就職活動をする学生へ・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第5回 | GameBusiness.jp

就職活動をする学生へ・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第5回

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就職活動の季節です。今回はリクルートスーツをまとった学生の皆さんに読んでいただきたい内容です。私は『ゲーム業界就職読本』という本の著者です。はじめて同書を書いたのは1991年のことです。まだ28歳の時でした。ソフトの情報はあっても、働く場所=業界としての情報は少ない。そのため、必死になってゲーム業界を解説した記憶があります。

当時と今は環境が違っています。

固まりつつあったゲーム業界を解説する必要性があったのが当時でした。ですが、今は学生の皆さんが持つゲーム業界の固定観念から、離れていただくことのほうが大切な時代です。この連載の表題にもありますから「未来」を意識して書いてみました。

もうひとつ、変化がありました。私が父親になったことです。

本稿をまとめるうえで迷いました。目の前にどこの学校の何学部の方が座っている、とわかっているならば、その皆さんのキャリアに適した内容をお伝えすることができます。ですが、本稿は不特定多数の方がお読みになります。

あまり突っ込んだ具体的なアドバイスはできません。どうしても原則論になってしまいます。ですが、その原則論に気持ちを込めたくて、我が息子に願いを託すつもりで書いております。どうか、おつきあいください。

■ゲームの仕事をしたい息子へ

やはりお前はそう考えたのか。ゲームの世界で働きたいと。就職活動に必勝法はない。だが、ヒントはある。私は父として伝えたい。よく、読んで、あとは自分で考えてほしい。突き放した言い方で申しわけないが、お前にはできると信じている。

1.就職活動を楽しんでほしい
働くことは会社の奴隷になることではない。今までのお前が学んだことを、社会でいかす時がやってくる。社会のために働けることを、楽しむ心を持ってほしい。我が子が辛い思いをして就職活動をしている姿を、私は見たくない。馬鹿かもしれないが、親心とはそんなものだ。新しい人との出会いや、今まで知らなかったこと学べる。そんな刺激を浴びて、喜んで帰宅する姿を見たい。

2.略称を使わない
そこで提案なのだが、「シューカツ」と略して呼ぶのをやめてみてはどうだろうか。就活は社会のしくみがわかっていない学生がつくった隠語。あるいはどこかの企業が、重苦しい就職活動という呼称にカジュアルな印象を与えて、市場を広げようとした用語かもしれない。言葉を大事にしよう。流されるな。きちんと「就職活動」と言おうではないか。一緒に暮らしていれば、わかるだろう。私は総じて略称が好きではないことが。何事においても下品に聞こえるからだ。ゲームの会話をするなら、ドラクエとは言わないこと。ドラゴンクエストと言おう。プレステもおかしい。略称をなるべく使わない習慣を持つことは、将来、働くようになったときにも、きっと役立つだろう。

3.歴史を知りなさい
ゲームの仕事をしたいなら、まず歴史を学ぼう。幸い我が家の書棚には本がそろっている。知識を身につけるだけではなく、肌で感じてほしい。心に刻んでほしい。時の流れのすさまじさを、想像しながら歴史を読むのだ。全身で受け止めるように。歴史は未来を考えるための足場となる。お前と美術館に行った時、こんなことを言ったのを覚えてくれているかな。「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」。P・ゴーギャンの絵画の題名だ。大好きな題名だ。私が知るかぎり、どの業界でも幸福そうに働いている人は、歴史をよく知り、今の自分を見つめ、未来に目を見開いているものだ。
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4.予想できないことが起きる産業
歴史を知るとわかるはずだ。1970年の時点で、アタリが創業され、のちに『スペースインベーダー』が流行することを予想できた人は誰もいなかったことが。1980年の時点で、任天堂のファミリーコンピュータが売れ、日本中の子どもたちがロールプレイングゲームを遊ぶことを、予想できた人は誰もいなかったことが。1990年の時点で、ソニーがプレイステーションを発売して……以下は省略するよ。2010年、今度の変化の波はさらに激しいだろう。とにかく、ゲーム産業は「予想外が当たり前」の産業だということを強調したい。まずは、この産業の本質的な特性を全身で受け止めなさい。

