
『八月のシンデレラナイン』などのオリジナルタイトルをはじめ、数々の大ヒットモバイルゲームの開発や運営に携わっているアカツキ。代表取締役CEOである塩田元規氏は、同社創業以前はDeNAで広告事業に従事していました。
DeNAグループとしてゲーム事業のさらなる強化を目指し、ゲーム運営力をより一層高めるため、設立されたDeNA Games Tokyo(以下DGT)の川口俊氏。当サイトで過去に「ゲーム運営」に関する連載を寄稿していた当時は企画部部長という立場でしたが、2018年8月から代表取締役社長に。
奇しくも「DeNA繋がり」ということで本稿では、先輩経営者である塩田氏に「組織づくり」「経営者としての姿勢」をインタビュー。「自分が素敵だと思うものを取り込んでいけばいい」と、アドバイスする塩田氏の考え方は、経営者だけでなく様々な立場の人が共感できるのではないでしょうか。
川口アカツキは社外に応援団というユニークなチームがありますよね。そういう発想って、通常の企業では出ないと思うんです。応援団設立のきっかけをお伺いしたいなと。
塩田どういう会社がうまくいくかと言うと、応援される会社なんですよ。応援したくなる何かがないと、会社ってうまくいかないと思ってて。勝屋 久さん(*)にアカツキ応援団長をお願いしているんだけど、エネルギーいっぱいで楽しい方なんです。すごいんですよあの人!アカツキ応援団長ってタスキ作って、学ラン着てもらって「フレー!フレー!」って、動画も撮影して。こういう人が応援してくれたらいいなって。
(*)アカツキ 社外取締役兼応援団長 アドバイザー。同社はコーポレートページに「応援団紹介」というページを設けている。https://aktsk.jp/company/cheer/
つまり、合理的なつながりじゃないんですね。この場に勝屋さんも来て楽しいみたいな、そういう場が作りたいなと。それがきっかけですね。自分が働いてる場所が誰かに応援されてるって誇りにも繋がるんです。

川口応援団にはさまざまな方がいますが、事業のフェーズや組織運営にあわせてそのときに最適な方を選ばれているんですか?
塩田僕たちに共感してくれているとか、ピンときた人をその場でお願いしていきました。やってほしいことが明確だったら業務委託でいいじゃないですか。応援団は、本当に応援してくれるだけなんですよ。僕のFacebookの投稿をシェアしてくれるだけでもいい。まだ会社が小さかったころ、誰かが応援してくれているだけでも支えになりました。応援団の皆とは、いまでも株主総会が終わった後に食事会をやっています。
川口これは他の方には真似できなくて、塩田さんだからこそできると思ってます。戦略って言ったら大げさかもしれないですけど、伝え方やメッセージなどはどのようなことを考えられてるんですか?
塩田あまり考えてないですけど(笑)、僕はアカツキでやりたいことと自分でやりたいことがすごくクリアで、そこに対して本気なんですよ。嘘はないから、その熱量をただ喋ってるだけ。俺困ってるんですよ、応援してくださいよ、っていうのを素直に出すのが一番重要ですね。人が共感するのは想いですから。
川口僕は口下手だったり真面目するぎところがあるなと自覚していますし、社長に就任して日が浅いので、相手に自分の意志をどう伝えてればいいのかよく考えているんです。

塩田真面目なことって素晴らしいともっと自分の中で誇ったほうがいいと思います。今、川口さんの話を聞いてても「俺、真面目だけど面白くないんですよ」感があって、それはもったいない。繰り返しですがそれは素晴らしいことなんですよ、真面目なだけ最高じゃん、って。
川口さんもいろいろアドバイスを受けたと思うんですけど、そんなのは社長の仕事の本当にごく一部で。経営者でいちばん重要なのは、自身のエネルギーがどう組織に影響を与えるかなんです。
たとえば川口さんが自分の中の真面目さに引け目感じてたとすると組織もそうなります。「俺たち真面目にやってるけどつまんないよね」っていうネガティブ感がだんだん投影されてくるんですよ。
川口まさしく今、悩んでる部分がそこだったんです。僕自身を表す言葉で真面目や謙虚とよく言われまして。最近いただいたアドバイスも「社長って強さがなきゃダメだよ」って。
塩田色んな人が「こうしなきゃダメだよ」って言ってくると思います。でも、それは無視していい。自分が素敵だなって思うものを取り入れていけばいい。アカツキも完全じゃないので、色んなものを取り入れてその変化を楽しんでいます。
川口塩田さん自身も、例えば創業当時と比べて変わってきてますか?

