マグニチュード9.0の後、ゲームが社会にできること ・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第14回 | GameBusiness.jp

マグニチュード9.0の後、ゲームが社会にできること ・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第14回

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■過度な自粛ムードに歯止めを、被災地にゲームを

今回の話は迷走するので先に結論を書きます。
このたびの【東日本大地震】の影響で起きている、

ゲームソフトの発売中止
ゲームソフトの発売延期
ゲームソフト発売日未定

などの自粛措置が、いち早く解消されることを望みます。
また、それが「気分」で決まるのではなく、「基準」によって決まることを望みます。

当社が損害を被っても、被災地の方にご迷惑やご不快な思いさせてたくないと判断すること。それを能動的な自粛と呼ぶことにします。この意志は尊いと思います。
しかし、他社が自粛したから、当社も自粛しておこうか。このような受動的な自粛が現在行われているとするならば、この事態は改善しなくてはいけません。

次、

今後、被災地が復旧していくにしたがって、ゲーム業界関係者やゲームユーザーは、ゲーマーとしての誇りを持って、「遊び」を届けていきたいと思っています。プロフェッショナルのゲームクリエイターは、ゲームをつくりたい。ユーザーは、自分が持っている家庭用ゲーム機を寄付したい。中古ソフトとして売るくらいなら、遊び終えたソフトを送りたい。少額でもいいから募金したいなど。「できることを見つけて、何かをしたい」との声を聞きます。見知らぬ方からも多数メールをいただいています。このような善意が広く、社会全体に伝わってくれることを望みます。Pray for JapanからPlay for Japanへ。

1.現在、一部の企業やタイトルで起きている過度な自粛ムードの解決しましょう
2.今後の復旧・復興にゲームができることをしましょう

このふたつのことが円滑に行われることを望んでいます。
最低限、言いたいことが書けました。以下は脈略のない雑記となります。

■二つの感情
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■二つの感情

私は今、指が震えています。
人を傷つけることを書くかもしれないからです。そして、自分が傷つくことも恐れています。この期におよんで、自分がかわいいのです。

語弊を恐れずに……という慣用句を、前置きにすればいいってものではない。
相当な腹をくくって書かなくてはいけないことを、これから書きます。

東北地方太平洋沖地震が起きた瞬間、そして当日の報道を深夜までテレビで見ていて、私はふたつの感情に支配されました。

ひとつは、皆さんと同じです。
災害の映像や事実を知らされて、心から痛ましいと思いました。

もうひとつが大問題です。私はこの災害があったことによって「日本が良くなる」という念が浮かんでしまったのも、また事実だったのです。

チョコレートがある。おいしそうだから食べたい。でも、太るから食べたくない。
これは同じ土俵の上で起きる、相反する感情ですね。違うのです。

小難しい説明になりますが、レイヤー(層)が異なっています。
今、起きている東北地方の様子を直視すると、悪魔の所業のように見えます。燃え上がる気仙沼港など、まるで地獄絵図です。

しかし、一歩目線をひいて見ると、日本中の人たちが団結していくのを感じました。Twitterでは避難場所情報や、安否確認情報が伝達されています。当日、東京の交通機関は混乱していました。すると、我が社の空きスペースを開放すると名乗り出る人がいます。企業・団体の募金活動が一斉にはじまります。私の脳内の別のレイヤーでは、助けあう日本人、献身的になれる日本人が、こんなにたくさんいたのか。愉悦にも近い念を抱いたのです。

3月11日の前日まで、日本人の関心事は何だったでしょう。
京都大学のカンニング事件でした。
大相撲の八百長問題でした。
小向美奈子の覚せい剤所持のことも話題になっていました。
(日本で生まれて日本語を話すのに外国人とされた)在日朝鮮人から年間で5万円の献金を受けた外務大臣が、辞任をして大騒ぎをしていました。

今にして思えば、重箱の隅をつつくような報道、足の引っ張り合いに終始し予算案も通らないような国会運営がされていました。内閣の支持率は低く、景気も不透明。この国はバラバラでした。閉塞感に満ちていました。「政局が不安だから」という理由で、日本はカントリーリスクが高い国と諸外国から懸念されていました。

そこに起きた震災は、とても不幸なことなのだけど、日本がひとつになろうとしている。
今までの人生で経験したことのない、結束のエネルギーを感じました。

NHKの報道番組を見ている合間に、インターネットで主要ニュースサイトを巡回しました。災害のことは多くの国で報じられています。海外のメディアは、日本のことを賞賛しています。論理的には、この震災で日本のカントリーリスクはますます高まったわけですが、他国の人たちは日本の底力を見て驚いているようです。

惨事が起きても、略奪どころか、わずかな食料を譲り合っている国、日本。
どんなに道路が混んでもクラクションを鳴らさない国、日本。
避難所でも都会でも、行列をつくるマナーが保たれた国、日本。
急遽立ち上がったサイト「prayforjapan.jp」も、Twitterで紹介され、日本人自身が自分たちのことを見直して感動しています。


▲鶴田浩之さんが制作した「prayforjapan.jp」より


私は幼い頃に、祖父母、両親から聞かされた「戦後の焼け野原」とはこんなものなのかと思いました。

これからはじまるのは被災地の復旧なのでしょうか。
いや、もっと大きなもの。私は日本国の復興であるととらえました。

さらに、私は指を震わせて恐いことを書かなくてはいけません。
世の良識ある知識人は、その対比を使わないようにしていますが、私はどうしても頭に浮かんでしまいます。不謹慎、あるいは誤解、曲解の非難を恐れずに、正直に書きます。

