【ありブラ vol.20】ツールやミドルウェアの「導入障壁」と向き合う(その3~完結編~) | GameBusiness.jp

【ありブラ vol.20】ツールやミドルウェアの「導入障壁」と向き合う(その3~完結編~)

パシフィコ横浜で行われた日本最大のゲーム開発者向けイベント『CEDEC2015』も終了したばかりですが、ゲーム業界的には、次なるビッグイベント『東京ゲームショウ2015』に向けて引き続き熱量の高い毎日が続きます。

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GameBusiness.jp、インサイドをご覧のみなさま、こんにちは!

パシフィコ横浜で行われた日本最大のゲーム開発者向けイベント『CEDEC2015』も終了したばかりですが、ゲーム業界的には、次なるビッグイベント『東京ゲームショウ2015』に向けて引き続き熱量の高い毎日が続きます。

おかげさまで、ブースで初出展した「4K全天球VRムービー」にもたくさんの方にご注目頂き、具体案件についてのご相談もちらほらと。ボクのところにお問い合わせ頂く案件は、どちらかというとゲームそのものというよりは、アニメなどのインタラクティブな映像コンテンツやメディアアート的なもの、製品やサービスのプロモーションを目的としたものなどが増えています。

▲CRIマスコットキャラの「りんご」もVRバージョンでお出迎え!(CEDEC2015にて筆者撮影)


ゲーム業界に限らず、「VRで高解像度の全天球動画を再生したい!」という方にオススメです。

また「VR動画のフレーム落ち(処理落ち、コマ落ち)に困っている!」という方や「VR上で複数の動画を同時に再生したい!」という方、「全天球動画を背景にしながらユーザの視界にアルファ(透過)動画を重ねたい!(=HUD的な演出)」という方も、まずは当社のVRデモをご覧頂ければと思います。

なかでも特に注意したいのが「フレーム落ち」の問題。VRの歴史って実はかなり長いのですが、そのVRがずっと悩み続けているのが「酔い」の問題。VRを専門的に研究している人たちが口を揃えて主張されるのが「VRに2度目はない!」という点。つまり、最初のVR体験で気分が悪くなったり、酔ってしまったりしたユーザは、二度とVRをやりたくなくなってしまうという法則。

酔いの回避にはいろいろなノウハウがあるのでここで詳しくお伝えするのは控えますが、なかでも「全天球動画」の再生時に注意したいのが「フレーム落ち」です。VRの最大の特徴は、自分の好きな場所を自由に見回せるということです。首を振って視線を移動したときに「ちゃんと画像が追従してくれる」ことが肝要です。ここでフレーム落ちが発生してしまうと、とたんに人間のアタマの中で矛盾が発生し、酔いや悪心の原因になってしまいます。

動画ではなくリアルタイムゲームの話になりますが、某VRゲームのプロデューサーの方が「理想を言えば、VRの酔いの回避には 75~90fps が欲しいところ」と仰っていたのが印象的でした。それだけVRにとって描画フレームは大事なもの。動画の場合、安定して再生がなされてフレームが落ちたりしないことは、実はとっても大事なポイントだったりします。

あと、技術的なハナシではないのですが、、、

個人的な意見ですが、VRが今後ますます普及していく際の最大のハードルって、「没入時の無防備さ」だと思うんです。ARとも違い、完全に現実世界から遮断される分だけ没入感もハンパないのですが、没入時にはかなり無防備になってしまいます(動物的にはかなりヤバい状態!?)。

ただ、これも「慣れ」なのかもしれません。

スマホが急速に普及した際、電車のなかで全員がスマホを黙々と覗き込み操作している様子には、かなり強い違和感を抱いたものです。でも、今ではすっかり日常の光景となりました。そして、その光景に慣れてしまっています。

一昨年、サンフランシスコで行われた「Google I/O」という開発者向けイベントに参加したときのことです。全てのセッションが終了し、イエルバ・ブエナ・ガーデンという公園を貸し切りでパーティが行われたのですが、ここで不思議な体験をしました。いわゆる「無音盆踊り」です(参考:イヤホン耳に無音で盆踊り…「不気味」でも「踊りに没頭できる」 2015年8月17日 産経ニュース記事)。

来場者に渡されるオーバーイヤーヘッドフォン。電池駆動でワイヤレス。装着すると、心地良いチルアウトミュージックが流れてきました。すっかり良い感じに酔っ払った方々は、無心に踊っています。FM波で受信しているので、ヘッドフォンを装着している人々は、ラジオを聴いているのと同じ原理で、共通の世界を音楽を通じて共有していることになります。

ひょっとしたら、VRの未来も、これなのかも!?

