごとに違うようにすることはできるかという実験を取り上げしました。

現実空間ではドローンによってボールの速度を変えたり、VRによってボールの速度を変えたりする事例を挙げ、「スポーツでまだ上手くない人に向けて、ボールが実際に遅くなるようにすれば対応しやすくなり、上達しやすくなるのではないか」とその狙いを解説しました。

これもまた拡張のひとつなのだそうです。他にも語学を習得するのに、受講者に合わせてスピードを変えていく教育の研究事例も紹介し、他の言語を覚えやすくするようにするケースもあるのだと解説されました。

人と機械が拡張し合う未来

暦本氏はこれからの人間拡張は、個人の拡張だけではなく、他人や環境も含めた意味での拡張として捉えられるのだと語りました。人間が機械を使って拡張するというのが一般的な見方ですが、今後は機械が人間によって拡張される……といったように、人間と機械、先の暦本氏の例で言えば自己と他人、環境が相互に拡張しあう概念として捉えられるものだそうです。

現在はIoTが主ですが、そのうちにIoA……Internet of Abilitiesという「能力のインターネット」の時代へと移行するのではないか、と暦本氏は展望を語りました。

たとえばZoomによるオンライン講演のように、現実世界の中で終わらずネットワークを介して実現することでそうした拡張があるのではないかとのことです。

「いまコロナで学校がオンライン授業だが、今後、対面の授業に戻ったとして、『なんで現実の授業だと1.5倍速で聞けないんだ?』となるかもしれない。そういう意味でも現実の限界を越えられるかもしれない」そう暦本氏は能力のインターネットへの未来を捉えています。

IoAで到達すべき憧れはサイバースペースにジャックインすることなのだといいます。『ニューロマンサー』を執筆したウィリアム・ギブソンが提示したヴィジョンのように、機械や他人へのジャックインというのがIoAの行きつく先だそうです。

暦本氏は、自己から他人の視点にジャックインする感覚の研究事例を紹介しつつ、IoAを進めるであろう機器が出ていることも紹介。JackinNeckやTOPPAN IoA Neckという肩乗せ型のデバイスでは、遠隔指示者とデバイスの装着者インターネットと双方向性の接続によって映像や音声、ハプティクスによるリアルタイムのコミュニケーションを実現しようとしているとのことです。

ジャックインの概念は他者や機械へ入りこむだけではなく、存在感そのものを伝達するものも出てきています。たとえば国際学会に参加するときに、オンラインからビデオ付きのロボットを遠隔操作して参加するというケースが紹介されました。

その他、Uberをベースにして他人にタブレット型のマスクを付けてもらい、遠隔で登場するHuman Uberという研究も。なんだかここまで来るとコントのようにも見えてきますが、これもまた存在感の伝達のひとつとのことです。

テクノロジーによる人間拡張は、人間を幸せにするのだろうか?

暦本氏はここまでの人間拡張を研究する中で、「これは人間の進化を意味するのか、それとも技術が無くなったとしたら能力はどうなるのか」といった、テクノロジーがもたらす疑問についても考えていることを述べました。

こうした疑問も古くからテクノロジーと人間にまつわる摩擦の中から生まれたもので、歴史の中で様々な回答が存在してきました。

SF作家のアーサー・C・クラークは「人間が技術を発明するのではなく、技術が人間を発明するのだ」と語り、学者のリック・ライダーは「機構的に拡張された人間と、人間に拡張された機械」と人間とテクノロジーが相互に拡張し合うビジョンを語っていたといいます。

暦本氏がここまで語ってきたようのまとめとして、人間拡張とは同時に人間によって機械が拡張されることでもあり、常に両方が起きているのだといいます。特にネットワーク化によって、いまは相互の拡張が遥かに容易になっているとのことです。

最後の話題として、「ではそんなテクノロジーが人を幸せにしているのか?」という疑問を取り上げました。

たとえばデジタル健忘症の事例を挙げ、Googleマップなどの使いすぎで空間認識などの能力が減衰するのではないかといった事例をはじめ、機械任せにすることで元の能力が減衰しているのではないかという研究を取り上げています。

一方、「能力が上がるということ自体が人を幸せにする」という研究も紹介。これは「人間が何かを自分自身で出来たということが幸福を感じやすい」結果が報告されているのだそうです。なので、人間が自発的にテクノロジーを利用し、自分自身の力で出来たという経験によって幸せを感じられるともいいます。

ただし、本来自分の力で出来るべきことを機械のオートメーションによってやってもらうということでは幸せは感じにくいとのこと。たとえば病気などで上手く手を動かせずに食事が出来ないとして、チャップリンの映画「モダン・タイムズ」のように機械によって自動で食べさせてもらうのでは辛いばかりですが、機械の力で補助してもらい、自分自身で食べることができれば良いとのことです。

暦本氏はこうした人間が幸福感を得る仕組みを踏まえ、「人間拡張とは、幸福をもたらす可能性が高いものである」とセッションをまとめました。

《葛西 祝》

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