【CEDEC 2017】日本とベトナムのゲーム共同開発の要は「チームとなること」―GIANTYセッションレポート | GameBusiness.jp

【CEDEC 2017】日本とベトナムのゲーム共同開発の要は「チームとなること」―GIANTYセッションレポート

9月1日まで神奈川県のパシフィコ横浜で開催されているCEDEC 2017にて、『GOKEN』を開発するGIANTYは「日本とベトナムとで開発&PRしたSteam向けゲームの「反省と未来」」セッションを開催しました。

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9月1日まで神奈川県のパシフィコ横浜で開催されていた「CEDEC 2017」にて、『GOKEN』を開発するGIANTYは「日本とベトナムとで開発&PRしたSteam向けゲームの「反省と未来」」セッションを開催しました。

ディレクターの三原龍磨氏
このセッションは、セッション名の通り日本とベトナムとの共同開発に関したもので、同社が7月末にSteamにて早期アクセス版をリリースした『GOKEN』をベースに進行。ディレクターの三原龍磨氏が登壇し、“ベトナムとの開発”と“SteamでのPR”の2つの議題が進みます。

■日本とベトナムの共同開発に至った経緯


GIANTYが開発する『GOKEN』は、ディレクターの三原龍磨氏が「SFCや初代PSで遊んだ数多くの日本のRPGの出来の良さを世界に向けて発信して行きたい」「ソーシャルゲームではなくコンシューマー型のRPGを作りたい」という2つの想いから立ち上げたタイトルです。GIANTYはソーシャルゲームを主に開発していた会社で、本格的なPC向けのRPGは本作が初となります。また、同氏がGIANTYへ入社してから初めて立ち上げるプロジェクトでもあります。


三原氏は、ベトナムという自身が知らない国の人たちと共同開発をすることに対して不安を抱えていました。しかし、プロジェクトが軌道に乗ることによって「ゲーム開発によるコストなどの問題解決にアプローチできるのではないか?」という思いもあったことからプロジェクトを進めていたようです。新興国での共同開発が確立されれば、日本のエンジニアを用いなくても、外国のエンジニアでも同じレベルのものが制作できるようになり、問題解決の未来へ繋がるのではないかと考えているようです。


このプロジェクトの成り立ちと意義を説明した後に、『GOKEN』を紹介するトレイラーを披露しました。

YouTube 動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=g0V0cwqM9k0

『GOKEN』は、キャラクターは3D、背景は2Dで構成されており『聖剣伝説』や『ゼルダの伝説』をイメージ。またValveが運営しているPC向けゲーム配信プラットフォームSteamで、早期アクセスとしてリリースされています。



開発体制としては、日本側がプロデューサーとディレクター兼プランナー、そしてプランナーの専任担当3人体制です。ベトナム側は、開発チームとデザインチームの2~3人のコアメンバーで構成されていますが、各技術者は開発で最も力が発揮できるフェーズに到達した時に参加するというフレキシブル体制で構成されています。トータルとしては、開発期間10ヶ月の間に35人が関わっていたようです。

■ゲーム開発におけるベトナムという国とは?


デベロッパーマネージャーのNguyen Anh Bang氏
ゲームプランナー兼シナリオライターの中村蒼氏
ここでベトナム側のデベロッパーマネージャーのNguyen Anh Bang氏が登壇しました。同氏は、日本で7年間エンジニアとして仕事をした経験を持つ人物で、日本におけるビジネスや仕事の進め方などを学んだようです。さらに、ゲームプランナー兼シナリオライターの中村蒼氏も登壇しました。




ここで1つめの項目「ベトナムにおけるゲーム開発の可能性」に入りました。ベトナムは、北部に首都ハノイと南部にホーチミン市(旧名: サイゴン)がある国で、人口は9500万人、平均年齢は約29歳です。言語はベトナム語が基本で、通貨はドン。ITに携わる殆どの人は英語の読み書きが堪能です。また経済成長率は平均6%を維持しており、2016年のGDPは2026億ドルです(GDPはタイやフィリピンより低いが、東南アジアでの成長率はフィリピンやミャンマーに並ぶ高い位置にある)。



