PSVita、買っていい人、買ってはいけない人・・平林久和「ゲームの未来を語る」第27回 | GameBusiness.jp

PSVita、買っていい人、買ってはいけない人・・平林久和「ゲームの未来を語る」第27回

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やや、扇動的な見出しをつけましたが、本稿の概要を先に述べます。
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やや、扇動的な見出しをつけましたが、本稿の概要を先に述べます。

PSVitaが2011年12月17日に発売されました。
携帯ゲーム機とはあえて呼びません。この多機能ハードは、使う人の環境によって満足度は大幅に変わります。

まず前半で、私のPSVitaの一言レビュー。「満足度は大幅に変わる」の趣旨を語り、後半ではより多くの人に満足をしてもらうには、どのような改善すべき点があるのかを語ります。

■東京と非東京

私はPSVitaの発売日当日に3G/Wi-Fiモデルを入手しました。
東京・渋谷にあるビックカメラの開店とともに、予約者の行列に並んで購入。私鉄で一駅乗って帰宅しました。ワクワクした気持ちで箱を明け、付属品装着し、保護シールを貼り、電源を立ち上げました。

システムアップデートがあり、PSN(プレイステーション・ネットワーク)の登録をし、家庭内のWi-Fiと、愛用しているイー・モバイルのポケットWi-Fiと接続。Twitter用のクライアント「Tweet Live」をダウンロードし、アカウントを設定。プレイステーション3のリモート機器設定もしました。かかった時間は約40分。想像以上に長かった。初期設定の時に画面に表示される用語や、その手順から受けた第一印象は「PCを買ったときみたい」でした。

設定作業をしながら、私は選挙を連想しました。
2011年12月17日は、PSVitaの開票日のようなものです。
ユーザーという名の有権者の判断が下されます。

都市部では売れる。だけれども、地方では票が取れない=あまり売れないのではないだろうか。そんな印象を持ちました。

PSVita発売直前の12月6日、米国の大手リサーチ会社、コムスコアがスマートフォンの普及率を発表しています。私はこの統計データを見ていました。このデータはIT化、特にモバイルコンピューティングの地域格差を示しています。感じていたことが数値化された思いがしました。

東京都内の電車に乗っていると、全員がスマートフォンを持っているかのような錯覚に陥ります。しかし、全国平均で見れば普及率はまだ12.8%。この統計に誤差があって、上ブレがあったとしても15%程度でしょう。同データにある、四国でのスマートフォン浸透率(*1)、1.7%は驚きの数字です。

このデータを見た次週の出来事だったため、なおのことPSVitaは都市部以外の地域では売れるのだろうか? という問題意識が頭によぎったのでした。

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私は、PSVitaを持って家を出ました。
都心から離れてみようと思いました。日帰りで戻れるなるべく遠い場所。行き先も決めずに電車に乗って、降り立った場所は山梨県の大月市でした。生まれてはじめて下車した駅です。駅からは立派な市役所が見えますが、のどかな中都市です。市役所の反対側の出口には、緑の畑が広がっています。

発売日当日に、渋谷・新宿を通過しただけで5人ほど「フレンド申請」があったのですが、この都市にフレンドはいないだろうな。そんなことを思いながら肌寒い大月の街をウロウロと歩いていました。

夕暮れ時です。お腹がすいたので、ひなびた雰囲気の食堂に入りました。夫婦で経営している店のようで、気さくなおかみさんが「いらっしゃいませ」と声をかけてくれます。

私は注文した焼肉定食ができあがるまでの時間、購入したばかりのPSVitaを触り続けていました。PSVitaについてどう思うか。名も知らぬ大月市民に突撃インタビューをしようと思った瞬間、おかみさんのほうから声をかけてくれました。

「お客さん、そのきれいな絵の機械、任天堂の新しいのですか?」
脳内に、キタ━(゜∀゜)━! の文字が走りました。
私は冷静に、これは任天堂製品ではなく、PSVitaという今日発売されたばかりの製品であることを説明しました。

