E3 2011、旅の記録・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第20回 | GameBusiness.jp

E3 2011、旅の記録・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第20回

E3 2011が終わりました。現地でPlayStation VITAとWii Uの記事を書きましたが、今回は総集編です。日本のゲーム業界の皆さんは律儀で几帳面です。すでにたくさんの報道がされており、これらは社内共有サーバーにストックされ、新聞・雑誌記事は切り抜いて保存されている

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E3 2011が終わりました。現地でPlayStation VITAとWii Uの記事を書きましたが、今回は総集編です。日本のゲーム業界の皆さんは律儀で几帳面です。すでにたくさんの報道がされており、これらは社内共有サーバーにストックされ、新聞・雑誌記事は切り抜いて保存されている
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E3 2011が終わりました。現地でPlayStation VITAとWii Uの記事を書きましたが、今回は総集編です。日本のゲーム業界の皆さんは律儀で几帳面です。すでにたくさんの報道がされており、これらは社内共有サーバーにストックされ、新聞・雑誌記事は切り抜いて保存されていることでしょう。出張に行かれた方は、部下へ、あるいは上司へ、報告をなさっています。それらの情報をなぞるようなことを書いても価値はない。今回の総集編の主語は「私」です。律儀、几帳面とはほど遠い私的な旅の記録を公開いたします。


■なぜE3か、E3とは何か

今年のE3、私がしなくてはいけないことは大量の原稿とレポート書くことだった。

ロスアンゼルスは広い。桟橋越しに太平洋が見えるサンタモニカ、高級ブランド店とパームツリーが美しく並ぶビバリーヒルズには泊まることはできない。これら地からではE3会場までタクシーに乗っても30分、料金にして50ドル程度かかる。

私はE3会場に徒歩でも行ける近い場所。ダウンタウンを宿泊地にした。いかにもアメリカ的な大手ホテルチェーンは好きではないので、オレンジ色がテーマカラーの小さなデザインホテルを選んだ。

E3とは何だろう?
原点は国際見本市だ。

はるか昔、アメリカで行われるゲームソフトの見本市といえばCES(Consumer Electronics Show)のことを指した。夏はシカゴで、冬はラスベガスで行われていた。CESの主催者は全米家電協会だった。かつて、ゲームソフトは、家電見本市会場の一画に置かれていたのだ。

アメリカでゲーム産業が大きくなったことにより、巣立った。
ゲームソフトは家電見本市を間借りすることをやめ、独立して電子娯楽の博覧会を開催することにしたのだ。1995年の出来事である。

Electronic Entertainment Expo。
3つのEを頭文字にするイベントが行われると初めて聞いたとき、なにやら誇らしい気持ちになった記憶がある。

繰り返すがE3はゲームソフトの見本市だ。
開催年の年末商戦に発売する製品が、バイヤー向けに出展される。
たとえば、世界最大の小売チェーン店、ウォルマートは初夏のうちに、年末商戦の計画を立てる。計画を立てたら、店頭配布用のチラシを数千万部単位で印刷する。中国の印刷会社に発注をし、刷り上がったチラシの船便の到着を待つ。

アメリカの年末商戦は、サンクス・ギビングデイ(Thanksgiving Day=11月の第4木曜日)からはじまる。こうした商慣習から、逆算をして5月下旬から6月上旬に開催されることになったのがE3だ。

ところが、今のE3は見本市の機能を果たしているのか、という疑問があった。
時代は変わった。ゲームソフトという商材はB to B(Business to Business =企業と企業の取引)からB to C(Business to Consumer=企業と顧客の直接取引)の比重が高まってきている。

ネット通販がある。ダウンロード販売もある。モノを売買するためのE3は、過去と比べて価値が下がってきているのではないか。そんな問題意識を持ってロスアンゼルス入りをした。

E3に出展すると大手企業は、約10億円の費用がかかる、というのが私の目分量だ。
展示ブースの出展料、趣向を凝らした舞台設計と設営費、デモンストレーション映像の制作費、来場に配るプレミアムグッズをつくる企業もある。来場者のガイド、日本的にいえばコンパニオンの人件費、VIPルームに用意する飲食物、スタッフの旅費と滞在費。果たして、出展したことにより、10億円の元はとれるのか。多くの企業が単純計算をすれば赤字になるだろう。

