
ネクソンは2026年3月31日、東京・渋谷の「渋谷ストリームホール」にて投資家向けイベント「ネクソン キャピタル・マーケット・ブリーフィング」を開催しました。
本イベントでは、CEOのイ・ジョンホン氏、CFOの植村士朗氏、取締役兼会長でEmbark Studios(『ARC Raiders』『THE FINALS』)創業者・代表のパトリック・ソダーランド氏らが登壇し、業績やIP戦略、パイプライン、資本政策について説明しました。あわせて、主要IPの多角化とデータベース戦略を軸に、2026年を収益性改善とグローバル成長の転換点と位置付ける方針が示されました。

今回のブリーフィングは投資家向けに開催されたイベントであるものの、ネクソンIPのアイテムが手に入る“会場限定リアルガチャ”や『ARC Raiders』グッズの配布など、ゲーム企業としてのエンターテインメント性を感じられる意匠が凝らされていました。

ブリーフィングが始まるまでの場内BGMは『ARC Raiders』メニュー画面で流れている楽曲。海外から訪れた来場者からも「“Don't Shoot"のヤツだね」と談笑する声が聞こえるほど、こだわられた演出でした。
『ARC Raiders』大ヒットの立役者が見る戦略的ビジョン

キャピタルブリーフィングの冒頭では、Embarks Studios創業者兼CEOのパトリック・ソダーランド氏が登壇。「フランチャイズ」「プレイヤーコミュニティ」「人材」「資本力」が鍵となる、ネクソンの次なる戦略ビジョンについて述べました。
パトリック氏は、近年のゲーム業界は開発コストの増大やプレイヤー嗜好の多様化、技術の急速な進歩など、複数の要因が重なり合うことで大きな変化の局面を迎えていると指摘しました。

また、Embark Studiosで培われた少人数で効率的に開発を進める手法や、新しい技術を積極的に試していく文化をネクソングループ内で共有し、開発プロセスの改善と意思決定のスピード向上につなげていきたいと述べました。こうした取り組みを通じて、フランチャイズを起点とした成長戦略をより実効性のあるものにしていく方針を示したかたちです。
強力なIPを活用し、多角的にユーザーの心を掴むグロースプランニング

続いてネクソンの代表取締役社長であるイ・ジョンホン氏が登壇し、「ネクソンの強みはプレイヤーとの関係を継続的に築いていける能力にある」と強調しました。 これは、単にヒットタイトルを出すだけでなく「長期にわたってプレイヤーとつながり続けること」こそがIPビジネスの核心だという立場を示したものです。

ここで言う「プレイヤーとの関係を継続する力」は、いわゆるDAUや売上といった短期指標だけでは測れないものです。 22年続く『メイプルストーリー』をはじめとする主要タイトルは、一時的に売上が上下しつつも、長いスパンで見ればプレイヤーが戻ってきたり、新たな世代が参加したりする「循環」を起こせているフランチャイズです。
イ氏は、コアユーザーの活性化、休眠ユーザーの復帰、新規ユーザーの獲得という三つの目的ごとに、異なる体験設計を用意していると説明しました。 PC版『メイプルストーリー』では大型アップデートやオフラインイベントでコア層との接点を深め、UGCプラットフォーム『メイプルストーリーワールド』で“昔の思い出にもう一度触れたい”ユーザーを受け止め、短いプレイ時間と分かりやすい成長サイクルを特徴とする新作で“従来のPC/モバイル版に触れてこなかった若年層”を取り込むことを狙っています。
こうした戦略は『アラド戦記』や『マビノギ』にも適用されます。『アラド戦記』ではゲーム内報酬のループを抜本的に見直しつつ、PC版の大型アップデートや新モードでベテランプレイヤー達の熱量を保ちつつ、『The First Berserker: Khazan』などに代表される複数タイトルでプレイヤー層の裾野を広げていきます。『マビノギ』においても、モバイル版の海外展開や『Vindictus: Defying Fate』といった新プロジェクトを通じて、「昔遊んでいた人がもう一度戻ってこられる場所」としてのフランチャイズ再構築を目指しています。
ファイナンスフレームワークと2026年の成長戦略