おかみさんの次なる質問は「触ってもいいですか?」でした。
私は「もちろん、どうぞ」と言ってPSVitaを手渡すと、画面をスワイプしました。

「へえ、こうやって動くの。はじめて触ったわよ!」と大喜びをしています。陽気なおかみさんは、奥の調理場に駆けつけ、娘さんを呼んできました。歳の頃は20歳前後でしょうか。

さすがに「任天堂の」とは言いません。
「PSPですか?」と私に尋ねました。
私はおかみさんにした説明よりも、やや詳しくPSVitaのことを説明しました。娘さんは「画面を見せてください」と言いました。

私はとっさの判断で『パワースマッシュ4』を起動しました。『みんなのゴルフ6』よりも、フォトリアリスティックなCGを見たほうが驚く、喜んでもらえると思ったからです。作戦は成功しました。母譲りなのか陽気な娘さんは、「きれい」「PSPとは全然違う」「本物のテニス選手みたい」と立て続けに感想を述べてくれました。

注文した焼肉定食を食べました。
その間も母娘はPSVitaに興味津々でした。私がつい3GとWi-Fiと口走ったもので「それは何が違うんですか?」と質問され、ちょっとした通信インフラの技術解説がはじまってしまいました。でも、説明ベタだったようで‥‥

おかみさんは「あたしには、さっぱりわからないけど凄い世の中になってるんですねぇ」と感想を述べました。食事が終わると、「これ、サービスよ」と言っておかみさんは、みかんを2個、私が座っていたテーブルに置いてくれました。スマートフォンの普及率が高くても、東京のレストランにはないサービスだな、と思いながら、みかんを食べました。お勘定をすませ、「ごちそうさまでした」と言い残し、私は再び東京へと戻りました。

頭で考えるだけではなく、大月市に来て良かったと思いました。
発売日時点のPSVitaは、都市部に似合う。実感できました。都心から電車で1時間半も離れた場所に行けば、PSVitaは別次元からやってきた物体のように思われます。「32GBのメモリーカードは売り切れなんですか?」と尋ねる予約者の声が響いていた、この日の朝の渋谷とは大違いです。
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地域だけではありません。知識や経験や生活スタイル、価値観の違いによってPSVitaは顧客を選びます。以下のチェックボックスのレ点がたくさんつくほど、PSVitaに満足をし、少ない人にとっては単なる高額なゲーム機になってしまうでしょう。

□自宅にWi-Fi環境が整っている
□インターネット接続が独力でできる
□USB、WEPキー、MP4などの最低限のコンピュータ用語が理解できる
□プレイステーション3を持っている
□トルネを持っている
□インターネット接続されたPCを持っている
□PSNのアカウントを持っている
□自分で決済できるクレジットカードを持っている
□PSNのクレジットカード以外の決済方法も知っている
□スマートフォン、またはタブレット型PCの利用経験がある
□ポケットWi-Fiを持っている
□人口密集地帯に住んでいるか、通勤・通学をしていてNearの機能を楽しめる
□無料アプリ、Twitterのアカウントを持っている
□無料アプリ、ニコニコ動画のアカウントを持っている

私はすべてチェックマークがつけられるので、PSVitaを使い倒しています。

今回のタイトル、PSVita、買っていい人とは、このチェックボックスにレ点を多くつけられる人のことです。代表例が大月の食堂のおかみさんですが、レ点がつけられない人は買ってはいけない人です。

■PC臭の体質改善

PSVitaがこれから売れていくためには、コンピュータに対する基礎知識(リテラシー)によって、評価が変わってしまう「満足度格差」を埋めるのが急務でしょう。

初期設定から、実際にPSVitaを使えるまでのフローチャート、ならびに表示メッセージは改善すべき点がいくつもあります。

PSVitaを買った。インターネット接続などは、後回しでいい。
購入者はすぐに遊びたい。その気持ちをくみ取ってあげなくてはいけない。

PSVitaを起動させると同時に、「ゲームを差し込んで遊んでみますか?」。
せっかくよくできた内蔵アプリケーションがあるのですから、「ウェルカムパークに行ってみますか?」。
そんな導線が敷かれているのが自然です。

