
生成AIの飛躍的な進化によって、映像業界では丸々一本の作品を制作する事例も登場するなど、その存在感が日増しに高まっています。とはいえ、実際のところ、ゲーム業界ではどの程度AIが活用されているのでしょうか?
2026年8月30日に東京・TOC有明で開催された「ゲームメーカーズスクランブル2026」では、「AIでゲーム作りはどう変わる? ホント・ウソを見抜け!」のセッションタイトルでAIにまつわる講演を実施。
「実際に役立つAI」と「役に立たないAI」を見分けるには
AI活用で作り方はこう変わる? 見えてきた落とし穴の数々
AI時代になって暴かれる、スルーされてきたチーム開発のウラ課題
上記3点のトピックをもとに、技術研究の視点でAIの現在地が語られました。
登壇するのは、株式会社バンダイナムコエンターテインメント CE事業部 第2プロダクション 1課の玉置絢氏。ゲームデザイナー・プランナーの目線でここ10年ほどゲームとAIの未来を模索してきたという玉置氏が、「それならAIはどの領域で活躍するのか?」を軸に講演しました。

◆AIを活用できていますか?
AIについてはバンダイナムコエンターテインメントの各セクションでも良し悪しが話題となっており、導入しても無意味に終わったり、実態以上に大げさに語られたりするケースも少なくないそうです。それならば、そのポイントを一般論として語ったらどうなのか?本講演はそのような想いが発端となりました。
AIとの接点でもっとも一般的なのは、「AIでこんなことができるようになりますよ」という誘い文句です。しかしそこには「理論上はできる」とエクスキューズがつく、期待値だけの文言であることが非常に多いそう。「とりあえずこんなAIツールを作りました」と導入することもありますが、結局使われなくなることも多々あります。
つまり、求められて導入したものではないので、実際のところ開発の実務と結びつくことはほぼなく、まったく意味をなさない存在になりがちなのです。
もちろんAIを活用して素晴らしいツールを開発する技術者もいます。しかし現場の人間にとっては、そうやって必要とされるツールが完成してやっと恩恵が受けられることがほとんどです。いきなり「AIを導入してみませんか?」と提案され、そのまま現場で活用できるケースは稀だと言えるでしょう。
本講演は、そういったチームの開発現場の生の声をまとめたものであり、そこから「それでは何ができるのか?」を提案する内容となっています。またバンダイナムコエンターテインメントではゲーム事業でAIの活用方法を模索中であり、あくまで開発中のゲームや発売されたゲームとは関係のない、技術研究の内容となっています。

◆AIで時短!のウソ
それではまず、ひとつめのウソです。
皆さんの周りには「時短できるのでAIを導入しましょう」「これもAIでできますよ」とお勧めする人はいませんでしょうか。こういったケースは、たいていAIが必要なほど現場は困っていませんし、担当者がAIに興味があるだけというパターンが多いようです。
とくにAIで書類を要約するようなケースは、仕様書など普段から見慣れている形式の文書であることが多く、断られる頻度が非常に高いです。というのも、キャリアとともに読むスピードが速くなりますし、新人はそもそも情報が圧縮された状態では理解が追い付かず意味をなしません。
もし導入するとしたら、そういったキャリアとともにパフォーマンスが上がるものではなく、そもそも人間の能力では対処できないような事例をカバーする提案の方が喜ばれます。たとえば膨大なアーカイブから該当するシーンを選ぶ、名場面集に適したカットを探す、IDと素材のズレをチェックするといった用途です。
バンダイナムコエンターテインメントでは数年分の膨大な映像素材や音声素材を検索する際、音声や映像を認識できるVLMを通し、テキストによる出力で目的のシーンや表情などを抜き出しているそうです。つまりただ「効率化できますよ」とAI導入を提案するのではなく、目的を絞ってアピールしたほうが現場に歓迎されますし、担当者のAIに対する解像度まで低く見られてしまう危険性を回避することもできます。


