スクウェア・エニックスが追求する、ビデオゲームのAIの未来―三宅陽一郎氏をはじめとする、AI研究の最前線 | GameBusiness.jp

スクウェア・エニックスが追求する、ビデオゲームのAIの未来―三宅陽一郎氏をはじめとする、AI研究の最前線

現在のビデオゲームで活用されるAI。NPCとのコミュニケーションやエネミーの制御に留まらず、より深みのあるゲームプレイを提供するために広く利用されています。今回のセッションでは、どんなふうに研究され、利用されているかをまとめています。

ゲーム開発 人工知能(AI)

現代のビデオゲームで、AIは重要な役割を担っています。NPCや、敵キャラクターの行動を決めることはもちろん、ゲームの難易度調整やマップの生成、さらにはカットシーンのカメラワークに至るまで、広く利用されています。

そんなAIの研究・開発の現在はどのようになっているのでしょうか?2019年5月17日、渋谷ヒカリエにて、DeNAの主宰するGame Developer’s Meetingが「ゲーム産業におけるゲームAI研究・開発の最前線~会話AI、メタAI、ユーザ感情推定~」を開催しました。

スピーカーには、日本国内でAI研究の第一人者である三宅陽一郎をはじめ、スクウェア・エニックスのテクノロジー推進部のメンバーが登壇。主にGDCやCEDECで発表した内容を踏まえたセッションが行われました。これからのAIは、ビデオゲームにどのように生かされるのでしょうか?

AI研究を文化にする取り組み



まずはじめに三宅氏が、ビデオゲームに利用されるAIの状況と、スクウェア・エニックス社内にてAI研究を行っているテクノロジー推進部について説明します。

ゲームで利用される主なAIは3つ、NPCに実装する「キャラクターAI」、位置情報を取得し、キャラクターが移動する経路を探す「ナビゲーションAI」。そしてゲーム内の状況を俯瞰し、指示を与える「メタAI」があります。それらはゲーム内のコンテンツに関係するAIであり、スクウェア・エニックスのAI研究もそこにフォーカスしていました。

ところが近年では、ゲームのコンテンツ外でAIの利用が活発になっていることを、三宅氏は指摘します。世界表現の自動生成やアニメーション技術、プロシージャル技術といった、ゲーム開発の分野でAIが利用されている現状を取り上げました。

そこでテクノロジー推進部ではAIの研究を進め、今回のようなイベントやカンファレンスで成果を発表し、ゲームタイトルに実装していくプロセスを取っているそうです。

ですが、開発の現場ではタイトルへの実装が第一になるため、AIを深く研究することがおろそかになるそうです。なので、体制を整える必要がありました。

そのため三宅氏は「ゲームAIを社内に浸透させるには、ゲームAIを会社の文化にすること」とスタンスを固めていきました。社内でAIのセミナーを毎週実地し、GDCなど海外カンファレンスでの講演を説明し、学術論文を解説したそうです。現在までに250回を重ね、AI研究のベースを作り上げました。

感情を持ったAI



現在、テクノロジー推進部が研究しているひとつに「感情を持ったキャラクターAI」があります。この研究成果を、AIエンジニアを務めるゴティエ・ボエタ氏が解説。デモを交えながら説明していきました。

ゴティエ氏は、とあるVRのデモをプレイしていたところ、本当に自分がVR空間に居ると感じていました。しかし、VR空間にいるNPCとのコミュニケーションに疑問を抱いたそうです。コントローラーのボタンによる、古典的なコミュニケーションというだけではなく、目線を合わせても、声をかけても反応しないため、まるで自分が相手にされていないように感じたそうです。


その経験を踏まえて、ゴティエ氏はNPCと自然にコミュニケーションを取れるように感情を持ったAIを実装していったそうです。ゴティエ氏は感情AIの技術デモを放映し、声をかけたり、指を指したりすることで、画面内のキャラクターが反応する様子を披露しました。

