文化としてゲームが研究される状況のいま…「メディア芸術連携促進事業・研究成果マッピングシンポジウム」レポート | GameBusiness.jp

文化としてゲームが研究される状況のいま…「メディア芸術連携促進事業・研究成果マッピングシンポジウム」レポート

いまや日本を代表する文化のひとつと言えるビデオゲーム。現在は専門家による研究が行われており、今回はその成果や、研究状況がどうなっているかが発表されました。

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商業として高い実績を上げ続け、いまや日本を代表する文化であるアニメやマンガ、そしてゲーム。これらを単なる消費文化ではなく、確かな文化とするため、文化庁は以上3つの分野にメディアアートを加え、「メディア芸術」とカテゴライズしています。ひとつの文化として評価する事業として、各分野で専門家による研究のマッピングを進めています。

いま、文化としてゲームの研究はどこまで進んでいるのでしょうか?「2019年度メディア芸術連携促進事業 研究成果マッピング シンポジウム」が2月16日、国立新美術館にて開催され、文化としての研究対象となるビデオゲームはどのような状況にあるかが発表されました。

「メディア芸術」全体の状況



今回のシンポジウムはマンガ・アニメ・ゲーム・メディアアートそれぞれの研究成果を発表するだけではなく、分野同士の交流も目的の一つ。また、過去5年間の総括を兼ねた、メディア芸術全体をまとめた展望を示すことも含まれています。

会場で配布されたゲーム研究の手引書。今回の発表は本書を元に行われた。

研究の具体的な成果に挙げられたのが各分野の手引書です。分野ごとの手引書が会場で配布され、今回ゲーム分野では今年度の手引書だけではなく、2017年に作成された手引書の2冊が用意されていました。(2017年の手引書は。こちらのPDFにて読むことができます。)

オープニングでは「いま若い人はマンガとアニメ、ゲームに興味を持つ境界があまりないです。『メディア芸術』というものを無自覚に共有している」と京都精華大学の副学長を務める、吉村和真は説明。今回の手引書によって、大学でアニメやマンガ、ゲームの研究を考えている方や、地域振興といった事業を考えている関係者に向けた地図――研究マッピングを見せていくことが目的だといいます。

「一枚岩ではない」ゲーム研究の状況



そんなメディア芸術の事業のなかで、ゲームの研究マッピングはどのようなものになったのでしょうか?ゲーム分野の研究成果は立命館大学ゲーム研究センターの客員研究員を務める松永伸司氏と、同大学映像学部の講師を務める井上明人氏が登壇しました。

松永氏は5年間、事業にたずさわる中でわかったことを一言で「ゲーム研究は一枚岩ではない」とまとめ、3つのポイントを挙げました。ひとつ目はゲームを作るための研究と、ゲームを理解しようとする研究の違い。ふたつ目は産業や文化研究といった専門分野ごとの焦点の違い。そして3つ目は日本国内と海外での違いです。

ひとつ目の、ゲームの制作側と理解する側の違いについて、松永氏は「マンガやアニメでは理解するための研究が中心であり、作品を作るための研究は多くない。しかしゲームでは、作り手が制作のための技術や理論を研究することが少なくない」と説明。マンガ分野の研究成果発表では、制作者側が研究や評論に関わるケースがあったことが紹介された一方で、ゲームの場合、開発者向けのカンファレンスが組織されるなど、作り手側が本格的に制作のための研究しているという点に特色があるということです。

ふたつ目は、ゲーム研究では専門分野ごとにゲームを対象にしたさまざまな研究が互いに独立になされているということです。たとえば、心理学、経営学、社会学といった分野の研究者が、それぞれの観点や方法にもとづいて研究をしており、「ゲームを対象にした研究」と一口に言ってもいろいろな研究アプローチがあると松永氏は指摘します。

その指摘に続くかたちで、3つ目の日本と海外でのゲーム研究がどのように違うかを説明。基本的にさまざまな分野に分かれ、別々の研究をしている状況は日本も海外も変わらないそうです。ですが、独立した分野ごとの研究に相互作用をもたらす存在の有無がもっとも大きな差だといいます。


それが「ゲームスタディーズ」だといいます。2000年代初頭に北欧のさまざまな機関と研究者を中心に、もともと物語論や文学をはじめとする、人文系の研究から派生し、確立された専門分野です。英語を共通言語とすることで、各地域の研究者が参入することで世界的に広がっていきました。

このゲームスタディーズが、産業の研究や心理学的な研究、そして文化研究など、独立していた研究それぞれの相互作用をさせる存在となったとのことです。松永氏は「日本国内には、海外におけるゲームスタディーズのように、いろいろな分野でのゲーム研究のハブになるような分野がいまのところない」と指摘しました。日本ではゲームスタディーズを行っている人はあまりいないため、今後の課題となるようです。

とはいえ今回のゲーム研究の手引書は、ゲームを産業や文化研究のほかに、心理学や社会学から、各分野の専門家が研究した成果が載っているため、独立した研究をまとめる意味としても大きいのでしょう。


続いて井上氏は「そもそも、ゲームそのものが一枚岩ではない」とさらに踏み込んで語ります。「ゲームという概念自体が広がりを持ち、そのこと自体がゲーム研究の広がりに関わっている」と説明しました。

井上氏はゲームと括られるものは広く、とらえどころがないため、何か定義しなければならないということで、さまざまな人物が定義してきたといいます。

古くは「遊びと人間」を記したロジェ・カイヨワや哲学者のウィトゲンシュタインから、ゲームの実制作者であるケイティ・サレンとエリック・ジマーマンの著した「ルールズ・オブ・プレイ ――ゲームデザインの基礎」や、現在のゲーム研究の第一人者であるイェスパー・ユールの「ハーフリアル ―虚実のあいだのビデオゲーム」がゲームの定義において参照されるそうです。

ここでマンガやアニメーション研究と異なる点として、井上氏はゲームはプレイヤーが遊ぶという、相互の行為からできていると指摘します。そのためアートや映画、小説などのような芸術研究の枠組みでは、ゲーム研究は捉え切れないとも説明しました。


井上氏は「ゲームそのものが多様性をもっているのではないか」といいます。例として「遊び」の研究者であったブライアン・サットン=スミスによる、遊びについての7つの理解を挙げ、成長や運命といった要素を挙げながら、あらためてゲームという概念の広がりと研究の広がりについてをまとめました。

全体のまとめとして、文化庁の事業としてゲームにおける研究マッピングを目指したところ、その作業を通してむしろ「ゲーム研究が一枚岩ではない」ことが明らかになり、研究マッピングを作る難しさが浮かび上がったといいます。海外におけるゲームスタディーズと今後どのように接続していくかなど、今後の発展にかかわるテーマがいくつも見られた発表となりました。

メディアアートの題材となるビデオゲーム



またメディアアートの研究成果発表のなかでも、ビデオゲームに関する言及がありました。メディアアートとは、時代ごとのテクノロジーによって作品として取り扱う対象が変わっていくもので、80年代から衛星放送やパソコンの台頭とともに、ビデオゲームもアートの題材になったことが解説されました。

一例に挙げられたタイトルでは、メディアアーティストの第一人者として活躍する岩井俊雄氏が、ファミコンのディスクシステムで制作した『オトッキー』が挙げられました。以降のインターネットやSNS、スマートフォンといったテクノロジーとともに、アートがテクノロジーをテーマにした作品を作るとき、ビデオゲームも大きな題材となることが語られています。

次のページ:研究者側が文化庁側に問いかける疑問
《葛西 祝》

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