コンテンツ文化史学会のあゆみ・・・「ゲーム・アカデミクス」第2回 | GameBusiness.jp

コンテンツ文化史学会のあゆみ・・・「ゲーム・アカデミクス」第2回

コンテンツ文化史学会 会長 
吉田 正高

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みなさん、こんにちは!コンテンツ文化史学会で会長をしております東北芸術工科大学の吉田正高と申します。コンテンツ文化史学会は、デジタル・ゲームを含むコンテンツ全般を「文化史」という枠組みで取り上げ、研究していこう!という目的で、2009年4月に設立されました。

学会誕生のキッカケは、東京大学で自主的に実施されていた(後に教養課程の正式科目として登録)「コンテンツ文化史」講座の開講でした。そうなんです!軟弱そうな学会名とは裏腹に、講座から学会へと発展するという、ある意味、伝統的なスタイルで本学会は設立されまして、現在では会員数も150名を超え、毎年2冊の学会誌『コンテンツ文化史研究』を刊行し、年1度の大会と数回の例会を開催と、現在も堅実にあゆみを進めております。

ちなみに、東大で実施された「コンテンツ文化史」講義にゲストとしてご登壇していただいた方々を列挙してみましょうか。あかほりさとるさん、井上伸一郎さん、遠藤雅伸さん、介錯さん、唐沢俊一さん、北川米彦さん、小谷真理さん、桜井浩子さん、高橋良輔さん、中野稔さん、平山亨さん、本田透さん、真島理一郎さん、三崎尚人さん、米光一成さん、竜騎士07さん、…(あいうえお順)

どうです、マジですごいでしょう!(ここで、すごい!と思えなかったあなた!コンテンツ文化史に関する知識が不足していると思われるので、是非これから本学会にご入会ください!入会方法は末尾へ!)これは私個人へのご協力ではなく、コンテンツを学問として研究していきたいというスタンス自体を支持していただいたということであります。講義でのゲストの皆さまのお話からも、クリエイターや有識者の方々のこころざしの高さが伝わってきて、学会を設立しようという情熱を一層燃やす大きな原動力となりました。いまさらながら感謝の極みです!

さて、それでは学会設立の経緯、学会のこれまでのあゆみ、今後の展開などについて、裏話?なども織り交ぜながら、お話させていただきましょう。

■「コンテンツ文化史」ってなんだろう?

2004年9月、東京大学にて「コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム」(以下、コンテンツプログラム)が発足しました。当時、コンテンツ の分野で人材が不足しているといわれていたプロデューサーの養成を目標に、5年計画で実施されることになり、私も特任助手[当時]として、この実験的なプログラムに参加することになりました。当時の状況を振り返ると、日本のコンテンツが海外より高く評価されているという認識が広く普及し、「COOL JAPAN」という単語が独り歩きをしているころでした。「プロデューサー養成」というプログラムの目標に沿って、カリキュラムは、コンテンツに応用可能な先端的テクノロジーへの理解と、法務・財務などのビジネススキル習得の2本柱で構成されていました。

私が参加当初より不安に思っていたのは、カリキュラム中にコンテンツの歴史に関する講義が一切ないという点でした。まあ、そこは東大だし(笑)、きっとアニメやゲームの歴史的経緯もきちんと把握していて、その上で現状を改善していこう!というハイレベルな学生や社会人が集まるんだろうなあ、と楽観していたことも事実です。ところが、選抜試験を実施し、集まった履修生と接してみると、その期待はあっさりと裏切られました。プログラムに参加する履修生の多くは、直近のコンテンツには興味があるものの、10年を超える過去作品に関しては圧倒的な知識不足が露呈しました。例えばですが、「『イノセンス』が好きで、何度も劇場で観たんです!押井監督の映画、面白いですね!」と力説する履修生に、「それじゃ『パトレイバー』とか『ビューティフル・ドリーマー』は、もっと楽しめたんじゃない?」って質問したら、「何ですか、それ?」と返されて、がっかり、みたいな。改めていうまでもないことですが、コンテンツと一括される大衆文化(アニメ、漫画、ゲームなど)は、過去の作品や文化との強い連続性・関連性の上に成り立っているわけで、歴史をキチンと押さえておかなければ、作品の正しい評価や批評が出来ないのは、明白です。