ゴティエ氏はこの映像を例に、どのようにAIが音声を認識するエンジンを構成したかを解説していきます。ゴティエ氏が目指したのは、プレイヤーが特定の発言だけでAIを動かすのではなく、自然な会話でやりとりすることでした。


そこで発言した言葉の持つ意味をタグ付けしていき、「遺伝子」にする手法を紹介。たとえば「巨大なリンゴを取って」とAIに声をかけたとすると、発言を名詞、動詞から形容詞ごとに分解し、抽象化していきます。

「取る」という動詞には、「リンゴを取る」というように物理的なものを手に入れるほかに、「休憩を取る」ように時間や空間を占める意味を持ちます。しかし単語ごとに、意味のタグ付けを手動で行うのは重労働となるため、Wordnetのデータベースを利用することで対応したと説明しました。


プレイヤーの発言をAIが解釈するなかで、実際に行動に移すためにターゲットのスコアを計算し、判別する構成を取っています。「巨大なリンゴを取って」という発言を聞いたAIは、「リンゴ」という単語からアイテムのタイムのスコアが加算され、「巨大な」という意味からサイズのスコアが加算されていきます。

AIキャラクターは発言をスコア計算するなかで、周囲にあるバナナやテーブル、リンゴなどなどと比較する中で、リンゴを見つけていきます。こうして、AIとの自然な会話を構築していると言います。


AIキャラクターを生きた存在と感じられるためにも、感情表現についても研究が進められています。ゴティエ氏はAIに実装する感情について3つの視点で説明。

ひとつめは短期的なもので、喜びや苦痛といった瞬間的な感情表現、ふたつ目は長期的な感情として、時間とともにゆっくりと変化するムード、最後に、時間の変化のない、キャラクターの性格を上げました。以上、三つが影響しあうものと語りました。

ゴティエ氏は感情表現に関わる3つの要素をモジュール化しました。まず短期的な感情のモジュールでは、あるイベントがAIキャラクターにとって良いものか、悪いものかを判定します。アクションの結果から、AIキャラクターは自尊心や羞恥心を感じたり、他人からの称賛や避難のアクションなどに反応します。

一例として、AIキャラクターがあるオブジェクトに触ったとき、強い電気を受け、苦痛を感じるアクションから感情を生成していくそうです。そのアクションからAIキャラクターはそのオブジェクトにたいしてネガティブな感情を持つようになっていくといいます。


次にムードのモジュールは、グラフを利用して変化していくことを解説。行動によって、グラフ内のポイントが変化し、喜びや嫌悪感といった方向へ移動します。それに合わせてAIキャラクターの表情が変わるデモが披露されました。

最後の性格モジュールは、とても簡単なデザインと AIキャラクターごとにスコア計算の数値を変えていくことで、活発な性格だったり、怠けものな性格などを作りだせるそうです。

たとえば怠けものな性格を作る場合、さっきの「巨大なリンゴを取って」という指示のスコア計算で、「近さ」スコアを設定しなおすことで、あまり積極的に探さず、自分に近いリンゴを取ってくるような形で個性を作れるといいます。

ゴティエ氏は今後の展望として、音声入力はまだ完璧な技術ではないことを挙げつつも、複数のAIキャラクターがいれば、関係性が生まれて面白くなるかもしれない、とまとめました。

AIは万能な魔法ではない。ゲームデザイナーもエンジニアも学ぶべきこと



次にゲーム全体を俯瞰し、調整を行う「メタAI」をどのように利用するかを、水野勇太氏が説明します。水野氏はAIテクニカルゲームデザイナーという立場からセッションをまとめました。

AIは道具であり、魔法ではありません。」と水野氏は強調します。メタAIを利用するためには、ゲームデザイナーとエンジニア、お互いの仕事を知っておく必要があるといいます。

