【GDC 2013 Vol.97】「F2Pとなった『Age of Empires Online』の過ち」を考える | GameBusiness.jp

【GDC 2013 Vol.97】「F2Pとなった『Age of Empires Online』の過ち」を考える

RTS『 Age of Empires Online 』のエグゼクティブプロデューサーであるKevin Perry氏がGDCで登壇しました。本作はタイトルどおり『AOE』シリーズとして2011年8月にリリースされ、ナンバリングタイトルではないものの最新作でした。セッションのタイトルは"F2P the Wrong

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RTS『Age of Empires Online』のエグゼクティブプロデューサーであるKevin Perry氏がGDCで登壇しました。本作はタイトルどおり『AOE』シリーズとして2011年8月にリリースされ、ナンバリングタイトルではないものの最新作でした。セッションのタイトルは"F2P the Wrong Way: Age of Empires Online"。テーマは、F2Pとして失敗した『AOEO』がいかに軌道修正していったかについて。

まず、記者の意見を交えず講演(おもにスライド)の内容を紹介します。

■ 要旨

MMORTSである『AOEO』について。満足のゆくゲームとしてローンチされたものの、F2Pビジネスモデルとしては低質でした。そこで、初期モデルの問題を特定した上で、いかにして適切な修正を施したか、そしてどのように活動中のタイトルに適用したかを説明します。論点は、ビジネスモデルとデザインの変更・プレイヤー数成長戦略・それらの結果について。

■始まり

『AOEO』は2011年8月にローンチされました。8月段階でのDAUは10万・毎日の売上は85,000ドルほどでした。それらの値が10月では2万5000・9,000ドルへ、12月には1万5000・3000ドルへと下落。理由を分析する必要がありました。

『AOEO』のローンチには問題がありました。まず、コンテンツが不十分かつゲーム要素が欠落しており、これがDAUの現象を引き起こしました。また、ビジネスモデルにも欠陥があり、売上減へとつながります。結果的に、少数のプレイヤーを基盤としたマネタイズにとどまりました。

では具体的にどういうコンテンツとゲーム要素が足りなかったか。第1に、「たった2つの文明と1つのブースターパックしかなかったこと」。過去作品にくらべてはるかに少なく、かつデザインに関する目的の大幅変更について旧作のファンへの理解が得られませんでした。

第2に、「スカーミッシュモードがなかったこと」。短時間で決着する人気のモードで、その不在によるプレイヤーのリピート率低下は新コンテンツではまかないきれませんでした。

第3に、「レベルと装備をベースとしたPvPを採用したこと」。純粋なプレイヤースキルでの勝負を好む競技系PvPコアゲーマーから忌避され、頭数こそ少なかったものの大きな声で悪評を広げられました。

第4に、「レベリングカーブが遅かったこと」。プレイヤーをイラつかせたうえに、限定的なコンテンツのリピートを強制させてしまいました。

結果、ブランドのあるゲームのローンチとしては穏やかではない状況が発生します。

次に、ビジネスモデルのどこに問題があったか。第1に、「値段が高かったこと」。文明20ドル/ブースターパック10ドルと、最低限のプレイをするにしては高価でした。第2に、「プレイヤーによる支出の機会がなかったこと」。最大で50ドル、特別な効果のないものを含めても75ドルにすぎませんでした。F2Pタイトルでの収入は、プレイヤーにいかに他者よりもカネを投入させるかに依存しています。ここでは、特に支出限界が問題であると認識しました。

要約します。よいゲームの骨子は創り上げました。しかしローンチ前にそれを完成させることができませんでした。さらに、できあがったビジネスモデルはを高価なもののセールスと遅々としたコンテンツ生成を基礎としていました。これらすべては修正可能でしたが、時間を要するものです。ゲームは生きています("The game is live.")。あらゆる修正は衆目にさらされることになりました。修正作業が始まったのは2011年12月からです。