危機的状況を確信した私に、ナイスタイミングで履修生サイドから、「コンテンツの歴史を学びたい!」っていうリクエストが多数寄せられました。そこで、まずは自主講義をやりますか!と始まったのが、現在は学会名ともなっている「コンテンツ文化史」講義でした。この「コンテンツ文化史」という単語はもちろん造語なわけですが、今となっては私が思いついたのか、参加してくれた履修生が言い始めたのか、定かではないです。ともかく、自主講義なので予算もなく(泣)、コンテンツ全般の歴史を俯瞰して話せる講師も不在でしたから、僭越ながら私が講師として履修生の前で話をすることになりました。当時はまだ「助手」でしたから、「講師」というのもおかしな話ですが、まあ、そこは「自主講義」なので、大目にみてください(笑)。ここでがんばったおかげか、翌年にはコンテンツプログラムの正式科目として「コンテンツ文化史」講義が採用され、コンテンツプログラムの最終年度にあたる2008年度には、東大の教養課程の正式科目にも登録され、先に挙げましたゲスト講師の皆さまをお招きしての豪華な講義を開講することができました。


2007年度の「コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム」シラバスより抜粋

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■自主講義「コンテンツ文化史」の実施と反省

講義として「コンテンツ文化史」を開講する際の方針ですが、包括的に戦後のコンテンツの歴史をつづった教科書や副読本がないという状況でしたので、まずは、戦後の国内コンテンツを、西暦10年単位で総合的に編年でまとめていこうと考え、講義の準備を開始しました。ところが、準備段階で問題点が一気に明らかになりました…

歴史学的なスタンスをとった場合、真っ先に考えなければいけないのは、作品およびそれにまつわる周辺資料に関する問題です。コンテンツ作品に関連した「一次的資料」としては、コンテンツ作品について制作当時に評価し、紹介したコンテンツ系雑誌および業界誌、クリエイター自身の言葉で語られた回想録などがあり、「二次的資料」としては、各コンテンツ分野ごとに蓄積されてきた学術研究、評論の系統に属する多数の書籍、作品を一定のコンセプトで紹介したカタログ群などがあげられます。そう、つまりコンテンツの歴史を学ぶための必読書は、無数に存在することになるわけです。

さらにコンテンツを文化史として「包括的」にとりあげるといっても、作品単位での影響の広がり、コンテンツ分野ごとの作品制作背景の差異、制作当時の政治・経済状況、歴史的な社会現象や各時代に特徴的な風俗との関連性など、考慮しなければならない点は無数に存在しており、その見極めも至難の業でした。

なんとか講義は実施しましたが、上記のような諸問題点は解決できず、講義終了後に猛省しました。「コンテンツ全般を総合的に文化史研究の題材とする」という命題を掲げた場合、作品数や関連資料などの膨大さが、個人による考察・分析の領域を大きく超越していることは明らかでした。


2006年度「コンテンツ文化史」講義の様子

■「コンテンツ文化史学会」の設立

個人で手に余る難事に対応するにはどうするかといえば、解決方法はほぼひとつ。目的意識を共有できる複数の人間と協力し、さらに切磋琢磨できる「場」を作ればいいということです。学術研究を実践する場合、その基盤となるのは、もちろん学会です。そう、つまりは、緊急に学会の設立が必要になったわけです。

2008年9月、東京の御茶ノ水駅近くの某チェーン系居酒屋において、私と現在本学会で編集委員をつとめている「影の会長」(笑)こと玉井建也さんの二人で、学会設立に関する極秘会談を行いました。そこからはもう一気に話が進んで、翌2009年1月には、現在の運営委員の皆さんと学会設立準備委員会が立ち上がり、各担当委員も決定し、学会のホームページができ、同時に学会誌『コンテンツ文化史研究』刊行に向けての準備も始まりました。そして、4月には「コンテンツ文化史学会」が正式に設立され、5月には、学会誌『コンテンツ文化史研究』の創刊号が刊行される、ということで、最初の打ち合わせから、わずか半年で学会が立ち上がり、学会誌まで創刊してしまいました。何を隠そう、私自身がいちばん驚きました。まあ、キッカケを作ったのは私なのかもしれませんが、学会の立ち上げから実際の運営などに関しては、玉井さんや事務局長の七邊信重さんをはじめとした委員の皆さまのご尽力によるものといえるでしょう。

このように、本学会では、熱意のある若手研究者中心の運営体制をとっています。これは、コンテンツ文化史のような新しいタイプの研究を実践する上で、最先端の学問研究を柔軟に取り込んでいく姿勢を維持し続けることが必要であるということですし、それはすなわち旧来型の学問分野からの「越境」を積極的に支援するという我々のスタンスでもあります。また、本学会は、公的機関や高等教育機関からの支援や補助金を基盤とはしない、完全自立型の研究組織となっております。つまり、本学会は、一般・学生の各会員および本学会の趣旨に賛同する賛助会員(会社・法人など)からの年会費だけで、運営されているということになります(あ、なので、会員の皆様、年会費の納入はお忘れなく!(笑))。このような運営方針は、本学会を、誰に遠慮することなく、自らの意見を発言することができるという、いわばコンテンツに関する学問研究の実験場としたい、という願いによるものです。
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■コンテンツ文化史学会の目的とは?

