歴史的な過渡期、2011年9月・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第24回 | GameBusiness.jp

歴史的な過渡期、2011年9月・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第24回

■9月のできごとを振り返れば

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■9月のできごとを振り返れば

予定を変更しました。
東京ゲームショウ2011。
開催4日間の総括をする原稿を書く予定でした。
ですが、4日間に限っての、しかも千葉県・幕張メッセの空間内でのできごとをまとめることよりも、2011年9月に起きたいくつかのことを俯瞰することに意味がある、と判断させていただきました。

私はピンポイントのできごとよりも全体像が書きたかったですし、「史上最大の動員数」といったニュースを、すでにご存知の読者の皆さんにとって、異なる角度から見た東京ゲームショウ2011、また昨今の業界動向をお伝えできると思い、本稿を書きます。

本題に入るまえに、キーワードを列記します。

・オープン化
・クラウド化
・マルチデバイス化
・ソーシャルゲームの新時代へ

の4つを挙げておきます。

これらのキーワードにかかわるできごとにつられるようにして、ゲームの遊び方、あり方は変わり、業界動向にも変化が起きるでしょう。

まず、とりあげたいのは、2011年9月6日から開催させたCEDEC2011です。例年の通り、地に足がついたゲームづくりの研究報告や成果発表が行われました。昨年以上にスマートフォン、ソーシャルゲームと名がつくセッションが多かったのが特徴でしょうか。

他の特徴として、外向き志向の既存のゲームにとらわれないCEDECを感じました。「癒しや楽しさを与える公共空間エンタテイメントディスプレイ」、「芯まで柔らかいぬいぐるみロボット」、「これからはコラボレーション・プロデュース〜1つのコンテンツを異業種へ拡散させるプロデュース論〜」。これらセッションから、閉じられたゲームづくりという部屋の、空気を入れ替えようとするメッセージが発信されました。

私はCEDEC2011のあるセッションでモデレーターをつとめさせていただきました。

その打ち合わせの時点にて、事務局の方から「今までのゲームの価値観から、ぜひ離れてほしい」「業界の転換期だから、答えは出さなくてもいい。そのかわりに来場者の方に考える素材を提供してください」とご依頼されました。

ゲームをゲームの枠に閉じ込めない。
オープン化の意志を持って開催されたCEDEC2011が9月上旬に行われました。

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話は転じます。

CEDEC2011の最終日。9月8日、NTTドコモの新製品発表会で、ハンゲームを運用するNHN Japanが、クラウド型ゲーミングサービス「ジークラウド」(G CLOUD)を発表しました。従来のハードがしていた情報処理も、ソフトの作動もクラウド上で行ってしまおうという、新サービスです。

アメリカでは昨年からOnLiveという同様のサービスが開始されています。

私は、ハードもソフトもサーバー上に置かれる。ゲームがクラウド化する未来が、いつかやってくると、5年ほどまえから予測していました。でも、その未来が訪れるのは、まだ遠い先のこと。そんなイメージを持っていました。しかしながら、考えを改めなくてはいけないかもしれません。「ジークラウド」の発表は、時計の針は意外と早く回っていることを示すできごとでした。

米国時間9月13日のことです。
マイクロソフトはカリフォルニア州アナハイムで開発者カンファレンス、Build 2011を行いました。次世代OS「Windows8」の詳細な仕様が公開されました。注目すべきは、Xbox LIVEの機能が「Windows8」に組み込まれることが明らかなったことです。

これは以前からの噂、「Xbox360対応ソフトがPCでも遊べる」がより現実的になったことに通じます。

世の中にパーソナルコンピュータがたくさんあるのに、なぜ、ゲーム専用機が必要だったか。同じCPU、同じメモリ容量、同じグラフィックボードを積んだ統一されたフォーマットが必要でした。そのために生まれ、繁栄してきたのがゲーム専用機です。

クラウドコンピューティング技術が進めば、条件が変わります。
PCの性能に依存せずに、Xbox360のゲームを動かすことができます。その布石が打たれた9月13日と言ってもよいでしょう。

現に日本マイクロソフトは、後日、9月23日にXbox360用のゲームソフトがスマートフォン(Windows Phone)でも遊べることを発表しました。このサービスを支えているのは、やはりクラウドコンピューティングの技術です。

「Windows8」の発表は、米国で行われた単なる次世代OSの発表ではなかった。
日本を含む世界のゲームの遊び方を変えるシグナルを含んでいました。


■グリーという補助線
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他にも、2011年9月は東京ゲームショウが開催された1996年以来、はじめてのできごとがありました。

本番開催の前日と前々日のことです。
9月13日に任天堂、9月14日にSCEJがメディア、流通関係者、ソフト開発者を招いてカンファレンスを行いました。

それぞれの発表内容に関する見解は後述するとして、なぜ2社がこのような行動をとったのか、について考察する必要があります。

今年の東京ゲームショウは、はじめてグリー株式会社がブース出展することが明らかになっていました。しかも、120コマという最大級のスペースです。

マスコミ対策、世論の地ならしのために、2社は多大な費用をかけてカンファレンスを行った。以上が私の考えです。

仮に2社が無言のまま、東京ゲームショウが開催されたとすれば、マスコミはこぞって業績絶好調、今年に入ってテレビCM出稿量ナンバー1のグリーにスポットを当てることになるでしょう。

