コンピュータの歴史については、清水亮さんが詳しく、さまざまなところで豊富な知識・雑学を聞いては「ほー」と感心しています。その一方で、長く生きてきたおかげか古い出来事や技術はリアルタイムで経験していて、「それ知ってるけど、いつの頃だっけ」と老人ムーブをしがちです。
そして、コンピュータ技術に影響を与えてきたSF作品は大好きで、その多くは小学生から大学生にかけて経験してきました。この辺をまとめたい、という夢が叶いました。ヴァイブ・コーディングで。
音声入力の雑談から始まった
ことの始まりは、Claudeの音声入力でした。SF作品に出てきたコンピュータやAIが、現実の技術にどれくらい先行していたのかを、思いつくまま、改良されたというClaude Voiceに向かってしゃべっていたのです。まだ日本語が不自由で、ChatGPTやGeminiとの落差は感じたのですが、鉄腕アトム、2001年宇宙の旅、ナイトライダーなどについてしゃべっているうちに、これは年表になるなと思いました。
年表になるなと思ったら、アプリにする。最近のこの連載ではおなじみの流れです。キース・エマーソン風の無限シンセソロを生成するEMERSON MOOG INFINITYのときと同じく、Claudeとの対話だけで作っています。コードは1行も書いていません。
できあがったのが「SF・コンピュータ技術ライフライン」です。1822年のバベッジの階差機関から2026年のAGI到達論争まで、SF作品と実在の技術・製品を合わせて171項目を1本の年表に並べました。
生年を入れると「自分の年表」になる
ただの年表なら、Wikipediaを読めば済みます。このアプリの本体は、生年を入力するところにあります。

生年を入れると、171項目すべてが「生まれる前」「幼少期」「小学生」「中学生」「高校生」「大学生」「社会人」の帯に振り分けられ、各項目に「小3」「高1」のような学年バッジが付きます。浪人と留年の年数も設定でき、その分だけ帯が後ろにずれます。進路も「高卒で就職」「短大・専門」「大学」「修士まで」「博士まで」から選べるので、学年バッジは「専2」や「博3」にもなります。さらに誕生月を任意で入れると、1~3月の早生まれが1つ上の学年として正しく計算されます。同級生と学年がずれる心配はありません。
これは「あなたはどんなインターネット老人だったのか」を判定する装置です。
テレホーダイ(1995)を高校生で迎えた人は、23時になるとモデムの音とともに接続していた世代でしょう。NIFTY-Serve(1987)を社会人で使っていた人は、パソコン通信の会議室で議論していたはずです。Windows 95の行列を何歳で見たか。初音ミク(2007)を中学生で浴びたか、社会人で横目に見たか。同じ出来事でも、何歳で当たったかで意味がまったく違う。それを一覧できるようにしたわけです。
私の場合、アポロ11号の月着陸を小学4年で、マイコンブームを大学生で、Macintosh登場を電波新聞の記者として報じ、MacUserの編集長時代にはブロードバンドの普及を経験していて、筋金入りのインターネット老人であることが確定しました。実際に、本当の老人なのですが。
各項目はタップすると蘊蓄コラムが開きます。全171項目に、現代技術とのつながりに着地する解説を書いてもらいました。Wikipediaへのリンク、SF作品にはAmazonとYouTubeの検索リンクも付いています。「すべて開く」ボタンで通読すれば、203年分のコンピュータ史読本にもなります。
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そして、自分の出来事も年表に書き込めるようにしました。初めてのコンピュータ、結婚、子供の誕生。年とタイトルを入れると、緑の旗として公式年表の中に挿入されます。「結婚した年にはスコッティがMacintosh Plusのマウスに話しかけるのを妻と見て、長男誕生の年にPC-9801VX2を買った」という自分史が、バベッジから続く203年の歴史と同じ画面に並ぶわけです。データは端末のブラウザ内にだけ保存され、どこにも送信されません。
ちなみに、PC-9801は妻が沖電気からもらった長男出産祝いで買いました。TNGはVHSでレンタルした第1話を、息子撮影のために中古で買ったサンヨーの8ミリビデオにダビングしたのを覚えています(ピカードとQとの最初の出会い)。
筆者は家族のライフログ、買ったガジェットなんかをGoogle Spreadsheetで記録しているので、その一部を転記しました。

