VRでのストーリーテリングの作り方――「結婚指輪物語VR」より、その技術の紹介【CEDEC 2019】 | GameBusiness.jp

VRでのストーリーテリングの作り方――「結婚指輪物語VR」より、その技術の紹介【CEDEC 2019】

いまVRは新しいストーリーテリングの可能性を見せるメディアです。しかし、ユーザーにストーリーを最後まで観てもらうためにはさまざまな妨害が存在するため、それを排除していく方法についてが語られました。

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VRは架空の世界やキャラクターが実在するかのように感じられる新しいメディアですが、それに加えて、VRだからこそ可能になる新しいストーリーテリングにも注目が集まっています。

2019年9月6日、パシフィコ横浜にて開催された「CEDEC 2019」にて、「印象的なVRストーリーを作るにはユーザーエンゲージメントを最大限にせよ : 「結婚指輪物語VR」からのテクニック」のセッションが展開。VRならではの物語をどのように作るのかが語られました。

ストーリーテリングの新興メディアであるVRの課題


『結婚指輪物語VR』PV。曹氏が解説に当たっている。

今回の登壇者である、株式会社スクウェア・エニックスの曹 家栄氏は『結婚指輪物語VR』の制作を通して、いかにVRならではのストーリーテリングを作り出したかについて発表しました。

まず曹氏は「VRはストーリーテリングの新興メディア」であると明言しました。映画祭などでVR作品を対象にしたアワードもできるなど、VRが新しいメディアとして浸透しつつある状況を例に出し、「近い将来、ハリウッドクラスの作品が出るかもしれない」と展望を語りました。


曹氏は、記憶に残るVRストーリーを作るためには、「個人的には、高度なユーザーエンゲージメントが必要」だと言います。「ストーリーを体験するときに、プレイヤーがどれだけ感情的に反応しているかが重要」で、「ストーリーの好き嫌いなどもあるので、共通の議論ができない」としつつも、「ストーリーを最後まで観たくなるか?」が核であると主張しました。

曹氏は、ユーザーがストーリーを最後まで観るためには、鑑賞を妨げる要素が少ないことが鍵だと、問題の焦点をVRの視聴環境などに定めました。「どれほどいいストーリーでも、妨げる要素があると最後まで観れません。それをどう減らすかなのです。ユーザーエンゲージメントを最大にするには、妨害要素をいかに減らすかが重要なんです

従来の2Dメディアと異なるVRの体験



映画やドラマ、ビデオゲームなど、従来の2D画面ベースの手法ならば、高度なユーザーエンゲージメントを実現した実例がたくさんあります。「ほとんどのユーザーは2D画面向けのコンテンツに慣れています」と曹氏は言います。

曹氏は「インタラクティブ性があるものと、そうではないもの」として、映画とビデオゲームの違いについて説明します。

映画は基本、ユーザーの入力は必要ありません。映画館という、視野を埋めるようなスクリーンや、長時間座っていても快適なソファなどの、鑑賞に最適な工夫がされている環境で体験します。曹氏は、そのような視聴環境が体験の質にも影響していると指摘します。

一方ビデオゲームの場合は、ユーザーの入力によって先へ進めます。ゲームのルールが設定されていること、予測や再現が可能な成功・失敗の条件、反応の良いコントロールスキームなどなど「要するに映画とまったく逆、ユーザーが入力し続ける環境を作っています」と言います。


次に曹氏は、VRによるストーリーテリングが、従来の2D体験といかに違うかについて説明します。

VRでは、立っていたり座っていたり、ひとりひとりが体験する視聴環境は違ってきます。またヘッドセットによって視野が完全に埋められることで、臨場感も生まれます。

曹氏は「2D画面向けのデザイン観点から、VRを理解するのは困難」だと指摘します。従来の撮影や編集の概念が通用せず、視点も一人称か三人称かの区別が曖昧であるためです。

