「リアルワールド・メタバース」による別の未来ー『ポケモンGO』のナイアンティックが目指すもの | GameBusiness.jp

「リアルワールド・メタバース」による別の未来ー『ポケモンGO』のナイアンティックが目指すもの

ナイアンティックが11月8日に発表したAR開発環境「Lightship ARDK(AR Development Kit)」の機能を紐解くとともに、新たに提唱された「リアルワールド・メタバース」と盛り上がるメタバースを考察してみます。

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「リアルワールド・メタバース」による別の未来ー『ポケモンGO』のナイアンティックが目指すもの
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11月8日(日本時間11月9日)『ポケモンGO』や『イングレス』、『ピクミン ブルーム』などのスマホゲームを提供するナイアンティックが、AR開発環境「Lightship ARDK(AR Development Kit)」を世界同時公開しました。Lightship ARDKの公開にはどんな意味があるのか? これを使って開発者や企業は何をできるのか?これによってゲームとソーシャルメディアの未来はどう変わるのか?について考えてみます。

Lightship ARDKは、簡単に言うと誰でも簡単にポケモンGOのAR画面のようなゲームが作成できる開発キットです。ポケモンGOには2つの側面があります、1つは、現実世界の地図上のさまざまなポイントにポケモンが隠れていて、実際に自分の足で歩いてポケモンを探し出会う「位置情報ゲーム」としての側面。もう1つはポケモンを捕獲したり餌をあげたりするときにスマホのカメラ映像にポケモンのCGを合成し、あたかも現実世界にポケモンが存在しているかのような体験ができる「ARゲーム」としての側面。

今回のARDKは、後者のARゲームを開発するための機能を提供します。ARDKは世界中で3DゲームのやVRの開発に使われている開発プラットフォーム「Unity」を基盤としています。UnityもLightship ARDKも基本部分は無料で使用できるので、やる気さえあれば、個人レベルでもポケモンGOのAR機能と同等かそれ以上の機能を持ったアプリを作成できるのです。

ARDKが提供する3つの重要機能

ナイアンティックは、Lightship ARDKは“既に『ポケモンGO』や『ピクミン ブルーム』で使用されている”としていますが、実際には、今回の柱となる3つの機能は、まだすべてが活用されてはいないようです。

ARDKが提供する主要な機能は次の3つです。

  1. 現実世界の再現(マッピング)

  2. 境の理解(アンダースタンディング)

  3. 体験の共有(シェアリング)

現実世界の再現

これはカメラの映像に写っている風景や物体をリアルタイムに認識し、3DCGと合成可能な位置情報や形状の情報に変換する機能です。これによって、3Dのキャラクターが床に置かれた椅子やテーブルの間を縫うように移動し、物陰に入った部分は見えなくなる、といったリアリティのあるAR映像が簡単に実装できるようになります。また、投げたボールが床を弾むようなゲームも作成できるとのこと。

環境の理解

上記の「現実世界の再現」では、物体の形状や大きさ、視点の認識だけですが、さらに進んで、カメラに写っているのが何か、具体的には、空、地面、木々、建物、などという意味まで理解できるようになるのです。空と建物が理解できれば、ビルの間を歩く巨大怪獣のような映像もリアルに合成することができます。

体験の共有

いま見ているものが、自分にしか見えていないのと、周囲の人達と同時に同じものを見ることができるのでは、体験の質が大きく異なります。驚きや共感をほかの人と分かち合うことで、人の感動はさらに高まります。ARDKの「体験の共有」では、最大5台のスマホで同じ映像を異なる角度から見たAR体験を共有することができます。

現状のポケモンGOでは、フレンドの相棒ポケモンを集めて3匹までの集合写真を撮ることができます。この機能にARDKの「体験の共有機能」が使われていると思われます。また、最近になって、相棒ポケモンにおかし(餌)を投げ与えるときに、距離が遠すぎるとポケモンが自分から投げやすい距離に歩み寄ってくれるようになりました。つまり、ポケモンがユーザーとの距離を認識するようになったのです。

一方で、視点によってポケモンが物陰に隠れるようなことはまだありませんから「現実世界の再現」「環境の理解」の実装はまだこれから進化していくようです。

なお、Lightshipの機能の大半は無料で利用できますが、この体験の共有機能についてはナイアンティックのサーバーリソースを使うため一部有料となっており、2022年5月以降、MAU(月間アクティブユーザー)5万人以上の場合は、1万MAUあたり5ドル課金されます。また無料の場合も含めて1カ月のデータ転送量は1MAUあたり50MBに制限されます。

また、最大5台までとされている同時共有数も、将来的には増やしていきたいとのことでした。

ARの可能性をさらに広げるVPS

来年以降実装予定の機能として、VPS(ビジュアル・ポジショニング・システム)も紹介されました。一般的にVPSは従来のGPS(グローバル・ポジショニング・システム)と対になる技術で、GPSが衛星からの電波を基準に現在位置を割り出すのに対し、VPSはカメラに映った風景やランドマークを基準に現在位置を決める仕組みです。

GPSが電波の状況により数メートルから100メートル程度の誤差が生じるのに対し、VPSはより精度の高い位置決めができるため、AR普及のために必須の技術とされています。

ナイアンティックでは2019年から「Wayfarer」の運用を開始し、イングレスのユーザーがポータルの新規設置を申請したり、ポケモンGOのユーザーがポケストップの新設を申請したものを「Wayspot」として一括管理しています。Lightship ARDKで将来提供が予定されているVPSは、このWayfareに登録されたWayspotの情報を使って実現されます。VPSを使ったアプリケーションの例として、現実の名所旧跡などにひとりのユーザーが仮想のカードを隠し、別のユーザーがそれを見つけ出す、というゲームが紹介されました。