一体どういうことでしょうか?メタAIは『Left 4 Dead』シリーズのAIディレクターや、『Warframe』などに利用されてきました。しかしメタAIは柔軟で、なんでもコントロールできるゆえに、実際のところ、何を任せるべきなのかわからなくなることがあるといいます。

水野氏はそこで、ゲームデザイナーの米光一成氏が提唱した「ルイージ主義」を例に挙げ、その問題に取り組んだそうです。これは、「ルール」と「インタラクション」、そして「ジレンマ」の頭文字を取った造語です。

面白いゲームには、必ずルールが設定されており、プレイヤーが手触りを楽しめ、実感できるインタラクションがあり、どうやったら勝てるか、攻略できるかといったジレンマがあります。メタAIを生かすために、たとえばAIのエンジニアはそうしたゲームデザインを知っておくべきだ、と解説します。


今はエンジニアが自分の仕事だけではなく、ゲームデザインについても語りますし、ゲームエンジンの発達により、ゲームデザイナーがデータを編集する時代だと水野氏は語ります。ゲームデザイナーとエンジニアの境界が薄れており、お互いの職能を理解する意味を説きました。

面白くないゲームにメタAIを使うことで、魔法のように面白くしてくれるわけではなく、根本的な原因を探るためにはゲームデザインを考えるべきで、メタAIを理解するためにエンジニアリングを知る必要があり、両者の職能を理解することで、はじめてメタAIを上手く活用できるとまとめました。

ゲームプレイ中の感情を操作するAI



最後に、AIリサーチャーの里井大輝氏が「2次元感情マップに基づくメタAI」について解説します。水野氏のメタAIについての利用を引き継ぐ形で、ゲームプレイ中の感情をコントロールするAIのデザインについて解説されました。

里井氏は、プレイヤーのゲームプレイを感情がどう動かすかのためにメタAIを利用したいと語りました。そのために、ゲーム要素と感情の動かし方の対応関係はどういうことかを考えたいそうです。

先行事例として『Left 4 Dead』や『Warframe』のメタAIについて言及します。それらはプレイヤーの「緊張度」に合わせて、敵の増減などが調整される仕様となっていました。


しかしメタAIが扱うものが緊張度だけでは、感情の種類が少ないと里井氏は指摘します。そこで感情を広く取り扱うために提案したのが、2次元感情マップです。これは認知心理学の感情モデルを参考に、ゲームプレイ中に感情のスコアが変動することを現しています。

2次元感情マップの利点は、様々な感情をゲームプレイの状況と紐づけられることです。たとえば敵に追い詰められてナーバスになったり、逆に勝つことで興奮したり、リラックスしたりするなど、多様な感情の変化をフォローします。このマップを利用することで、ゲームデザイナーやエンジニアがメタAIを設計しやすくなると里井氏は説明します。


2次元感情マップの具体的な利用は、まずグラフ上にプレイヤーの感情の基本位置と、ゲームで作りたい感情のゴールの位置を設定することです。たとえば格闘ゲームをプレイしているとして、プレイヤーが相手との攻防で、感情のグラフがどう動くかを計算し、目的の感情を導いていく手法を説明しました。


さらにゲームによって、2次元感情マップで設定される感情のゴールは異なります。里井氏は格闘ゲームとシューター、カードゲームを例に挙げ、それぞれがどのように感情の変化に関わるかを比較しました。

里井氏は今後の展望として、2次元感情マップは、バトルバランスの調整だけではなく多くの分野で応用可能だと語ります。プレイヤーからある感情を生み出すために、メタAIはキャラクター同士の会話内容や演出の変化のほか、音楽の変化やクエストの生成なども行っていくそうです。

今回のセッションでは、AIがビデオゲームで使用される多様さを確認できました。NPCとより自然なコミュニケーションできるAIを掘り下げることはもちろん、巨大化したゲーム開発を制御していくことや、プレイヤーの感情に合わせる体験に利用されるなど、今後さらにAIは開発現場で活用されることがわかる内容となっていました。
《葛西 祝》

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