
GameBusiness.jpは10月29日、渋谷・Hikarie ConferenceにてMoloco協賛のセミナー「モバイルゲームのライフサイクル戦略―新規開発トレンドとマーケター主導のリエンゲージメントから紐解く」を開催しました。
基調講演ではMoloco Ads日本事業責任者の有木剛氏が登壇し、同社による新作モバイルゲームの調査データを基にしたリリース初年度の収益構造や市場環境の変化を解説。後半のパネルディスカッションには、ポノス デジタルマーケティング室 室長の村山章氏と、コナミデジタルエンタテインメント『eFootball™』アシスタントプロデューサーの十河次郎氏が登壇し、『にゃんこ大戦争』と『eFootball™』の具体例を交えながら、長期運営タイトルにおけるリエンゲージメントについて議論しました。
実は新作リリースにおいて、そのタイトルがどのような収益で回っていくのかが見え始めるのは、リリースから3か月目以降。そして長期運営の現場ではユーザーの関心を保ち続けるために何をしてきたのか。データと実践から読み解いたセミナーになりました。
初年度50万DLを達成する新作はわずか約1.3%

前半の基調講演では、有木剛氏がグローバル市場のデータやMolocoの調査レポートを基に新作モバイルゲームを取り巻く市場環境の変化を解説しました。同氏が最初に示したのは「19万本」と「2,500本」という2つの数字。2025年に世界でリリースされた新作モバイルゲームは約19万本に上りますが、このうちリリース初年度に50万ダウンロードを達成したのは約2,500本、全体のわずか1.3%にとどまります。
この50万という数字について、有木氏はインディーゲームなら大成功、中堅タイトルなら黒字化が見込める一方、大型タイトルでは厳しく、ハイパーカジュアルでは失敗といえる水準だと説明。タイトルの規模やジャンルによって評価は異なるものの、そこに到達できるゲーム自体がごくわずかだという競争の厳しさを指摘しました。

一方、課金収益の面では異なる傾向が見られます。IAP(アプリ内課金)とサブスクリプションによる収益が2,000万米ドルに達するまでの平均期間は、2022年から2025年にかけて21%短縮していくという傾向に。さらに米国ユーザーにおけるインストールあたりのIAP収益は、2021年から2025年にかけて126%増加したといいます。
有木氏はこの数字から、ユーザーの課金に対する抵抗が薄れていることに加え、ゲーム会社側も課金につなげるための工夫や技術を高めているという「2つの変化」が読み取れると分析。世界的にゲームが普及する中で、ユーザーとゲーム会社の双方に変化が起きていると説明しました。

そして、新作モバイルゲーム市場では3つの変化が起きていると有木氏は指摘します。1つ目はジャンル別シェアの変化。リリース初年度のIAP収益の構成比を2021年と2025年で比較すると、RPGの割合が減少する一方でストラテジーとパズルが増加しています。有木氏は、かつては一部の熱心なゲーマーに支えられていた市場の裾野が広がり、比較的ライトなゲームが伸びていると分析しました。
2つ目はアジアのパブリッシャーの台頭です。中国、日本、韓国に加え、近年はベトナムの存在感が高まっています。有木氏によると、同国ではオフショア開発を担っていたエンジニアが独立し、世界市場で成功する事例が増えているとのこと。特にハイパーカジュアルゲームで勢いがあり、フィリピン、インドネシア、マレーシアなども成長しているそうです。
3つ目は、ゲームの検証や改善に費やす期間の長期化。Molocoのデータによると、先行配信を通じて検証する「ソフトローンチ」の期間の中央値は、2022年の約60日から2025年には約108日に延び、全体の20%は200日以上に及びました。有木氏は、配信後にゲームをどう改善するか、ユーザーをどう育てていくかが重要になっており、そのための時間も長くなっていると説明しました。
収益の型は3か月目以降に見えてくる
講演の中心となったのは、Molocoが2026年8月に公開した調査レポート「モバイルゲーム初年度の舞台裏:成功する新作タイトルリリースの秘訣は長期的な施策」です。同レポートでは、2024年1月から2025年9月にかけてMolocoが支援した新作モバイルゲーム55本を対象に、米国の2,000万人以上の課金プレイヤーと15億米ドルを超えるアプリ内課金収益を分析しています。調査から見えてきたのは、リリース後に収益構造の全体像が明らかになる速度、そして収益化の仕組みが確立されるまでには長い時間がかかるということです。
「クジラ型」と「ボリューム型」―リリース直後には見えづらい収益構造
調査では、ゲームをジャンルではなく収益モデルによって3つに分類しています。今回、特に焦点が当てられたのは「クジラ型」と「ボリューム型」のゲームです。