メディアは対比・対立の構図をつくることを好みます。
そして、変化が起きなくてはニュースになりません。

「ゲーム専用機の時代からソーシャルゲームの時代へ」
「スマートフォン用ゲームが多数出展」
「様変わりした東京ゲームショウ」

本番開始前から想定できる見出しであり、ニュース番組のナレーションです。

中学の数学、図形の授業を思い出してください。
線と線がつくる角度を求める問題があります。

出題された図形に、ある線をつけ足すことによって答えがわかる。答えを導くための線を補助線と呼びましたね。

グリー。
同社の出展を補助線として引いてみます。すると、任天堂・SCEJが、何らかの事前対策をしなくてはいけなかった。そのために実施されたのが、異例のカンファレンス開催だったと分析できます。

任天堂が行ったのは、新作ソフトの発表会でした。ニンテンドー3DS、33タイトル。Wii、9タイトル。ニンテンドーDSiウェア、1タイトル。合計で43タイトルのソフト出展。そのうちほとんどのソフトの詳細を岩田社長が解説をしました。

この発表方法について。
語弊がある表現かもしれませんが、メディアの中抜きです。

東京ゲームショウにて「ゲーム専用機劣勢」と報じられる以前の段階で、任天堂は自社が主導権を握るかたちで、発表すべきことを発表した、と私は解釈をしました。

ですから、あのカンファレンスは来場者のためだけに行われたのではなく、インターネット中継を視聴している顧客、または潜在顧客に向けて、色のついていない「生の情報」を届ける目的があったのだと思われます。

私は同カンファレンスを「ニュースはなかった。それがニュースだ」と論評しました。けして派手な発表会ではありませんでした。しかし、このカンファレンスは功を奏したようで、以降、ニンテンドー3DSは週あたり5万台程度、コンスタントに売れるようになっています。

■革命のバランスを考えたPlayStation Vita
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9月14日に行われたSCEJ Press Conference。
事実上の12月に発売されるPlayStation Vitaの説明会でした。

PlayStation VitaはWi-Fiモデルであれ、Wi-Fi+3Gモデルであれインターネット接続を標準としたマシンです。

Facebook、Twitter、Skype、foursquareといったソーシャルメディアのサービスに加えて、ニコニコ動画の閲覧、コメントの書き込みができることも発表されました。

つまり、PlayStation VitaはPSPの後継機ではない。インターネット上のあらゆるサービスと融合することができる。ゲーム専用機の常識だった、クローズドなプラットフォームを(一部)オープンにしたことを意味します。

Facebook以下、挙げた5つの例のほかにも、新たなインターネットを使ったサービスやコンテンツが増えていくことは、止めようのない流れとなるでしょう。

極論をいえば、グリーがPlayStation Vitaで遊べる。MobageがPlayStation Vitaで遊べる。数えきれないほどある、ブラウザゲームがPlayStation Vitaで遊べる可能性もあります。

ですが、SCEJ Press Conferenceの感想を一言でいえば、羊の皮をかぶった狼でした。PlayStation VitaはPSPの上位概念にあり、インターネット上のサービス、コンテンツを包含するビジョンがある。……そう言い切ることを避けたように思えました。

プレイステーションビジネスを支えてきたサードパーティ各社への気づかい。ユーザーにとって理解しやすい有名タイトルの紹介など、パッケージで供給される従来型のゲームソフトの具体的な発表に多くの時間を割り当てました。

PlayStation Vitaは、今までのゲームのあり方を覆すようなコンセプトを秘めたマシンですが、私がここで述べているようなコンセプチュアルなトーンを控えめにしました。

PlayStation Vitaは革命を起こしたい。しかし、急激な変化はユーザーも、サードパーティ各社も、そしてSCEJ自体も、今、すぐに望むものではない。革命を起こしたいがアクセルは踏みすぎない。速度調整をしたカンファレンスと、私の目に映りました。

さらに、私は本連載第11回「NGP、誰も語らない第二のソフトの爆発力」で語ったように、PlayStation Vitaはクラウドコンピューティングと結びつきます。

PlayStation Vitaは、ローカルなパッケージソフトとクラウドサーバーから自動的に、あるいは能動的に送られてくる情報を一画面に混在させることができます。このことについても、1月のPlayStation Meetingで発表した以上のことは触れられませんでした。

しかし、東京ゲームショウ2011で行われた基調講演でPlayStation Vitaの開発責任者、松本吉生氏はPlayStation Suiteについて詳細な説明を行いました。

技術者を対象とした講演なので「マーカレスAR」「仮想プラットフォームとしてのPSS」「開発言語はC#」などの専門用語が多用されましたが、ユーザーにとってもわかりやすいことが言明されています。

