
『女神異聞録ペルソナ』から歩みをはじめた『ペルソナ』シリーズは、『ペルソナ5』まで5作のナンバリングタイトルを送り出してきた人気シリーズです。今後も2027年2月18日に『ペルソナ4 リバイバル』がリリースされるほか、2026年6月にはナンバリングタイトル最新作となる『ペルソナ6』の制作が発表され、ティザートレーラーも公開されました。
しかしその歩みは決して順調なものではなく、シリーズの転機となった『ペルソナ3』では背水の陣とも言うべき状況の中で、新たな魅力が模索されることになったようです。
2026年9月22日(火/祝)・23日(水/祝)の2日間に渡って東京日仏学院で開催されたゲームカルチャーの祭典「The Tenth Mosaic」では、『ペルソナ3』『ペルソナ4』『ペルソナ5』の主要スタッフの橋野桂氏、副島成記氏、目黒将司氏が座談会を実施。『ペルソナ3』『ペルソナ4』『ペルソナ5』の開発当時を振り返りました。
そこで語られた当時の心境、そして“方向転換”に込められた意図とは、はたしてどのようなものだったのでしょうか? 本稿ではその内容をレポートします。
◆背水の陣で挑んだ『ペルソナ3』
座談会に登壇したのは、ディレクターを務めた橋野桂氏、キャラクターデザイナーの副島成記氏、サウンドクリエイターの目黒将司氏の3名です。

橋野氏は『ペルソナ3』から「ペルソナシリーズ」に関わり、以降、最新作の『ペルソナ5』までディレクターを担当。
副島氏は『女神異聞録ペルソナ』の開発終盤からシリーズに関わり、『ペルソナ2』では原画や世界観設定を担当した後、『ペルソナ3』からキャラクターデザインを手がけることになります。
そしてサウンドクリエイターの目黒氏は『女神異聞録ペルソナ』と『ペルソナ2』で楽曲を数曲担当した後、『ペルソナ3』からはメインの作曲家としてこれまで歩んできました。
当時のアトラスのRPGは、決して売り上げが悪かったわけではないものの、開発費が増加していたこと、その一方でファンが固定化していたことから、「デビルサマナーシリーズ」や「真・女神転生シリーズ」のチームで評価を獲得していた橋野氏に声がかかり、アトラスのRPGの今後が託されることになりました。
「これで一定の結果が出なければ、アトラスとしてRPGを作るのはこれが最後になる」。それが橋野氏に伝えられた、当時のアトラスのRPGを取り巻く状況です。

そこで橋野氏は、「シリーズをどう発展させるか」ではなく「次のアトラスを盛り上げるためにはどうしたら良いのか?」を模索。ゼロベースで企画を作り上げることとなりました。
もともとアトラスではセガサターン向けにもゲームを開発しており、セガサターンではコアゲーマーが多いだろうという理由で「デビルサマナー」シリーズのチームが立ち上げられました。一方、プレイステーション(PS1)はライトユーザーが多かったことから、敷居の低い「ペルソナシリーズ」のチームが作られた経緯があります。
そこで橋野氏は、まず「デビルサマナー」チームの視点で「ペルソナシリーズ」を分析し、「女神転生シリーズ」から続くエッセンス・思想性・テーマを時代性に合わせながら、「ペルソナシリーズ」向けにチューニングしました。とくに注目したのは、当時のプレイヤー(若い層)がどういった問いかけなら向き合ってくれるか?という点です。
具体的には、当時の若者を対象にしたインタビュー、分析本、さらには戦後の若者に対して行われた意識調査などを参考に、時代を経ても色あせることのない死生観をテーマにしつつ、ジュブナイルという形式に落とし込んだのが『ペルソナ3』でした。
なおここで使用する「ジュブナイル」とは、「自分が社会に出る時にどのような立ち位置で世の中を見据え、大人になるのか。その葛藤を乗り越える物語」という意味で使用しています。そのためキャラクター設計やシステムはその「ジュブナイル」を表現する最適なものが選ばれました。
例えばカレンダーのシステムも、限りある学生生活を描くためのものです。ジュブナイルの中で、若いキャラクターたちをどう成長させるのか? それを第一に考えました。
それではアートワークや音楽はどのように作られたのでしょうか?