クジラ型:少数の重課金者が収益の大部分を占めるゲーム。「クジラ」は大口顧客を指すビジネス用語
ボリューム型:幅広い課金プレイヤーによる継続的な購入が収益を支えるゲーム
広告収益型:広告を主な収益源とするゲーム。今回のIAP収益に関する詳細分析では対象外
この2つの収益モデルを比較すると、リリースから最初の1、2か月では大きな違いが見られないものの、3か月目以降に差が現れ始め、6か月目以降には大きく開いていきます。
有木氏はこの結果から「リリース直後の収益化実績は、あまりあてにならない」と指摘。一方で、収益化の戦略を見直し、改善を重ねていくための時間も十分に残されていると説明しました。
プレイヤー1人あたりの課金頻度と1回あたりの課金額にも違いが見られます。クジラ型ではリリースから11か月目にかけて課金頻度が65%・課金額が54%増加。ただし課金額は8か月目ごろに横ばいとなり、有木氏は課金額の限度や、ゲームをやり込むまでにかかる時間が影響している可能性を指摘しました。一方で、ボリューム型では課金頻度が26%増加したものの、課金額は初月からほぼ横ばいでした。また、課金額上位5%のユーザーが月間IAP収益に占める割合は、リリース10か月目にはクジラ型で81%、ボリューム型でも54%に達しています。
さらに、将来の重課金者の多くはリリース時点ではまだ課金していないことも判明しました。初年度の課金額上位5%のプレイヤーを見ると、クジラ型でもリリース初月に初回課金を行ったのは約15%にとどまり、3か月目以降に課金を始めるユーザーも少なくありません。
有木氏はこの結果を踏まえ、リリース直後に広告費を集中させ、その後徐々に縮小させる従来の広告戦略に疑問を呈しました。将来の重課金者が時間をかけて現れる以上、広告もリリース初期だけでなく、1年間を通じて継続的に展開することが理想的だと指摘。むしろ3か月目以降の広告運用が重要になる可能性が高いと説明します。
評価はインストール直後より初回課金後に行うべき

初期のユーザー評価は、インストールを起点にするよりも、初回課金を起点に見る方が大事だということも今回の調査でわかったといいます。実際のところ、インストールから7日目までの時点で1年間の課金上位5%のユーザーが使った金額の割合は10%のみ。一方、初回課金を起点にして計測すると、7日目の時点で見た数字は43%となりました。つまりリリース時ではなく、初回課金から7日目までを見た方が、将来の重課金者がどれだけ存在しているかわかります。
広告運用ではインストールから7日目や30日目で結果を評価することも多いとしたうえで、実体として1年を通して見たとき本当に大事なのは初回課金から7日、あるいは30日で評価することでしょう。
広告の費用対効果が低くても許容するのはヒットのカギ?
ヒットタイトルの特徴として有木氏が挙げたのは、初期のROAS(広告費用対効果)が低くても許容する傾向です。調査では、リリース初月を100としたROASが、ヒットタイトルでは後半に67まで低下していました。一方、その他のタイトルではほぼ横ばい。
これについては、重課金者が収益に貢献し始めるまでは時間がかかるため、ヒットタイトルは短期的なROASを低めに許容している可能性が高いと読み解きます。同氏がGoogle在籍時に米国市場で見た事例でも、中国側はROASの評価期間を長めに設定していたとのこと。ROASを守ることも大事だが、多少許容傾向である姿勢も重要なのではないかと語られました。
広告クリエイティブについては、その「量」が重要だといいます。特に米国は州や民族によって文化が異なり、どの広告がユーザーに響くかを見極めるのが難しい市場です。有木氏は、数多くのクリエイティブを試すことがヒットタイトルとその他のタイトルの差につながっていると説明しました。
『にゃんこ大戦争』『eFootball™』はリエンゲージメントにどのように対応してきたか

後半のパネルディスカッションには、ポノス デジタルマーケティング室 室長の村山章氏と、コナミデジタルエンタテインメント『eFootball™』アシスタントプロデューサーの十河次郎氏が登壇。株式会社MOTTO代表取締役の佐藤基氏をモデレーターに、長期運営タイトルにおけるリエンゲージメントについて実例を交え議論しました。
佐藤氏はSensor Towerのデータを基に、『にゃんこ大戦争』と『eFootball™』はいずれも国内外で売上とMAU(月間アクティブユーザー数)を伸ばしているタイトルだと紹介しました。続いて、リエンゲージメントは会社や個人によって解釈が異なるとしたうえで、離脱したユーザーが戻る「復帰」、その後の「再活性」、SNSや生放送などゲーム外での「接続」という3つの観点から整理しました。