だが、E3は無形の価値を生む。
プレス発表をすれば、世界から集まったメディアが報道をする。PRにはうってつけの場だ。またE3期間中は、連日、企業主催のパーティが行われる。そこでは来年、再来年に向けたゲーム業界人たちの提携や共同開発や資金調達等の、けっして報道されることのない秘められた交渉が行われるのだ。

年末商戦のための商談、PRの場、国際的な企業間交渉。
この三要素を行うための壮大な宴(うたげ)が、現在のE3の存在理由だろう。
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E3は新ハードの話題がある年は熱気を帯びる。そういう意味ではPlayStation VITAとWii Uの2機種が発表された今年は、特別な年だった。すでに多くの報道がなされている。私も寄稿したが重要な点を改めて振り返っておく。

PlayStation VITAは予想よりも安い価格設定がされた。
Wi-Fiモデルが日本での価格は24,800円(税込)、Wi-Fiと3G通信ができるモデルは29,800円(税込)。この価格が発表された瞬間に発表会場は、拍手に包まれた。アメリカらしく、指笛を鳴らす者もいた。日本において、PlayStation VITAは年末のヒット商品となるだろう。

ただし、売れるのはWi-Fiモデルになるのではないだろうか。販売方法、契約内容、対応キャリア、SIMカードの互換などは発表されていないが、3G通信ができるモデルは高額なうえに、ランニングコストがかかることが予想される。であれば、携帯できるポケットWi-Fiを購入し、通常のPCでもiPadでも利用しようと思うユーザー心理が働くのではないだろうか。

いや、他人事として語るのはやめよう。主語は「私」だ。私はWi-Fiモデルを購入する。そして、イー・モバイルか、WiMAX(ワイマックス)か? PlayStation VITAのおかげでポケットWi-Fiの特需が生まれると予測する。ポケットWi-Fiを発売している企業の方、もしこの原稿を読んでいたら、私に連絡をください。ランチをおごってくれたら、業績アップの秘策をお教えします。

私はかつて、「NGP、誰も語らない第二のソフトの爆発力」という記事を書いたが、この爆発力をより発揮するのはWi-Fiモデルだろう。

つづいて、Wii Uについて書こう。
ロスアンゼルスの天気予報は退屈だ。毎日が曇のち晴れ。この都市には雨が降らない。地中海に面していないのに地中海性気候のせいで湿度も低い。やや肌寒い、午前8時。まだ、本番まで1時間あるというのに、任天堂のメディア向け説明会の会場は、人々でごった返しになっていた。

少しでも前列の良い席で、新型のWiiの発表を見たいのだ。前半は『ゼルダの伝説』が誕生して、25周年になることを記念し宮本茂氏がスピーチ。ニンテンドー3DSの新作ソフトの紹介が続く。待ち待ったWii Uが発表され、いくつかのデモンストレーション映像が流れると、場内は沸いた。私の隣に座っていた、おそらくアメリカ人の記者は、仲間同士でAmazing! Wonderful! Great! を連発していた。

発表会が終わった。すると、開会前は厳しいセキュリティチェックを行っていた入り口が、楽しげな試遊コーナーに様変わりしている。粋な演出だ。人々は会場から離れることなく、Wii Uをはじめて見た感想を述べ合っている。皆が微笑んでいた。

任天堂の発表会場を離れ、E3の展示会場に行けば、Wii Uの展示に長蛇の列。
E3が開幕して約2時間後には、米国任天堂のスタッフによって行列の打ち切りが宣言された。行列の長さは展示方法によって変化するもの。それを踏まえて書くが、私が見た過去のE3でナンバー1と言ってよいほどの人が集まっていた。

しかし、プレスルームに行き、さっそく日本のニュースサイトを見てみると好意的な記事があまり書かれていない。のちに知ることになるのだが、任天堂の株価は下がり、それがまたニュースとなる、という悪循環が起きている。これはどう解読すればいいのだろう。

私はゲームへの情欲の差ととらえた。

Wii Uをプレゼンテーションする際に、米国任天堂のレジー(Reggie Fils-Aime)社長はこう言った。「Wii UのUからいろいろな言葉が連想できるでしょう。ユニーク(Unique=独特な)、ユニファイ(Unify=統合された)、ユートピア(Utopia=理想郷)……


私はWii Uの第一報で、世界のゲームクリエイターに向かって、さあこれで何がつくれるか、挑んでいるようだ、という趣旨のことを書いた。

Wii Uは、単体では風変わりなコントローラを持った、時期遅れのHDテレビ対応のゲーム機かもしれない。だが、そこに今までのゲーム機では発想できなかったアイデアが加われば、大化けしてもおかしくない装置だと直感したからだ。

