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拡大を続ける中国ゲーム業界…その強みとアラブ、東南アジア戦略を専門家が徹底解説

快進撃を続ける中国ゲーム業界。その拡大の理由とは何でしょうか? また、今後どうのような展開が予測されるのでしょうか? 専門家が集まり、中国の現状について解説します。

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中東市場へアプローチする中国



さて北阪氏のセッションの最後に、ここ20年の中国は「日本や韓国、そして中東や南米への進出や融合の時代」と語られましたが、ここで “中東”について言及されているのは興味深いでしょう。少なくとも日本国内からは、中東はゲーム市場として目立ってはおらず、ほとんど状況が伝わっていないのは確かです。

では中国は、そんな中東市場へどのようなアプローチを行っているのでしょうか?次のセッションでは、メディアクリエイト国際部の主席アナリスト、佐藤翔氏がこの状況を解説します。

佐藤氏は中東ゲーム業界の状況を熟知している経歴を持ちます。ヨルダンのゲーム会社に勤務したほか、調査会社にて各国の動向を調べてきました。現在も新興国の情報を集めるために調査を行っています。その経験を元に、今回の中東市場と中国の試みについて説明しました。


さて、なぜ中国は中東市場に注目しているのでしょうか? 佐藤氏は中東市場への参入において、日本のみならず欧米でも遅れていると指摘します。

実際、欧米の調査結果がいかに雑であるかを佐藤氏は説明。たとえばある調査によれば、サウジアラビアよりナイジェリアのほうがマーケットが大きいという結果が出たそうです。本当のところはどうなのか? 佐藤氏は調査したところ、現地で手に入れた漫画をはじめサブカルチャーのコンテンツがある程度は揃う環境なのを見てきました。

ではビデオゲーム市場もあるのでは? と考えるところですが、実際のところほとんど存在しないそうです。PCやモバイルのマーケットがないわけではありませんが、そもそもの通信速度のインフラがまったく遅れている環境だといいます。

現地へ訪問し情報を集めたところ、佐藤氏は「ナイジェリアでは正規のゲーム市場はほぼ無い」と結論付け、そこがサウジアラビアよりも大きい市場を持つなんてことはありえないと指摘します。このように欧米の粗雑なリサーチひとつとっても、中東市場参入に消極的なのがうかがえるでしょう。

緑が唯一の中東で大きな売り上げとなったタイトル『Revenge of Sultans』

一方、中国は中東市場の参入に意欲的です。その証拠に2017年の売り上げタイトルトップ10に、サウジアラビアで最大収益を上げた『Revenge of Sultans』が入ったことが挙げられました。

各国ごとの売り上げを見ても、サウジアラビアはそれほど大きな数字にはなりません。ところがアメリカのチャートのトップ50にサウジアラビアのタイトルが入るという、奇妙な現象が起きていました。

一体どういうことでしょうか? チャートインしたアプリは、チュートリアルまでアラビア語で書かれていたそうです。なんとサウジアラビアのストアではなく、アメリカやヨーロッパのストアからゲームをダウンロードしたことが関係しているといいます。

なぜサウジアラビアのストアではなく、アメリカやヨーロッパからダウンロードしているのでしょうか? そもそものサウジアラビアのストアが貧弱なため、アメリカのストアを利用していることや、サウジアラビアの留学生が留学先でダウンロードしていることが大きいとのことです。

中国では、2018年にサウジアラビアでゲームが展開できると見て以来、注目し続けているといいます。佐藤氏も中東市場を調査し続け、2019年にはテンセントがドバイにオフィスを設立するなど、ますます各社が熱視線を送っています。現在、現地のランキングでは中国企業のゲームが市場を席巻しているのです。


アラブのゲーム市場では『PUBG MOBILE』がトップの売り上げを誇り、『FIFA』シリーズのほか、先述した『Revenge of Sultans』がヒットしています。

