日本ゲーム産業、万歳! ・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第13回 | GameBusiness.jp

日本ゲーム産業、万歳! ・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第13回

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■はじめに

東日本大地震(東北地方太平洋沖地震)でお亡くなりなられた方のご冥福をお祈りするとともに、地震災害の被災者の方々には、心よりお見舞い申し上げます。

福島第1原子力発電所の火災により被害をお受けになられた方々、避難されている方々、一刻も早く安全が確保されることを願ってやみません。

以下、お読みいただく拙稿は、まさに東北地方太平洋沖地震が起きた3月11日、金曜日に公開を予定しておりました。しかしながら、かような大惨事が起きたため公開を見送らせていただきました。

ですが本日、「GameBusiness.jpおよび姉妹紙は本日から平常通り」にニュース配信される旨が編集長より発表されました。この方針を受けまして、拙稿を公開いたします。

■S氏からの手紙

私の仕事場のデスクに一通の封書が置かれていました。高級そうな和紙の封筒に並ぶのは、毛筆で書かれた文字。ただごとではなさそうな手紙です。

差し出し人は、「大日本ゲーム愛国協会・西園寺真理雄」。聞いたことのない組織名と人名です。はじめは、何かの嫌がらせかと思いました。カミソリの刃などは入ってないだろうかと、心配しながら注意して封を切りました。

開封して中味を読んでみました。けっしてイタズラで書いたとは思えない内容でした。

冒頭で私に威圧的な姿勢を見せているものの、礼儀正しい文面が連なります。手紙が主張するところ、かなりの偏りがあります。「感情的ではない」と言いながら、感情的な部分も多々あります。

しかしながら、極端ではありますが、ひとつのものの見方として、一読に値するとも思いました。

私は決心しました。西園寺氏の言いなりになって原稿を書くよりも、いっそのこと、あなたの書いたことを、転載してもよいか? と尋ねてみることにしました。そんな経緯で快諾のお返事をいただき、公開しますのが以下の手紙です。




拝啓

平林久和殿

貴殿に忠告を申し上げたく筆を取りました。
3月上旬のGameBussiness.jpは、GDCの報道で埋めつくされております。
貴殿の連載もまた、GDC関連のニュースであるとすれば、私は落胆の念を禁じえません。

近年、我が国ではゲーム産業のありようについて、以下のような俗論がまかり通っております。

それは「かつてのゲーム大国だった日本のゲーム産業は衰退し、諸外国、特に欧米に追いつかれた。そして追いぬかれた」というものです。

この俗論を一刀両断するのが、貴殿の使命であります。
万が一にも、貴殿が、日本のゲーム産業の危機を煽るようなことを書いたなら、私は大いに落胆するでありましょう。
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申し遅れました。
私は大日本ゲーム愛国協会という組織で総裁の座をつとめております、西園寺真理雄(さいおんじ・まりお)と申します。

GDCのニュース。
それもまた結構。報道するな、とは申しているのではありません。
しかし、こう毎日、アメリカでの報道を見せられると、私と同志はある種の不安を禁じえないのも確かであります。

日米ゲーム産業の深い歴史を知らぬ者にとっては、まるで、日本がゲーム後進国になったかのような印象を与えてしまうのではないか。おびただしい数の報道が、無自覚のうちに行われている洗脳行為のように思え、言いようのない憂慮の念が、心の底から湧き出てまいります。

冠たるゲーム大国、我が愛すべき日本ゲーム産業の重鎮たちが、サンフランシスコまで出かけ、現地のベンチャー企業の社長──自らの成功が、偶然によるものなのに、必然だと思い込む若者──のレクチャーを受けるなど、想像しただけで鳥肌が立つような光景であります。

アメリカのにわか成金が、マネタイズなどと論じております。
なんなのでしょう? このあの品格無き言語は。私は厳格な父親のもとで厳しく育てられました。子どもの頃からよく言われたものです。「日本男児たるもの、人前でお金の話をするな」と。小学生の時に、友人とお年玉の話をしただけで、往復ビンタをされました。

我ら日本人には、「はしたない」という尊き価値観があります。
facebookでどのようなゲームをつくり、どのような方法で課金をするとお金が儲かるか、などということは「はしたない」話の極みであります。

GDCに限らず、今、世界のゲーム産業で語られるのは「得」をする方法論ばかり。
「得」があっても「徳」がなければいけないことを、叫ぶことこそが、誇り高き日本人が、真っ先にすべきことでしょう。徳なき人生に光なし、であります!