■ 修正

最も容易に変更できたのは価格。安くしました。結果としては売上は変わらず。価格を半分にした分、売上が倍化しただけです。

中難度だったソリューションは複数あります。まず、コンテンツ不足の解消。これは2つの文明を追加することで解決しました。売上とDAUは急上昇することになります。

スカーミッシュモードの追加、新たなPvPモード(装備に依存しない対戦)の追加、XP(経験値など)などゲームプレイの調整。これらは無料で配信し、好意的な反応がありました。

プレイ人口の少なさは、Steamでのローンチとコミュニティシステムの整備で対応しました。前者の効果は大きく、DAUは3倍になり、収入は一気に増加しました。後者ではプレイヤー数がおよそ倍増しています。

最も困難だったのは先程も挙げた「プレイヤーの支出が限定的である」ことです。これはゲーム内経済を徹底的に検討することで対処しました。これは最大の好機でありながら、実施されたのは2012年6月です。

つまるところ、ビジネスモデルを根本的に見直し必要性があったのです。DAUは主要かつ高価なコンテンツのリリースによって変動します。ですが、ビジネスを維持するにあたり充分な速度で追加文明を創ることができていませんでした。他方、少数ながらも熱心なプレイヤーを基盤としていたなかで、疎外感を感じさせないようマネタイズすることはできました。ゲーム内経済の改革は2012年6月14日のアップデートで解決されています。

■ マネタイズに関する変更

アップデート前は、限定的なプレミアムダウンロードコンテンツ、Games for Windows LIVEまたはSteam経由での販売と、明確にプレイヤーの支出総額に限界がありました。具体的には、プレミアム文明10ドルが3つ・プロフェッショナル仕様文明10ドルが1つ・ブースターパック5ドルが2つ・首都のデコレーション(RTSパートへの効果はなし)5ドルが5つ。トータル75ドル以上にはならなかったのです。

アップデート後は、文明10ドルを4つに増やした他には、デコレーション機能を強化しました。首都については50個、さらにRTSパート用のユニットについては39個。また、首都での消耗品を6種、ミッションでの消耗品を6種用意しました。この2つは理論的には売上限度額がありません。

ただストアにアイテムを追加することよりもはるかに大きな変更もありました。ゲーム内通貨モデルへと移行させ、そこではプレイヤーはコンテンツを"Empire Points"(EP)で現実通貨で購入することができるようにしたのです。EPは通常のプレイで獲得できますし、スピーディーにゲームを進めるためにリアルマネーを払うこともできます。
※それまでは課金するしかなかったコンテンツがゲーム内通貨でも購入できるようになったということ。

こうしてAOEOは"真のF2Pゲーム"へと変質し、プレイヤーはコンテンツに対し時間を使うかカネを使うかを選ぶことができるようになったのです。

"真のF2Pモデル"は様々な恩恵をもたらしました。各プレスでは良好に評価され、前向きに報道されました。PC Gamerのスコアは65から90へと高まっています。また、コミュニティの反応も大きく、口コミで広がっていきました。さらに、全体的なプレイ人口も増大しました。

ゲーム内通貨もまた重大な恩恵をもたらしました。全面的なストア運用の簡略化へつながったのです。通貨はストアで提供し、ストアはゲーム内ですべて処理されるようにしています。プラットフォームにかかわらず素早くレベリングできるようにもなりました。

■ 初動


同規模のプレイヤー人口でも6月には売上が3倍になりました。アップデート後の5週間の売上は、それ以前の15週間分に相当します。

■ 内部経済


EPの消費の明細は、文明45%/ブースター16%/消耗品21%/デコレーション9%/倉庫6%/デコレーション設計図2%。トータルで約1億EPです。文明とブースター以外はアップデート後の新要素であり、全体の38%は以前のバージョンでは存在しなかったカテゴリにあたります。