続いてネクソン代表取締役兼CFOの植村士郎氏は、ファイナンスフレームワークと2026年の財務戦略、株主還元方針について説明しました。

まず、2025年度は通期売上収益が4,751億円と過去最高水準を更新した一方で、営業利益は横ばいとなり、ロイヤリティ費用やプラットフォーム手数料、人件費、クラウドコストなどの増加が利益率を圧迫していることを説明。2026年度は収益性の改善を最優先課題と位置付ける考えを示しました。
その具体策として、厳格な採用管理によって人件費の伸びを抑制しつつ、変動費の中心となるクラウドやロイヤリティ費用を精査し、売上成長がそのまま利益成長につながるコスト構造への転換を目指すと説明しました。

『ARC Raiders』『メイプルストーリー』『アラド戦記』という3大フランチャイズの合計売上収益は、2025年において3,315億円。2026年には各フランチャイズの成長に加えて、ワールドカップイヤー効果が期待される『EA SPORTS FC MOBILE』の活性化も踏まえたうえで「前年比で1ケタの成長」を見込んでいます。
株主還元面では、潤沢な現預金を背景に、2026年の年間配当を1株あたり60円とする方針を示したほか、2025年は配当と自己株式取得を合わせた株主還元額が1,300億円規模、還元性向として9割台になる見通しであると説明しました。さらに、ROEについては10%以上の水準を維持しつつ、中長期的には15%以上を目標とする姿勢を改めて示し、成長投資と株主還元のバランスを取りながら、必要に応じて追加還元の実施も検討していくと述べました。

クロージングセッションで再び登壇したパトリック氏は、ゲーム業界がいま大きな変化に直面しているとしたうえで、開発コストの増大やプレイヤー嗜好の多様化など、スタジオ運営を取り巻く課題が厳しさを増している現状に触れました。その中でも、長期的に成功する企業は限られるとし、ネクソンはフランチャイズ、プレイヤーコミュニティ、人材という要素を備えることで持続的な成長を実現していくと述べました。
また、Embark Studiosでの経験を踏まえ、少人数かつ高い開発生産性を実現する手法や、AIを活用した新しい開発プロセスをネクソングループ全体に共有していく方針を説明しました。これにより、大規模な組織であっても素早く試行錯誤し、プレイヤーコミュニティと連携しながらIPを育てていく体制を整えていくと語り、今回のキャピタル・マーケット・ブリーフィングを締めくくりました。
質疑応答のキーワードは「AI技術」
投資家から投げかけられた「AI技術の利用」について質疑では、パトリック氏は「AIによってクリエイターの活躍できる領域が変化する」「小規模チームが大きなゲームを作れるようになる」と述べ、いち企業の目線としてAI技術に期待しつつも、消費者に誤解させないようなアプローチも必要だと回答しました。
『ARC Raiders』は実際のところ開発期間やコストを想定以上に必要としていたとしながらも、今後は効率性が改善されることを期待しています。加えて「ゲームにかかわるクリエイティビティは数値化できない」と断じながら、大きな変革と機会の訪れであることを主張しました。

イ氏は、「ピクセルアートのゲームでこれだけ収益規模の大きなIP」は『メイプルストーリー』の他にないと述べ、AI技術が大きく寄与したことに加えてクリエイターたちの工程も「これまでより、さらにクリエイティブな作業に取り組めるように変化している」と話しました。


植村氏はゲームIPへのコスト投資について「現状のリソースを更に活かしながら、拡大してきたパイプラインの規模を見直し、より利益を上げていく」とコメント。イ氏も人員の再配置による効率化について述べながら、今後の見通しがポジティブになることを説明しました。
投資家に向けては長期的な成長ストーリーと戦略のビジョンを示しつつ、同時にIPとブランドの魅力を体験として伝える場としての性格も強まった今回のブリーフィング。『ARC Raiders』という新規IPの大ヒット、そして『メイプルストーリー』『アラド戦記』『マビノギ』といった“老舗IP”の立体的とも言える次の一手、そしてワールドカップ効果に大きな期待を持てる『FC MOBILE』と、2026年においても強固な展開が期待できそうです。