実物を目の前で見た、ゲームの知識が豊富で、未来に対して楽観的な人々はAmazing! Wonderful! Great! と叫ぶ。だが、場内の様子を冷めた目で、ストリーミング映像や報道された写真を見てしまうと、重たそうなコントローラにしか見えないのだろうか。

このギャップが気味悪かった。私はなぜそうしたのか自分でも説明不能だが、U、U、U、U、Uが頭文字の知るかぎりの単語を頭の中で探った。見つかった。Uterus。意味は子宮だ。レジー社長が描くユートピアを生むために、Wii Uは無数のアイデアと交尾をし、受胎をし、出産をしなくてはいけない。

そのメカニズムが分かっていて情欲が強い者は興奮し、そうでないものは、「なんだ、今さら任天堂はタブレットPCのようなコントローラを発表しただけなのか」と気持ちが萎えたのかと起きている事態を整理した。

ロスアンゼルスと日本は8時間の時差がある。
時差以上に大きい反響の違いは、Wii Uをとらえる者の心の内面の違いでもある。
そんなことを考えつつ、私のE3開幕日は終わった。

■ゲームエンジンの現在
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E3展示ブースの個別の様子を、私はこの旅の記録に書きとどめない。PlayStation3のどのソフトがいいとか、それをXbox360のソフトラインナップと比較すると、どちらが良いとか。活気があった展示ブースは、アクティビジョンだったとか、ユービーアイソフトだったとか。こうした情報はすでに出回っていると思うからだ。

私は違う視点から見た。今回のE3の出展ソフト、開発ツールはどうなっているのか? に注意を払って会場内を見て回った。正直に言おう。日本のゲーム会社の3DCGは、開発ツール段階で海外の優良ソフトと比べて見劣りすることを痛感した。

名は書かないが、日本の某ゲーム会社大手。自社製の開発ツールにこだわるがゆえに、ハードウェアのパフォーマンスをいかしきれていない。対して、ゲームエンジンを巧みに使っているのが海外のパブリッシャーだ。絶妙なカメラアングルで、芸の細いエフェクトを効かせている。

EA(エレクトロニック・アーツ)は、その代表例だ。スポーツゲームはフォトリアリスティックに。『スターウォーズ(The Old Republic)』は適度にデフォルメしたCGによって架空世界を描く。『THE SIMS 3: PETS』では、ペットが愛くるしいまでの動きをする。

ゲームソフトは企画力だけではない。
個々のデザイナーの表現力だけでもない。
その事前の段階、ミドルウェア、ゲームエンジンのパワーと、それを使いこなす力量が試されているのが、現在のソフト開発競争であることが再確認できた。

普通、E3会場に訪れた者は、サウスとウエストに別れた巨大な2つの展示会場を巡回する。だが、私はUpper West Hall 501Aという会議室に行った。そこはEpic Meeting Room。エピック・ゲームズ社、アンリアルエンジンの発売元が、デモンストレーションを行っている。

マンションの一室のような空間だが、ひっきりなしにアポイントを取った顧客がやってきて商談をしている。冒頭で、商談会としてE3の役割は低下していると書いたが、この場所は例外だ。狭いスペースで、大きなビジネスディールが次々と決まっていくのだろう。アンリアルエンジンを使って発売されたゲームソフトは、すでに200タイトルを超えた。ゲームエンジンは無視できない存在になったのだ。

企画をしてから、実際にゲームらしいものが組み上がるまでに1年以上かかることを、開発者は望まない。短期間で「触れる映像」がつくれるゲームエンジンが欲しい。

プロジェクトがうまく行っていることを証明するために、デモムービーだけ見せられ、それを信じて開発費を投じるが、最後に納得のいかないデキになっていることが、ままある。それは金銭を管理する経営者も望まないことだ。

ゲームソフト開発の長期化、予算の増大化傾向。これに歯止めをかけるために、開発者も経営者もゲームエンジンの力を使おうとする。強い追い風を感じた。

■家庭用ゲーム機の未来像
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会場から出てホテルに帰る。速報性の高い原稿を書き、メールで入稿をする。東京で待機している、コンサルタントとしての私のクライアントに、SkypeでE3の様子を報告する。そんなことをしていると、すぐに現地時間で午前2時、3時になってしまう。