作っていて見えてきたこと
年表というのは、並べてみて初めて見えるものがあります。
まず「当たり年」の存在です。1968年には2001年宇宙の旅の公開、アイヴァン・サザランドによる世界初のHMD「ダモクレスの剣」、そしてダグラス・エンゲルバートの「すべてのデモの母」が集中しています。SFと研究のビジョンが一斉に噴出した年でした。1982年はブレードランナー、トロン、E.T.に加えてRoland D.G.(Amdek)の CMU-800が出た年。
2007年はiPhone、初音ミク、電脳コイルが同時に来ています。2012年はソードアート・オンラインのアニメ化とOculus RiftのKickstarterが同じ年で、フルダイブの夢と現実のHMDが同時に走り出しました。自分はちょっと乗り遅れてOculus Rift DK2からです。
次に、SFが描いた夢の「納期」です。ドラえもんの翻訳こんにゃく(1969)から、銀河ヒッチハイク・ガイドのバベル魚(1978)、ヴォネガット「ガラパゴスの箱舟」のゴクビ(1985)と、SFは何度も自動翻訳を描きました。現実のポケトーク発売は2017年。納期48年です。しかもこの糸はもっと古くまで遡れます。E.E.スミスのレンズマン(1937)で主人公キムボール・キニスンらが腕に着ける「レンズ」は、精神感応による万能翻訳機でもありました。そして2025年、Even G2のようなスマートグラスが、相手の言葉をリアルタイム翻訳してレンズ内に字幕表示するようになっています。レンズに託された翻訳の夢が、88年後に本物のレンズで実装された。固有名詞まで当たったSFの予言というのは、そうあるものではありません。
そして、技術が媒体の証明能力を順番に剥がしてきた歴史です。Photoshop(1990)が「画像は真実」を崩し、Melodyne(2001)が「録音は歌唱力の証明」を崩しました。これ以降、歌手が本当に上手いかどうかは生で聴かないとわからない時代です。コンピュテーショナルフォトグラフィ(2016)は「どこまでが撮影か」という問いをシャッターの瞬間に持ち込み、生成AI(2022)は「文章の向こうに書いた人がいる」という前提まで崩しました。年表を通読すると、この流れが一方向に進んできたことがよくわかります。
音楽も1本の筋が通っています。ビートルズのデビュー(1962)からMC-8と松武秀樹(1977)、MIDI(1983)、ミュージくんによるDTMの誕生(1988)、初音ミク(2007)、そしてSuno(2024)。ELPの悪の教典#9(1973)も入っています。第3印象の幕切れで、キース・エマーソンのMoogがコンピュータの声を演じ(喋っているわけではなくて、エフェクトですが)、機械側が「I'm perfect. Are you?」と勝ち誇るあの曲です。ロックがAIとの対話を歌った最初期の作品が、Moogの音でできているというのは、エマーソンのソロを無限生成するアプリを作った身としては入れないわけにいきませんでした。
ビートルズの項は「Now and Then」(2023)で閉じています。ジョン・レノンのカセットデモからAI音源分離が歌声を救い出し、53年越しにレノン=マッカートニー作品が完成した一曲。AIで作ったのではなく、AIによるステム分離で救い出した新曲です。故人の声と技術というテーマをライフワークにしている私としては、ここが年表の中でいちばん熱のこもった項目になりました。
年表の中に、この年表自身がいる
技術側の最後のほうに、Claude Artifacts(2024)とVibe Coding(2025)の項目があります。Artifactsの蘊蓄にはこう書いてあります。「ダイナブック構想が夢見た『誰もが自分の道具を作れるコンピュータ』に、自然言語という入力方法で到達しつつある——この年表アプリ自体もその産物である」。
年表の中に、その年表自身の出自が書いてある。アラン・ケイが1972年に構想したダイナブックの項目から52年下ると、その構想の産物としてこのアプリが存在しています。
そして年表の最終行は「AGI到達論争(2026)——もう来たのか、まだなのか」です。ダートマス会議(1956)の「ひと夏で目処がつく」から70年。問いは「いつ来るか」から「もう来たのか」に変わりました。この年表は答えの出ていない問いで終わります。生年を入れたあなたは、何歳でこの問いに立ち会っているでしょうか。
アプリはGitHub Pagesで公開しています。ソースコードもGitHubで公開しました(MITライセンス)。年表データはEVENTS配列に1行足すだけの構造なので、「あの作品が入っていない」という方はforkして自分の年表を育てることもできます。mainにpushすれば自動でデプロイされる仕掛けも、もちろんClaudeに作ってもらったものです。

生年(と、よければ誕生月)、進路、浪人・留年の年数を正直に入れて、自分がどんなインターネット老人だったのか、確かめてみてください。なお、カバーできない部分は、公開しているGitHubページを読み込んで、「ここをこう変えて」と指示してみてください。Claude CodeでもChatGPT CodexでもGoogle Antigravityでも、ご自身で改変していってもらえるとうれしいです。
読み物としても2世紀にわたるコンピュータとSF作品の歴史を2万字でまとめ読みできるのでちょっとした暇つぶしにも良いかと。
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※この記事のほとんどは、Claude Fable 5との対話から生成されたものに、筆者が整理・追記したものです。


















