エンターテインメントの可能性を信じて…アカツキが追い求める"ワクワク"とファンド設立の理由とは | GameBusiness.jp

エンターテインメントの可能性を信じて…アカツキが追い求める"ワクワク"とファンド設立の理由とは

モバイルゲームの開発・運営で知られる企業が積極的に投資を行う理由とは? 株式会社アカツキの代表取締役CEOの塩田氏と執行役員の石倉氏に、同社が見据えるビジョンをうかがいました。

企業動向 戦略
エンターテインメントの可能性を信じて…アカツキが追い求める
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八月のシンデレラナイン』、『サウザンドメモリーズ』などのオリジナルタイトルをはじめ、数々の大ヒットモバイルゲームの開発や運営に携わっているアカツキ。

同社はその一方で投資専門チームを設立し、起業家やクリエイターなどへの投資や支援を行うプロジェクト「Heart Driven Fund(ハート ドリブン ファンド)」も行っています。ゲームメーカーが投資を積極的に行う狙いはどのようなものなのか? アカツキ代表取締役CEOの塩田元規氏と、同社「Heart Driven Fund」執行役員の石倉壱彦氏に思いを語っていただきました。

◆アカツキはゲームだけではなく“ワクワク”を作りたい


――まずは「Heart Driven Fund」設立の経緯をお聞かせください。

塩田弊社は「A Heart Driven World.」――心が求める活動がみんなの幸せの原動力となる世界――をビジョンとして掲げ、心を動かすワクワク体験で世界中を輝かせる「Make The World Colorful.」をミッションとして掲げています。「Heart Driven Fund」は、それを実現させるための取り組みのひとつです。

ゲームが人の心を動かせるものの一つであると信じるからこそ、ゲーム事業にも重きを置いていますが、実は弊社は創業当時から自分たちをゲームメーカーと定義したことはないんです。ゲームはもちろん、ゲーム以外の広いジャンルのみなさんとワクワクするコラボレーションを推進したいと考えていたところ、スタートアップの立ち上げ経験が豊富な石倉が弊社にジョインしてくれることになりまして、彼となら、ただ投資するだけではなく支援する相手とのコ・クリエーション(事業共創)ができるだろうと。

アカツキ代表取締役CEO 塩田 元規氏

石倉前職を辞してからは、次は何をしようかとじっくり考える機会を持つことができました。さまざまな選択肢を検討しましたが、自分の経験を一番活かせるのは、やはりファイナンスと事業の領域だろうという結論に至りまして。今までは一社と深く関わる形で仕事をしてきましたが、より多くの方を支援するには、一企業の枠にとらわれず、大きなグループとなって動ける方が好ましい。それならばグローバルに展開しつつ、チャレンジも忘れないアカツキで力を発揮できればと思いました。

塩田僕たちが支援するのは、起業家だけでなくてもいい。アーティスト、クリエイター、研究者……そうした方たちとも組んで、その才能や知識、思いを広げられればと考えています。

――なぜゲーム会社が積極的に投資を……と思っていたのですが、みなさんたちご自身ではゲーム会社とは定義していないとのことで、大きな疑問がいきなり氷解してしまいました(笑)。投資先を選ぶ基準は、どのようなものをお持ちなのでしょうか。

塩田投資とは、いわば血を分ける行為です。だから、合理的なだけでは投資しづらいと思っています。「この人がやろうとしていることは、何か楽しそうだな」という感覚的なものでもいいので、そこには共感性があってほしい。

石倉もちろん、ロジカルにデータを提示していただけるに越したことはないんですよ。でも、そうした思いも大事にしたいと思っている。それに、何らかの才能が突き抜けている方たちは、得てして強い思いも抱いているものですから。

株式会社アカツキ Investment&Co-Creation担当 執行役員 石倉 壱彦氏

――御社では「AET Fund (Akatsuki Entertainment Technology Fund)」も行っておられますが、「Heart Driven Fund」との違いはどのようなものなのでしょう。

塩田「AET Fund」はエンターテインメントとテクノロジー領域を見据えたファンドで、投資先もほぼ海外です。言ってみれば「海外研究開発投資」ですね。それに対し「Heart Driven Fund」は国内をメインに見据えた事業創造プロジェクトです。「国内で一緒にチームを作って、海外市場に打って出ませんか?」という感覚ですね。

チームを組むというのは弊社と投資先に限った話ではなく、たとえば弊社からの投資先同士がクリエイションする機会も作れるならどんどん回していきたいと思っています。そこから新しい商品やサービスが生まれれば、弊社にとっても利益になりますから。

石倉さまざまなところに投資して、シナジーで成長していきたいですね。


◆体験あるところにエンタメあり! 塩田氏のエンターテインメント論


――今後、投資を検討している分野などはありますか?