サウジアラビアではe-Sportsにも興味を示しています。きっかけとなったのは『FIFA』シリーズのe-Sportsイベントで、サウジアラビアの選手が優勝したことでした。この結果に湧きたったのは、何と言っても現地の人々です。「e-Sportsのイベントで優勝できるんだ!」ということが活力となり、なによりゲームのアピールとなりました。その後、スポンサーもつく展開にもなったそうです。

一方、PCゲームの会社がe-Sportsイベントを開催しても、他の国や地域で人気のタイトルであってもそこまで盛り上がらないとのことです。

たとえば世界的に人気のMOBAタイトルである『Dota 2』や『リーグ・オブ・レジェンド』は、現地ではあまり遊ばれていない事情があります。サウジアラビアで大会を開いてもレバノンやヨルダンといった国から選手が参加するそうです。というのも、サウジアラビアのゲーム市場では、PCゲームの市場が確立されておらず、主にコンソールでも展開されているタイトルがe-Sportsに採用されているとのことです。

さて日本企業も、中東市場に対して何もしていないわけではなく、現地で人気のあるIPの中から、ゲーム化して展開する試みが行なわれているものもあります。ですが、人気は得られていません。佐藤氏がなぜかを現地のアラブの人に聞いたところ「ローカライズの悪さ」が挙げられました。

たとえば、かつて現地で展開していた日本のアニメは、登場人物の名前をアラブ系に仕上げるなどのローカライズを行っていました。しかし、最近出ているそうしたIPのゲーム版では、登場人物の名前にアラブ系の名前を使わず、日本での名前をそのまま使っていたりするため、現地の人間からは違和感を持たれてしまう、ということもあるようです。


佐藤氏は中東のその他の状況についても言及し、中国はイランやトルコのゲーム市場も注目していることも明らかにしました。またゲームの周辺産業にかかわるイスラエル市場にも関わり、ギャンブルも絡んだ事業を行う企業を買収しようとしていたそうです。しかしこちらは、中国当局が国内の上場企業がギャンブルに関わる事業に関わることを嫌ったため、破談になってしまったといいます。このように市場参入には中東や中国それぞれの政治的な背景も絡んでいるようです。

セッションのまとめとして、2018年から中国企業は中東への関心を高めており、2020年にはサウジアラビアの市場規模が1000億円超えるのではないか、と見られています。

東南アジアにおける中国企業の活躍と日本企業の課題



最後に「中国の東南アジア市場への進出」について解説します。セッションを担当したのは大和田健人氏。今回のイベントを主催する、アリババクラウドジャパンのマーケティングマネージャーを務め、アジアゲーム市場のリサーチャーとして活躍しています。


大和田氏は東南アジア市場を見るにあたって、「地政学的な観点から、歴史を振り返って見通す」視点を挙げました。東南アジアと一括りに見てしまいますが、国ごとに歴史も文化も違っており、いずれも国境でくっきりと区切られてはいません。宗教や文化、民族が複雑に混ざり合ったもの国なのだといいます。

たとえばインドネシアは最大のイスラム教徒の国でもあり、その流れもあるのかフィリピンの南部でもムスリムが多いそうです。大和田氏はこうした各国の状況について「地図を見ながら考えていくと面白い」と評していました。


ここで、東南アジア市場に進出する中国(華僑)の歴史にも目が向けられます。大和田氏は16世紀の中国が福建省の出身者中心とした華僑が活躍した歴史を振り返り、20世紀に共産党が台頭して以降、広東省の出身を中心とした華僑となっていた、とおおまかにまとめます(こうした背景からなのか、福建省側の人間を広東省側の人間は打ち解けられないこともあるとのこと)。

現代に繋がる2000年代以降を「新華僑の時代」と評します。新華僑とは、福建省や広東省の出身に限らず、中国全土の人々が華僑になったことを指しているそうです。海外進出においても、過去の祖先から続く人脈や、現地の中国人のような過去の人脈を使い続けているのか? というとそうでもない状況なのだ説明しました。