ロスアンゼルスのダウンタウンには、24時間営業のコンビニエンスストアがあるが、深夜は出歩かないほうがいい。私は夜食として買いだめしておいたバナナを頬張りながら、日本のニュースサイトをチェックする。すると「ソーシャルゲームの流行、スマートフォンの普及により、家庭用ゲーム機の存在意義が問われる
といった文章が目につく。

家庭用ゲーム機の存在意義。すなわち未来像……。
シャワーを浴びてもベッドに入っても、このことが頭から離れない。
各機種別に妄想が次から次へと湧いてくる。

Xbox360。
マイクロソフトは、もはや独占企業ではない。かつて、米国では反トラスト法(独占禁止法)違反として司法省に提訴され、OS会社とアプリケーション会社に2分割する命令が出たことがあった。巨大な優良企業であることに変わりはないが、一人勝ちの時代は終わった。次世代のXboxは……ある意味マイクロソフト念願の……家庭用ゲーム機とWindows が共栄する道を進むのではないか。Xboxは旗艦となるようなソフトが走る。それと連動する内容のゲームをWindows搭載PCでも遊べる。さらにそのゲームは、Windows Phoneとも関連性を持たせる。

たとえば、最高級のグラフィックスでFPSを遊ぶのは次世代Xbox。全体マップを見ながらストラテジーを考えるなど、静的な操作を行うのはPC。この際にゲームに関連したWebサービス、例は陳腐だが、戦果をフォトギャラリーにして公開するなどの付加要素をつけ加えることができる。そしてWindows Phoneでは、リアルタイムに時間が進行するなかで、ひとりの戦士を手に持った感覚で育成する。こうした端末分散型の遊びができるのではないか。

こうした遊びの姿を、仮にハイブリッド・ゲーム・コンテンツと呼ぶとしよう。ハイブリッド=ふたつ、またはそれ以上の異質のものを組み合わせ一つの目的を成すもの。次世代のXboxはPCとWindows Phoneとつながりを持ってほしい。

PlayStation3。
PlayStationも同様にハイブリッドの道がある。
PlayStation3とPlayStation VITAが連動。そしてすでにPlayStation Suiteの構想は「スマートフォンやタブレットをはじめとするAndroidのプラットフォームにPlayStationのコンテンツを提供していくと同時に、携帯型端末向けのゲームフレームワークを提供し、新しいコンテンツの開発と創造を目指します」とソニー・コンピュータエンタテインメントは公式発表している。この展開には大いに期待したい。妄想ではなく、目の前の現実として成功してほしい。

そして、次世代PlayStation。PlayStation4があるとすれば、家庭用ゲーム機がテレビジョンに組み込まれていくことがソニーの理想像となるのではないか。マイクロソフトがWindows に回帰するのなら、ソニーはハイテク家電に回帰する。家庭用ゲーム機はテレビに接続する下僕(しもべ)ではない。テレビそのものが遊びの拠点。Play=「遊び」のStation=「拠点」になるのだ。

日米の温度差があるWii U。
私はU=子宫説を唱えることにしたので、家庭用ゲーム機としてはどんな良質なアイデアを吸収できるかが、今後の成否を決めるだろう。

だが、もっと踏み込んで想像をたくましくする。Wii Uは2012年に発売されるマシンだ。めまぐるしく変化するテクノロジー、1年先のことは不透明だ。そして、家庭用ゲーム機は発売した瞬間に、サプライズを提供しなくてはいけない。とすると、今回のE3の発表内容がWii Uのすべてであるとは思えない。

あのコントローラは、携帯ゲーム機として持ち出すことはできないのだろうか。そしてゲーム機にとどまらず、電子ブックリーダーのような用途を果たすことはないのだろうか。任天堂・岩田社長はかつて、アマゾンのキンドルのビジネスモデルに好感を持った発言をしたことがある。つまり、ユーザーから通信費を徴収するのではなく、コンテンツのダウンロードに通信費がわずかに上乗せする方法だ。PlayStation VITAは3G回線を使うが、Wii Uのコントローラも3G、ないしは他のネットワーク接続を模索しているのかもしれない。そうなれば、「重くて高額になりそうなWiiリモコン」の不評は吹き飛ぶだろう。

また、この歴史はあまり語られることがないが、岩田社長はHAL研究所在籍時代に電子ブックと深くかかわりのある仕事をしている。日本初とも言えるソニーの電子ブックプレーヤー1号機「データディスクマン」(1990年発売/略称・DD-1)。このモノクロ液晶表示の電子ブックを、パソコン画面に表示して見やすくし、編集することができるソフト『Quick Pop-98』の開発をしている。私はなまじっか、そんな知識があるので、あのコントローラを見るとキンドルの姿と重なってならないのだ。

