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日野晃博が明かす、少年時代のルーツとレベルファイブの見据える未来

『妖怪ウォッチ』の大ヒットにとどまらず、クロスメディア戦略による新規タイトルを続々と生み出している、福岡のゲームメーカー レベルファイブ(LEVEL-5)。

企業動向 戦略
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■ゲーム作りに必要なのは自分の気持ちに正直になること


――その結果、PS2タイトル『ダーククロニクル』で成功されて、『ドラゴンクエストVIII』の開発会社として指名を受けるわけですが、初めて3Dになったタイトルということで逆風だったのではないでしょうか。

日野: どちらかと言うと賛同意見のほうが多かったですね。もちろん出来上がったあとに前のほうが良かったとかはあると思いますが、ドラクエチームとか、作る側に関しては評判はすごく良かったです。そういうこともあり、僕らは逆風として感じたことはないですね。今でこそプロデューサーとしてこういう風に作ればいいというノウハウもありますが、『ドラクエVIII』の時は1からなんでもやっていたので細心の注意を払いながらやっていました。プロモーションビデオ(PV)も自分で編集して作っていましたし、絵コンテも自分で描いていたりと、ディレクターとして細かい作業もしていました。

――空間やディテールには神様がいるという観念が美術の世界にはありますが、一つ一つの作品に対して、日野さん自身の気持ちをこめたものを常に作りたいという思いはありますか。

日野: それはありますね。自分が何か認められないものだと、やる気も起きませんし。

――よくゲームを作っている会社に聞くと、たくさんの開発チームがあって、その中でクオリティ的に良くないものを一度クラッシュさせて、それを他のプロジェクトに投入するみたいな考えがあります。日野さん自身は常にミリオン超えるような作品を生み出しているわけですが、そういう考えでは作ってないのでしょうか。タイトル一本一本に対して日野さんが本当に作りたいものを徹底して作りこんでいくという考え方ということでしょうか。

日野: 作るときは全部そうです。ですが、他の会社と同じように、自分で作った企画でも途中でこれはものにならないかなと感じることがあるんですよ。その時はなくしてしまいますね。

――それは意外でしたね。『スナックワールド』もそうですが、一本一本のタイトルすべての世界観やディテールが細かく作りこまれていますし、さまざまなPVも事前に用意されていますよね。

日野: どうしても途中で底が見えてくるというか、この先に行っても展開が広がらなさそうだとかわかってくると、会社のプロジェクトとしてビジネスにならないので閉めようという感じではなくて、自然とやる気が落ちてしまうんです。

――クリエイターとしてのテンションが下がると。

日野: 僕のテンションが一つのパロメーターだと思っています。自分のやる気が落ちてきたプロジェクトに関しては、これにはワクワクする要素が少ないんだろうなと感じて、そこで進行をやめることはありますね。

――まさに帝王判断ですね。実績を拝見すると常にミリオンセラーを達成されていますし、ダブルやトリプル以上のミリオンもたくさんあります。そのコンテンツに関して、日野さんが一本一本を見ている結果としてあるのでしょうね。そして、先ほど言われたような帝王判断も働いていると。

日野: そうですね。社長の判断としては理屈ではなく直感でNGを出しているので、まさにそういうことですね。多数決で決めるものではありません。

――そういう点では、日野さんはクリエイターと経営者が一体化していると言えますが、そのバランスというのはどのようにお考えでしょうか。例えば3億円かけてプロトタイプを作って、でも気持ちが動かない、先が見えないという時にプロジェクトをクラッシュしますよね。その一方では経営という側面があるわけですが、その辺りはクリエイターとしての感性が先行しますか?

日野: 僕は経営者の判断だと思っているんですよ。結局、自分の感覚的にこれは駄目だなと思うこと、つまり、やる気を失っていること自体がクリエイティブを評価する経営者判断だとは思っていますので。それも含めて、直感的にこれのプロジェクトはやばいなとなったら静かにフェードアウトさせていくような、そういう判断をとることはありますね。

――日野さんが手掛けられてきたプロジェクトは、ジブリとかガンダムも含めて、ご自身が過去に影響を受けたり、憧れだった会社と仕事をされたい気持ちが強いように見えるのですが、それはいかがでしょうか。

日野: その通りです。自分が興味を持ってやることが一番大事だと思っています。興味とやる気を持っていれば、普通以上の力が出ますのでそこは大事にしています。ジブリやガンダムもそうですが、『レイトン』で監修をお願いした多湖先生(心理学者・作家の多湖 輝氏)の本もベストセラーになる前から買っていましたし。

――カッパ・ブックスの「頭の体操」シリーズですよね。私も読んでいました。そういう自分がインスパイアを受けたものに対して、今風のアレンジを施したいということでしょうか。

