2023年の日本eスポーツシーンに何が起きたのか―eスポーツジャーナリストが見た現在地と展望 | GameBusiness.jp

2023年の日本eスポーツシーンに何が起きたのか―eスポーツジャーナリストが見た現在地と展望

日本国内におけるeスポーツ市場は右肩上がりの成長を続けており、2025年には市場規模が210億円を超えると予測されています。eスポーツジャーナリストとして現場を取材し続けている岡安学氏が、2023年のeスポーツシーンを振り返るとともに、2024年の展望を6つの観点で解説します。

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2023年の日本eスポーツシーンに何が起きたのか―eスポーツジャーナリストが見た現在地と展望
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日本国内におけるeスポーツ市場は右肩上がりの成長を続けており、2025年には市場規模が210億円を超えると予測されています。eスポーツジャーナリストとして現場を取材し続けている岡安学氏が、2023年のeスポーツシーンを振り返るとともに、2024年の展望を6つの観点で解説します。


「推し活」文化がオフラインイベントを盛り上げる

コロナ禍による様々な制限が取り払われたことは、日本のeスポーツ界隈にも大きな影響を与えました。オフラインイベントが解禁され、有観客での大会が多く開催されるようになりました。2022年にも『VALORANT』の公式大会「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan」がさいたまスーパーアリーナで開催され、2日で2万6,000人もの観客を集めましたが、声出しの禁止、飲食ブースの出店禁止など、オフラインイベントとしては制限がかかったものでした。2023年はこれらが一掃され、コロナ禍以前の基準でイベントが開催されたわけです。

海外でも多くの大会が開催され、多くの日本チームが参加しています。それに合わせて、世界に挑戦しているチームがパブリックビューイングを行い、ファンが集って応援するという文化も形成されました。まさに「推し活」文化が花盛りの日本において、オフラインで応援する機会は、本当に待ち望まれていたことだと思われます。

2024年もパブリックビューイングはより活性化すると思われ、チームやスポンサーとファンがエンゲージする機会になっていきますし、eスポーツではまだまだ不透明だったエコシステムの解像度が上がることが期待できます。チームにとっては収入の安定化、スポンサーにとっては消費者との繋がりが明確に感じ取れるようになるのです。

英国風パブ HUBで行われた『VALORANT』の大会のパブリックビューイング

タクティカルシューターと格ゲーの復活

日本におけるeスポーツの競技シーンでは、特に2022年から急激に人気が上昇した『VALORANT』と、7年ぶりの新作ナンバリングタイトルとなる『ストリートファイター6(以下、スト6)』の大躍進が目立ちました。『VALORANT』のような「タクティカルシューター」はシューティングゲームとして新しいジャンルに見える人も多いと思われますが、実は一度流行って廃れたジャンルです。FPSやTPSなどのシューティングゲームはバトルロイヤル系のタイトルによって大きく人気を得た一方で、タクティカルシューターは一部の根強いファンに支えられている状態でした。

そして『スト6』などの対戦格闘ゲームも、20年以上も主力ジャンルから外れていたと言えます。そのふたつが、2023年に覇権タイトルとして君臨しているのは感慨深いものがあります。逆に考えれば、一度廃れたジャンルでもタイトルの完成度や競技シーンの展開次第ではまだまだ復活できると言えるでしょう。

またこの2タイトルの流行はどちらも、ストリーマーによる配信の効果が大きかったと言えます。『VALORANT』は2020年のリリース直後から人気があったわけではなく、その当時はバトルロイヤルゲーム『Apex Legends』がとてつもない人気を誇っていました。それがチート問題やオートエイム問題などによって、プレイヤーが少しずつ離れることとなり、プレイしていたストリーマーがこぞって『VALORANT』をプレイし始めたことが流行のきっかけのひとつです。

『スト6』もβ版からストリーマーにプレイしてもらうことで、一気に認知度を高め、「CRカップ(Crazy Raccoon Cup)」や「REJECT FIGHT NIGHT」などの大会を通じて、これまで対戦格闘ゲームに興味のなかった層にアピールできたことが功を奏しました。なおeスポーツシーンではないのですが、『スイカゲーム』もストリーマーの配信によって注目を浴びた例です。『スイカゲーム』自体は、リリースから時間が経っていたタイトルで、ゲームの内容だけではこれだけ大きく飛躍するのは難しかったでしょう。

ストリーマーとプロゲーマーによる『スト6』の団体戦「CRカップ」

ストリーマーシーンから始まる「観戦の連鎖」

ストリーマーきっかけでタイトル自体に興味を持ち、そのタイトルの競技シーンの最高峰であるプロシーンを観るという観戦の連鎖が起きており、今やプロシーンも多くの人に観られるようになっています。

先に紹介した『スト6』のプロリーグである「ストリートファイターリーグ:Pro-JP 2023」は2023年7月から11月までの4か月間、1週間に1回もしくは2回という高頻度の配信ながら同時視聴者人数は多く、筆者が確認した限りではおよそ3~5万人が視聴していました。リーグ戦としては破格の同時視聴者人数で、日本でもっとも視聴されているeスポーツリーグ戦と言えます。

