スクウェア・エニックス・ホールディングスの2023年3月期の売上高は前期比6.0%減の3,433億円、営業利益は同25.2%減の443億円で減収減益での着地となりました。
『ファイナルファンタジー』などの主力タイトルの拡張パッケージの発売がなく、新作タイトルも売上伸張に寄与しませんでした。
2024年3月期は『FINAL FANTASY XVI（ファイナルファンタジー16）』のリリースを予定しています。しかし、2024年3月期の売上高は前期比4.9%増の3,600億円、営業利益は同24.1%増の550億円を予想。売上高・営業利益が過去最高だった2020年3月期を下回る見通しで、旗艦タイトルの発売を予定している割には力強さを欠く印象です。
この数字は中期業績目標で掲げていた売上高4,000億円、営業利益600億円も下回ります。スクウェア・エニックスは再び成長軌道に乗せることができるかどうかの分かれ道に立たされています。
デジタル化の推進で営業利益率は2桁台まで回復
2024年3月期のスクウェア・エニックスで最も注目すべきポイントは社長交代。名物社長で「ヘッドショットおじさん」の愛称で親しまれてきた松田洋祐氏が退任し、2023年6月から桐生隆司氏が代表取締役社長を務めます。桐生氏は2023年6月にスクウェア・エニックスに入社しており、わずか3年で社長に抜擢されました。
今年は松田体制が始まってから10年の節目であり、スクウェア・エニックスの業績推移を見ても、交代に相応しいタイミングを迎えているように見えます。
松田氏は東京大学卒業後、三井生命保険相互会社に入社し、その後公認会計士の資格を取得したというゲーム会社の経営者としては異色の経歴の持ち主。資格を取った後は監査法人に勤務していました。2001年に当時の代表取締役だった和田洋一氏に招聘されて、スクウェア・エニックスに移籍しています。
松田氏が社長に就任した2013年は営業赤字に陥っていました。業績不振が鮮明になっていたころです。
2012年に発売した『スリーピングドッグス 香港秘密警察』や『ヒットマン アブソリューション』、2013年発売の『トゥームレイダー』が主戦場である欧米でヒットせず。スクウェア・エニックスは、開発したタイトルのヒット要因に業績が振り回される不確実性からの脱却を目指していました。
また、成長戦略の一つに自社IPの強化を挙げており、『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』、『キングダムハーツ』などと肩を並べるIPを合計で10構築することを目標に掲げていました。ホームラン狙いの経営スタイルだったと言えます。
松田体制となった後は、新規IP構築路線は踏襲するものの、『ファイナルファンタジー』と『ドラゴンクエスト』の主力タイトルのスマートフォンゲームを、ベンチャー企業などと共同で開発する姿勢を強化。加えて、パッケージからデジタルへの移行や、ゲームプラットフォームの垣根を超えるマルチプラットフォーム展開を推し進めました。リスク分散による業績の安定化という経営管理畑出身者らしい戦略を取ったのです。
※決算短信より筆者作成
結果として、2017年3月期に2,568億円だった売上高は、2021年3月期に3,325億円まで増加。業績は見事なまでに回復し、2017年3月期の決算発表時に「2020年3月期～」に実現するとしていた売上高3,000～4,000億円という目標は達成されました。
売上高の伸長だけでなく、営業利益率も2014年3月期の6.8%から2023年3月期には12.9%まで高まっています。松田氏は十分な実績を残したと言えるでしょう。