▲VRの世界に”没入”する当社社長(筆者撮影)


おっと、最近VR関連に注力していたので、ついつい冒頭コラム(?)が長くなってしまいました(汗)。ごめんなさい。

さて今週は、前回/前々回に引き続き、ツールやミドルウェアの「導入障壁」と向き合い、いかにその「壁」を乗り越えるかについてご紹介します。今回が完結編です。

それでは「ありがとう、ブラックボックス」略して「ありブラ」、今週もスタートです!ぜひリラックスしてお楽しみ頂ければと思います。

前回までのおさらい



前々回の記事では、ツールやミドルウェアを初めて導入する際の「3つの判断基準」についてご紹介しました。そして前回の記事では、サウンドミドルウェア「ADX2」を例に「段階的なミドルウェア導入」の手法についてご紹介しました。

前回、

 ステップ0: 社内にサウンド部門がないケース
 ステップ1: プログラマによる組み込み


という初期ステップについて具体的にお伝えしましたが、今回はいよいよ「ステップ2」と「ステップ3」です。

「ミドルウェアをとりあえず使ってみる」という段階から、いよいよ「ミドルウェアをしゃぶりつくす」という段階へと、歩を進めたいと思います。

ステップ1では、「音質向上」「プログラム工数の削減」「音声データ保護(暗号化)」という導入メリットを享受できました。ただ、音声演出の調整作業をプログラマーやプランナーの方が行わなければならないのがネックでした。
プログラマーやプランナーは必ずしも音のプロフェッショナルではないため、作品のサウンドクオリティの担保が難しくなってしまいます。

そこで、次のステップを目指すことになります。

ステップ2:サウンド制作会社にツールを導入



ステップ2では、外部のサウンド制作会社に「ADX2」のツールを導入してもらいます。

▲ステップ2のワークフロー:サウンド制作会社にADX2ツールを導入


ステップ1では、サウンド制作会社は「サウンド素材制作」のみを担当していましたが(参考:ステップ1のワークフロー図)、このステップ2では、「演出設定」や「音量/圧縮設定」「サウンド調整」などをADX2ツールによって行います。

従来、こうした作業はプログラマーの協力が不可欠でなかなか外注先との分業が難しい領域でしたが、「プログラマーとサウンドデザイナーを橋渡しするためのツール」というコンセプトで長年開発されてきたADX2により、分業がしやすくなりました。

▲ステップ2による改善点:高度なサウンド演出が可能に


今まではプログラマーやプランナーが実作業を行っていたサウンドの調整部分を、サウンドの専門家が行うことでクオリティの担保ができるようになります。もちろん、プログラマーやプランナーもこうした作業から解放されるので、別の業務に集中することができるようになります。

結果的に、サウンド制作会社の専門家が素材制作から設定や調整まで一貫して行えるようになるので、ADX2の機能を活かした高度なサウンド演出が可能になる、というわけです。

もちろん、外部のサウンド制作会社からの納品物を確認する必要はありますが、サウンド素材だけの確認ではなく、調整や演出がある程度施された状態(つまり、限りなくゲームプレイ時のサウンド再生に近い状態)ですぐに検収確認ができるので、より効率的なワークフローでかつ高クオリティなゲームサウンドを実装できるようになります。

ステップ1に比べて、「餅は餅屋」の考え方を徹底したのが、このステップ2になります。ステップ1よりもメリットが多いステップ2ですが、複数プロジェクト間でサウンドクオリティに差が出てしまう、という可能性もあります。これは、プロジェクトごとに発注先の外部の会社が異なる場合に特に注意しなければいけない点です。

こうした点も解決できるのが、次の「ステップ3」です。

ステップ3:社内にサウンドディレクターを据える



ゲームサウンド開発における、ある種の「理想型」と言ってもよいのが、この「ステップ3」です。

まずは、ワークフローを見てみましょう。

▲ステップ3のワークフロー:社内にサウンドディレクターを据える


ステップ3では、社内に「サウンドディレクター」と呼ばれるスタッフを据えることで、ステップ2の諸問題を解決します。

サウンドディレクターとは、サウンド制作の指揮を行う役割の人です。

上図のとおり、ゲームにおける「サウンド設計」を統括し、サウンド制作会社への各種指示や納品物のチェックを行います。

▲ステップ3における作業分担


社内にサウンドディレクターを据えることで、さまざまなメリットが生まれます。以下は、その一例です。

・プログラマーの作業を止めずにサウンド制作を進行できる
・サウンド制作会社とのやりとりがよりスムーズに(より高度に)
・社内スタッフだけでプロトタイピングが可能に
・社内/社外の2段構えの品質保証が可能に


