ゲーム業界に点在する“Blind Spot”と、ネクソンが考えるAI活用方法―「NDC18」キーノートレポ 2ページ目 | GameBusiness.jp

ゲーム業界に点在する“Blind Spot”と、ネクソンが考えるAI活用方法―「NDC18」キーノートレポ

NDC18にて行われた、ネクソン代表取締役社長オーウェン・マホニー氏のウェルカムスピーチ及び、副社長カン・デヒョン氏のキーノートをレポートします。

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◆「楽しみへ向けた航海」―カン・デヒョン氏キーノート



オーウェン氏のスピーチの後、カン・デヒョン氏によるキーノートが行われました。テーマは「楽しみへ向けた航海」。ネクソンがデータやAIに挑戦する方法や、その過程で得たヒントなどを語ります。

カン氏はまず、「楽しみとはどういうものなのか」という問いについて語ります。ゲームが誕生してから長い時間が経つにもかかわらず、この問いに対する明確な答えは見つかっていません。


これに関して、カン氏は、ネット上で印象に残る書き込みをみつけます。「“ゲームをプレイする”というのは、ただ一試合遊ぶのではなく、適度に緊張感のある戦いの中で存在感を出し、結果勝利する」ひとえにゲームをプレイすると言っても、この様な意味合いも含まれているのです。この書き込みを見た氏は、楽しみの本質には、ゲームのルールやコンテンツ以外にも、何か他のことがあるのではないか、と疑うようになったとのことです。では、このような楽しみ・満足感はどこからきているのか?


その答えを見つけるため、ネクソンではPCゲームユーザーに対して満足度調査を行いました。調査はゲームプレイ後に表示されるため、同じユーザーの回答が複数集まります。結果、同じユーザーが同じゲームをやっていても、満足度には大きな振れ幅があることがわかりました。勝つのか負けるのか、特別な出来事があったか…ユーザーがその時ゲーム内で体験したことによって、満足度は都度大きく変わり、それはネクソンが想像していたよりも大きなものでした。

これは、ユーザー間で自然発生的に起こるものであり、開発側でのコントロールはできない―そう手放しで考えてはいるのではないか?依然として、多くのデベロッパーは、ゲーム開発=かっこいいゲームのコア(ルールやグラフィック等)を作ることと考え込んでいるのではないかと指摘。視野を広げ、新たな視点でゲームを見た時、最大限の楽しみを引き出せるようになるのではないかと語りました。

カン氏は、ゲームが好きでこの業界に入ったと言います。そして過去に好きだったゲームを再現したかったとも。しかし、結果として、その様な思考がゲームの幅を狭めてしまった、過去のロマンをユーザーに押し付けてしまったと語ります。果たして、自分の考えが未来志向なのか、今のユーザーとマッチしているのか、それとも過去を追いかけているのか…今一度振り返る必要があるのではないかと述べました。

◆業界に点在する“Blind Spot”



カン氏は、ゲーム業界・産業には、“Blind Spot(盲点、死角)”がまだまだあると続けます。なぜ、このような盲点が生まれてしまうのかについて、「専門家が集まるが故に、死角ができてしまう」とし、それを解消していかなければならないと語ります。そして、この状態が加速してしまうと、今現在のユーザーは満足させられても、長い目で見た時に市場は縮小へ向かってしまうとも考えているようです。この問題を解決していくにあたり、ネクソンは、視野を広げ状況を客観的に解釈するためのツールとして、データとAIを活用しているとのことです。


人間とAIの大きな違いとして「創意やクリエイティビティの有無」が挙げられますが、カン氏はこれに否定的な模様。というのも、カン氏はクリエイティビティを「物と物をつなげる目線」と解釈しており、この点においてAIやビッグデータは、ある意味最もクリエイティブなツールだと考えているようです。発見できなかった楽しみ―つまりBlind Spotを見つける上において、大変有用なツールであるとしています。


あるユーザーが新規にFPSを始めるも、すぐに辞めてしまうということがあったといいます。これについて様々な仮説―操作がわからない、UIが複雑、ゲームが難しい等―を立て、○×で検証してみますが、仮説の定義立てがとても難しい。どうしても△の答えが出てしまい、結果が曖昧になってしまうのです。カン氏は、この仮説に含まれていない、発見すらできない要素がかならずあり、それが重要だと語ります。


そして、この発見できない要素の分析にディープラーニングを使用してみたところ、新規ユーザーが体験する「負の要素」として頻繁なサーバー移動というものが見えてきました。一見、負の要素には見えませんが、よく調べてみると、ランダムなサーバーに接続された際、サーバーごとのローカルなルールがわからずに叩かれてしまうという体験をしていたことがわかりました。これを人の手で見つけるのは難しかったのではないかとカン氏は語ります。

この様な問題を些細なものとして扱うのは簡単ですが、例えばMMORPGにて似た思考を持つユーザーを同じサーバーへ誘導し、より前向きなプレイ体験をさせるなど、解釈を拡げて開発に活かすこともできると言います。また、意見を言う前に離脱してしまうような、ゲームに愛着を持つ前の新規ユーザーが抱える表面化しづらい問題も、拾うことができます。ネクソンは、この様な問題をすばやく発見できる汎用的なツールを全てのゲームに適用しようと考えているようです。