本学会の目的について、概略を述べさせていただきます。日本のコンテンツは、諸外国から大きな注目を浴びるなど大きく成長したことを受け、それまで見向きもしなかった(むしろ軽んじる雰囲気すらあった)様々な伝統的学問分野において、研究対象として取り上げられはじめました。動機はどうあれ、コンテンツが認知されること自体は喜ばしいことなのですが、個別分野や単独作品のみを限定的に取り上げたり、あるいはコンテンツが引き起こした瞬間的な社会現象のみにスポットをあてる、などとという研究が目につきはじめたことも事実でしょう。とはいえ、消費文化であるコンテンツを享受している人々は、複数分野のコンテンツを差別なく一括して享受しているという事実を勘案すれば、様々なコンテンツタイプを統合的に考察するという視点も重要になってくるのではないかと考えました。いいかえれば、コンテンツを分野や作品ごとに、あるいは単に瞬間的な断面を切り取って研究材料とするよりも、その関係性や歴史性に注目していきたいということになるでしょうか。また、とりわけ近年におけるコンテンツ作品数の爆発的な増加に鑑みると、これは「コンテンツの飽和」と呼んでいい状況になっています。さらに80年代以降のコンテンツ系情報誌の増加、また2000年代以降のインターネットの飛躍的発達によって、コンテンツに関する過剰な量の情報が氾濫しています。このような状況のもと、とりわけ過去の様々なコンテンツが忘却の危機にさらされております。嘆かわしいことですが、関連性が深いと思われる過去のコンテンツの流通や普及の実態を全く無視して、直近の作品のみを対象とした研究があることも事実です。我々は過去から現在に至る様々なコンテンツ作品について、政治・文化・経済・風俗など作品成立当時の時代背景にも言及し、また歴史的な連続性および非連続性にも着目しながら、「文化史」という枠組を用いて研究を実施していくことを目標に掲げていくことにしております。

■学会誌『コンテンツ文化史研究』の刊行と例会・大会の開催

学会活動において最も重視されるべきは、学会誌の発行と例会・大会の開催であることはいうまでもありません。どちらが欠けても、「学会」と名乗るのはいかがなものかと考えております。

学会誌『コンテンツ文化史研究』は、前述のとおり2008年5月に創刊号が発行されて以来、年に2回のペースで発行を続けております。現在4号まで刊行され、近日中に第5号が刊行される予定です。各号ともに学術論文が3〜4本掲載されているほかに、書評、例会・大会の記録などで構成されております。また、2号からはじまったコンテンツ・クリエイターへのインタビューでは、これまでに飯田和敏さん(ゲームクリエイター、『巨人のドシン』『ディシプリン』など)、塩谷直義さん(プロダクションI.G所属、『ホッタラケの島』など)、本田透さん(作家・評論家、『電波男』、『ライトノベルの楽しい書き方』など)、今井哲也さん(漫画家、『ハックス!』など)にご登場いただき、それぞれ貴重なお話をお聞かせいただいております。


『コンテンツ文化史研究』創刊号表紙

例会は年2回ペースで開催しております。これまでの各回のテーマなどは下記のとおりです。

■2009年度
第1回例会 2009年6月28日(日)「コンテンツと場所」
第2回例会 2009年10月18日(日)「ライトノベルと文学」

■2010年度
第1回例会 2010年6月26日(土)「趣味文化研究の作法」
第2回例会 2010年10月23日(土)「ゲーム産業は、いかにして成立しえたのか」


2009年度 コンテンツ文化史学会第1回例会風景
 
なお、2011年度の第1回例会は、来る6月11日(土)に共立女子大学にて開催予定です。例会のテーマは「「少女」の歴史、ときめきの軌跡」(すごいタイトル!)ですので、ご興味のある方は是非ご参加ください。(詳細は本文末に掲載されている学会HPでご確認ください)。

