スマホクラッシュ2015・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第45回 | GameBusiness.jp

スマホクラッシュ2015・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第45回

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スマホクラッシュ2015・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第45回
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未来を予測するには歴史を振り返るという方法があります。もしくはアラン・ケイの言葉のように「未来を予測する最良の方法は、自らの手でそれを創り出すことだ」という考えもあります。いずれにしても、先人たちの知恵や経験、もしくはそれらを踏まえて自身で考えて仮説や想定を行ったうえで意思決定を行い、道を選んで進んでいくことが必要だと思います。

そのような意味でも歴史や先人の行動を研究したり参考にすることはとても大切なことだと思います。話はそれますが、現在、日本の政治の向かっている方向や方針に危惧することは、それらが歴史上のとある時代の潮流に近いという感じる多くの人々がいることであり、歴史や過去にあった間違いと同じようなことを繰り返すまいと考える思想や世論の表れだと思います。

さて、前回のコラムで「ATARI GAME OVER」という映像作品の日本版を手掛けることになった経緯とそのコンテンツの内容に関して書かさせていただきました。おかげさまですでに初回発注の数量も確定しており、現在の冷え込みが激しいDVD市況のなかでは幸先のよいスタートを切れそうです。皆様のご支援のおかげです。ありがとうございます。

その「ATARI GAME OVER」はアメリカでもっとも短期間に成功したビデオゲーム会社ATARIをテーマにしたもので、1983年に起こったアタリショックというものを軸に、その要因として語られるスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『E.T.』のゲームカートリッジの処理、その『E.T.』を開発したハワード・スコット・ウォーショウの失われた30年の人生を掘り起こす物語でした。詳細な内容は前回のコラムを参照いただきたいと思いますが、一般に言われるアタリショックというものは単一の『E.T.』がもたらしたものではなく、現在では、いくつかの要因があると言われています。

まずはコンテンツ面からの考察ですが、

(1)ATARIの経営陣が利益獲得を最優先にしたために自社コンテンツの粗製乱造が行われた

(2)『E.T.』の権利獲得料に2200万ドル(現在の価値で22億円)を支払ったといわれるような、利益率を度外視しキャッシュフローが悪化

(3)自社のみならずサードパーティコンテンツの粗製乱造とクオリティ管理ミス


続いてはハードウェアからの考察ですが、

(4)1977年に発売されたATARI2600(VCS)は導入から5年経過しており、ハードウェアとしては全盛期を過ぎており、他社からも多様なハードウェアがリリースされていたなかで、ATARI社自身の新規ハードウェア開発導入自体が遅延した

といったような理由が考えられます。

またこれらの出来事により、当時の親会社ワーナー・コミュニケ-ションズからの開発予算や販売管理の大幅な削減により、オーバーナイト・レイオフ(その日のうちにクビ)に実施され、1万人以上いた従業員は2000人の規模にまで縮小されてしまい、社内外の業務レベルが低下したと言われています。それらの結果、ニューヨーク証券取引場でのワーナー株式の大幅な暴落が起こりました。さらにその暴落の直前にATARI・CEOレイ・カサール が手持ちの株式を売却したことでインサイダー疑惑がもたれたことも企業イメージの毀損につながったと言われています。

ちなみにこれらの出来事は、アメリカ本国では「アタリショック」とは呼ばず“Video game crash of 1983(ビデオゲームクラッシュ1983)1983年のゲーム崩壊”と呼ばれています。

つまり、その出来事は、アタリ単体の崩壊というよりもビデオゲーム市場の崩壊と言われています。この市場崩壊により、ビデオゲーム市場は1982年のビデオゲーム売上が約32億ドル(当時の日本円レートで約7500億円から、1985年の売上は約200億円にまで減少してしまったことに起因しています。

現在の日本に振り返ってみましょう。

家庭用ゲーム市場はPS4がけん引するものの、海外市場ほどの盛り上がりには欠けています。おそらく海外パブリッシャーが手掛けるAAAクラスの開発予算を捻出することのできるパブリッシャーが少なくなったことも要因でしょう。 その経緯として、家庭用ゲーム市場を構成してきたコンテンツパブリッシャーがスマートフォン系のアプリ開発に資金と人材を投入したことも要素として大きいと言えます。

すでにスマートフォンのコンテンツ市場の主要なプレイヤーは決まりつつあり、それらの会社は資金力、開発力などを兼ね備え、ランキングの上位を独占するに至りました。頼みの綱は志の高いインディーズコンテンツか、自分自身の創りたかったものが様々な事象を経て評価されてヒットに結びつくようなコンテンツかもしれません。

情報が均質化されて早期に共有化できる現代において、かつての世界同時恐慌のような悲劇は起こらないと思います。また40年前のアメリカで起こった“Video game crash of 1983”のような劇的な出来事や目に見える形での大きな市場崩壊はありません。しかし、信号機のようなブルー、イエロー、レッドという段階ではなく、すでにブルー、レッド、ブラック(先行きが見えない)な市場になっているのではないでしょうか。反省を教訓に歴史を振り返ってみる時が来ていると思います。

アイルランド出身の文学者バーナード・ショーの言葉を借りれば「あらゆる歴史は、天国と地獄の両極端の間にある世界の振動の記録にすぎない。一期間というのは、その振子のひと振りにすぎないのに、各時代の人々は、世界がつねに動いているので進歩しているのだと思っている。」

記)
DVD「ATARI GAME OVER」  2015年9月16日発売
http://www.amazon.co.jp/dp/B011QOTUH2
「ATARI GAME OVER」日本語版予告編 
https://www.youtube.com/watch?v=8wfwmi0spkA&feature=youtu.be

■著者紹介

黒川文雄

くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHNjapanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。「ANA747 FOREVER」「ATARI GAME OVER」(映像作品)「アルテイル」「円環のパンデミカ」他コンテンツプロデュース作多数。
《黒川文雄》

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