◆ユーザーの上達スピードは、どこでピークを迎えるのか



ユーザーがおもしろさを感じる重要なポイントのひとつに、「実力の向上」があります。これについて、カン氏がデータを解析してみたところ、ゲームの複雑さにもよりますが、上手いユーザーは2,3時間ほどで上達スピードがピークに達し、その後はゆっくりと上がっていくことがわかりました。ある意味これは「がっかりな結果」であるとカン氏は語ります。上達スピードが停滞すると、おもしろさを感じにくくなり、離脱してしまうからです。

しかし中には、上達スピードはゆっくりながら、地道に実力を上げているユーザーもいます。これを「ユーザーの実力の問題」と早急に解釈してしまうのは、良いことではありません。スピーディにピークに達するユーザーと、ゆっくり上がっていくユーザーの決定的な違いとは何なのか。調べてみると、ユーザーに対する“フィードバック”があったかどうか、という結論に至りました。フィードバックとは、フレンドのアドバイスや、攻略動画を見て勉強するといったことで、地道に上達するユーザーにはこのフィードバックを受けている傾向が見られたそうです。


つまり、適切なフィードバックシステムがあれば、ほとんどのユーザーがおもしろさを感じながら、地道に上達していけるということです。これを受け、ネクソンではAIを基盤としたフィードバックシステムの開発に取り掛かっているとのことです。

◆エンゲージメントの低いゲームプレイにも発展の余地はあるか


ゲーム開発者は、緊迫感・緊張感のあるゲームを「おもしろい」としてゲームを作っていると、カン氏は語ります。カン氏自身もそう思っていたようですが、果たして“緊迫感のあるプレイ”がおもしろさにつながるのか。改めて検証する必要があると言います。


カン氏が緊迫感のあるプレイを「勝率50%のゲーム」と前提し、様々な事例のもとで検証をしたところ、とあるゲームで勝率が50%だったユーザーにゲームの評価を聞くと、「おもしろくなかった」。ゲームはフェアだったかと聞くと「アンフェアだった」と答えました。一方、同じゲームで勝率75~80%を記録したユーザーに同じ質問をすると、「非常におもしろく、フェアだった」答えました。


第3者から見たフェア・アンフェアと、ユーザー自身から見たそれは違うものだとカン氏は語ります。理論的・統計的に見て、緊迫感のあるプレイだったから、ユーザーは満足するべきだ―そう考えるのがベストなのか。深く考える必要があります。

カン氏はまた、研究過程なので断定はできないとしながらも、エンゲージメントと離脱率に明確な相関関係が現れなかったと言います。一般的な考えでは、手に汗握るプレイがおもしろいとされていますが、緊迫感のあるプレイをずっと続けていると疲れてしまいます。緊迫感のあるプレイ、ある程度ルーズなプレイ、その流れを考えることも必要であり、ユーザーの満足度にも影響してきます。ルーズなプレイを否定的に考えず、もう少し前向きに頭を悩ましてみるのも必要です。カン氏はそう語ります。

では、ルーズなプレイとは何なのか。カン氏は反射的に「オート戦闘」を思い浮かべたそうです。一時、論争にもなったというこのシステム。カン氏自身も抵抗感があったとのことですが、改めて考える切っ掛けになったと言います。これはゲームなのか―そう思っていたカン氏ですが、振り返ってみると、枠に囚われた考えだったと気づきます。

例えば、YouTuberにドネーションをする熱心な視聴者が5%、その他の一般的な視聴者が95%と言われています。これをゲームに置き換えてみると、もっとたくさんのユーザーにゲームをプレイしてもらうための余地は残っているんじゃないか、「オート戦闘」に代表されるエンゲージメントの低いゲームプレイも、まだまだ発展できるのではないか、そう考えたと言います。特に、エンゲージメントの低いプレイには、AIの介入できる部分がたくさんあるのではないかと。

「何事にも正しい方法というのはなく、“ゲームはこうあるべきだ”という概念は全て壊して、もっとオープンな気持ちで考えてみては」カン氏はそう語りました。

◆実用的なAIシステムを目指して



Blind Spotがなぜ発生するのか。それは人が無意識の内に“偏見”を持っているからです。では、偏見のない目線で物事を見るにはどうすればいいのか。そこで役立つのがデータとAIであり、それを活用することによって、もっと自由で柔軟な思考を持つことができるようになります。些細なことからもAIによりヒントを得て、問題を乗り越えていく。その様なAI基盤システムを作り、将来的にはネクソンのゲーム全てがその恩恵を享受できるような環境を作っていくことが大きな目的であると言います。

一方、AIがここまでトレンドになっていることについては、個人的な思いと前置きしつつも「あまり喜ばしくはない」と語ります。あまりに有名になりすぎて、無理やり成長しているようにも見えてしまう、と。


「ネクソンには実用主義の文化があります。技術を誇示し、技術に埋もれるのではなく、ゲームに決定的な影響を与えるような、本当に実用的なものを作ることに集中していきたい。流行はどうであれ、ネクソンは行くべき道を行きます。ゲームの領域を制限せず、様々な形で探求していき、その結果をネクソン内のすべてのゲームが享受できるようにしていきたい」カン氏は最後にそう述べ、キーノートを締めくくりました。

取材協力:Nexon
《編集部》

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