VPSで地図上の位置情報が利用できるようになった場合、ポケモンGOや『ピクミン ブルーム』のもうひとつの側面である位置情報アプリについても、各企業や個人が開発できるようになるかもしれません。

「リアルワールド・メタバース」がめざすもの

今年8月10日、ナイアンティックの公式ブログに「メタバースはディストピアの悪夢です」という過激なタイトルのエントリがCEOのジョン・ハンケ氏名義で投稿されました。メタバースという概念の原点となったSF小説「スノウ・クラッシュ」やスピルバーグによって映画化された「レディ・プレイヤー1」などを引き合いに出して、人々が現実世界を諦めて、仮想世界で自己実現を求める未来に危機感を示しました。

今年になってコロナ禍の影響や各種テクノロジーの進歩によって、VRによる仮想世界「メタバース」への期待感が急速に盛り上がったことに対して、創業当初からゲームの力で「外に出て体験しよう、触れあおう」というメッセージを発信し続けてきたナイアンティックのポリシーからの反論とも見えます。

しかし、その後もメタバースブームは盛り上がり続けて、ついにはFacebookが「Meta」と社名変更し、Microsoftもコミュニケーションツール「Teams」にメタバース機能を追加する「Mesh for Teams」を発表しました。メタバースブームは、今後しばらくは拡大を続けるでしょうし、10年後にはスマホのように普及している可能性もでてきました。

ARを誰でも手に届くものにしようと創業以来ARDKの公開を準備してきたナイアンティックとしても、VRを前提としたメタバースに異を唱えるよりも、むしろこのブームに乗ることでARの普及を図りたいと考えたのでしょう。

今回のLightship ARDKのお披露目のテーマが「リアルワールド・メタバース」であり、その実現の道具としてARDKが位置づけられたのは、そういった事情があったと思われます。

つまり、ARの力で外に出て「体験しよう、触れあおう」というナイアンティックのポリシーは何も変わっていないということです。むしろ、今回の発表においてより力強いビジョンが改めて提示されました。ARによるサポートによって、自分たちが住む街の知らなかった魅力と出会ったり、歴史を学んで愛着を高める。人々と出会い、触れあう。

著者の個人的経験から言うと、初期のポケモンGOのために東京中の公園や名所をめぐり歩き、レイドのためにそこで出会った人たちと協力して少人数でなんとか伝説ポケモンに勝つ、といった素晴らしい体験ができました。人生を確実に豊かにできたと言えます(現在のポケモンGOはハードルが下がった分、そういった鮮烈なリアル体験はなくなってしまいましたが)。

ナイアンティックが目指すリアルワールド・メタバースによるAR体験によって、僕らの住む現実世界がVRによる仮想世界よりも魅力的になる可能性は確かにあるかもしれません。

「リアルワールド・メタバース」に参入する方法

今回のLightship ARDKの発表で特徴的なのは、単なるSDKの発表に留まらず、開発者向けのサポート体制や開発者コミュニティを最初から用意していることです。サポートを行う「デベロッパーエクスペリエンスチーム」を立ち上げて、開発者からの質問や要望に積極的に応えていきたい、としています。

現状では、リファレンスやガイドなどドキュメント類は英語のみとなっていますが、日本は重要マーケットであるとして、日本語によるサポートも充実していきたいとのことでした。

また、このリアルワールド・メタバースに参入するベンチャー企業のために、2000万ドル規模の基金を作り、他のベンチャーキャピタルや投資家と共同投資を行うと発表しました。これによってARメタバースに参加する市場プレイヤーを積極的に増やす狙いです。この基金の対象はスタートアップ段階の法人のみですが、インディーズの開発者に対しても、別の形で支援をしていきたいとのことでした。

Lightship ARDKの評価すべきは、かなり考えられた参入のしやすさです。開発環境は3DやVRの開発環境として標準的なUnityであり、スマホもiOSとAndroidの両方に最初から対応しています。

「現実世界の再現」のためにカメラに映っている物体を計測するには、従来はiPhone 12 Pro以降に搭載されたLiDARスキャナのような測距システムが必要な場合もありましたが、Lightship ARDKは通常のスマホに搭載されたカメラで同じことを実現しています。開発者にとってもユーザーにとっても、参入の敷居をできる限り低くしたいという意図が見えます。

未来のメタバースはVRかARか

ナイアンティックは、一般的なVRのメタバースに対して、ARによるリアルワールド・メタバースを提案しましたが、VRメタバースの側も現実との融合を強く意識しだしています。Meta(旧facebook)がリリースしたバーチャルオフィス環境「Horizon Workrooms」では、VRヘッドセットのモノクロパススルー映像で周囲を確認したり、現実のPCの画面をバーチャルオフィスの中で操作することが可能になっています。

ARもVRも発展途上の技術であり、各社がARグラスやVRヘッドセットの開発を行っていますが、スマホにおける初代iPhoneに相当する革新的なデバイスはまだ登場していません。iPhoneと同時期に出現してスマホの普及に大きく貢献した各種SNSに相当するサービスもありません。

逆に言うと、どこから破壊的イノベーションで次の市場を占めるプレイヤーが出てくるかわからない状態です。いまは失敗を怖れずチャレンジを繰り返すべきフェーズと思われます。

今回のLightship ARDKの提供によって、いままでは困難だった、アニメ『電脳コイル』のような本格的なARの開発に誰もが気軽に参入できるようになったことで、よりリアリティのあるバーチャルペットやバーチャルサバイバルゲームなど、新しいエンタテインメントやサービスがどんどん出てくることでしょう。

《根岸 智幸》

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