石倉僕としてはエンタメ事業ですね。スポーツの体感の仕方、見方、感動の仕方……今後はそれすら変えうるようなテクノロジーが出てくると思いますし、それに興味があります。世の中便利にしつつ、人の感情が動かせるプロダクトをいかに創出するか……そういうところに投資をしたいですね。

塩田僕も石倉とほぼ同じ思いです。特定の技術で言うなら、ARに強い興味を抱いています。ここ2、3年で大きく変わるのではないかという肌感覚もありますので、一挙手一投足を見逃さないようにしています。才能ある人が、きちんとその才で稼げるマーケット作りに寄与できれば。

ただ、「Heart Driven Fund」はそういったテクノロジーや才能によるものではないものも投資対象になります。たとえば、高いブランド力を持つ老舗の家具とかでもいいんですよ。そこに僕らが培ったテクノロジーを入れられれば、それでファン層を広げられるかもしれない。

アメリカ、中国、ヨーロッパ……そうした海外の大きなマーケットを相手に、合理性だけを追求したパワープレイで勝てるとは思っていません。むしろ、精緻かつ文化的な伝統があるものにこそ、勝機があると思っています。そういったものがちょっと形を変えて世界に打って出たら……僕の中ではそれも「エンターテインメント」なんですよ。昔、トヨタの方が「モノの中で"愛"を付けるのは車だけ」というようなことをおっしゃたことがありました。


――愛犬、愛妻などとはよく言いますが、たしかにモノにはあまり付けないかもしれませんね。

塩田そうなんです。車が物ではなく、精神的な何かになっているんです。そこにブランドがあるなら、何らかの体験も伴っているはず。そして体験があるものは、どんなものでもエンターテインメントたりうるんですよ。それなら何でも投資対象です。

――ゲームに限らず、エンターテインメントのにおいを感じるものに投資する、というお話はとても腑に落ちます。

塩田もちろん、僕たちはゲームが持つ可能性を強く信じていますし、弊社のゲーム事業もよりすばらしいものにしていくという意思もありますよ。念のため、ゲーム事業の未来を憂えて他の事業に手を出しているというものではないことは、強くお伝えしておきたいです。

ただ、いくら可能性を信じているとはいえ、エンターテインメントの一分野だけに邁進するのはちょっと怖いという気持ちもありますけどね……(笑)。エンターテインメントはそういうものだと思いますし。

石倉それに、いくら投資したい、貢献したいと思っても、複数の事業を常に全力で成長させていくのは困難です。だから、本業を成長させている間に、食い込んでおきたい他の分野や事業にもしっかり食い込んでおきたいという思いもあります。そこでゲーム事業で培ったナレッジや運営力を活かせればいいですし、反対にそこからゲーム事業に活かせることもあれば、なおいいです。


◆アカツキ、そして塩田氏と石倉氏が目指す未来とは


――アカツキの投資先にはe-Sports事業も見られ、2018年8月22日にはスペインのPROFESSIONAL ESPORTS LEAGUE, S.L.(PEL社)の株式を取得して子会社化したことを発表(*)されました。
(*)参考記事:アカツキが手がけるe-Sportsリーグ「LPE」代表が目指すe-Sportsのカタチ【インタビュー】

同社はe-Sportsリーグ「LPE」を設立しており、FCバルセロナやサントスFCなど、名だたるスポーツチームのe-Sports部門が名を連ねています。御社ではe-Sports事業の可能性をどのように見ておられますか。

塩田今は海外にフォーカスしている段階ですね。日本も可能性はあると思っていますが、日本におけるe-Sportsのコンテクストは、海外のそれとはちょっと異なりますよね。最近はテレビ局も興味を持っているようですし、それで認知度がもう少し上がっていけばいいですね。

石倉日本ならではの盛り上がり方を模索していかないといけないのかなという感覚はあります。まずは環境や雰囲気作りからでしょうね。

塩田e-Sports云々という前に、海外のように「ゲームはかっこいいもの」というブランディングを実現して、それを土台にできないと……という思いはあります。実は僕が幼いころは、マンガを読んでいると祖父によい顔をされなかったものですが、日本におけるゲームは今でもまだそういう部分があるのではないかと。ゲーム業界に勤めていない方が「趣味はゲームです」と言ったりすると、反応がよくないことってありませんか? 今後はe-Sportsも、若いカップルが映画を観に行くぐらいの気軽さで、試合を観戦しに行くようになればいいですね。


――なるほど……。「Heart Driven Fund」は今後、執行役員の石倉氏が中心となってチーム作りが進むかと思いますが、現在はどのくらいの規模なのでしょうか。

石倉今はヘルプを入れても2.5人分というところでしょうか。ありがたいことに多くのお問い合わせをいただいているのですが、力のあるスペシャリストを募って、投資先にしっかりとした支援を行えるチームを作りたいと思っています。組織が成長していく過程で、どのような課題に直面するかはもうナレッジがありますので、それに対応できるものを。

塩田将来性を買って"種まき"するだけではなく、一緒にやりたいですね。お互いに助け合い、コラボレーションしながら新たな価値を創出し合っていくのが理想です。

――お二人は、個人でもさまざまな投資をされているとうかがいました。

塩田そうですね。アカツキで投資するような規模ではないし、業種も違うけれど、個人の感覚でいいと思ったものは個人で投資しています。僕はそういうときはいわゆる”エンジェル投資家”であることが多く、投資先からの報告を求めませんし、こちらから何か聞くこともほとんどありません。「何か困ったことがあったら言ってください」というくらいのものです。

それも、根っこはアカツキとしての投資と同じで、"仲間作り"のためなんです。ゲームに限らず、優良なサービスや商品を提供する企業たちが、みんな仲間だったらすてきだと思いませんか?

――それが御社、ひいてはお二方の目指す未来なのですね。本日はありがとうございました。
《蚩尤》

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