◆AIチャットボットのウソ
第二のウソは「AIチャットボットにまつわるウソ」です。
開発作業のブレインとしてAIチャットボットを導入すると、多くの現場で使い物にならず、反対に開発チームのAIに対する信頼度を損なうことにつながりかねません。その原因は品質の低いデータをAIに学習させていることにありました。
たとえばデータがまとまっておらず必要な情報がすべてそろっていない、古いデータが混じっていて矛盾した結果や不正確な結果が出力されるなどの問題点です。開発途中で仮名から確定名称に変わった際、AIはその両方を別々のキャラクターと認識し、「あのキャラどうだったっけ?」と質問しても、仮名時のキャラクターと確定した後のキャラクターの2名を出力することが頻繁にありました。

そこで情報の精度を上げるため、バンダイナムコエンターテインメントでは一旦wikiをAIに作らせて情報の可視化をおこないました。これにより情報の精査を人間側でおこなう環境を作り、チャットボットとして信頼できるレベルまで精度を引き上げたそうです。
具体的にはテキストマスタ・用語集・開発資料をまずは「Claude Fable 5」で解析。それをもとに「Claude Opus 5」や「Claude Sonnet 5」で執筆します。「Claude Fable 5」が登場したことで、ストーリーの伏線と結果の関係など、かなり精度の高い解析が可能になりました。しかしその分、コストがかかるため、執筆は安価な「Claude Opus 5」や「Claude Sonnet 5」に割り振り、その成果物のチェックを「Claude Fable 5」にさせるやりかたです。
現在のAIならば「wikiとは何なのか」といったところから学習し、矛盾するデータがあればそれを教えてくれ、対処する機会も作ってくれます。こうして「ゲームが発売されたら実際にこういうwikiをプレイヤーに作って欲しい」と思えるものが完成しました。
コツはあまり細部まで盛り込まず、「wikiならこの範囲を掲載するだろう」というメインどころを拾う形です。情報が増えるとその分、情報の精度が落ちますし、どんどんと使えないものになっていく可能性が高まります。追加する細部ディテールや修正点があるなら、それはその都度、個別に対応していくこと。そうやって精度を落とさずにめざすwikiを作り上げました。


◆「AIでゲーム制作をする」のウソ
第3のウソは「ゲーム制作」について。
こちらはもっとも身近な話題であり、実際、「AIのコーディングでゲームが簡単に作れる!」「セリフが大量生産できる!」「NPCと会話できる!」という考えに陥りがちです。しかしやはりAIモデルに対する深い知見、商業ゲーム作品に求められる品質基準に対する考え方がしっかりしていないと、「できそう!」と思ってもなかなか実現しません。
たとえばコーディングについてです。AIには、仕様を理解する能力、バグ等を発見する能力、何かあってもすぐに動作を止めない継続力が求められます。しかし2026年春あたりのモデルでは、指示や仕様の理解不足が目立ったり、問題の検知能力が足りずにバグだらけになったり、難しい問題に直面するとすぐに作業をやめてしまう傾向にありました。
最近は高度になっているのでそれらの問題はほぼ解決されましたが、今度は性能が上がったことで、指示を深読みして過剰に対応したり、バグ回避のために実装を過剰にしたり、そもそも高度すぎて作業時間がかかったりしました。

またテキスト面では、「新しいモデルほど良いセリフが出力される」と勘違いされがちです。たとえば「おもしろいオチをつけてほしい」と指示しても、新しいモデルでは見慣れない言葉を使ったり、言い回しがくどかったりで、人間の感情に訴えるような表現はまだまだ難しいと感じさせます。その点では古いモデルのほうが対応できていたのではないかと玉置氏は所感を述べました。
それではどのような運用方法が現実的なのでしょうか?

玉置氏が提案するのはプロトタイプ開発におけるAI利用です。企画書だけでなく、AIを使って実際に動く資料を作れば、チーム全体で完成版への解像度が上がったり、本当にやりたいことが明確に伝わったりするようになります。実際、プロトタイプ向けのAI活用はCEDECでも何例か発表がありましたし、玉置氏もプロトタイプ利用は“ガチ”であり今後さらに増えるだろうとまとめていました。

このように「AIは分かるが開発現場に詳しくない」、または「開発は分かるがAIに詳しくない」という人が大なり小なり間違ったAIの勧め方をすることが日常的にあるので、結論として、開発現場そのものがAIに詳しくなることが一番だとして、セッションを締めくくりました。