すべてのプロリーグが同様にストリーマー人気からプロシーン人気へ拡大しているかと言うとそうではありません。そもそもストリーマーに関心を持たれないタイトルがほとんどで、プロシーンが伸び悩んでいるタイトルも多くあります。ただ、これはフィジカルスポーツでも同様で、さまざまなスポーツがプロ化している中、観客を動員でき、収益をあげているのは、ほんの一握りしかありません。そういう観点から考えると、eスポーツ界隈も現状が妥当と言えるでしょう。タイトルによる格差が出始めているのは確かですが、eスポーツのプロシーンが確立してきたと言う意味ではかなり前進したと思えます。


プロチームのあり方が変わる

今後はプロシーンにおいて、よりプロチームとしての振る舞いが求められていくという側面も出てきます。すでに選手の年俸の高騰が叫ばれはじめていますが、ある程度の資本がないと回せなくなっていくでしょう。実際、海外では運営がままならず解散したり、一部のタイトルから撤退したりするチームも出始めています。それも老舗、名門と言われたチームが、です。


今までは、コミュニティから発展した状態のチームが多く、誰でもすぐに始められる手軽さがありましたが、今後は企業を立ち上げるが如く、必要なものが増えていくでしょう。それはチーム単体ではまかないきれない場合もあり、たとえばSCARZがJ.フロントリテイリングの子会社に、DetonatioN FocusMe(DFM)がGameWithの子会社になったように巨大資本との提携が必須になる可能性は十分にあります。プロスポーツ、エンターテインメント事業としてeスポーツチームを考えるのであれば、もはやライバルは他のeスポーツチームではなく、プロ野球団やJリーグのクラブチームとなるわけで、それに匹敵する規模と運営能力がないと継続しにくくなってしまうかも知れません。もしくは、プロシーンから撤退し、コミュニティとしての活動に戻るという手段もありますが。

SCARZとパルコが共同で開催したeスポーツイベント「HypeUP」

「スポーツ」として受け入れられるか

より多くの人がeスポーツに興味を持つきっかけとなりそうなのが、オリンピックとの連動です。6月にシンガポールで「オリンピックeスポーツシリーズ2023」が開催されました。競技タイトルについては賛否両論がありましたが、とりあえずeスポーツがよく分かっていない人やスポーツとして違和感を持っている人たちにとって、IOC主催でオリンピックの名がついたeスポーツ大会が開催されたことは、大きな意味があります。

さらにコロナ禍で延期しており、2023年10月に開催された「第19回アジア競技大会(2022/杭州)」ではeスポーツがメダル種目として登録されました。2026年に愛知・名古屋で開催される第20回大会ではeスポーツがさらに強化されると言われており、eスポーツの存在感はますます高まると予測されます。まだ競技タイトルは発表されていませんが、発表されれば、アジア競技大会に出場するためにそのタイトルをプレイ、練習をする選手も増えてくるのではないでしょうか。


eスポーツ大会はより身近なものに

今年の展望としては、昨年以上にオフラインのeスポーツイベントが活況になるのではないでしょうか。コロナ禍による制限が取り払われた昨年も前半は声出し応援の禁止、飲食の禁止など一部の制限はまだありました。今年は年初からフル稼働となるので、さらにオフラインイベントが開催しやすくなるとみられます。

プロシーンや有名ストリーマーによる大型イベント以外に、コミュニティイベントも増えていくと思われます。その理由のひとつが、2023年10月に任天堂が発表した「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」の存在。これまで曖昧だったゲーム大会、eスポーツイベントの開催についてガイドラインで示したことにより、コミュニティはイベントの開催がしやすくなったと言えるでしょう。任天堂がガイドラインを公表したことで、他のメーカーも追随する可能性もあり、黙認ではなく許諾された状態での大会開催が増えていくと予想できます。

格ゲー界隈では『スト6』を使用したコミュニティ大会がすでに活況となっています。その中のひとつに古参コミュニティ大会の「Fighters Crossover」があります。コロナ禍で開催を中断していたイベントですが、『スト6』のリリースをきっかけに秋葉原で復活しました。さらに同様のイベントを他の地方で開催する場合も、運営の手伝いや許諾申請などを代理するとし、さまざまな場所でFighters Crossoverが開催されるようになりました。これまで大会やイベントを開催するための手段や申請方法などがわからず、開催に至らなかった人たちにとっては、最初の道がすでに舗装されている状態になったので、参入しやすくなったと言えます。

秋葉原にあるe-sports SQUARE秋葉原で毎週水曜日に開催しているコミュニティイベント「Fighters Crossover」

ただ、任天堂のガイドラインではコミュニティがイベントを開きやすくなったものの、商業的なものや法人によるイベントはこれまでと変わらず個別に許諾が必要なままとなります。それでも、業界全体でかなり風通しが良くなっていくと考えられますので、より参入しやすくなるのではないでしょうか。

執筆:岡安学

執筆/eスポーツの伝道師 岡安学

eスポーツを精力的に取材するフリーライター。イベント取材を始め、法律問題、eスポーツマーケットなど、様々な切り口でeスポーツを取り上げる。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。様々なゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『ゲーム業界のしくみと仕事がこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社刊)

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