村山氏は『にゃんこ大戦争』について、対戦や協力プレイなど他のユーザーと遊ぶ機能がほとんどないため、ゲーム外でタイトルを思い出してもらい、再び興味を持ってもらう機会が重要になると述べます。
一方、『eFootball™』では現実のサッカーでファンの関心が高まるタイミングをゲーム内の展開につなげることを重視しています。十河氏は四年に一度のサッカーの祭典や各国リーグの開幕を例に挙げ、復帰したユーザーの定着を定着させることが重要だと述べます。
自社での広告運用は、どうメリットがあるか
両社に共通しているのが、広告運用をインハウス(内部)で行っていること。
ポノスでは基本的に1タイトルにつき1人の担当者が付き、複数の広告媒体を横断して運用。『にゃんこ大戦争』ではMolocoの広告ネットワークも活用し、日本から国内外へ広告を配信しています。KONAMIも日本からグローバルに広告を配信しており、国ごとの傾向やゲーム内のKPIを確認しながら、配信の強化や停止を判断しているそうです。
インハウス運用のメリットについて、村山氏は「意思決定のしやすさ」を挙げました。広告の成果に応じて今日明日の単位で配信規模を変更でき、代理店の予算消化への意識に左右されず柔軟に判断できるといいます。十河氏も同様にスピード感をメリットに挙げ、『eFootball™』では現実のサッカーで生まれる瞬間的な盛り上がりに対応できることが強みだと説明しました。
『にゃんこ大戦争』エヴァコラボ―「完結」宣言から再始動まで

ポノスが運営する『にゃんこ大戦争』は、2026年に14周年を迎える長期運営タイトルです。村山氏はリエンゲージメントの事例として、2018年3月から続く「エヴァンゲリオン」とのコラボを紹介しました。
一般的にコラボは復刻を繰り返すうちに反響が小さくなる場合もありますが、エヴァとのコラボは回を重ねても盛り上がりを見せているそうです。
村山氏はその背景について、担当者たちがコラボの裏側にあるストーリーまで考え「本気の悪ふざけ」を込めてきたことが、ファンにも伝わっているからではないかと振り返ります。
その一例が「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングをパロディにした90秒の映像です。会場では実際の映像も紹介されました。
当時は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の公開延期などもあり、ゲーム内でのコラボ開催が難しい状況でした。それでもポノスは、コラボを実施していない時期にあえてテレビCMの放送枠を購入して映像を放映。ファンとの接点を作り、作品への熱量を維持しようとしたといいます。
また、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で物語が完結するタイミングでは、当時のメインキービジュアルとキャッチコピーをパロディにしてコラボの「完結」を宣言しました。
村山氏によると、運用型のスマホゲームではコンテンツを終わらせることへの抵抗が強く、コラボも資産として繰り返し活用するのが一般的です。しかし、あえて終了を宣言したことで「これで最後なんだ」と興味を持ち、ゲームに戻ってくるユーザーがいたといいます。
もっともポノスとしてはあくまで劇場版とのコラボが完結したという認識で、将来的な再開も考えていたそう。ただし、一度終了を宣言した以上再始動にはハードルがありました。
これを打破するべく、エヴァンゲリオン30周年にあわせテレビシリーズを題材としたコラボを実施。過去のコラボ資産を再利用しただけと思われないようさらにパロディにこだわりぬいた映像を制作し、テレビCMやオンラインなどで展開したと言います。
再始動に際して制作した映像は、当初デジタル広告やオウンドメディアでの展開を予定していましたが、完成度の高さからテレビCMでの放映も決定したとのこと。村山氏は、ゲーム以外にも多くのサービスがユーザーの時間を奪い合う中で、普通のことをしているだけでは気づいてもらえないと説明。制作コストがかかっても「本気でふざける」という姿勢を続けていると話しました。
その姿勢はファンにも受け入れられているようで、エヴァンゲリオン30周年のイベントでは高橋洋子氏がパロディ映像に合わせて歌い、会場が盛り上がったという話も。村山氏は、制作に関わる人たちが原作を好きで、リスペクトしていることが重要だと強調しました。佐藤氏は、長年にわたってクリエイティブや姿勢に一貫性を持たせ、エヴァンゲリオンの展開と連動してきたことが、ファンとの継続的な接点につながっているとまとめました。