以上、激しく怒りの感情を吐露してしまいました。やや冷静になります。
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私と我が同志は日夜、日本国のゲーム産業の研究を行っております。そういたしますと、冒頭に述べた「かつてのゲーム大国だった日本のゲーム産業は衰退し、諸外国、特に欧米に追いつかれた。そして追いぬかれた」が浅はかな俗論である、という考えに行きついてまいります。

まず、日本はコンピュータの基礎技術が、アメリカに比べて遅れている……という論を考察してみます。

結論。逆です。
日本がアメリカに追いついたのです。
もう一度、言います。
日本がアメリカに追いついたのです。

コンピュータはどこで生まれましたか?
貴殿ならばご存知でしょう。アメリカです。
アメリカはコンピュータの超先進国です。
電子回路設計技術を使って、大東亜戦争における戦勝国となったのであります。

当時の日本は何があったでしょうか。
竹槍です。
私の伯母は女学校時代、竹槍を持って湘南の砂浜に並び、米兵が上陸した際に突き刺す訓練をしたそうです。


▲「戦争を語りつぐ 60年目の証言」より引用させていただきました


世界初のコンピュータ、「エニアック(ENIAC)」と竹槍。
それほどの差があったにもかかわらず、頭脳明晰にして勤勉なる日本民族は、たゆみない努力によって差を縮めたのです。追いついたのは日本ではありませんか! この論のどこに誤謬(ごびゅう)がありましょう。

追いついただけではありません。日本のゲーム産業は、堂々たる戦略的な勝利を収めました。

我が日本国のゲーム産業は、コンピュータ技術の細かな戦術的部分で勝負をしてきませんでした。すこぶる賢明なる選択をしました。分散レイトレーシング手法や、アルゴリズムの高速化の研究などは、アメリカの西海岸にいる文弱の徒に任せておけばいいのです。

世界に誇るべき日本のゲーム産業は、もっと大局的な見地に立って、ハードウェアもソフトウェアも渾然一体となって、豪快にして、かつ精緻なるモノづくりをしたのです。

コンピュータに無駄な機能がいっぱいついていたら、削ぎ落とすものをすべて削ぎ落とします。ゲームだけを遊べるようにした専用機が「ファミリーコンピュータ」です。名前も素晴らしいではないですか。ファミリーです。家族です。我が日本人が大事にしてきた家族愛に満ちあふれています。こんな美しい名を持つコンピュータが、日本以外のどこの国にありましょう?
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「ファミリーコンピュータ」が流行します。
すると、これもまた日本が世界に誇るべき娯楽文化ですが、ゲームセンターが衰退するのではないか? などと危惧する声が上がることになります。

すると何が起きたか?
「ファミリーコンピュータ」では絶対にできない遊びを考える英知が、我が国には存在するのです。

たとえば、『ハングオン』です。ゲームセンターの入り口にオートバイを置き、実際に乗ることができる。左右にカーブを切るときに、身体を倒して遊ぶというアミューズメント機器。小手先で勝負しない。ハードウェア構造と一体になった、遊びの発明をする。戦略性に富んでいます。じつに、豪快な発想です。

野武士のような豪快さがあると同時に、茶道・華道のような繊細な文化もあわせ持つのが、我らが日本国の素晴らしいところです。『ハングオン』の椅子の構造は、スカートをはいた女性がまたいでも、恥ずかしくないような設計が施されています。『ハングオン』には、和風建築の精神さえ宿っていたのですね。

任天堂が「ファミリーコンピュータ」を出せば、セガが『ハングオン』を出す。セガに負けないようにと、ナムコは通信型ドライブゲーム『ファイナルラップ』を出す。ゲームセンターに大型筐体が多くなると、今度は任天堂が「ゲームボーイ」を出す。任天堂が市場を席巻したら、ソニーがそこに挑む。アメリカで使われていたWork Station(ワークステーション)のWorkを「遊び」に変えてPlayStationです。なんと粋な名前でしょう。

今、私と私の同志たちは心から、任天堂、セガ、ナムコ、ソニーが本社を置く国に生まれ、育ってきたことを誇りに思っています。

Xbox、Xbox360を発売するマイクロソフトは、アメリカの出先機関と思っておりましたが違います。社名が、日本マイクロソフト株式会社に変わりました。大事なことです。マイクロソフトに足りないのは、この二文字「日本」でした。同社が大和魂を持つことに気づき、それを社名にしたご英断を、大日本ゲーム愛国協会の会員一同が歓迎をしております。

話を戻します。
竹槍が「エニアック」に追いついたのは良いとしても、日本のソフトの売上は世界シェアを見ると下がっているではないか? という論があります。

その通りです。
しかし、忘れてはいけないことがあります。

1980年代にさかのぼりましょう。
アタリショック後のアメリカの家庭用ゲーム機市場は、消滅しているに等しかった。その時期に任天堂は「ファミリーコンピュータ」をアメリカ・欧州で発売(現地名:Nintendo Entertainment System)。続いてセガは「メガドライブ」(現地名:Genesis)を発売しました。対応ソフトウェアも、日本で既発売されたものが輸出されたので家庭用ゲームソフトのシェアは、ほぼ100%の時代がありました。