塩田超変わってきてます。昔はかっこつけだったし、僕も何者かになろうとしてたんですよね。自分になるじゃなくて、素晴らしいと言われてる経営者になる。誰かが期待してる自分像ですね。
変わってきたエピソードでいえば、グループ経営会談のときに哲朗(*)と話してて「アカツキにここ2,3年で入ってきた社員って元規のこと怖いと思ってないんだって。お前めちゃめちゃ怖かったもんね」って。そのときの会話で「元規は昔はもっと嘘が出てた、ビジョンに準じてないことをしてた」と。組織の動かし方も愛じゃなくて力で動かそうとしていたんです。
(*)アカツキ 共同創業者 取締役 COO 香田哲朗氏のこと。
川口うーん。自分も今の立場になって、力で動かそうとしたことはありますね。
塩田ビジョンが大事だからとか、稼がなきゃいけないよねとか。そういうところに一個一個嘘があった。そのプロセスがあった上で、哲朗は受容力がすごく高いんで僕も受け入れてくれて。哲朗が受け入れてくれるからアカツキのみんなも「ま、塩田さんそういうとこあるしね」って受け入れてくれてたと思うんです。それが多分今のアカツキの根本の強さになっている。色んな人の愛情に触れて、自分もだんだん変わってきたってことなんですよね。
川口ありがとうございます。組織づくりについてもお聞きさせてください。塩田さんの考えを社内に対してどのように発信しているのでしょうか?
塩田DGTの社員は何名ですか?
川口約220名ですね。
塩田人数で発信する仕方と内容が変わってきます。創業時、僕は基本的に毎週自分が気づいたことをどんどん喋っていました。文化って事例と物語なんですよ。アカツキでは「失敗してもいいからチャレンジしよう。そのかわり失敗したことを財産にしよう」という文化があります。
具体例でいうと、ゲーム事業部の戸塚(*)が4年前にある失敗をして僕の前で号泣して。彼は失敗したことを胸張って、みんなの前で振り返りをプレゼンしたんです。その時に「申し訳ございません」じゃなくて「失敗しました」て言ったんですよ。言葉で「失敗が財産になる」っていうのは簡単ですけど、こういったアクションが事例になり文化を作り組織を形成するんです。
(*)ゲーム事業 執行役員 戸塚 佑貴氏のこと
他にも新入社員の前で、僕が3時間かけてアカツキの歴史を全部話す、ということをやっています。いまこの瞬間が、色んな人達の積み上げでできていて、翌年からはその歴史に自分も入る。これは文化形成に効いていると思いますね。

川口ありがとうございます。それでは採用に関して伺いたいのですが、採用する上で大切にしている軸を教えてください。
塩田採用に関してアカツキはその人のスタンスを見ています。スタンスというのは、自分がちゃんと胸張って自分の人生にコミットしたいのか、といったような問いだと思うんですよね。アカツキだったら主体性と創造性を持って生きていきたいのかと。
それと、凝集性を高めたいのか多様性を高めたいのか、組織のステージによって採用の仕方は変わってきますね。今のアカツキは現場のマネージャーが勇気を持って自分で決断して採用できることを重要視しています。
川口新卒の採用には関わっているのでしょうか?
塩田いまは現場に任せていますね。「アカツキらしさってこうだよね」って定義がよりクリアにありますから。らしさって何かってみんなで話すことが勉強になるんで、それやりながら、新しい血を入れて新しい価値観を入れて。
そうやってこれまでは僕や哲朗が思い描いてた形で会社が成長してたわけですよ。いまはそれを超えるっていうフェーズ。僕たちが夢にも見なかった世界に行くっていうテーマなんです。だから怖いですよね。
川口怖さがありつつも、どんなアカツキになっていくのか楽しみですね。
塩田なんでもアリだったり、予想しないことが起こるほうが楽しいですもんね。

川口今日、塩田さんにインタビューをさせてもらって感じたのは、僕も何者かになりたいんですけど、何者かになるのが怖いなってことです。塩田さんと話すって凄く怖いんですよ。塩田さん自身の哲学や経営者としてのアドバイスをもらえて、それが全部よく思えちゃうから僕が塩田さんの考えに染まってしまいそうで怖い。ただ、変わるって怖いんですけど、僕も何者かになりたいし変わりたいって思ってるということが今日わかりました。
塩田すばらしい!川口さんには経営者としての旅を楽しんでほしいですね。今しかないんです、人生。明日死ぬかもしれない。その中で一瞬一瞬のプロセスを良いも悪いも全部味わい尽くすっていうことを経営者がやっていくと組織の中で全てが学びと遊びになる。最高ですよ。
川口はい、これからの旅が楽しみです。僕自身が経営者を演じようとしすぎてたなってことに気づかせていただきました。僕が演じるままだったら、DGTも演じる会社になってしまう。僕が好きな自己表現、メンバーにしてもらいたい自己表現を考えていきます。どうもありがとうございました!