年に1度、開催される大会では、コンテンツ文化にまつわるより大きなテーマを掲げて、研究報告や基調講演、有識者をお招きしてのパネルディスカッションを行ってまいりました。

2009年度は、11月28日(土)に東京大学において、「アマチュア文化とコンテンツの未来」と題した大会を開催しました。大会趣旨文は以下の通りです。

21世紀に入り、コンテンツ制作に関わる環境はとりわけ利便性の面で劇的な変化を遂げ、同時にインターネットの本格的な普及はCGMへとつながり、その結果、従来と大きく異なったコンテンツの制作スタイルと価値観が確立しました。それは、21世紀の名作コンテンツの多くが、先進的な制作環境やCGMをいち早く活用したアマチュアクリエイタ―達によって生み出されてきたことが証明しているといえるのではないでしょうか。

本大会では、そのような現状に鑑み、アマチュアが創作する音楽、デジタルゲーム、ファッションなどに関して精力的な考察を行ってきた研究者による3本の報告と、さらにアマチュアのコンテンツクリエイタ―が自由に創作および交流を行う「場」を提供している関係者をパネラーとしてお迎えし、討論を実施いたします。

この大会を受け、翌2010年度には「拡大するコンテンツ」をテーマとした大会を、11月20日(土)、21日(日)の二日間にわたって開催しました。初日のパネルディスカッションは、「大学におけるコンテンツ教育の現状と課題」と題して、岩谷徹先生(東京工芸大学ゲーム学科教授)、岡本美津子先生(東京芸術大学大学院映像研究科アニメーション専攻教授)、菅本順一先生(大阪芸術大学キャラクター造形学科教授)にご登壇いただきました。また、2日目には、基調講演を出口弘先生(東京工業大学)にお願いしたほか、「メディアミックスの歴史と展望」と題するパネルディスカッションを開催し、あかほりさとるさん(作家、脚本家、プロデューサー)、井上伸一郎さん(?角川書店代表取締役社長)、松智洋さん(作家、脚本家)にご登壇いただき、実りのある大会とすることができました。


2010年度大会「拡大するコンテンツ」パネルディスカッション風景 

■今後の取り組み

本学会は、設立からまだ3年目の、本当に「若い」学会です。今後の学会の進むべき指針につきましては、われわれ運営サイドが策定するというよりも、本学会の趣旨にご賛同いただき、ご入会いただきました会員の皆様の総意で決定していくものと考えておりますので、会員の皆様からのご意見を常に欲しておりますし、また学問分野を越境するような新しい視点を持った研究論文のご投稿を、心より願っております。また、ゲームに関する論文につきましても、とりわけ歴史性や文化的意義などに踏み込んだ研究論文の投稿は、大歓迎です!現在の運営委員の顔ぶれをみても、歴史学、社会学、文学、経済学など、出自はさまざまですので、会員の皆様からの多岐に渡るご要望を受け止めるだけの懐の深さはあると自負いたしております。

なお、私個人としましては、「文化史」の名に恥じぬように、過去のコンテンツに関する多様な視点からの価値や意義の再確認と再構成、史料(資料)学あるいは書誌学的なアプローチの実践、コンテンツのアーカイブに関する問題などを学会として取り上げていければと考えております。

最後になりましたが、完全に独立採算で運営している学会ですので、デジタル・ゲーム研究やコンテンツ研究にご興味のある方々には一人でも多くご入会いただきたいと思っております。年会費をお納めいただくと、年2回発行の学会誌『コンテンツ文化史研究』をお送りさせていただくほかにも、例会や大会など学会主催のイベントへの参加が無料となりますので、この機会に是非ご入会ください!

※ご入会につきましては、下記の学会HPにて随時受付ております。
http://www.contentshistory.org/


■吉田正高

1969年、東京都出身。早稲田大学大学院文学研究科博士課程満期修了。2004年度より東京大学コンテンツ創造科学産学連携教育プログラムに特任助手(のちに特任講師)として参加。2009年度より東北芸術工科大学デザイン工学部准教授。コンテンツ文化史学会会長。専門は日本近世都市文化史およびコンテンツ文化史。最近では、1950年代のカストリ雑誌や、戦後の肉筆紙芝居の研究に力を入れている。また、2010年度には映像コンテンツの制作による地域活性化・地場産業奨励を目指した『鶴岡kibisoプロジェクト』に教育機関責任者として参画した。
《吉田正高》

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