アートワークについて副島氏は、「意識していたわけではありませんが」と断りを入れつつも、「自分が見つけた良いもの」といった価値観を大切にし、ユーザーに優越感を抱かせるようなビジュアルをめざしていたのではないかと、当時を振り返りつつ語ります。そのようにタイポグラフィーやUIをデザインしました。
また当時はキャラクターデザインができる喜びにあふれており、これまでは仕事で描けなかったようなキャラクターデザインにトライしたといいます。
音楽を担当した目黒氏は、ポップでライトなイメージで世界観が構築されていたことから、それに合わせる形で「フューチャーポップ」をキーワードに数々の音楽を生み出しました。また当時を振り返り、デフォルメキャラクターを登場させることには抵抗があったと、笑いを交えながら紹介してくれました。
「女神転生」シリーズではダークでスタイリッシュなイメージを大切にしていたアトラスが、そのイメージを崩すようなデフォルメキャラクターを登場させて良いのか? そう考えていたそうですが、『ペルソナ3』がリリースされたのはPS2の時代です。フル頭身でデジタルキャラクターを構築するのが難しいなどの理由もあり、簡略化の意味でそうせざるを得ませんでした。

◆金田一耕助をめざした『ペルソナ4』
『ペルソナ3』が2006年にリリースされた後、続編となる『ペルソナ4』は、比較的早いタイミングとなる2008年に登場しました。というのも、『ペルソナ3』が口コミで話題になり、利益としてもシリーズが存続できるくらいの結果が出たことで、橋野氏が「ユーザーが『ペルソナ3』を遊んでいる間に、しっかり次の作品を用意したい」と考えたからでした。

そこで橋野氏はまず、『ペルソナ3』のキャラクターたちが次に葛藤を抱くとしたら、どのようなことに壁を感じるのか?という部分に着目してゲームの方向性を探りました。もちろん『ペルソナ3』のキャラクターがそのまま続投するという意味ではありません。『ペルソナ3』のキャラクターをユーザーの映し鏡にして、『ペルソナ3』のキャラクター=プレイヤーが次にどのような葛藤を乗り越えるのか?という意味での説明でした。
当時も今と同じように情報が氾濫する時代です。橋野氏は何が本当で何が嘘か、その情報リテラシーをテーマに据えつつ、自身がファンだという金田一耕助を「ペルソナシリーズ」に持ち込むことにしました。橋野氏が「金田一耕助」シリーズを愛するのは、閉ざされた村の因習などをよそ者の金田一耕助が壊し、風穴を開けるところにおもしろみを感じたからです。それを『ペルソナ4』でジュブナイルと合体させたらどうなるのか?
イメージイラストを副島氏に依頼すると、さっそく、ボロボロの姿で川に浮かぶ女子高校生の事件現場が上がってきて手応えを感じたそうです。

副島氏は当時、橋野氏から渡された資料が陰惨なものばかりで、どう明るく描くかでそうとう悩んだことを座談会で打ち明けていました。また『ペルソナ3』である程度の知見を得ていたことから、その経験をベースに、田舎に合うトーンだったり、「田舎の子=いつもジャージを着ている」といったアイコニックなものを取り入れたりして世界観を構築しました。その点は安易だったかもと反省しつつ、世に出たものが正解であると自分を言い聞かせていました。
一方、目黒氏への発注は、「こういう音楽を」ではなく、「こういう雰囲気の作品です」と世界観を伝えることにとどめられました。その方針は『ペルソナ4』に限ったことではありません。橋野氏は目黒氏の仕事を信じていることもあり、あまり制限しない形でのオーダーを心がけているそうでした。
そのため『ペルソナ4』でも同様の発注がおこなわれて、目黒氏はそのコンセプトを1年ほど考えることになります。結果、ポップでロックなイメージの楽曲が完成しました。

