久夛良木健氏が語る、AI時代に求められる人間―電気通信大学「CEREC」オープニングセレモニーレポ | GameBusiness.jp
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久夛良木健氏が語る、AI時代に求められる人間―電気通信大学「CEREC」オープニングセレモニーレポ

ゲームを軸にAI、VR、ロボティクス、脳神経科学などの先端研究をつなぐ電気通信大学「CEREC」が本格始動。オープニングセレモニーでは「PlayStationの父」久夛良木健氏が、AI時代に必要とされる人材について語りました。

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電気通信大学は2026年9月29日、調布キャンパスで「エンタテインメント創造研究教育センター」(以下、CEREC)のオープニングセレモニーを開催しました。ゲームを中心とするエンタテインメントを研究・教育・社会実装する拠点となります。

セレモニーでは、同大学の卒業生で特別客員教授を務め、「PlayStationの父」として知られる久夛良木健氏と村松正和学長によるパネルディスカッション、さらにソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)とコーエーテクモゲームスで活躍する卒業生によるパネルディスカッションが行われました。

久夛良木氏は、自身の開発史を振り返りながら、ゲーム業界が世界最先端の技術を追いかけるだけでなく、自ら生み出し、技術の進化を牽引してきたことを語りました。そして現在のゲームは「大きな変わり目」にあり、これからブレイクスルーを迎えると指摘。その先見性からAI時代に求められる人材像なども語られました。

先端研究を「ゲーム」でつなぐCEREC

CERECは2026年1月に電気通信大学に設置され、9月に発足が発表されました。今回のセレモニーは、その本格始動を内外に示す場となります。

CERECの掲げるスローガンは「つくる力で、エンタテイメントの未来を支える」。今のゲームを中心とするエンタテインメントは、AI、VR、半導体、ロボティクス、さらには医学・心理学など多岐にわたる技術の融合によって成り立っています。こうした先端技術を自ら研究し、一貫した開発経験を持って国際的に成果を発信できる人材を育成することがCERECのメインミッションです。

センター長を務めるのは野嶋琢也准教授。CERECには、VRやAI、触覚、ロボティクス、脳神経科学など、多様な分野の研究者が参加しています。さらに、コーエーテクモホールディングスやセガゲームスで社長を務めた松原健二特任教授、ゲーム開発とナラティブデザインを専門とする簗瀬洋平特任准教授なども名を連ねます。

連携企業はキッズプロジェクト、グランディング、サイバーエージェント、ジェムドロップ、ディー・エヌ・エー、テクテク、ビサイドの7社。すでに8月には「CEREC Game Jam」と「Social Game Lab」、2回のゲーム開発実践が行われています。

セレモニーは村松学長の挨拶で幕を開けました。村松学長は、同大学が時代の要請に応じて情報通信の最先端を担ってきた歩みに触れ、その延長線上にエンタテインメント分野があると位置付けます。学生一人一人が持つ深い専門性を「横串」でつなぐものとしてゲームがある、という構想です。

久夛良木健氏が語る「スーパーヒューマン」と“バイネーム”

第1部のテーマは「大学とゲーム業界の本音・これからの大学に期待すること」。野嶋センター長をモデレーターに、村松学長と久夛良木氏が登壇しました。

久夛良木氏はまずゲームの黎明期を振り返りました。1970年代初頭は世界初のマイクロプロセッサーが登場し、国立大学にも8ビットコンピューターが導入され始めた時代です。ちょうどその頃、コンピューターを使った新しいエンタテインメントも生まれ始めたといいます。

それから数十年を経て、ゲームは人々の想像を超える規模の分野として定着しました。一方で久夛良木氏は、その進化が止まったわけではないと強調します。むしろ「これからがティッピングポイント」であり、ゲームは今後、大きなブレイクスルーを迎えるとの認識を示しました。

ゲームの歴史は、突破の繰り返しだったといいます。16色程度しか表示できなかった初期のPCの時代、表現は2次元に閉じていました。任天堂やセガ、アタリが切り拓いた世界にも、2次元の文化の中でできることには限りがあったと言います。

当時、ゲームの映像は2次元のスプライトを組み合わせる表現が中心でした。リアルタイム3DCGを扱えるのは、シリコングラフィックス(SGI)の数千万円クラスのワークステーションなど、ごく限られた環境です。軍やDARPAのフライトシミュレーターなどにも使われていた技術で、1990年頃には、こうした3DCGが家庭用のコンピューターにまで降りてくるのは難しいと考えられていたとのこと。

久夛良木氏は、PlayStation開発のモチベーションとなった体験についても振り返りました。SIGGRAPHの会場で、のちに「トイ・ストーリー」を手がけるジョン・ラセター氏の短編映像を目にしたときのことです。そこで感じたのは“エンタテインメントはテクノロジーだけでは成り立たない”ということだそう。アーティストやデザイナー、ストーリーライターが集まり、技術と結び付いて初めて作品になる。その体験は開発における原動力のひとつになったといいます。

