テレビ業界から飛び火した「ラウドネス問題」って何だ?SIG-Audio#01「ラウドネス勉強会」レポート | GameBusiness.jp

テレビ業界から飛び火した「ラウドネス問題」って何だ?SIG-Audio#01「ラウドネス勉強会」レポート

国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)オーディオ専門部会(SIG-Audio)は11月16日、「ラウドネス勉強会」をスクウェア・エニックスで開催しました。

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国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)オーディオ専門部会(SIG-Audio)は11月16日、「ラウドネス勉強会」をスクウェア・エニックスで開催しました。
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国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)オーディオ専門部会(SIG-Audio)は11月16日、「ラウドネス勉強会」をスクウェア・エニックスで開催しました。

勉強会ではヴァルハラゲームスタジオの稲森崇史氏、バンダイナムコスタジオの中西哲一氏、カプコンの瀧本和也氏が登壇し、ラウドネス問題に関するゲーム業界としての対策と知見を共有。90名近くのゲームオーディオ関係者が参加し、関心の高さを伺わせました。

勉強会は三部構成で行われ、はじめに稲森氏が「はじめてのラウドネス ゲームオーディオ編」と題して概要を解説。続いて中西氏が「CEDEC2012ラウドネス関連セッション報告」と題して議論を展開。最後に瀧本氏が「最先端のゲーム開発現場におけるラウドネスへの取り組み事例」と題して、映画・テレビ・ゲームなどのコンテンツにおける計測値を紹介しました。

なお、当日の資料はSIG-Audio公式サイトにアップされていますので、あわせてご覧ください。
(http://igdajaudio.blogspot.jp/)

■地上波デジタル放送で浮上したラウドネス問題
ラウドネス問題といっても、多くの人は初耳かもしれません。ラウドネスとは平たく言えば「人間が感じる音の大きさを表す値」のこと。この値がバラバラだと、テレビ番組からCMに移ったときに音が大きく聞こえるようになった・・・などの問題が発生してしまいます。放送業界ではテレビ放送がアナログ放送から地上波デジタル放送に移行したことで、この問題が顕在化。民放各社では2012年10月1日より(NHKでは2013年4月より)、新しく制定された「ラウドネス運用規定」にそって、テレビでの運用が開始されました。

ラウドネスの計測には、ラウドネスメーターが用いられます。人間の耳は音が小さくなるにつれて、高域成分と低域成分が聞き取りにくくなったり、瞬発的な音よりも持続的な音の方が大きく感じたりする特性があります。ラウドネスメーターでは、こうした聴覚をシミュレートした値が算出されるようになっています。これがVUメーターやピークメーターのような、電気的なパワーを計測するだけの機器と異なる点です。

また、ラウドネス値の単位は「LKFS」(Loudness, K-weighted, relative to Full-Scale)で表され(他にLUFSという表記もあります)、国内での許容範囲は-24±1LKFSとなります。北米・欧州でも各々の基準に沿って運用されています(欧州では-23±1LKFS、アメリカでは-24±2LKFSでCM音声には罰則規定あり)。余談ながらラウドネス値は、人が大きく感じるものは大きな値、小さく感じるものは小さな値で表されますが、マイナス表記なので注意が必要です。つまり-24LKFSよりも-12LKFSの方が全体的に大きく、-36LKFSだと逆に小さく聞こえることになります。

各論はさておき、まずは「テレビの音量がバラバラだと耳障りだよね」→「運用規定を作ってそろえよう」という流れを理解しておけば良いでしょう。

■現状は問題なし、しかし今後は・・・
では、このラウドネス運用規定は、ゲーム業界にどのような影響を及ぼすのでしょうか。映画や音楽などのリニアなコンテンツと異なり、ゲームではプレイヤーの操作によって、さまざまなサウンドがインタラクティブに発生するという特性があります。計測するにしても、何十時間もかかるRPGなどでは、どこの時間軸で計測すればいいのか、といった問題も発生するでしょう。据え置き型ゲーム機と携帯型ゲーム機、さらにはスマートフォンなどでも適用されるのか、といったデバイス事情も存在します。

これに対して「確かに直接は関係ありません、しかし・・・」と稲森氏は語ります。大前提として、ゲームもテレビを出力先とするため、あまりにラウドネス値が異なるのも考えものです。またスマートフォンについては今後、海外のプラットフォームホルダーがアプリ規約にラウドネス項目を盛り込むなどの可能性も否定できません。一方で前述の通り、ゲームメディアにはラウドネス運用規定を遵守しにくいメディア特性があります。それがゲーム業界が抱える「ラウドネス問題」というわけです。

これに対して稲森氏は、「全てに通用する対処法は存在せず、それぞれのサウンド担当者がゲーム内容にあわせて対処していくことが求められる」と説明しました。その上で「まずは身近なゲームのラウドネス値を計測してみよう」と続け、計測用のフリーソフトなどを紹介。なお測定には▽モーメンタリターム(400ミリ秒の瞬間値)▽ショートターム(3秒の平均値)▽ロングターム(全体の平均値)−−があり、規定対象となるのはロングタームだと解説。ゲームをある程度の時間をかけてプレイし、その平均値を計測してみることが推奨されました。

もっとも、単純にラウドネス値を計測して-24±1LKFSに揃えれば済むという問題ではない点がやっかいなところ。音圧重視のゲームの場合、逆に小さい音が聞き取りにくくなってしまう恐れがあるといいます。求められるのはサウンドのトータルバランス設計ですが、時には「多少音が割れてもいいから、迫力重視で」などと言われることもあるとか。このような場合でも「その音を目立たせたい」という指示の真意をくみ取り、別の手段で解決できないか模索することが重要だとされました。