5.絶対落ちる志望動機
難しい話が続いたので、簡単なアドバイスをしよう。「私は、御社のゲームをやって感動しました。それ以来、自分もゲームをつくり人に感動を与えたいと思い、勉強をしました。その成果を入社したら存分に発揮したいです」。この志望理由は、模範解答のようで、じつはそうではない。理由は説明しなくてもわかるだろう。過去の感動体験は貴重な財産だ。だけど、感動は何万人もしている体験でもある。自分にしかない未来像を語らなくていけない。

6.空想家であれ
私の最近の考えだ。諺というのはクセモノで、古びているものが、いまだに使われて放置されているような気がしてならない。たとえば「必要は発明の母」などはどうだろう? 必要なモノについては、多くの人が考えているものだ。まったく不必要と思われそうなモノこそが、現代の発明品になりえる。必要なものは、改良製品という。「百聞は一見にしかず」。これも、信じすぎてはいけない諺かもしれない。見えるものがすべてではない。お前には、見えないものを見る力を身につけてほしい。思い起こせば、お前が生まれるとき、おばあちゃんは「妊婦は二倍食べなさい」とお母さんに言っていた。でも、これは食糧事情が悪かった頃の言い伝えだ。産婦人科の先生から、お母さんは「体重をなるべく増やさずに出産しましょう」と言われて、お前は命を授かったのだ。常識は、時代とともに変わるのが自然だろうと思う。

7.ゲーム会社以外に必ず行くこと
ゲームの会社ばかり見るな。他の業界を知れ。OB訪問とやらを難しく考えるな。やりたければすればいいし、OBがいなければ、会社に行って空気を吸ってくるだけでいい。身体を動かして、会社の生の雰囲気を感じてきなさい。もし、その会社に受付があったなら、丁重にお願いをして、会社案内をいただいてきなさい。わずかな勇気と行動力を使って、カラダを動かすことだ。インターネットで情報が集まる時代だからこそ、バランスよくアナログな対面して得られる情報に価値を感じてほしい。

8.ナンバー1企業を知れ
いきなり他の業界と言われても困るだろう。では、その手がかりだが、各業界のナンバー1に行く、というのはどうだろう。なぜだかわかるか? 二番手、三番手の企業は一番の企業に追いつこうとしている。つまり「今の競争がすべて」であることが多い。ところが、ナンバー1の地位にある企業は、その業界でいつまでもとどまっていることは停滞を意味する。なので、新しいことにチャレンジしていることが多い。つまり、未来のことを考えている可能性が高いということだ。通信・コンピュータ・家電・印刷・ガラス・フィルム・小売チェーン・飲食チェーン・鉄道・住宅など。もし、私が学生だったらこれらの企業を訪問したいと思う。

9.業界の壁は崩れる
なぜ、他業種も見るようにというのか。すべてではない、いつのことかわからない。だが今までの「業界」の壁は、必ず崩れると私は予測しているのだ。就職活動といえば「業界研究」というステップが必ず必要と、どこの学校でも教えているらしい。だが、私は逆だ。「業界」にこだわるな。「業界」がくっついたり、離れたり、混ざり合ったり、変化する様を想像しなさい。お前ははじめて、プリウスに乗ったときに「カーナビを操作しながらiPhoneにエンジンとタイヤをつけたみたいだ」と言ったね。とてもいい感性だ。じつは、あの言葉、多くの示唆に富んでいて私が勉強になったくらいだ。

10.マニュアル本に頼るな
面接必勝法、エントリーシートの書き方、一般常識テスト問題集、SPI適性検査の克服法、書店に行くと目移りする本がたくさん並んでいる。買うな、読むな、とは言わないがマニュアルはマニュアルでしかないことを忘れないように。私はお前が子どもの頃から言ってきた。マニュアル人間になるな、と。身体の芯にバイブルを持てと。身体の芯に一本筋が通れば、応用がきく。たくさんの細部を覚えようとするから、就活=辛いものと思ってしまう。
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11.人間であるまえに動物なのだ
就職活動の本質を考えよう。すでに会社という集団がある。その集団は強くなりたいから、新しい仲間を求めている。それが採用する側の本能と言っていい。採用される側は、何を試されているか。シンプルだ。仲間にしたいか、仲間にしたくないか、だ。同じパンを食べるから、会社のことを「カンパニー(company)」という。同じ食物を分け合う仲間を会社は探している。