そして初代PlayStationでは、それまで高価なワークステーションなどで扱われていた3DCGを、家庭用ゲーム機でリアルタイムに処理することに挑みました。開発において重要だったのは、単に3DCGを表示するだけではなく、プレイヤーの入力にリアルタイムで応答することでした。

アーケード版の『リッジレーサー』には30~40センチほどの基板が3枚あり、約200個のチップが載っていたといいます。それを3万9800円の家庭用ゲーム機で動かしてみせたことについて“アルゴリズムの勝利”と振り返りました。

家庭で『リッジレーサー』が遊べることに多くの人が驚きましたが、久夛良木氏によれば一番驚いたのはシリコングラフィックスだったといいます。SGIの創業者から、なぜ自分たちにできないことができるのかと問われた久夛良木氏は、「あなたたちはリアルタイムって考えていないですよね」と答えたとのこと。

SGIのマシンは、映像こそリアルタイムに動くもののシミュレーション用途のため、入力への即時応答までは求められていませんでした。しかしゲームは、コントローラーを操作した瞬間に反応しなければ成り立ちません。理想的なレイテンシーは、画面1枚を描画する60分の1秒ほどです。

久夛良木氏は「リアルタイムは、リアルレスポンスなしにはできない」とし、こうした要求に当時は誰も気付いていなかったと振り返ります。

続くPlayStation 2では、久夛良木氏いわく「世界で初めて」の128ビットプロセッサーを開発しました。さらにロジックとメモリーをひとつのシリコンに混載し、プリント基板上では実現できない帯域を確保するなど、新たな技術を次々に投入しています。

こうした歩みを踏まえ、久夛良木氏は、テクノロジーの先端を行っていたのはゲーム業界だったと強調しました。ゲームはおもちゃだと思われがちですが、実際には世界最先端の技術を追いかけるのではなく、自ら生み出す側にゲーム業界がいたのです。

ゲーム制作は「好奇心を絶やさないこと」

野嶋センター長が久夛良木氏に「これからゲームを作っていく若い世代は、何を身につけるべきか」と問いかけます。これに久夛良木氏は、ゲームに限らず絶対に外せない人間力として「好奇心を絶やさないこと。これは絶対に外せない」と述べました。生まれたばかりの赤ちゃんは、あらゆるものに好奇心を向ける。しかし大人になるにつれ、同じことばかりしていると、脳は使わない回路を刈り込んでいく。「世の中こんなもんか」と思ったとたんに終わると言います。

さらにアーティストとエンターテイナーの違いにも言及。自分の好きなゲームを作るだけなら『趣味の世界』。世の中を変えようとするなら、何歩か先を考え、みんなで作っていくことが大切だと語りました。

村松学長は、AI時代の学び方についても踏み込みました。「AIに使われる人間になってしまっては、絶対にダメだと思う」。AIを使いこなし、自分のやりたいことを自由に実現できる人間になってほしい。単位を取って卒業するだけの学びでは意味がないと、学長としての強いメッセージを発信しました。

これを受けて久夛良木氏が持ち出したのが、「スーパーヒューマン」という言葉でした。AIは人類の蓄積をすでに吸収している。しかしただAIを使って結果を出すだけなら、それは「使う人」か「使われる人」にすぎないとします。

これからの人間はAIとともに成長し、AIを育てられる人間を目指すべきだとします。いわゆる「スーパーヒューマン」であり、これから求められるのはそういう人材だ、と久夛良木氏は強調しました。

パネルの中では、村松学長が、久夛良木氏がよく口にする言葉として「バイネーム」にも言及しました。所属する組織ではなく、「この人」と個人名で認識される存在になること。そのためにも、自分が何をしているのかを外に向けて発信し、人とつながっていくことが重要だという考え方です。

好奇心をめぐる議論は、質疑応答でさらに深まりました。高校でDX教育に携わる参加者から、国際調査で日本の生徒の好奇心の低さが示されたことに触れ、高校生をゲームの消費者からクリエイターへと導くにはどうすればよいかという問いが投げかけられると、久夛良木氏は、好奇心を失うことは生き物として死に近づくことだと返答。

そのうえで、今の若い世代は「やったら危ないんじゃないか」といろいろなことを怖がりすぎていると指摘。周囲が「ダメだ、ダメだ」と言いがちな風土に、過剰に反応しないでほしいと語りました。

これを受けて村松学長が「本学は、失敗できる場所です」と応じ、学生が自分たちのやりたいことに取り組むための設備を備えた「工房」を設けているのだと紹介しました。野嶋センター長も、自身が取り組む超人スポーツを例に挙げます。スポーツのルールは変えてはいけないものだと思われがちだが、「人が作ったものを壊していい」と気づいた瞬間に発想が広がる。上手に壊すことができれば、良いものを作ることにつながるのです。