『GOKEN』開発におけるベトナムチームのIT技術者の人月単価は、平均で約35万円です。日本人と比較すると約1/2から1/3ほどのコストダウンを図った上で開発を進められます。前述の通り、平均年齢は約29歳で、20歳から35歳ぐらいまでがコアな年齢層となります。さらに国がIT政策を支援し、ゲームだけではない情報通信技術大国を目指しており、2020年度のGDP比率でIT産業の比率約10%台を目標としています。また、ゲーム産業に関しては、日本円に換算して243億8002万円の市場規模で、前年比31.7%増加。2020年で約2倍の規模に成長すると予想しています。




三原氏がベトナムに行って感じた事として、ベトナム人は既存のものを改良していくことではなく、新しい技術を貪欲に吸収して挑戦していく事に驚いたようです。またゲームが好きで毎日の様にプレイし、プレイ感想を上げ開発フェーズに反映していくことや、自分達が面白いゲームをもっと作りたいというハングリー精神や良い影響を与えあう好循環があると語ります。


■ゲーム開発における日本とベトナムの価値観と考え方の違い





次に中村氏が進行を務める第2部の「日本-ベトナムでの開発における「反省と改善」」が始まりました。これは、デモンストレーションを行いながらベトナムとの共同開発で何が問題であったかを紹介するものです。日本で「これをやるのは当たり前だよね」という考えが当たり前では通用しないことを筆頭に、開発で直面した“コミュニケーション”と“価値観”、そして“スケジュール”の問題が披露されました。


「ゲーム序盤のMAP改善」の例としては、チュートリアルに当たるゾーン1の細かな改善点を挙げた仕様書をベトナムチームへ送信したところ、“なぜ序盤の改善箇所が多いのか?”という疑問がベトナム側で発生してしまったことです。これは、日本側で無意識に共有していた“ゲーム序盤は特に重要”という認識や考え方を、ベトナム側で共有できていなかったために起きてしまったことでした。

また、“序盤が重要”という考え方がベトナム側に無いことに日本側が気づいたのは、もう少しベトナム側とのやり取りが進んでからです。日本側が無意識に持っていた“序盤が大事”という考えが、そもそもベトナム側で存在していなかったことに気づけなかったと中村氏は語ります。さらに、解決策として“何のために改善する必要があるのか?”という理由を明確に伝えることが必要というコミュニケーション事例だったと話しました。



なおSteamには、「プレイ時間が2時間未満。購入から14日以内であれば返金を受け付ける」というGoogle PlayやAppStoreと似たような返金ルールが設けられているため、“序盤が重要”というのはプレイヤーのモチベーションを保つだけでなく売上にも関わっていると三原氏が補足します。


次は「リリースが迫った時期のクオリティアップ対応」です。リリースへの日数が迫っていた時に、日本側が“バグを解決しクオリティアップをして欲しい”とベトナム側へキューを出したことがあったそうです。しかし、3日後に返ってきたものは、バグが解決されておらず、マップに風エフェクトや小鳥オブジェクトが追加で配置され、視覚的に豪華になるという“クオリティアップ“が施されていたものでした。



このことから中村氏は“クオリティアップ”という日本側の表現が、ベトナム側で“バグを解決する”という意味に結びついてなかった事に気づいたそうです。考え方の違いとして、日本側は“BADをGOODに”、ベトナム側は“GOODをBetter”にするという意味の差異があったと話しました。


最後に「日本とベトナムとのスケジュール概念が異なっていた」です。新機能の納期に関するやり取りで、日本側が“5月30日までに新機能の完成を目指して欲しい”とベトナム側へ確認をとったものの、ベトナム側では“新機能だけ5月30日までに完成”という意味で捉えられていたため、新機能は実装されていたもののバグ処理や細かな調整までは行われていなかったと語りました。この問題は、次のやり取りの際“納期当日までに、実装と改善、そして調整が含まれていたものにして欲しい”と説明し、今後は日本とベトナム両方でテストし改修を進めていくことで解決したそうです。




三原氏は、これだけではなく様々な問題があったと語るものの、一番大変だったのはスケジュール管理だと述べます。ベトナムでは「その日までに出来れば良い」と考えられていたようですが、日本では「何かあったときの為の予備期間を設ける」という考え方のズレがあったため管理は特に苦労したと話しました。