『ペルソナ4』は『3』から間を置かずに制作を開始したということもあり、皆さん地続きで作業したという感覚を強く持っていたようでした。おかげで『3』で得た経験をそのまま反映する形で比較的スムーズに開発を進めたとのこと。その一方で改善したこともありました。それが、完全分業制からチームの連携を強めるような制作体制への移行でした。
『ペルソナ3』では完全分業制で作業を進めていたのですが、『ペルソナ4』からは、チーム間である程度の情報共有をしながら進める方式に変更したそうです。シナリオのプロット(あらすじ)が上がってくれば各チームで共有し感想を上げてもらい、キャラクターのラフが上がればそれも同様に皆で評価する。これが結果としてチームの連携を高め、全体で同じビジョンを共有する、より強い効果をもたらしたのでした。
◆海外ファンの人気を獲得した『ペルソナ5』
現状におけるシリーズ最新作『ペルソナ5』は『ペルソナ4』のリリースから8年後、同チームによる『キャサリン』の開発を挟みつつ、2016年にリリースされることになりました。
当初は「バックパックひとつで旅をするジュブナイル」という内容で進めていましたが、そのコンセプトがうまくはまらなかったことから、方向転換したことで結果的に発売日が遅れてしまうことになります。怪盗をモチーフにしたことについては、もともと橋野氏がミステリー好きだったことに加え、ふとしたきっかけで「ルパン三世」の新作アニメに気付き、改めて怪盗モチーフに注目したのが理由でした。
そこから、音楽ではアニメ「ルパン三世」のようなビッグバンドや、ジャミロクワイが火付け役となったアシッド・ジャズを取り入れる形で世界観が構築されることとなります。
またアート面では、『キャサリン』でセクシーなテイストに挑戦した時の経験をもとに、世界観にさらなる磨きがかけられることとなります。そのほかフル頭身の3Dシーンでは、『キャサリン』がある意味で予行演習となったこともあり、『ペルソナ5』でその知見が活かされることになりました。
こうして『ペルソナ5』は国内ファンの認知を拡大したばかりか、多くの海外ファンも獲得することとなります。その点について副島氏は、リリース後の版権イラストを描く際でも、海外ファンの反応をチェックするようになったと語っていました。それ以前は、ほぼ国内ファンばかりだったので自然と反響が耳に入ってきたのですが、海外ファンの反応は調べないと正確な部分は分かりません。そのように、新たなファンの獲得は現場にも影響を及ぼすことになりました。

最後に「ペルソナらしさとは?」とMCに尋ねられた一同は、難しい顔を見せつつも、以下のように語ります。
橋野氏が考える“ペルソナらしさ”とは、「考えたこともなかった」と断りを入れつつも、学生らしい迷い・間違い・勘違いなど、ゴチャゴチャとしたカオスなところがそうではないかと語ります。それは洗練されておらず、未成年らしいエネルギーを伴うものでした。
目黒氏の“ペルソナらしさ”は少し異なり、音楽制作の面においては反対に考えてはいけない部分だと語ります。サウンドクリエイターの担当領域はあくまで橋野氏のオーダーに沿うことです。そこを「ペルソナはこうあるべき」と定義づけすると、それがかえってオーダーとぶつかってしまい成立しません。目黒氏にとっては完成したものが“ペルソナらしさ”であると言えるでしょう。
副島氏の“ペルソナらしさ”も同様です。その時代を反映して完成したものが結果として“ペルソナらしさ”になります。アトラス社内でもやはり「ペルソナであること」を気にするスタッフがいると言いますが、それを実践しても過去作のコピーにしかなりません。その時その時で楽しめるものを作れば、後から“らしさ”がついてくると述べます。
三者三様の回答ではあるものの、そこにあったのは「今を積み重ねた先に未来や結果がある」ということ。その考え方はまさに橋野氏が表現しようとした「ジュブナイル」のひとつの形のように思える。そんな座談会となりました。








