最近、名刺交換のご挨拶などで「今はやりのソーシャルゲームとかやっています」というと、色んなリアクションがあって面白いです。多いリアクションのパターン・やっぱり儲かりますか?・今から参入しても間に合いますか?・独立するならソーシャルゲームですかね?・やっぱり大手にはかなわないんでしょ?・何が面白いんですか?・無料なのになんで儲かるの?とかとか・・・いろいろ言われます。そんな中で思ってことを幾つか。 ■ソーシャルゲームは今「ゴールドラッシュ」なのか?ちなみに私、当年とって45歳。IT系高齢者ゾーンに属しています。ブレイクスルーを夢見て小資本でコツコツと経営をやってきました。金はないけど希望とやる気は有る、といういわゆるベンチャー企業を20年やっています。この私のつたない歴史の中だけでも何年かの周期でゴールドラッシュは幾つもありました。いわゆる「最新のビジネストレンド」といわれるフレーズですね。中でもテクノロジーとメディアの領域はゴールドラッシュ的なビジネストレンドが一番多く生まれていると感じています。 私が起業した1991年前後はもちろんインターネットが登場する以前なのですが、ファックスが家庭に普及する前夜でして当時の「ニューメディア」として大きく取り上げられておりました。 ダイヤルQ2も当時の最大インフラである固定電話回線で課金が可能な画期的な仕組みとして当時は多くのベンチャーを輩出し騒がれたものです。ただイケない方に進化してしまって規制がかけられましたが(笑。但しその反省がiモードに生かされてます) ウィンドウズ95の発売に徹夜組が出てニュースで取り上げられたり、パソコンが普及してきてCD-ROMが「マルチメディア」というキーワードを引っさげてビジネストレンドになったり。インターネットもぼちぼちユーザーが増えていく中、PalmというPDAが一瞬はやったり。セットトップボックスというカテゴリーが生まれていつの間にか消えてしまったり。そして99年iモードの登場に繋がり現在のモバイルビジネスの基本形が作られていきます。iモードのゴールドラッシュ振りはご存知の通りIPOする企業がわんさか生まれました。 最近で言えば1年前のiPhoneアプリトレンドでしょうか。誰もが世界にビジネス展開(コンテンツ配信)できるというドリームの元、多くの個人やベンチャーがチャレンジした姿は記憶に新しいでしょう。進化の激しいテクノロジーとメディアの領域では熱しやすく冷めやすい状況の繰り返しです。 私はこのテクノロジーとメディアの領域でビジネスを続けてきましたが、それは進化のスピードが速いことからビジネスチャンスが最も多い業界であるからです。そういった意味ではニューメディアのジャンルは瞬間風速に対応する機動力が求められる分野であることから、機動力をメインエンジンとする小資本ベンチャーにとっては瞬間的に大きく稼ぐことも可能なことから現在のソーシャルゲームというトレンドもゴールドラッシュと言えます。ただしビジネスのライフサイクルである、黎明期→成長期→成熟期のサイクルの速さから考えると黎明期に瞬間的に儲けても、「儲け続ける」事が使命の「経営」という点では難しいジャンルといえます。 ソフトバンク、光通信、GMO etc...今となってはIT系老舗企業でありますが、常に時代を先取りしニューメディアジャンルの「はやりトレンド」をビジネスに変えてきた先進企業の代表格でもあります。瞬間的なゴールドラッシュを、継続的な収入に変えその実績を元に再投資を繰り返し拡大してきた経営力が優れた企業の代表格ともいえるでしょう。生き残り確率1%の世界を勝ち抜いたこれらの企業の足元には、夢破れた99%の企業もあったことも事実です。違いは、瞬間的な儲けと計画的な再投資=経営力にあったことを学ばなければならないと思っています。なので現在のソーシャルゲームトレンドはゴールドラッシュです。しかし・・・というところでしょうか。■ソーシャルゲームはベンチャーの牙城なのか? 最近良く、今はベンチャーが開発したソーシャルゲームが人気上位を占めているけど大手ゲーム会社はどうなの?とか、大手ゲーム会社はソーシャルゲームをわかっていない。とか、これからも市場拡大が続くソーシャルゲーム業界の今後を占い話題が多く上がります。ちなみにゲーム業界においては、アーケードゲームに始まり、家庭用ゲーム機の普及と進化が市場と技術と雇用を牽引してきました。DSにしろPSPにしろ発売された当時は大きなインパクトで盛り上がりました。市場の拡大と共に参入プレイヤーも増えメジャーなものからマニアックなものまで様々なジャンルのゲームタイトルが投入されたことは記憶に新しいところです。 ところが、です。当時画期的なアイデアと技術力でヒットを飛ばしたサードパーティーの現在はどうでしょう?