12.まずは「私はあなたの敵ではない」と伝えよ
犬ならばうれしい時には尻尾を振るように、動物にはサインがある。言葉がなくても伝わり合える、本能が感じとる動物行動のことを私はサインと呼んでいる。人間もそうだ。おまえがどこかの集団の仲間になりたいならば、まず、サインを出せ。「私はあなたの敵ではない」というサインを。そのために、お辞儀がある、挨拶がある。マニュアル教育では「両中指をズボンの折り目につけ、膝の高さまで降ろす。それが最敬礼のしかたです」と教えている。そんなことをどうでもいいんだ。些末なことを、いちいち覚えようとすると就活が嫌いになってしまう。

13.サインの基本法則
私が言うマニュアルではなく、バイブル。バイブルには基本法則しか書いてないから覚えるのが簡単だ。たった三つでいい。人間という動物は上下を気にする。頭が、身体の位置が、自分より下になってくれたら、それは「私はあなたの敵ではない」という友好のサインだ。両中指は気にしないでいいから、仲間になりたいと思いを込めて頭を下げなさい。そのときに身体は正面を向いているのと、右肩が突き出ているのとどちらが友好的だと思う? 同然、正面だろう。「今日は訪問いただき、ありがとうございました」と言われたらどうする? 「こちらこそ、ありがとうございました」と答えるだろう。上下・正面・相互。人間という動物は、この三つを非常に気にする動物だ。


平林氏が講演等で使うという資料。人間もまた動物である


14.たくさんつくること
お前が本当にクリエイティブな仕事をしたいならば、たくさんのものをつくることだ。「作品提出」などと応募書類にあるから身構えてしまう。作品と言われると高いクオリティのものを想像してしまう。だが、完成度は気にしなくていい。習作という言葉があるだろう。学校で習ったことの延長でいいから、たくさんのものをつくる。たとえば、紙が100枚あったとする。ひとつの企画をぎっしりと100枚書くのはよくない。紙が100枚もあるならば、毎日に生活で気づいたおもしろいアイデアを書いたほうがいい。会社の人は、じつは作品を見ているわけではない。作品を通じて人を見ている。熱意とか、その人のユニークさの源はどこにあるか、とか。

15.立場は逆転する
これは私が企業の面接を取材していたときに、本当にあったできごとだ。印象深いので紹介する。ある学生が入室した。彼は経歴を語った。本当は四年生の音大に入りたかったが、家庭(家計)の事情で二年制の専門学校に入ることにした。学費を払うためにドーナツ店でアルバイトをした。それでも収入は足らず、深夜はカラオケ店の受付もすることにした。彼は作曲の仕事をしたかった。カラオケ店の受付をしていると、ドアの向こうから、かすかに音楽が聞こえてくる。それを耳で聞き取って、五線譜に書き写した。寝不足が続くが、そういう日々を送れば、「学び」と「稼ぎ」が両立できると考えたのだ。音符を書いていても、勤務中だから途中で接客をすることもある。そんな時、五線譜は空白になる。接客が終り、次の音が聞こえたところから、また書きはじめる。こうやって、書きためた五線譜のノートを、どうだろう目分量だが50冊くらい持っていた。途切れ途切れの五線譜ノートだ。このノートの束を見て、面接官は何と言ったか。「他社を受けているところがありますか?」と尋ねた。彼は「はい」と答えた。面接官は「他社を受けるのをやめていただいて、ぜひ、当社に入社してください」と学生に最敬礼をした。立場は変ったのだよ。彼は、今でもその会社で働き、毎年、私に年賀状を送ってくれている。

ここに書かれていることの根っこの部分を、私は父から教わった。亡くなったお前のおじいちゃんからだ。さあ、これから働こうとするお前に、私は伝えたかった。

■著者紹介
平林久和(ひらばやし・ひさかず)
株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuHです。
《平林久和》

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