以上はロスアンゼルスのホテルのベッドに横たわっての妄想だが、Wii Uは今回の発表で全貌を見せたとはいいがたい。常識から考えても、来年発売のハードウェアについて、すべてのカードを見せることはしない。切り札は来年まで残しておくはずだ。

■思い出を残して帰路

私のE3滞在期間も残りわずかとなった。メインとなるサウスとウエストの大会場を見た後、いつもの習慣で、地下にあるKENTIAホールへと向かった。この場所は大会場に出展できないベンチャー企業や、周辺機器メーカーがひしめく。絢爛豪華(けんらんごうか)な電飾とは無縁の地味な展示会場、フリーマーケットのような雰囲気がただよう。その光景を期待した。だが、扉は閉ざされていた。展示は行われていない。

WiiリモコンもキネクトもPlayStation Moveもなかった2004年のE3。私は身振りで操作するゲームに出会った。大型ディスプレイにカメラをつけ、その前に立って手を上下に降る。すると鳥が空中を羽ばたくのだ。この画期的なアイデアに興奮した。開発したのはロシア人の双子の兄弟で、ともに19歳だった。ふたりは日本のゲームが好きで、その思いが膨らんで日本という国も好きになった。彼らは日本市場進出を夢見て、Gaijin Entertainmentという名の会社を設立した。「僕らは日本に行くと外人だから、わかりやすい名前にした」と兄が行った。

※画像1と2

兄弟は2004年の秋、東京ゲームショウを視察するために念願の初来日をした。私はその時、兄弟のガイド役をつとめた。のちに彼らとは音信不通になってしまったが、E3のKENTIAホールは未知の才能が埋もれている場所である。そこが閉ざされていたことに、寂しさを感じた。

私のE3は終わった。
帰国便に乗った。航空機のモニターに映し出される航路図の地名が、San Francisco、Seattle、Gulf of Alaska(アラスカ湾)に変わる頃、眠りについた。目が覚めたら北方領土の上空だった。

しばらくすると、Ishinomaki、Miyako、Sendaiの文字が見える。デルタ航空635便は東北地方を右手に見ながら南下していく。その時、右下を向いて黙祷をした。

今回のE3取材は、NHKの番組ディレクターO氏と同行していた。彼はE3直前まで、被災地でラジオ局の復旧を手伝うボランティア活動をしていた。彼が言うには、「被災地支援といっても欲しいモノが被災者に届いていないのが現状。屈強な自衛隊員がモノを運んでも、食品と薬品の輸送が優先され、その他の生活必需品は後回し。たとえば、女性が欲しいと思っているブラジャーを、サイズごとに分けて配るような人がいないんです。岡田克也幹事長も官邸にいないで、ご実家のイオングループに頼んで、物流のプロフェッショナルを呼んでくれ、と言いたくなるような心境になりました」。

そんな話をきっかけに、被災地の復興もゲームソフトづくりも、新ハードの今後の成り行きも日本人のマネジメント能力が求められていますね。有形・無形の資産がある。心やさしさもある。まじめな気質を持っている。ところが、大量な人員を動かして「持っているもの」を適宜に分配することが、効率的なシステムではなく、見えない空気で動く日本人は苦手……。帰国者特有の高ぶる心情で、日本について語り合いながら、羽田空港に到着した。

帰宅した。
早朝に着く便に搭乗していたので、長男が学校に行くまえだった。長男はゲームが好きだ。将来、ゲームにかかわる仕事をしたいと言っている。私はE3会場のオフィシャルショップなど、おのぼりさんが行く場所ぐらいの感覚で、今まで一度も立ち寄ったこともなかった。

だが、今回は長男の土産としてE3のロゴ入りTシャツを買っていた。これから先、E3がもっと繁栄したならば、「ボクは子どもの頃からE3のTシャツを持っていた」と誇ることができる。もしや今後、E3がなくなったとしても、「昔はロスアンゼルスでE3という名の宴(うたげ)があったんだって」と歴史を語ることができる。そんな思いを込めてバカ親は、長男にTシャツを渡したが、肩幅が狭いなどと言って一度も袖を通さない。


■著者紹介
平林久和(ひらばやし・ひさかず)
株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式サイト公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuHです。
《平林久和》

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