資本力の有る大手に吸収されたケースの方が目に付くのではないでしょうか? ソーシャルゲームに限らずゲームビジネスのマネジメントポイントは「アタリ・ハズレ」の不確実性を如何に計画的収入に転換できるかにかかっています。主たるコストの人件費は固定的に出て行きます。なのに、入金(売り上げ)が変動しては、いくらやる気や技術やアイデアがあっても現実は伴いません。 「いいゲームが作れる」ということと「いい会社を作れる」という事は別次元の話なんだと認識することが必要です。 不確実な未来を想像する場合、歴史から学ぶだけでも7割の未来は見通せると私は考えています。ベンチャーの良さは個人的なスタンスゆえに、小回りの良さ、意思決定の早さにつきます。反対に言えばそれしか評価ポイントは無いのです。ソーシャルゲームにしても機動力が求められる市場黎明期のこの1年がベンチャーの勝負ポイントです。この1年で先行逃げ切りの体制が作れないほとんどのベンチャーは資本力=人材力=組織力の勝る大手に駆逐されていくという危機感を持って私は経営しています。 だってゲーム業界の歴史が物語ってますから・・・■ソーシャルゲームでベンチャードリームは有るのか? 小資本で経営を行う場合、固定収入の有無が成否を分けるといっても過言ではないでしょう。経営とは以外とシンプルで収入と支出のバランスです。雇用せず一人でやるのならば何の問題も無いのですが、一人でも雇用してしまうと固定費に追われる日々が始まります。この固定費を賄える体制を早期に確立することが次のステージとなる飛躍に繋がります。 なので、ソーシャルゲームのような売り上げ予測が難しい販売収入型モデルよりも、販売が積み重なる累積収入モデルの方が小資本経営には向いているといえます。モバイル業界で例えるならば公式サイトの月額課金モデルです。月300円課金のユーザーが今月は3000人なので売り上げ90万円。来月は2000人の獲得努力が積み重なって5000人の課金が見込めるので150万円の売り上げ・・・という風に将来の収入の見通しが立てやすいのです。 夢の無い結論になってしまいますが、ソーシャルゲームの不確実な売り上げを想定して人を雇用するのは危険です。経営そのものがハイリスク・ハイリターンのゲームをプレイしているようなものです。反対にハイリスク・ハイリターンを戦略として採用する場合もありますが、その選択した戦略の「功と罪」を従業員に説明しておかなければその会社は今はやりのブラック企業といわれてしまいます。一般的な経営課題に置き換えるならば、受託収入を増やすなど経営(収入)の多角化を考えることが必要でしょう。この事は前述しましたが アーケード⇒ コンソール⇒ オンラインと辿って来たゲーム業界の歴史を今一度紐解くだけでも多くのことを学べると思っています。 ■ソーシャルゲーム以前に経営という観点に立つべき。現在の求人市場にはソーシャルゲームに関連する求人が多いことは事実です。反対に、求人に応募してくる多数の方々の経歴はコンソールジャンルの方々が多く同じゲームジャンルでの雇用大移動となっています。また、ドリコムやKlabのような新規参入のゲーム会社ではないIT系ベンチャーの活躍も目立ってきています。上場する会社の評価ポイントもソーシャルゲームへの取り組みが株価の上げ材料にもなっている状況です。新しいゲームジャンルを開拓しているソーシャルゲームビジネスですが、ヒットする企画、人気のあるタイトル、獲得しているユーザー数や売り上げ、といった見えやすい部分に話題が集まりがちな状況ですが、ゲーム業界の歴史の中では夢破れて散って行った企業も多くあったことはゲーム業界の歴史として知っておきたいものです。なぜならこの事は、ベンチャー経営者の夢や希望に賛同し労苦を共にした現場スタッフにしわ寄せが行く事になるという事実があるからです。無理な開発投資、無謀な販売計画によりキャッシュフローにひずみが生じ、給料遅配、残業代未払い、ひいては清算、倒産により給料未払い・・・といった現場を多く見てきました。投資する側、経営する側、雇用される側、様々な側面の参加者で会社は成り立ちます。全ての側面の参加者がハッピーになるためにも、ゲーム企画やマーケティングばかりでなく経営というフィルターを通してこの業界を見て行く事が、生まれたばかりのソーシャルゲームというジャンルの健全育成に繋がると考えています。日々の業界動向はTwitterで!■著者紹介北村勝利1965年 福岡県田川郡生。今年で起業20年。モバイルビジネス10年のキャリア。現在はモバイル系ゲームパブリッシャー、株式会社サクセスネットワークス代表取締役。Twitter @katz7777共著に「マーケティング2.0」(翔泳社刊)
世界で2番目に売れているゲームから飛び火した業界再編の予感・・・「モバイルゲーム屋が見るビジネスの未来」第22回 2011.4.12 Tue 今回はiPhoneアプリの伝道師ともいえるイーグル代表の藤永氏に…