大規模なゲーム制作進行を管理していく「ときめきの魔法」とは?プロジェクトマネジメントの整理術【CEDEC 2019】 | GameBusiness.jp

大規模なゲーム制作進行を管理していく「ときめきの魔法」とは?プロジェクトマネジメントの整理術【CEDEC 2019】

大規模なビデオゲーム開発で製作進行を手伝い、効率化するポジションであるプロジェクトマネージャー。いかにしてチームの作業を円滑にしていくかが語られました。

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大規模なゲーム制作進行を管理していく「ときめきの魔法」とは?プロジェクトマネジメントの整理術【CEDEC 2019】
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大規模なビデオゲーム開発では数多くのスタッフが、様々なポジションで開発を進めています。しかし、しっかりと納期に間に合わせるように開発を進めるには、製作進行を手伝い、効率化できる人間が必要となります。それがプロジェクトマネージャー(以下、PM)の仕事だと言えるでしょう。

2019年9月5日、パシフィコ横浜にて開催された「CEDEC 2019」では、Ubisoft Osakaに所属する星川浩子氏が登壇し、「プロマネ~現場がときめく管理の魔法~ 職務経験ゼロから始める開発プロセス改善」のセッションを行いました。制作を円滑に進めるPMの仕事について解説します。

プロジェクトマネジメントに出会うまで



星川氏は今回の講演を、いまアメリカを席巻するまでに有名となった、片づけコンサルタントの「こんまり」こと近藤麻理恵氏が提唱する整理の技術「人生がときめく片づけの魔法」を引用しています。PMにおいては、いったい何を整理していくかというと各スタッフのタスクやスケジュールです。

そんな星川氏はどのような経緯で、ゲーム業界のPMを務めることになったのでしょうか。大学はアメリカ留学し、卒業後は海外で日本食レストランに勤務、帰国後は英会話スクールで講師を務めるなど、ビデオゲーム業界とは無関係なキャリアを歩んでいました。

そんなとき「ビデオゲームが大好きで、FPSがもっとも好き、ハマりすぎてサバゲーにまで行くようになった」そうで、2014年に職務経験がまったくない状態でUbisoft Osakaに入社します。


Ubisoft Osakaでは留学時代の英語を生かした通訳や翻訳のほか、ゲーム開発の基本を学んでいました。そこでPMという言葉を初めて知り、インターネットなどで業務内容を調べたそうです。

当時の星川氏はPMの仕事を「プロジェクトと成功に導くための活動と開発を効率的に行う手助け」と定義しました。しかし何から手を付けたらいいかまったくわからなかったそうです。

そんなある日、転機となる仕事に出会います。モバイルのプロジェクトにPMとして加わり、小人数のチームでタスク管理やドキュメント制作などを行うことになったのです。「やる気に満ちていて、本を読んで勉強したんです」と星川氏は意気込み「タスク管理ツールに情報をたくさん書きこんでいこう」としていたそうです。

ところが、チームから反論を受けてしまい、会議で大炎上し星川氏は混乱。「PMについての本に書いてないことで揉めたんです」反省する星川氏は「本では勧められていたのに、なぜ?」と考えていました。すぐにこの疑問の答えは見つかりませんでしたが、この経験がPMの仕事を深く考えることになりました。

プロジェクトマネジメントの役割



その後、星川氏は人気アニメのRPG化『South Park: The Fractured But Whole』(以下、『South Park』)の開発プロジェクトにPMとして加入します。『South Park』はUbisoftのサンフランシスコスタジオと共同制作となったプロジェクトでした。


サンフランシスコとの共同開発で問題となるのは、スタジオ間の時差です。時差が16時間
もあり、両スタジオで一緒にコミュニケーションといれる時間が1時間程度しかなかったそうです。ここのコミュニケーションがスタッフのタスクやスケジュールに影響を与えるため、いかに有意義にできるか課題となりました。


開発プロジェクトでは、さまざまなチームがバラバラに点在しており、大阪スタジオとサンフランシスコスタジオをまたぐチームもあります。しかしどのチームにもPMが加わっており、業務の効率化を図っているのです。

ここでのPMの役割は、各スタッフのタスク管理やスケジュールを調整したり、翻訳をおこなっていくことです。数字をみて報告だけでなく、問題の包括的な改善や、問題解決を提案していくことも重視されています。


