日本のゲーム産業の強みはエクイティファイナンス!【オールゲームニッポン】 | GameBusiness.jp

日本のゲーム産業の強みはエクイティファイナンス!【オールゲームニッポン】

テレビゲームの世界は、新しいデバイスや技術の普及によって、その形は大きく進化している一方、楽しさを追い求める姿は変わりません。変わるものと、変わらないもの。過去と未来。そして我々が宿命的に背負う日本という存在。なかなか考える余裕のない現代ですが、少しだ…

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テレビゲームの世界は、新しいデバイスや技術の普及によって、その形は大きく進化している一方、楽しさを追い求める姿は変わりません。変わるものと、変わらないもの。過去と未来。そして我々が宿命的に背負う日本という存在。なかなか考える余裕のない現代ですが、少しだけ立ち止まって一緒に見つめてみませんか? 毎月1回、「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」ゆるーくお届けします。


山崎浩司(以下 山崎): 5月です。今月はインディーゲーム関連イベントが立て続けに開催されました。東京では安田さん、平林さんも登壇された東京サンドボックス、京都ではビットサミットが行われました。私も取材に行きましたがどちらも大盛況でした。今回はそんなお話ができれば……。

安田善巳(以下 安田): 僕も東京サンドボックスに参加してみてE3や東京ゲームショウとはまったく違うエネルギーを感じましたね。登壇前後の時間に、若手クリエイターの方たちから自分たちでつくったゲームを一生懸命に説明していただき、刺激的な交流ができました。

平林久和(以下 平林): 一昔前の国内インディーゲームというと、どうしても同人ソフトと同じ匂いがしたものです。マニアック、内輪ウケ狙い、なかには悪ふざけの感じがするゲームもありました。ところが、今月話題になったインディーゲームは、一歩も二歩も前に進んだ気がします。メジャーな市場で売れそうなタイトルがいくつもありました。ところで、山崎さんが取材して目立ったゲームはどんなタイトルでしたか?

山崎: 既発表タイトルですが、ビットサミットに出展されていた『ピーポーパニック!』はやはりインパクトがありました。床に街並みが写った画面を投影します。その画面に向かってプレイヤーは、釣り竿のようなデバイスをたらします。釣り竿の先にはUFOのようなモノが付いていて、光を照らして街にいる人々をさらっていくというゲームです。


平林: ピーポーとはPeopleのことですね。素晴らしい設定です(笑)!

山崎: 昔、磁石が付いた魚を釣り竿で釣っていく玩具がありましたが、あれに近いプレイ感覚です。そんな古典的な遊びを、ハードウェア開発も含めて最新のAR(拡張現実)ゲームに仕立てたのは、本当にすごいと思いました。とにかくルールがわかりやすいので、マニアックどころか、ごく一般の中学生たちや親子連れが楽しそうに遊んでいました。

平林: まったくバラバラな要素、「街並み」「UFO」「釣り」をうまくまとめたポップなARゲームですね。

山崎: ほかには昨年の東京ゲームショウにも出展されていた『Line Wobbler(ラインウォブラー)』は相変わらずの人気ぶりを見せていました。細い管と点滅する光の線だけで遊ぶ(遊べる)ゲームです。線だけのゲームだから3Dでも2Dでもなく1D。1Dダンジョン探索ゲームとうたっています。


平林: 『Line Wobbler』はドイツのクリエイターがつくったゲームですが、もはやインディーゲームの世界的代表作といえるかもしれません。

山崎: あとは、Nintendo Switchのクオリティの高いインディーゲームが目立ちました。『モンスターハンターダブルクロス』のNintendo Switch版の発売が発表され、ハード販売の後押しにもなりそうですし今後に期待が持てます。

平林: さて。そんな有力コンテンツとは別の話題ですが、安田さんの東京サンドボックスでのキーノートスピーチ。私は画期的だったと思うんです。日本のゲーム産業の本質をついていると思いました。要点をかいつまむと「日本のゲーム産業はエクイティファイナンスとともに成長してきた」。そんなお話を欧州から来日した投資家の方々になさいましたよね。

安田: はい、かいつまむとそういう話です。

平林: 他の人があまり言及してこなかった。私も目から鱗が落ちるようなお話だったので、ぜひオールゲームニッポンでも再現したいです。まず、エクイティファイナンスの意味ですが、株式の発行によって資金調達を行う、ということでいいですか?