他にも考え方の違いではありませんが、三原氏は発注者と受注者の関係から一歩踏み出し、リスクを承知でベトナム側のクリエイターに開発を任せてみたと話します。そうした「自ら考え、行動できる」環境を整備したところ、日本側が想像したよりもクオリティが高いものが出来上がったと語ります。三原氏は、ただのオフショア開発よりもチームとして開発することを心がけ、謙虚と尊敬、そして信頼というコミュニケーションに必要なものを大切にすると良いものが出来上がると述べました。

■初めてのSteam配信で行ったこと






ここではBang氏がSteam配信に向けた取り組みについて語りました。まず取り組んだことは「E3」への出展です。E3では、中小企業でもブース出展ができることに加え、ゲームリテラシーの高いユーザーとのコミュニケーション、そして日本だけでは得られない世界中の企業や人との繋がりが得られました。さらに世界のゲームに関する最新情報と、世界最大規模のゲーム見本市に出展した企業というステータスも手に入りました。次にValve本社へ向かい、Steamについての貴重な話や、『GOKEN』リリースに関するアドバイスを貰ったようです。ValveがSteamで大切にしていることは「お客様と企業のコミュニケーション」、つまりは対話を大切にしています。




Steamのコミュニティー運営は、英語/日本語は勿論のこと中国語など多くの言語に対応しています。Auto Rating機能があり、“コミュニティーが活発であるか”、“対応は速いか”、“ユーザーと企業がコミュニケーションをとっているか”で決まります。そのため、Steamトップページにバナーを掲載し、ニュースの更新頻度を上げ注目を増やすと共に認知度を上げました。本作は早期アクセス(アーリーアクセス)で発売されているタイトルであるため、直接購入よりウィッシュリストへ追加されることが多いようです。これは、ウィッシュリストから購入へのきっかけを多く提供できることへ繋がります。




他にもSteamには有料広告枠が無く、1タイトルに付き5回限定で使用できる「露出ラウンド」が存在しています。30000View/1setで、最長30日間の掲載が保証され、クリック数か期間掲載の終了条件を満たすまで「最新のアップデート」にコンテンツが掲載されます。



早期アクセスの利点は、ゲーム本編を正式リリースする前にユーザーの意見をプロダクトに反映させられることです。さらに、ユーザーから開発費を頂きながらクラウドファンディングのようにプロダクト運営もできます。しかしながら、早期アクセスのジレンマとして現時点での『GOKEN』は販売数よりもウィッシュリスト登録者数が伸びているという状況です。



これはかつて運営されていたシステム「Steam Greenlight」の問題点から始まるものです。Greenlightは、登録されたゲームに対して、ユーザーがGood/Badの二択から投票することで正式リリースを促すことができる制度です。ユーザー間の投票だけでゲームリリース可否を決められることができましたが(逆にユーザーから注目を集めなければリリースもできなかった)、問題点もあり、該当タイトル購入後に企画倒れや企業の倒産などで今後のアップデートが望めなくなったタイトルや、詐欺に近いものまで存在していました(早期アクセスについても同様で、2年以上完成に向かっていないタイトルが現在でも存在する)。






そのため、現在ではGreenlightに変わる制度としてユーザーではなくValveが審査を行う「Steam Direct」が施行されています。これは、企画段階で不透明なゲームや、ValveがNGと判断したゲームがリリース出来なくなるという問題があるものの、ユーザーから見ればどちらも変わりません。

■日越共同開発のこれから


最後に三原氏は、これからの未来として「“賃金が安く、コストがかからないから”という考えだけでは恐らく上手く行かない」と指摘します。コストやクオリティ、そしてスピードを日本でマネージメントしていくことが重要で、そこを大事にしなければ素晴らしい発展は望めないのではないかとも語ります。

また、アウトソーシングではなくチームとして関わっていくことが重要と繰り返します。IT人口と知識レベルは高い位置にあり、理解も速いため、上手く組み合わせることが出来ればより多くのタイトルを国内外でリリースできるのではないかと述べました。

同氏は、日本ではAAAタイトルしか売れないことや、ソーシャルゲームでもIPものしかヒットしないことを懸念しており、新しいことにチャレンジしていくことではどのようにしていけばいいかと、我々も考えなければならないとしています。クオリティさえ日本人が担保し、チームとして一緒に開発が出来れば、AAAタイトルでもない中小企業でもゲーム開発ができるのではないかと述べて終了しました。

《G.Suzuki》

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