市場占有率、ほぼ100%の数字は、下がるしか道はないのです。
それを「シェア低下」と今になって騒ぐマスコミは、ご都合主義から生まれた浅知恵のたまものとしか思えません。恥ずかしくなるような、自虐史観が丸出しになっています。

世界的に見て、家庭用ゲームソフト市場全体が大きくなった。すなわち、分母が大きくなった。その中で相対的に、日本製のゲームソフトの市場占有率が下がってくるのは当然のことでありましょう。この現象を指して、日本ゲーム産業の衰退と決めつけるは、論理の飛躍と言わざるをえません。そして、他国のソフトの売上を伸ばした要因のひとつに、我が日本のハードウェアが多大なる貢献を果たしたことも、見逃してはなりません。

過去の例ばかりを挙げましたが、最近のスマートフォン、タブレット型PCにおいても、目を覆うばかりの俗論がはびこっております。
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まず、日本国民よ。
己の持つ携帯電話を「ガラケー」と呼ぶのは慎みなさい、と私は言いたい。
ガラパゴスを領土とする、エクアドルの人への侮辱行為です。

そして何より、あなた方が卑劣にも「ガラケー」と呼ぶ日本の携帯電話は、世界に誇る先端技術が詰まっていることを、認識すべきでありましょう。日本にやってきた外国人と電車に乗ってください。飛行機に乗ってください。携帯電話で乗り降りする私たちに対して、敬意を隠せない表情で見つめるはずです。

対して、GDCの開催国であったアメリカはどうか。通信事業者は時代に逆行した施策をとっています。スマートフォンとタブレット型PCが普及すると、データ転送量が増えるので定額制から従量制に切り替えています。宝があっても、それを持ち腐らせるようなモバイル通信事情の国、それがアメリカです。

賢明なる貴殿ならば、我ら大日本ゲーム愛国協会の主張をご理解いただけるでありましょう。

私たちはアメリカ、欧州……冒頭で言及したGDCを排斥しようとしている極右組織ではありません。むしろ、「日本人としての誇りを忘れず、他国の良きところは学べ」と若き当協会の会員に、私は総裁として指導をしています。

古くは今の中国、朝鮮半島の人々から、仏教を学び、漢字を学び、箸の使い方を学んだように。欧米諸国から明治時代以降の近代化への道を学んだように。我が大和民族は、他国から正しいものと、正しくないものを峻別して、自らの文化を形成してまいりました。この民族の歴史を愛してやまない、私たちは愛国者の集団です。

私たちは愛国者です。英語で言うならばパトリオット(patriot)です。
私たちは国家主義者、ナショナリスト(nationalist)ではございません。

GameBussiness.jpのjpは日本国そのものではありませんか。
貴殿におかれましては、GDCのニュースが広く報道された後で、日本人が、日本のゲーム業界人が、己の誇りを取り戻す正論を寄稿なさっていただきたい。

日本ゲーム産業、万歳!
我が日本のゲーム産業の栄光よ、永遠たれ。
自信を失うことなかれ、日本人よ。

貴殿におかれましては、日本のゲーム産業従事者を鼓舞する言を発していただきたく、それを願う一心で一筆啓上いたしました。

突然のお手紙で失礼いたしました。
GDCが終われば、桜の季節がやってきます。
GDCが与えるは「情報」。桜が我が心に与えしものは「情」。

情報は多くても、情の少ない世間になってまいりました。
私は桜のつぼみを見ながら、日本国のゲーム産業への愛情をつのらせて満開の春を待ちます。最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

敬具

大日本ゲーム愛国協会総裁
西園寺真理雄拝


■結びとして

本稿執筆後に、このたびの災害が起こりました。
日本のゲーム関連企業が、被災地の方々に義援金を送る、節電への協力が行われております。筆者のブログにて、このたびの災害に対して、日本のゲーム業界が行ったことをまとめる記事をエントリーする予定です。

あらためまして、災害の被害にあわれた方々へのお見舞い申し上げます。
また、日本のゲーム関連企業や組織、個人の皆さまが、篤志をお示しになっておりますこと、業界の末席に入る者として誇りに思います。なお、拙稿の原稿料は日本赤十字社を通じて寄付させていただきますことを、ここに表明いたします。

皆さまの息災を祈念いたしまして、結びといたします。

■著者紹介
平林久和(ひらばやし・ひさかず)
株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuHです。
《平林久和》

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