更にVRの特徴である立体視によって、視覚情報に加えて空間認知能力が働く上、身体や手を動かして体験するため、「脳にかかる負荷が、今までのコンテンツより大きい」と指摘します。

VR体験を妨害する要素


曹氏は、人間の脳が持つ様々な機能は、VRのストーリーテリングにおいては妨害要素になりうるので、対処法を確立する必要があると言います。


まず例として挙げられたのが、身体の反射的な動きに対する対策です。我々は、視野の中に物体が入り込むと無意識にそちらを見ようと首が動きます。しかし首の可動域は、上下は45度ほど、左右であれば90度ほどであるため、その範囲を超える位置に情報を配置することはストーリーテリングの妨害要素になり得るのだとか。


次に手の動きが妨害要素になり得る例について説明しました。曹氏は「VR空間内のものを触るのが楽しい。しかし楽しすぎるため、脳の注意が手の動作に集中してしまう」ことが問題になると説明します。

ヘッドセットが引き起こす「遮断された視野による妨害」も挙げられました。「人間は無意識に、暗い環境に恐怖を感じます。ヘッドセットを被ると、安全な場所に居ても不安や緊張を覚えるでしょう。不安をおちつかせるために、本能的に安全なものを探すんです」と曹氏は説明しました。


また感覚過負荷による妨害も指摘します。視野に入る情報が多いと過剰に負荷がかかり、ひどい場合は気分が悪くなります。結果的に視聴体験が妨害されることになるのです。

曹氏は最後に自身が立てた仮説である「ハイパープレゼンスの現象」を取り上げました。これはヘッドセットで視野を遮断されることによって、聴力と感触が通常より敏感になるという考えです。「いつもの感覚ではないから時間の流れも変わる。VR空間内スピードが実際のスピードよりも速く感じるのではないか」と曹氏は見ています。

つまり、人間の生理反応を予測し対策を講じることで、VRでのストーリーテリングにおける妨害要素を最小化することができるとまとめました。

妨害要素を省いた実践



続いて曹氏は、ストーリーテリングの設計における新しいVR向け演出手法の発明について解説しました。昨年ごろから多数の国際映画祭に招待され始めたVRの長編ストーリー作品ですが、『結婚指輪物語VR』を制作した2年前は、10分前後の作品が多く、30分を超える長編のVRストーリーがなかったと言います。

『結婚指輪物語VR』は、2D漫画のコマ割り表現をVRで再現するという構成です。ユーザーが最後まで離脱しないために、どのような工夫がされているのでしょうか。


まず身体にかかる負荷を減少させる空間デザインを意識しているとのことでした。首を上下左右に動かして気持ちがいい範囲に情報を配置することで、過度に頭を振らずに自然と物語に注目できるようにしているそうです。

VRコンテンツを観るときには背もたれのない椅子も多いので、頭を動かす範囲は35度以内に収まるのがおすすめだと説明しました。


そして「ストーリーの進展をフォローしやすい空間演出をすること」が重要であると言います。ユーザーに見てほしい要素を、いちばん明細に映る位置に置くことで、ユーザーが違う方向を見ないようにします。

背景などの状況がわかる遠景、キャラクターを認識しやすい中景、ユーザーの周囲である近景を意識して空間を構成するとのことでした。


また室内のシーンではユーザーの後ろに壁などを置くことで、安心感が与えられると同時に、場面転換の度にユーザーがここはどこなのか把握するために周囲を見渡す無駄な行動を削れると言います。


VRの視聴環境に合うように、演出のペースを工夫することも必要だと言います。曹氏は「演出に注目してほしいポイントと見回ってほしいポイントを区別する」ことを重視しました。


酔いを起こさないようなカメラワークにも気を使ったといいます。ライブウィンドウを利用して、場面転換をフェードアウトなどで避けながら、自然な場面転換を実現しました。

VRは、その情報量の多さや身体との連携など、様々な要素がストーリーテリングの妨害になり得るため、その要素をいかに制御していくかの重要性がまとめられたセッションとなりました。
《葛西 祝》

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