稲森氏は、一番重要なのは「ユーザーに快適なサウンド環境を提供すること」だと語ります。その上で、まずはサウンド担当者がラウドネス問題についての理解を深めることが先決。その後、社内で啓蒙活動を行いながら、現実的な解法を模索することが必要だとまとめられました。

■放送・音楽・ゲームのラウドネス対策の現状とは
続いてバンダイナムコスタジオの中西氏は、CEDEC2012セッション「パネルディスカッション:適切な音量について考える」「ラウンドテーブル:ゲームオーディオとラウドネス測定」を中心に、会場で行われた主な議論について整理しました。

パネルディスカッションでは、中西氏のモデレートのもと、ゲーム業界からはカプコンの瀧本氏(勉強会の講師でもあります)、SCEの北原恵一氏がパネリストとして出席。さらにテレビ業界からはフジテレビジョンの松永英一氏、音楽業界からはポニーキャニオンの川崎義博氏が出席し、各々の業界での取り組みについて知見が共有されました。またセッション内容を引き継いで、パネルディスカッションで議論が継続されました。

前述の通り、10月1日よりスタートしたラウドネス運用規定ですが、松永氏によると導入実現まで約10年がかかったとのこと。CM業界に対しては別途、電通主導で周知理解も進められました。その結果、現在では番組、CMともにラウンドネスメーターで平均値を計測したのち、添付書類に測定値を記入することを義務化。基準に満たないものは受領しないシステムになっているそうです。これに対して川崎氏は、音楽業界ではラウドネスやダイナミクスレンジの違いはジャンルごとの個性であるという考え方が定着していると説明。実際に計測結果もバラバラで、業界的な取り組みも行われていないと紹介されました。いわばラウドネス問題に対して、両極端な姿勢が示されたといえるでしょう。

これに対してSCEでは多くのゲームを計測し、社内でリファレンスが制定されたと紹介されました。据え置き型と携帯型では、推奨ラウドネス値を変えた方が良いという結論にも達したそうです(PS3では-23LUFS±2、Vitaでは-18LUFS)。つまりVitaの方がPS3よりも平均して大きく感じられる音になるようなリファレンスとなっています(携帯ゲーム機では戸外でプレイすることが多いことからも、数値の妥当性には納得感があります)。またカプコンでも早くからラウドネスを考慮し、ある程度の目安を算出。すべてのミキシングは瀧本氏のチェックを通すことで、品質が担保されているそうです。

もっとも、ラウドネス問題についての取り組みは、各社でまちまちなのが現状です。今後も適切な音量について議論を続け、納得感のある推奨値や実現方法を共有するべき・・・と、ひとまずの結論が提示されました(本セミナーが、その取り組みの一つでもあるわけですが)。その後のラウンドテーブルでも、さまざまな議論が続けられました。

■映画に学ぶゲームのラウドネス設定
最後の講演では、カプコンの瀧本氏が映画、テレビドラマ、CM、そしてゲームと、メディアごとに計測した結果を紹介し、考察を行いました。瀧本氏は測定の結果、多くの映画でダイアローグ(台詞)のラウドネス値が-31LKFS付近に調整されていたと解説。ゲーム制作においても、まず基準となるラウドネス値を設定し、全体的なバランスを整えることが重要だと整理しました。

はじめに瀧本氏は3本のゲームについて、ゲームの序盤、バトルシーン、ボス戦、カットシーンなど、主要パート別で計測したラウドネス値を紹介しました。続いて映画やCM、海外ドラマ、スポーツ中継などの計測結果も紹介。その結果、▽ゲームのダイナミックレンジは映画より狭く、テレビより広い▽ゲームの平均的なラウドネス値は映画より高いため、全体的にうるさく感じられる傾向にある▽映画のダイアローグ値は-31LKFS付近で調整されている▽映画のダイナミックレンジとラウドネス測定によるロングタームは、作品でまちまちである▽TVCMは-24LKFSに調節されている−−などがわかったと説明されました。

「人は音量の基準を作って、その前後の音量を判断する傾向にあります」と瀧本氏は説明します。映画では序盤は音量が小さく、終盤では音量が大きくなるのが一般的ですが、その中でも台詞の聞き取りやすさが一番重要。そのためラウドネス値も、ダイアローグが基準となって、トータルバランスが決定されているのではないか、というわけです。この考え方はゲームに適用すると、何か基準になる値を設定した上で、トータルバランスを決定することが重要だと言えそうです。

もっとも冒頭でも触れたとおり、ゲームでは進行に応じてさまざまな展開が発生し、BGMやSEなどが、無数の組み合わせで再生されます。しかし瀧本氏は、ラウドネス値はあくまで「平均値」にすぎないと警鐘を鳴らします。最終的なラウドネス値を気にするあまり、「数字あわせ」でミックスしてしまうと、快適なゲームサウンド体験が提供できなくなる恐れが高いのです。「サウンド担当者なら、何か自分の中で指針となるものがあるはずです。ラウドネスメーターの音と、自分が聞いている音の、両方を常に意識しながらミックスしてください」と瀧本氏は語ります。

では基準になる値とは何か。カットシーンのダイアローグなのか。ダイアローグがないゲームはどうなるのか。一つのゲームで据え置き型から携帯ゲーム機、スマホなど、マルチ展開を見据えた際はどうするのか。これらの点は今後も議論していきたいと瀧本氏は続け、講演を締めくくりました。
《小野憲史》

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