■ ゲームデザインに関する変更

デザインの変更は同じ方向性に沿って実施されました。マネタイズのデザインをしたのではありません。"交戦"のデザインをしたのです。交戦するプレイヤーはゲームにより時間を投入します。すると自然とリアルマネーを消費するようになります。

そうしたデザインをプレイヤーへ強制することはありません。ただ、交戦プレイヤーに対し、追加報酬を提供したのです。複数の文明を購入する導線となる目標を設定したり、PvPをするようフォーカスした要素を増やしたりしました。

■ プレイ人口

プレイ人口マネジメントに2つの補足的な戦略を用いました。成長と維持です。前者はマーケティング・PRによる牽引・発見可能性(ゲーマーに見つけてもらう)が、後者にはコンテンツのリリース・ゲーム性の練磨・対戦が求められました。

ただ、アップデート直後にDAUは13%ほど増加したものの、それを維持することはできませんでした。アップデートによる変化より、Steamでのローンチの方が伸びています。

■ コミュニティ

サービスとしてのゲームは、運営の一環としてコミュニティは重要です。コミュニティ運用なくしては、プレイヤーはやってきませんし定着もしません。

AOEOのコミュニティ運営は交戦の増加に向けて革新的なアプローチを採用しました。メーケティングへのコミットメントの欠落に対応すべくとった手法も同様です。

フォーラムやブログを活用したコミュニティ運用は有効で、積極的に実施してきました。(最終スライドより)

■ 修正後

ビジネスモデルを修正し、デザインも改良しました。コミュティとのつながりも保たれました。では何が起こったか?文明を増やしたにもかかわらず、プレイヤーの急増はありませんでした。そのまま漸減しています。

■ 最重要ポイント

新コンテンツには目立った効果はありませんでした。今後もないでしょう。既存のプレイヤーはよりディープなフィーチャーと高価なコンテンツを求め、それらは新規のユーザーを引き付けることはありえません。

ビジネスモデルと製品モデルは異なります。

どんなにビジネスモデルが優れていても、それが製品モデルを支えることはできません。創るには高くつきすぎるからです。

■ 終わりに

我々は、技術的に悲惨なローンチをしてしまい、それがリカバリー不可能であったとしばしば語られます。また、いくつかのゲームがビジネスモデルを刷新するのをつぶさにみてきましたが、結果はまちまちです。

『AOEO』は、ゲームがオープンで稼働中の状況を維持しつつもビジネスモデルを柔軟に転換させられると証明しました。

プレイヤーの「交戦状態」を維持する事がサービスとしてのゲームが成功する秘訣です。
("Keeping the players engaged is the key to any successful game as a service.")

プレイヤーにとって有意義な効果をもたらすならば、変化を恐れてはなりません。

いかがでしたでしょうか。たまたま隣の席で聴講していた方が「当たり前のことしか言っていない」とおっしゃっていました。同感です。


そもそも『AOEO』とは何だったのか、セッションを振り返るにあたりおさらいします。

タイトルが正式発表されベータテスターを募集し始めたのは2010年8月ごろ。Games for Windows向けタイトルとして、Robot Entertainmentが開発していました。同社は『AOE』シリーズを製作していたEnsemble Studiosに所属していたベテランたちにより創設されています(一部はBonfire Studiosとなり、現在ではZynga入り)。当初は、四散したEnsemble組が『AOE』に舞い戻ったとして注目を集めました。すでにライバルタイトルたる『StarCraft II』はリリース済みで、追いかける形。

時代設定が『AOE1』に類似しているように見える一方で、グラフィックスはかなりデフォルメされており、リアル路線を通してきたシリーズ作品とは一線を画しました。それでも、トレーラー動画などには『AOE』らしさを感じるカットがたくさん散りばめられていました。

この段階ですでに、首都のクリエイション要素や資源配分、他プレイヤーとのCo-opやトレードシステムは紹介されており、ナンバリングタイトルとは異なること、つまりセッション最初に使われたジャンル"MMORTS"の片鱗が見えていたことになります。