このように歴史や地政学から見通すことで、各国の文化も見えてくるといいます。たとえば福建省出身の華僑に注目すると、中国と台湾、フィリピンのこれまでにない経済的な関係が浮かび上がるといいます。多くの福建省出身の華僑がフィリピンの産業で活躍しており、表のビジネスだけでなく、裏のビジネスについても同様だそうです。たとえばフィリピンで、合法的に開設されているオンラインカジノの経営者や従業員は福建省が多いそうです。また中国では、展開できないグレーゾーンのコールセンターをフィリピンに置くケースも多いとのことです。

どうあれ、中国・台湾・フィリピン間で「ゴールデントライアングル」と称される独自の経済圏が形作られています。

また、最近の中国と隣り合っているラオスやカンボジア、ミャンマーなどの国境側は、ほとんど中国のようになっているといいます。たとえばミャンマーの国境側でインターネットを見ると、IPアドレスは中国になっていたり、中国側からLANケーブル持ってきたり高速Wifiを持ってきていたりするそうです。

モバイルのタイトルに関して、東南アジア市場で、とくに前年比170%成長のインドネシア市場に注目が当たっています。3年前と比べて、コンビニ課金が普及し、ゲームへ課金できるインフラが整ってきたことが大きな要因となりました。

ここにアリババクラウドが関わることで通信速度も改善したといいます。中国企業が東南アジアに展開するときに、アリババクラウドが使われており、成長著しいインドネシアにおいて、データセンターを提供している唯一のクラウドベンダーであると大和田氏は語りました。

アリババは現在、東南アジアを含むアジア太平洋地域において最大のクラウドインフラベンダーということでした。

東南アジアにおける人気タイトルランキング。
ピンクが中国製タイトル。大きく市場に食い込んでいることがわかります。

東南アジアストアにおいて中国の進出は非常に大きく、ランキングのトップのほとんどは中国製のタイトルです。

中国企業の東南アジア市場での展開でよくあるやり方は、まず英語でリリースし、すぐに現地語に翻訳し、徐々にクオリティを上げていく形式だといいます。その後の展開として、大和田氏は「中国で流行ったら、パクってすぐに東南アジアへ展開する」と忌憚なく説明。マップのデータをそのまま盗んで使うなど、あからさまなものがあるといいます。時には裁判にもなった事例も紹介されました。

中国はこうした進出を続けていく中、インドネシアでもゲームを展開していきます。MOBAの『モバイル・レジェンド: Bang Bang』といったタイトルが上手く展開しているそうで、その戦略の背景には、細やかな「ゲームを遊ぶとパケット料金が無料になる」といったレベルの展開を行ったことが功を奏していると語られました。


東南アジア市場で仕事するに当たって、中国の仕事はかなりのスピード感を見せています。「とりあえず付き合っちゃおうぜ、と小さいビジネスから始めて大きくしていくんです。それを大きくしていくのが上手い」と大和田氏は評しました。

さらに「BANされる前提のマーケティング」という驚きの戦略も説明。一般的にSEOでランクを上げていく形ではなく、広告を流入させていくか、ウェブで広めてからダウンロードに繋げる展開を取っています。以前、大和田氏の友人の企業がでも女性向けのゲームをリリースしたら、ムスリムの価値と反するものだったため、BANされた経験があるといいます。

最後に日本企業の課題が挙げられました。まず中国に見られる仕事のスピード感として、「とりあえずやってみる」がなかなか難しいことが指摘されます。続いてコスト感覚についても言及。日本の感覚でやると、とてもペイしない問題があり、トライアルが少なくなってしまうことがあります。 

こうした課題の解決として、たとえばフィリピンでの展開が挙げられました。フィリピンはCPIの安い国であり、新しいゲームをリリースするとき、先に東南アジアでテストマーケティングをして、それから世界展開する手法もとれるのではないか、と語られました。

その他に現地企業とのパートナーシップや、インフラ戦略やプロモーション戦略、課金の決済をしやすくする戦略の不在について策が必要だと語られました。まだ見ぬ世界へと進出するのに、現在中国は開発においても、各国へ展開する戦略においても先んじていることがわかるイベントとなりました。
《葛西 祝》

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