たとえば、あるエンジニアの1日のスケジュールでは、意外なくらい実作業ができる時間が限られてしまう問題があるといいます。なぜなら突発的な会議があり、議事録などを作成しなければならなかったり、トラブルに対応したりといった問題が発生するためです。


そこでPMがどのようにエンジニアのサポートに入れるか?と考えた時、星川氏は「スタッフの専門分野ではない作業なら、引き受けられる」と語りました。たとえば会議の議事録を取る作業はPMが担当することで、エンジニアが雑務で割かれる時間をなくしてあげられるといいます。

こうしてエンジニアが実作業できる時間を作り、スタッフの「ときめき度」をあげることができました。星川氏は「このときめき度をもっと増やしたい」と思い、次はトラブルの対応も担当します。

あるトラブルの例として、作業に必要なファイルがロックされる出来事を挙げます。サンフランシスコスタジオにいる相手とも連絡できず、3日後にようやく連絡ができ、やっと作業がに入れる……という、気の滅入るような手間が発生。

こうしたトラブルは「ブロッカー」と名付けられ、タスク達成の妨げになります。チーム内部では解決できない障害であり、発生すると作業時間が大きく削られるのです。ブロッカーが発生したときの対応を大きく変え、たとえばベースのシステムが作られていない問題が起きたら、別のチームのPM同士で情報を共有し、確認していくことで調整していったそうです。

これでまたひとつエンジニアの問題を解決し、作業時間をつくることができました。しかしまだまだ「ときめき度」は足りません。次に突発的なリクエストがきたらどう対応するか?について解説。

あるエンジニアから、「タスクが間に合いません!」と連絡が来ます。理由はブロッカーの発生でも時間が足りないことでもなく、サンフランシスコのディレクターから作業連絡があったためでした。その作業を優先していたため、スケジュールに影響が出てしまったそうです。


この問題の星川氏の解決方法は、「外部チームのディレクターが作業を持ってきたら、PMがまず受け取る」ことでした。ディレクターが要求する作業の目的や条件を聞き、作業の優先度を確認するためです。それからタスクを組みなおし、スケジュールを確認します。

外部から頼まれた割り込み作業をスケジュールに入れて、漏れたタスクに関してはスケジュールの変更を関係者に連絡し、対応してきます。「これでときめき度もかなり上がります」と星川氏はまとめました。


スタッフのときめき度を挙げる一方で、PM自身のときめき度は各段に低下してしまうことにも触れました。いろんなスタッフの問題解決に動くことで「スケジュールが膨大化し、自分の作業に取れる時間がなくなる」問題です。


自分のマネジメントはどうするか?というと、3つの付箋を使い、その日やること、その週にやること、来週でも大丈夫なことにタスクを振り分けて整理していきました。

ここで目指したことは「1日の作業が始まるとき、その日のタスク量を確認し、ブロッカーや割り込みが発生した際に優先度を再確認する」ということです。そうして自分の作業を行るスケジュールを作り出します。

星川氏によるPMの役目



ここまでのまとめとして、星川氏はPMの仕事を問題発見と対応方法をやり取りしながら、専門スタッフが実作業できる時間を少しでも多く作ってあげたり、ブロッカーの対応、割り込み作業への優先度の精査が重要だと語りました。

星川氏はPMではスタッフの問題解決や効率化はもちろんながら、軽視されているがすごく大事なことに「PM自身が心の余裕を持つことが大事」だと言います。

「PMが忙しくなりすぎると、「いまPMさんは大変だから……」とチームのメンバーが頼みづらそうにするため、たとえばブロッカーの問題を相談するの遠慮したりして、制作がまわらなくなるんです」と星川氏は余裕を持つことの意味を強調しました。

またプロジェクトで気を付けたのは、「自分の意見を押し付けないということ、チームと相談して対応を決める」ことで、「他チームのコミュニケーションでは自分たちの都合を押し付けない。プロジェクト全体で気持ちよく作業できることが大事」だと語ります。「人とのコミュニケーション全体で言えることですね」と星川氏はまとめました。


当初、疑問に思っていた「効率的な開発とは何か?」とは、スタッフそれぞれがスキルを生かすことに集中でき、みんなが気持ちよく作業できる環境を作り「ときめき度を上げること」だと星川氏は答えを出していました。
《葛西 祝》

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