【東日本大地震】≒【日本の敗戦】
【天皇陛下のビデオメッセージ】≒【敗戦の詔勅(玉音放送)】
【福島県第一原子力発電所の事故】≒【広島・長崎への原子爆弾投下】

第二次世界大戦級の国難に遭遇した。
しかし、そのことがかえって日本を目覚めさせるという気がしてならないのです。

私的なことを述べさせていただきます。お陰様で血縁者にこのたびの被害にあった者はおりません。ですが、私の師匠筋にあたる某ゲーム会社社長のご家族が岩手県・釜石市にいらっしゃいます。そして、私の会社の元・社員が福島県・南相馬市の出身です。その社員のお兄様の職場は、今では日本で一番有名な発電所となった、東京電力(株)福島第一原子力発電所です。ですから、私は指を震わせていると同時に、ときおり涙ぐみながらこの原稿を書いています。

■「和」の精神
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■「和」の精神

この国難を「和」の力で復興してほしい。3月20日にフジテレビ系列で放送された「新報道2001」が実施した世論調査結果では、94.6%の人が日本は復興できると答えています。「日本を信じよう」と大見出しを書いた『週刊ポスト』(4/1号)は絶賛され完売しました。

日本人が最初に持った法は聖徳太子が定めた「十七条憲法」とされています。その第一条が「和を以て貴しと為し」です。私たちは先祖代々、「和」の精神が結束したときに大事を成し遂げてきました。

しかし、日本の歴史を振り返ると「和」は時に、怠惰を招きます。
付和雷同の「和」は、日本人の悪しき習性でもあります。
「和」の精神は、事なかれ主義や、横並び意識や、問題点の先送りをします。
「和」の中に入れない人間を、村八分にしてきたのもまた日本人です。この精神は現代のいじめ問題にもつながっているのではないでしょうか。

さて、ゲームの話をしましょう。
今、起きているゲームソフトの発売自粛ムード。これはいつどのようにして、収束していくのでしょうか。

他業界、他社も自粛しているから発売延期しているのでは付和雷同です。
意志と計画を持って平常に戻ってほしい。

もちろん、きちんとプロモーション活動を行ってから発売したい、物流が整ってから発売したいなどの考えはあるかと思います。ですが、「発売延期」「発売日未定」とだけ発表されているのは、まるでソフトの開発が遅れたときの、昔ながらの対応のようです。

「発売延期」となったソフトは、今後、どのタイミングで発売されるようになるのか。指針が示されることを願います。たとえば「ゴールデン・ウィーク商戦まえに発売を予定」と言ってくれたなら、発売を待つユーザーも安心できるでしょう。ゴールデン・ウィークという時期を示すことにリスクがあるならば、通りいっぺんの言い方でも構いません。「復旧状況を見守り、発売可能時期を判断します」の告知でもいいと思います。

ともあれ、今は異例な事態です。ゲームソフトはいつ、どのようになったら発売できるのか。「発売延期」「発売日未定」以上の情報をユーザーは求めているのではないでしょうか。

「売るソフトが減れば当然、困りますよ」(非被災地のゲームソフト販売店)、「ソフトが発売されないと開発費が満額支払われない契約なので、資金繰りに窮しています」(ゲーム開発会社)、「ソフトが発売されるまで支払いを待ってくれと言われました」(フリーランスのCGデザイナー)。こんな声も聞きました。ゲーム業界は、経済的な二次災害が起きる寸前のところにきています。「和」の精神のマイナス面を象徴する言葉に、「出る杭は打たれる」があります。「出すソフトは叩かれる」には絶対になってほしくありません。

ソフトの発売の過度な自粛ムードがなくなることが、第一ステップとしたら、その次に復旧・復興に手をそえることが、ゲーム業界にはできるはずです。

すでに……これらの英断と行動は本当に誇らしく思うのですが、任天堂、カプコン、スクウェア・エニックスグループ、バンダイナムコグループ、コナミ、コーエーテクモホールディングス、セガサミーグループ、レベルファイブ等、多数のゲーム会社やその社員の方たちが、義援金の寄付をしています。

冒頭で述べたように、ゲーム業界に所属する個人がチャリティ活動をしたい、ゲームユーザーも寄付、またはゲーム機、ゲームソフトを被災地に送りたいと思っています。今、ゲーム業界はソフトの発売計画は不明瞭なのですが、組織も個人も「和」になって被災地に「遊び」を届けようとする善意が満ち溢れています。

人間は遊ぶ動物です。被災地で避難所生活をしている人は、飢えと寒さをしのぎ、電気も滞りなく供給されたなら、ゲームを遊びたいという欲求が生じてくるのは当然のことでしょう。

この善意と欲求をマッチングできる道筋を、皆が探しています。
私は個人的にPlay for Japanをスローガンにした寄付サイトの提案と、ゲームクリエイターの方たちとのシンポジウムを計画しています。

ですが、力不足です。任天堂、ソニー・コンピュータエンタテインメント、日本マイクロソフト、いわゆるプラットフォームホルダー。あるいはCESA(コンピュータエンターテインメント協会)など、大きな組織に動いてほしいと具申したくなります。

ここまでお読みくださった賢明な読者の方は、おわかりでしょう。
私は本稿では一切、携帯電話を使ったソーシャルゲームのことを触れていません。ゲーム専用機とパッケージソフトのことにテーマを絞っております。

今、ゲーム専用機とパッケージソフトは、広く社会に向けて、存在意義・存在価値を示す時ではないかと思います。さもないと……この続きを書くのは、やめておきましょう。

■著者紹介
平林久和(ひらばやし・ひさかず)
株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuHです。
《平林久和》

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