安田: そうです。もっとわかりやすく説明すると、エクイティ(Equity)とは、返済期限の定めのない資金のこと。たとえば、企業が株式を発行して集めたお金には返済期限がありません。自己資本に組み入れることができます。逆に、返済期限があるものをデットファイナンスといいます。これを簡単に言ってしまうと銀行からの借金です。つまり、日本のゲーム会社は成長過程で借金することなく、返済期限の定めのない資金を大量に集めることができた。そんな趣旨のことをお話しました。

平林: どうしてそんなに有利な資金集めができたんですか?

安田: そっけない言い方になりますが、タイミングが良かったんです。

山崎: タイミングですか?

安田: 日本の金融システムの変化とゲーム業界の成長する時期がうまく重なりました。僕が日本興業銀行(当時)にいた80年代後半、ニュービジネスを発掘する動きがありました。当時の金融機関は、いわゆる重厚長大型産業、鉄鋼・造船や、自動車・家電産業以外の新しい成長産業を見つけたかった。当時は新しい成長産業のことを「ニュービジネス」と呼んだわけですが、そこで注目されたのがコンピュータの分野でした。

平林: コンピュータというとNECや富士通のハードですか? それともソフトですか? 

安田: もうその頃からソフトの分野に関心が移っていましたね。

平林: 企業で言えばCSKやアスキーがもてはやされた時代ですね。

安田: そうです。で、ソフト会社は成長率が高いことが証明されたので、ゲームの分野がだんだんと注目されるようになっていきます。さらにこの頃、金融の自由化や規制緩和の波もやってきました。詳しい説明は省きますが、この変化によって企業は銀行の融資ではなく、証券会社が音頭を取るエクイティファイナンスをやりやすい環境になったのです。言い方を替えると、企業が株式を上場して資金調達しやすくなったということです。

平林: その流れを受けて90年台の前半はゲームソフト会社の上場ラッシュになったんですね。エニックスやコーエー(いずれも社名は当時)が91年に、スクウェア(当時)は94年に上場しています。

安田: というわけで、80年代後半の金融界の動き。ニュービジネスを見つけたい。90年代の前半になると、新規の上場企業を見つけたい。そんな動きとゲーム会社の成長期がピタリと重なりました。さらにこの頃、ゲーム業界全体が成長産業として認められ、社会的なイメージもだんだん良くなってきました。株式を上場すれば投資家も期待して株価が上がる、という好循環が生まれたんです。

平林: ゲーム会社は業績が好調ならば株式上場できる。エクイティファイナンスがやりやすくなる。この動きはその後も続きましたよね。というか、今でも続いています。

安田: はい。日本の証券会社や投資家から見ると、ゲーム会社は一攫千金の夢を与えてくれる優等生なんです。業界の中にいると気づきませんが、外から見るとゲーム業界は他の業界と比べて高収益企業の集まりに見えます。ですから、他業種に比べて上場企業数が多いですし、外国と比べても日本のゲーム会社は上場企業数がかなり多いです。

山崎: エクイティファイナンスによってうまく資金調達したということは、株式の時価発行総額が増えるということですよね。

安田: そうです。株式の時価発行総額のことを、「企業価値」などといいますが、厳密に言うと企業の付加価値の総額ですね。仮に企業が持っている資産が小さくても、将来生み出す利益が大きいとみなされれば付加価値があると考えます。

平林: 私はよくゲームの市場規模の話をします。ゲーム専用機市場とモバイルゲーム市場の合計。大きめに換算しても約1兆3000億円です。これはタクシー産業や靴・履物産業と同程度です。ゲーム産業の市場規模はけっして大きくない。にもかかわらず、よく経済ニュースで取り上げられるのは産業全体の時価発行総額が大きいからだ、などと言ってきましたが、その根源をたどればエクイティファイナンスのおかげであることがわかりました。なんだかすっきりしました。

安田: そうですね。日本のゲーム産業は市場規模ではなく、時価発行総額が大きいのが特徴です。たとえば任天堂1社で時価発行総額は4兆円を超えます。バンダイナムコが8400億円超、コナミが7400億円超、スクウェア・エニックスが4100億円超です。これらを積み上げていけば、時価発行総額は軽く10兆円を超えるのが日本のゲーム産業なんですね。

平林: こうした巨額な時価発行総額を持つ企業が、小規模のデベロッパーに対して、開発を委託(発注)することが、実質的には投資家のような役割も果たしてきた……というお話が、個人的な感想ですいません、私にとっては新鮮だったんです。難しい金融がテーマでしたが、うまく伝わったでしょうか?

山崎: いやー、インディーゲームの話からエクイティファイナンスの話へと展開。先月の島根県に続いて、今月もスリリングなオールゲームニッポンでした。ありがとうございました。
《平林久和》

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