日野: DSの『脳を鍛える大人のDSトレーニング』が流行るのであれば、自分が好きだった多湖先生の「頭の体操」もゲームになるはずだというところがありました。

――それが『レイトン教授』につながったんですね。日野さんのプロジェクトを見ていると、かつて自分や日野さんが見てきた昭和のアニメや昭和のテイストのオマージュの要素が感じられます。インスパイアを受けた上で、日野さんの感性と今風のアレンジでコンテンツを作っていくという。

日野: 僕は、一番信頼できるものは自分の過去の経験だと思っています。子供向けのものを作ろうとして今の子供たちを研究しても、どう頑張っても今の子供たちにはなれません。世の中が違いますし、学校で起こってることも全然違います。ただ、子供たちが持っている知識とか感性の中で楽しいと感じることは今も昔もそう大きく違わないと思うんですよ。強いロボットが出てきて悪いやつを倒すような熱さは、映像のクオリティは変わったとしても、本質は今と変わらないですよね。熱血スポーツものも形は変わりますが、今でも通用する要素がありますし。でも、昔のアニメを今そのまま見ても、周りの環境や世界観が違いすぎて子供たちが感情移入できないですよね。もちろん、今の世の中にあったものだけでも一つ作品にはなるとは思っていますが、坂本龍一さんが自身の音楽性の95%は過去の人たちのクリエイティブな遺産によるものだと言われていますが、自分も同じなんです。科学と同じで、過去の人たちが築き上げてきた科学に今の科学者たちが上乗せして最先端なものを作っています。それはゲーム作品にも言えることですし、映像作品にも言えることです。子供たちを喜ばせるために開発された過去の様々な手法やシチュエーションは今ももちろん使えますが、最先端の技術と手法を取り入れたものにしなければいけません。例えば昭和のサッカー漫画と『イナズマイレブン』の関係もそういうことが言えます。『イナズマイレブン』の技は過激さが相当アップしていますが、「ドラゴンボール」を経て進化してきている作品を見てきている子供たちには、技を使うということの度合いはこのくらいの映像で見せないと技とは思わないんです。ただスピードが速いというエフェクトが出るだけでは、観念が変わっているので技とは言えないかもしれないんです。そこに必殺技として名前がつくレベルの技にするためには、今の技術を使ったすごいと思える映像にしないといけません。昔ながらの神髄みたいなものを、人を楽しませる根本的な部分では使いつつ、今の感性やセンスを取り入れた新しい作品を作るというのが、一つの必勝法なのだと考えています。

――『妖怪ウォッチ』を例にとると、元々のインスパイアを受けたものはあったのでしょうか。例えば藤子不二雄的な世界観など。

日野: 僕は藤子不二雄の世界観は大好きで、まさに『妖怪ウォッチ』もそうなんです。『ドラえもん』みたいな30年続く作品を作りたいと考えたときに、やはり主人公はのび太君みたいなほうがいいのかと考えると、今は補修授業があったりしてあそこまでの落ちこぼれを生まない社会になりつつあります。そこで、一番残念に表現できるのは「無個性」だと考えました。主人公が馬鹿にされる要素があって、そこを笑いにしていくのであれば、現代の主人公像というのは、何もできない落ちこぼれではなくて特徴がない「普通」と呼ばれてしまうような子のほうが、現在ののび太君なんじゃないかと。『妖怪ウォッチ』は現代を反映した『ドラえもん』のような作品なんです。

■人との繋がりが築き上げていったクロスメディア展開


――そういった作品の中でクロスメディア戦略というのをお考えになっていますよね。ご自身でトータルで作りたいという考えが元からあったのでしょうか。

日野: クロスメディアでは、『スナックワールド』が第4弾、『メガトン級ムサシ』が第5弾がとなっています。もともと『イナズマイレブン』が最初のクロスメディアとしてアニメ・ゲーム・漫画で展開していて、そこに玩具も入ってきた形です。でも、『イナズマイレブン』を最初にやり始めたころは、玩具はクロスメディアのプランに入ってなかったんです。次の『ダンボール戦機』ではプラモデルを扱う仕組みだったので、そこでクロスメディアの戦略の中に玩具が組み込まれるようになりました。そうやって、いろいろなクリエイティブ関連の人たちと知り合う中で、彼らとビジネスできるようなものを取り入れた企画を考えるようになりました。そして『妖怪ウォッチ』では、玩具のことも含めて全方位の商品展開を考えた上でのプロジェクトとなりました。