ステップ2ではサウンドクオリティを外部の会社に一任していましたが、サウンドディレクターの導入により、社内基準を設けることができるようになり、自社タイトル全体のサウンドクオリティの底上げが期待できます。

~~~

さて、3週にわたってお届けしてきました「ツールやミドルウェアの導入障壁と向き合う」シリーズ、いかがでしたでしょうか。

記事の便宜上4段階に分けて導入ステップをご紹介してきましたが、シリーズ冒頭にもお伝えしたとおり、開発体制やサウンドの優先度(の捉え方)は企業によって異なるので、実際にはもっと細やかな類型が必要であり、必ずしも全ての企業がステップ3を目指すべき、とも思いません。

ただ、ますます本格化するゲームの「リッチ化」により、プレイヤーの目(耳?)も肥えてきています。遊び手がゲームサウンドに求める水準も以前より格段に高くなりつつあります。開発者側からの一方的な「スマホゲームだからサウンドはこの程度でいいや」という価値観は、なかなか通用しにくくなってきています。

「効率化」と「品質向上」

ツールやミドルウェアを評価する際は、ぜひ、この2つの視点で見つめて頂ければと思います。言い換えれば、「コスト削減」「付加価値の向上」という視点です。品質は上がるけれど工数が大幅に増えてしまったり、効率は上がるけれど品質が低下してしまったりでは、本末転倒です。

この2つの視点を「導入効果のベンチマーク」として、ツールやミドルウェアの定期的な効果測定の指標とされることをオススメします。これは、CRIのミドルウェアに限らず、すべてのツールやミドルウェアにも当てはまります。

そして、今回のシリーズ記事でご紹介して参りました「各ステップ」を参考に、会社やプロジェクトの規模、事業拡大や会社成長の歩調、社内の人材構成などに合わせて、無理のない「段階的な導入」をぜひ実現して頂ければと思います。

さらに、最後にせっかくなので、もっと踏み込んだご提案をいくつか。

「ADX2に熟練したサウンド制作会社を紹介して欲しい」
「外注先のサウンド制作会社にADX2の経験があまり無い(直接サポートして欲しい)」
「自社の現開発体制にフィットした導入ステップを教えて欲しい」


こうしたご希望のある企業様(ゲームやアプリ開発者さま)は、ぜひご相談下さい。

また、立場は逆になりますが、

「ADX2の案件を数多くこなしているので開発案件があったら紹介して欲しい」
「他社との差別化のためにADX2によるサウンド制作をマスターしたい」


といったご希望のある企業様(サウンド制作会社さま)も、ぜひご相談下さい。

…さて、今週の「ありブラ」はここまで。
それでは、また次回の更新でお会いしましょう!

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幅朝徳(はば とものり)

株式会社CRI・ミドルウェア 商品戦略室 室長、CRIWAREエヴァンジェリスト。学習院大学卒業後、CRIの前身である株式会社CSK総合研究所に入社。ゲームプランニングやマーケティング業務を経て、現CRIのミドルウェア事業立ち上げに創業期から参画。セガサターンやドリームキャストをきっかけに産声を上げたミドルウェア技術を、任天堂・ソニー・マイクロソフトが展開するすべての家庭用ゲーム機に展開。その後、モバイル事業の責任者として初代iPhone発売当時からミドルウェアのスマートフォン対応を積極推進。ゲーム企業とのコラボでミドルウェアの特性を活かしたアプリのプロデュース等も行う。近年は、ゲームで培った技術やノウハウの異業種展開として、メガファーマと呼ばれる大手製薬会社のMR(医療情報担当者)向けのiPadを使ったSFAシステムを開発、製薬業界シェアNo.1を獲得しゲーミフィケーションやゲームニクスの事業化を手掛ける。ますます本格化するスマホゲームのリッチ化を支援するためにモバイルゲーム開発者におけるミドルウェア技術の認知向上のためエヴァンジェリストとしての活動に注力中。最近は、ウェアラブルやIoTといった領域での新規の事業開拓や未来のサービス開発を担当、業界の枠組みを超えた協業、世の中にとって全く新しい付加価値の実現のために日々奮闘中。

趣味は、クロースアップマジックと陶芸、映画鑑賞とドライブ、鳥類/フクロモモンガ/爬虫類の飼育、そしてもちろん、ゲーム。デジタルガジェット大好きなギーク。

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《幅朝徳》

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