それに関係する「初代PlayStationのチームはなぜ恐れずに新しいことに挑めたのか」という問いには、久夛良木氏は、みんなで一緒に動いたことを挙げました。小さなチームで、一緒にやってみせる。計画書どおりに進めるのではなく、完全にアジャイルで回していく。

失敗すると進化するということは大事であり、そしてそれはAIも同じ。最初から答えを出すものではなく、人間が教え、失敗を通じて鍛えていくものだと久夛良木氏は続けました。

卒業生が語る「電通大生の強み」

第2部のテーマは「電通大卒業生が語る、電通大生の強み」。登壇したのは、SIEのGaming, Developer & Future Technology、Interaction R&Dに所属する栗原洋輔氏と、コーエーテクモゲームスのω-Forceでゲームプランナーを務める帆山遼氏。モデレーターは、コーエーネットやSCEでの勤務経験を持つ簗瀬洋平特任准教授です。

大学での学びは、実際のゲーム開発にどう生きているかという問いに、帆山氏はプランナーとして直接コードを書く立場ではないものの、プログラマーに渡す仕様書の作成やツールの活用などで、大学で学んだプログラミングの基礎的な考え方が役立っていると語りました。研究でモーションキャプチャーを扱った経験も、開発現場で飛び交う言葉を理解する助けになっているといいます。

一方、栗原氏の答えは「割と全部」とのこと。新しいコントローラーひとつを開発するにも、電気、機械、心理学など、さまざまな専門分野が関わります。海外のメンバーと仕事をするなら語学も必要。自分の専門外であっても、その背景を少し知っているだけで、コミュニケーションが取りやすくなると語りました。

そして簗瀬氏は8月に実施した「CEREC Game Jam」に言及。参加した35人の大半はゲーム制作が初めてだったものの簗瀬氏自身が驚くほど作品の完成度は高かったといいます。企業関係者からは、学生のAI活用能力の高さに驚く声もあったそうです。一方で簗瀬氏は、「AIを使ってゲームを作れば面白くなるわけではない」とも強調します。

面白いアイデアを考え、3日間という限られた時間の中で形にする。そこに、ものづくりの素養と情報科学の力が組み合わさった電通大生の強みが表れていたと振り返りました。

電通大生の特徴について、帆山氏は「好きなことを突き詰めている人が多く集まること」を挙げました。ゲームや音楽、3Dモデルを自ら作ったりする仲間がいることで、自分も「手を動かして何かを作りたい」との思いが強まったといいます。

栗原氏は、高校時代に参加したオープンキャンパスの思い出を披露しました。他大学は「キラキラしすぎていて」自分には合わないと感じた一方、電通大を訪れると、チェックのシャツに眼鏡という学生たちが歩いていた。それを見て「ああ、ここが自分のいる場所だ」と感じたと笑いを誘います。好きなことに打ち込んでも浮かず、それを邪魔されない環境が電通大にはあったと語りました。

簗瀬氏は、ゲーム産業を豊かにするには「ゲームの外」から人を呼び込むことが重要だと指摘します。ゲームは複合芸術・複合技術であり、情報系だけでなく、多様な専門家が参加できる余地がある。さまざまな研究分野の人材が集まるCERECには、その裾野を広げる役割も期待しているとのこと。

最後に中高生へのメッセージを求められると、帆山氏は「自分の心の声に耳を傾けてほしい」と語り、「CERECが設立されたときに入学したかった」と後輩をうらやむ一幕も。栗原氏は、好奇心があっても挑戦するのは怖いものだとしたうえで、その壁を何度も踏み越えてほしいと呼びかけます。大学入学も就職も、「次のフェーズのスタートでしかない」と締めくくりました。

次のブレイクスルーを生む場所へ

久夛良木氏が今回のパネルで語ったのは、ゲームが最先端技術を受け取るだけの存在ではなく、ときに技術そのものを生み出す牽引役になってきたという歴史でした。そして必要になるのは、好奇心を失わず、AIとともに成長する「スーパーヒューマン」が、「バイネーム」で認識され、集まっていくことでしょう。

CERECは、まさにそうした人材や技術が交わるための拠点として始動しました。久夛良木氏をはじめ、ゲーム産業と先端研究の双方から多様な人材が集うこの場所から、どのような技術や作品、そして次の世代のクリエイターが生まれてくるのか。今後の展開に注目したいところです。

《高村 響》

ゲームライター(難易度カジュアル) 高村 響

最近、ゲームをしながら「なんか近頃ゲームしてないな」と思うようになってきた。文学研究で博士課程まで進んだものの諸事情(ゲームのしすぎなど)でドロップアウト。中島らもとか安部公房を調べていた。近頃は「かしこそうな記事書かせてください!」と知性ない発言をよくしている。しかしアホであることは賢いことの次に良い状態かもしれない……。

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