月並みな手法ですが、PSVitaでどんなことができるか、ツアーと称した動画解説が流れるだけでも、初対面の印象は格段と変わってくるはずです。

スクロールして長い利用規約を読んで、「同意」のボタンを押すのは、PSVitaと購入者がある程度仲良しになってからでも遅くはないでしょう。

あと、これはセットアップ終了後、つまりすべてのユーザーが、いつも見る画面なのですが、ロゴ表示のあとの「ご注意:取扱説明書に書かれている健康と安全についての注意事項をよく読んで‥‥」の表示は、必要なのでしょうか。PSVitaは人間に害悪を与える機器であるかのようです。

百歩譲って、どうしてもこの類の警告文が必要だとしたら、黒背景に白文字、しかも起動時ではなく、ウェルカムメッセージの後に、さりげなく言うような演出にならないものなのか。

米国、訴訟社会で生まれたあのWindowsでさえ「ようこそ」と言ってくれるのに、エンタテインメント機のPSVitaの「ご注意」は、いかにも無粋です。

細かいことを言っているようですが、これはPSVitaと利用者の関係がどうありたいのかを示す、重要な問題です。もし、PSVitaにかかわる事故が起きても、メーカーは警告文を表示している。訴訟を起こされても負けないための物言い、に見えます。

インターネット接続。
アクセスポイントのパスワードを入力してください。
わかる人にとっては何の苦もないことですが、「そのパスワードとやらはどこに書いてあるの?」と右往左往する購入者は、きっといるはずです。SSID(Service Set Identifier)の下に、「無線を識別するための記号です」と書いてあれば、それが何のことか戸惑う人が、少しは減るでしょう。

私が冒頭で「スマートフォン、またはタブレット型PCの利用経験がある」という項目を入れたのは、3G回線のオン・オフが、利用シーンによって使い分けることができるか? の意味が込められています。[設定]→[ネットワーク]→[モバイルネットワーク設定]→[モバイルネットワーク?]の右のボタンをタップすれば、ムダに3G回線を使った接続をしないですみます。これもわかる人にとってはわかる概念であり、見慣れた画面です。ですが、3GとWi-Fi併用端末を持っていない圧倒的多数の人は理解に苦しむでしょう。(*2)

例を挙げればきりがないのですが、PSVita。
ようは、ソニーのVAIOやXperiaとは違うお客さんが使うのだ、というポリシーをはっきりと示した、次期システムバージョンアップに期待します。

ここで終わるのが文章のキレはいいのですが、まだ書きたいことがあります。
改良すべき点のきわめつけは、コンテンツ管理ソフトのダウンロードの手順です。
画面にはこう表示されます。

パソコンにコンテンツ管理アシスタントを必ずインストールしてから、USBケーブルでPSVitaを接続してください。コンテンツ管理アシスタントは以下のサイトからダウンロードできます。
http://cma.dl.playstation.net/cma/

ダウンロードサイトがブラウザでURLを手入力する仕様になっています。
これでは大月市の食堂のおかみさんは、一生、PSVitaでビデオや音楽を楽しめないでしょう。

コンテンツ管理アシスタントは、PSVitaではなくPCにインストールするソフトです。
たとえば、PSVitaの公式サイトに、わかりやすくダウンロードサイトへのリンクが貼られていればサイトアクセスが増え、購入者の手間は省けます。

PSVitaの発売時、フリーズ問題が起きました。
他メディア、インターネット掲示板等では、大騒ぎになりました。
もちろん、好ましからざることですが、初期不良は人の病気の診断に似ています。指摘箇所=患部を手術すれば治癒できます。

病気の診断は他の方たちに任せるとして、私は体質の話をしました。
私はPSVitaに、そこはかとなく漂うPC臭(「ぴーしーしゅう」と読んでください)が消されていく、体質改善を望んでいます。


本稿(*1)(*2)の箇所は、引用データの浸透率を普及率を筆者誤って解釈をしたし、誤記いたしましたので訂正いたしました(2012年1月15日)。誤解を与えました読者の皆さま、出典元であるコムスコア・ジャパン株式会社、ならびに関係各位に謹んでお詫び申し上げます。


■著者紹介
平林久和(ひらばやし・ひさかず)
株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式サイト公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuHです。
《平林久和》

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