――それを考えると、クリエイターと経営者両方の側面からすごいことをされていますよね。トータルでそこまでされている方は日本では非常に少ないと思います。

日野: 幸せなことに自由にやらせてもらっています。僕もプランナーによく言うのですが、ものを作るプランナーの最大の敵は恥ずかしさというか、自分が考えたものを人の前に出して「何それ全然面白くないね」と言われるのを怖がることなんです。だから、どうしても過去に流行ったものを踏襲したり、発想として守りに入ってしまうんですね。僕は、過去に自分の企画がNGにされた経験がほとんどなかったので、自分の企画を出したときに批判されるのを全然恐れていませんでした。恥ずかしげもなく恥ずかしいことを書けていました。例えばそれを誰かから批判されたとしても「それはお前のほうが間違ってるんじゃないか」みたいな気持ちでしたね(笑)。もし本当に自分が間違っていたとしても、そのくらいの気持ちで周りとやりとりできるとプランナーとして発想が自由になると思うんですよね。だから、最初の企画立案の部分を強く立ち回れるのだと思います。僕が先輩たちから教えられながらステップアップ型で育ったプランナーだったら、たぶん現在のようにはできていないですね。何も下積みがないままプロジェクトリーダーをやったり、メインプログラマーをやったりと、僕はほとんど飛び級でやってきていましたから。誰にも制限されないところで発想できるということが一番大事なことだと思います。最終的には周りの評価を得られなければクロスメディアもできませんでしたし。例えば、自分の恋愛をひけらかすような企画を持ってくると、恥ずかしいなとか否定されるのではとか、いろいろなバイアスが働くじゃないですか。しかし、結局のところ人間の深いところに刺さるものは、恥ずかしいものと瀬戸際のところにあると思うんです。その恥ずかしさの瀬戸際のところで起こるものを作らなければ、今日ではヒットできません。その一歩手前でやめてしまうと、振り切ったものにならないんです。そういう意味では、僕にはどこまでの才能があるかはまだ謎ですが、自分が持っているものを100%使う土壌を持っているという部分が、おそらく他よりも有利なのだと思います。

――一方で、組織的なところでは、やはり日野さんの存在が絶対的過ぎて、現場から企画などが出にくいものになっていたりはしないのでしょうか。

日野: 出させようとはしてますが、普通に出にくいと思いますね。先ほど述べたことの逆パターンではありますが、この企画を出したら日野さんが何か言うんじゃないか、となってしまうでしょうし、僕はもちろん言うと思うんです。でも、それはしょうがない部分で、それを乗り越えてくるか、乗り越えられないなら僕の手の中でやってもらうしかなくなるわけですよね。そこを乗り越えてくるような人間が出てくる土壌は、作っておきたいと思っています。

――実現はされていますか。

日野: いくつかは良い企画はでてきています。実現するために、ここから少しずつやっていきたいですね。

――レベルファイブがベンチマークとされている会社はあるのでしょうか。

日野: 今はディズニーのようにIPを適切に扱える会社になりたいと思っています。自分たちが育ててきたIPをしっかりと守って、きちんとそれを商品にしていく。ゲームや映画でも、それを長く維持していくことをやっていきたいですね。

――もう一つお聞きしたかったのは、わりと早い段階から九州におけるクリエイティブの会社と連携していることについてです。10月22日には九州でCEDECがありましたが、積極的に地方の産業を活用、もしくは促進されるようなことをされていますが、そこは九州に対して思い入れがあるからなのでしょうか。

日野: 僕が育ってきた場所ですし、会社も最初に福岡に作っていますから、そこに対して思いいれはもちろんものすごくあります。ただ、僕にはあまり地方を盛り上げようという意識はありません。福岡には隠れた良いものがあるというか、元からパフォーマンスがあるんですよ。クリエイティブが育ちやすい環境ですね。僕がたまたま福岡にいて、福岡にはそういった潜在能力があったので育てたいと。もし全く潜在能力がないところで育っていたら、地元愛だけでそういったアクションを起こさないでしょうね。

――福岡という街自体がそういったポテンシャルを持っていて、育てればさらに伸びると。確かに、松山さん(サイバーコネクトツー代表 松山洋氏)も福岡で活躍されてますね。

日野: たまたま近くに才能のある人材がいた、みたいな感じに近いと思います。

――『スナックワールド』ではスマホ版が先行されると伺っていますが、その意図について教えてください。

日野: はい、今のところはスマホ版を先行して、玩具との連携の実験をしていこうと思っています。

――コンテンツの作り方に関しては、スマホと従来型のゲームでは別々の考え方をされているのでしょうか。

日野: いえ、『スナックワールド』に関しては、スマホに合ったものを作るとかいう意識はありません。プロジェクトとしてどのような仕掛けがいるかという判断の上で作っています。あまりスマホであることは意識してないですね。

《編集部》

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