対応デバイスはPlayStation Vitaに加え、「既に発売されているAndroid端末や今後発売される端末にも、技術検証を進めていく」。

また、松本氏は「ゲームだけではないですね。一般的なアプリ、例えば乗換案内のようなもの、ニュースアプリのようなものを、Android上でも構築できますし、同じものがVitaにも出せる、ということになります」とジャーナリスト・西田宗千佳氏のインタビューに答えています(AV Watchにて)。

Xbox360のスマートフォン対応、そして「Windows8」上でも動くという噂は真実味を増しました。

PlayStation Vitaはパッケージソフト以外のインターネット上のサービスに適応し、 SuiteによってPlayStationはアンドロイド端末へと広がっていきます。

「自社プラットフォームを持ち、遊びたいソフトはそのハードでしか作動しない」。

1983年、ファミリーコンピュータ発売以来続いてきた常識。
この常識が変ろうとしていることが、明確になった2011年9月です。

■任天堂の動向について
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では、自社プラットフォームを確立することによって、世界的な企業に成長した任天堂はどうなるのか。

わかりません。
わかりませんが二方向の想定シナリオが考えられます。

ひとつは、独自路線を歩む。
任天堂はゲーム業界の潮流に関係なく、自社ハードを粛々と売り、パッケージソフトの販売を主にして収益をあげる。ゲーム業界の動きと連動しない、「任天堂業界」に閉じこもる。これは多くの人が想定するシナリオでしょう。

しかし、マイクロソフトやSCEとは違う手法かもしれませんが、大胆な革新路線を選択するかもしれない、ということをあえて記します。

任天堂は勝負するときには勝負をする企業でもあります。1985年にNTTと提携。電話回線とディスクシステムでソフトを書き換えて販売すると宣言した企業です。

Wii発売まえの発表会で岩田社長は「ゲームとテレビとインターネットの関係を変えたい」と方針を述べたこともあります。

来年発売されるWii U。米国で発表され、任天堂ホームページから見ることができるデモンストレーション映像では、ウェブブラウジングをしたり、画面つきコントローラでビデオチャットしたりするシーンもあります。

そして人に動きがあります。私が取材した情報によれば、任天堂は数年前からネットワーク技術者を多数採用しています。

任天堂は保守的な企業だ。変わらないだろう。
私の知る限り、そのような予測をする人が多数派のようですが、決めつけることはできない、との見解も添えることにします。

■東京ゲームショウ2011、本当の見どころ
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今年の東京ゲームショウ、多くのメディアはグリーの看板とPlayStation Vitaの看板が写る位置にカメラを置き、ソーシャルゲーム対ゲーム専用機の構図を見せ、語りました。(写真1)

しかし、PlayStation Vitaとソーシャルゲームは対立の関係にない。いつ融合するのかが今後の焦点だ、と考える私は短絡的に思えました。

グリーであれ、PlayStation Vitaであれ、冒頭に述べたように、クラウド化は業界全体の流れです。ビジネスデーには「クラウド/データセンターパビリオン」のコーナーがあり、11社が出展。NTTコミュニケーションズ、NECビッグローブなどの企業が、ゲーム利用に適したサーバー技術をプレゼンテーションしていました。

きらめく電飾はありません。目立たない場所にありました。
絵にならない光景です。
ですが、この場所にこそ今年らしさがありました。

9月18日。一般公開日。ビジネスデー初日には人がごった返しになっていたプレスルームは閑散としていました。東京ゲームショウの報道は、ビジネスデー初日、木曜の午前に「つくられている」ことを物語っています。

ビジネスデーであらかたのブースを見た私が1時間程度、滞在した一画がありました。その場所も目立たないところです。「ゲームで日本を元気に−かえり道のアートスペース」と名づけられたコーナーです。(写真2)

ここでは、ほぼハガキサイズのシールに、ゲームで日本を元気にするための思い思いのことを来場者が書いて、壁に貼りつけています。

その中に、「コンシューマとソーシャル、スマートフォンを融合して、TGSから世界へ!!」と書かれた一枚がありました。(写真3)

読んだ瞬間に、膝を打つ思いがしました。
示唆に富むメッセージです。

対立の構図は、過去の構図です。
なかば意図的に、つくられた構図です。

融合、つまり今までの線引きが変わりつつあることを来場者のひとりが書き残していたことも、今年らしさでしょう。

GREEやMobageが提供しているからソーシャルゲーム……アイテム課金するからソーシャルゲームなどという狭い意味ではなく、ネットワーク化されたゲームたちは、すべてソーシャルになっていきます。

ソーシャルの意味は「社会的な」です。
ゲームは社会を構成する人と人が、つながりを持つことによって当たり前のように次のステージへと向かっていくことでしょう。

・オープン化
・クラウド化
・マルチデバイス化

これらは文明の進化がもたらすメガトレンド=大きな流れです。
本稿は「歴史的な過渡期」と大それたタイトルをつけましたが、ゲーム業界が、何か激変を起こしたわけではありません。

ゲーム業界も、世の中全体を包み込む流れに従っている。
そのことがより明らかになった、2011年9月でした。


■著者紹介
平林久和(ひらばやし・ひさかず)
株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式サイト公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuHです。
《平林久和》

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