しかし、ファンの期待が高まるなか2011年2月には突如開発がGas Powered Gamesへ引き継がれたことが明らかにされます。計画通りとしながらも、発表から半年経ってもベータテスターを募集していたほか、「年内リリース」と漠然としたリリース予告しかありませんでした。なお、Robot Entertainmentは『Orcs Must Die!』の開発へシフトしたようです。

そして2011年6月、正式サービスが8月開始と発表されます。いわく、「40時間以上」のクエストが無料プレイ可能。

あとはセッションにあった通りです。嘘偽りは何一つないと言っていいでしょう。追記するとすれば、今年1月に開発フェーズを終了していることくらい。

ただし1点抜けている部分があります。それは、ゲームが面白かったのかどうかです。ビジネスモデルやマネタイズにかかるデザインの部分についてはさんざん言及されていましたが、数々の名勝負を産んできたシリーズの名を冠するに相応しい内容だったかが脱落しています。

記者は中級とも呼べないほどの腕前です。しかし、『AOE』シリーズはすべて体験してきましたし、『AOEO』もまたシングル・マルチ問わずかなり長時間プレイしたつもりです。そして、発売直後に感じた違和感が拭われることはありませんでした。

対戦ツールとして、RTSとして突き詰めた際のバランスの真実が、かつてのシリーズ作品と比べてどうだったのかについては判りかねます。しかし、少なくとも正式リリース直後では、ひたすら同じクエストをプレイせざるをえなかったり、そのクエストが過去作品のキャンペーンと比較して単調極まる内容だったり、なぜか運ゲーめいた部分があったり(敵の攻撃が同じクエストでも激しさに大きな幅があった、後に修正)、そもそも文明が少なすぎたり、その割に文明の差異が大きくなかったりと、本当にベータでフィードバックを受けたのかと感じさせるには充分でした。育成要素も最初期はただの作業で、『AOE3』の微妙だった部分を忠実に受け継いだ形。ちなみに、クエストがクリアできないバグなんてものもありました。

また、シリーズのコアであるはずのPvPが事実上破綻していたのは致命的でした。ゲームの設計上、強力な装備で固めない限りとてもではありませんが見知らぬ人と対戦する気にはなれませんでしたし、事実そう判断せざるをえないくらいの味付けでした。PvPに挑むためのハードルが高すぎたのです。繰り返し「交戦」(Engage)を増やすと強調していたことを含め、いかにプレイヤーの対戦欲求が低かったかが行間から読み取れます。ですから、セッション冒頭にあった"MMORTS"というジャンル表現が一種のエクスキューズにしか見えません。また、ゲームバランスの調整についてはなぜ強調されなかったのでしょうか。

コンテンツの価格設定も、ゲームを楽しむにあたり混沌としていました。ベータテスター向けに先行配信されたプレミアム文明が1600MSPとやや躊躇するお値段だったにもかかわらず、わずかな期間で1360MSPへと改定。日本でプレイできただけでも感謝すべきなのかもしれませんが、こうしたブレはセッションにあったとおり収束しませんでした。結果として、『AOEO』を「RTSとしてやりたい!」とスタートダッシュした層へ不快感を与えたと考えてもよいでしょう。

「ソーシャル」や「MMO」の構文をゲームに織り込むのは悪くないでしょう。『4』ではありません。ナンバリングタイトルではなく番外編です。しかし、だからといってセッションにあった「反省」を聞かされてもただ困惑するしかありません。開発元が突然変わったこと、『3』が本作リリース後の2012年1月にSteamで配信されファンを驚かせたこと(しかもいきなり半額)、きたる4月10日には『Age of Empires II HD Edition』がリリースされることなど、『AOEO』が何物だったのかを邪推させる材料はたっぷりあります。

神妙な面持ちで登壇したPerry氏が「真のF2P」や「最重要ポイント」とした部分の正体が一体何なのか、反芻してみるのも悪くありません。
《GameBusiness.jp》

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