海外展開について、村山氏はゲーム内容を大きく変更せず、言語のローカライズを中心に配信していると説明しました。ただし、広告の成果は国ごとに異なり、日本のユーザーは継続率が高い一方、アメリカでは幅広い層に配信するため継続率がやや低くなる傾向があるそうです。また、周年施策や海外コラボが期待した結果に届かなかったこともあるといいます。村山氏は、失敗自体よりも結果をレビューして改善し、次の成功体験につなげることが重要だと話しました。
新規獲得は「受け皿」があってこそ
『にゃんこ大戦争』は14周年を迎えても新規ユーザーを獲得し続けています。村山氏は、長期運営タイトルでも新規獲得は可能だとしつつ、マーケティングだけではなく、ユーザーが遊びたいと思えるゲームを開発スタジオが作り続けていることが大前提だと強調しました。
また、国内でのIP認知率は約70%に達し、子どもの頃に遊んでいたユーザーが親になり、自分の子どもと一緒にプレイすることも起き始めているそうです。こうしたIPの成長を支えるためにも、村山氏は関係者の間で「にゃんこらしさ」を共有し、一貫したブランドを育て続けることが重要だと話しました。
サッカーファンと『eFootball™』―ユーザーを定着させる施策

『eFootball™』も、現実のサッカーと連動した継続的な運営を重視しています。サッカーは毎週のように試合が行われるため、スタッフが自ら試合を見て活躍した選手を選び、翌週にはゲームに登場させることを年間を通じて続けているそうです。
2026年に開催された4年に一度のサッカーの祭典も大きなモーメントでした。KONAMIは選手を起用した広告クリエイティブを制作し、ゲーム内の展開とも連動させた結果、多くの新規プレイヤーと復帰ユーザーを獲得できたといいます。

課題は、その人たちにどう遊び続けてもらうか。そこでKONAMIは二段階の展開を用意しました。まず、2025年のシリーズ30周年を機に始まった「eFootball™ World Festival」を開催。2026年はバンコクでのオフラインイベントやeスポーツ世界大会決勝などを通じて盛り上がりを維持しました。続いて8月の大型アップデートで新機能を投入し、祭典をきっかけに遊び始めたユーザーの定着を狙いました。
佐藤氏が大会後も盛り上がりが続いている理由を尋ねると、十河氏は前回大会では盛り上がりが落ち着くにつれてユーザーが離脱してしまったと説明。その反省から、今回は大会後の流れを意識した展開を行ったことが、うまくいった要因ではないかと振り返りました。
サッカー文化の違いと現地への理解

海外展開について、十河氏は国ごとにサッカーの捉え方が異なることを挙げました。例えば日本ではJリーグだけでなく海外サッカーにも関心が集まる一方、ブラジルでは自国リーグへの関心が強いなど、各国の需要に合わせた施策を重視しているといいます。
一方、インドのディワリやタイのソンクラーンにあわせた施策では、現地市場への理解が不足していたために期待した結果を得られなかったこともあったそうです。
こうした経験から、現地調査やアンケートに加え、日本の社員を海外へ派遣してユーザーと直接話す機会も設けています。十河氏は、現地の人々との対話を重ねることでその市場への理解を少しずつ深めていると説明しました。
新規獲得を支える“モーメント”の捉え方
佐藤氏はSensor Towerのデータを基に、『eFootball™』の国内ダウンロード数も2026年に大きく伸びているように見えると紹介。新規ユーザー獲得の工夫として、十河氏は2点を挙げました。1つ目は、継続的なアップデートです。サッカーは普遍的なものですが、ゲームとして同じ体験が続けば飽きも生じるため、常に新しい遊びを提供することを重視しているといいます。
2つ目は、『eFootball™』をコミュニケーションツールとして捉えることです。10代、20代のユーザーが多く、新規ユーザーがプレイを始めるきっかけには口コミや友人からの紹介が多いそうです。ゲームそのものだけでなく、友人や周囲の人と楽しめる体験も重視し、既存ユーザーから新しいユーザーへと輪を広げることを意識していると説明しました。
佐藤氏は、『eFootball™』のコラボレーション施策も新規ユーザーの獲得に寄与しているのではないかと付け加えました。
セッションの締めくくりに佐藤氏は、『にゃんこ大戦争』と『eFootball™』では手法こそ異なるものの、ユーザーにゲームを思い出してもらう機会を作り続けている点が共通すると指摘しました。一度きりの復帰で終わらせず、関心が高まる「モーメント」を捉えながら、遊び続けてもらう。そのために一貫性と連続性を持たせることが、リエンゲージメントの本質ではないかとまとめます。

今回のセミナーでは、新作モバイルゲームの収益構造が見えてくるまでに数か月を要することがデータで示された一方、長期運営を続ける『にゃんこ大戦争』『eFootball™』の運営スタイルも紹介されました。
新作モバイルゲームを取り巻く環境は変わり続けていますが、タイトルごとの個性を生かしてユーザーとの接点を作り続けることが長く遊ばれるゲームを育てるうえで重要なのかもしれません。






