世界を感動で満たすのはクリエイティビティとテクノロジー―ソニー・勝本徹氏による基調講演レポート【SIGGRAPH Asia 2021】 | GameBusiness.jp

世界を感動で満たすのはクリエイティビティとテクノロジー―ソニー・勝本徹氏による基調講演レポート【SIGGRAPH Asia 2021】

2021年12月に開催された国際会議&展示会「SIGGRAPH Asia 2021」より、ソニー副社長・勝本徹氏による基調講演のレポートをお届けします。

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2021年12月14日~17日、東京国際フォーラムとオンラインでCGとインタラクティブ技術に関する国際会議&展示会「SIGGRAPH(シーグラフ)Asia 2021」が開催されました。本稿では、ソニー株式会社 副社長 R&D担当およびメディカル事業担当の勝本徹氏による基調講演「Creativity x Technology - How To Fill The World With Emotion」のレポートをお届けします。

テクノロジーを活かすために大切にしていること

勝本氏は「コロナ禍の昨今、グローバルな学会を開催すること自体が困難な状況にあるが、それでもチャレンジを忘れないシーグラフアジアで講演できることを非常に嬉しく思います」と挨拶し、「テクノロジーを活かすために大事にしていること」をお伝えしたい、とテーマを述べました。

1982年にソニーに入社した同氏は、ハンディカムの開発・製造からキャリアをスタートしました。その後、デジタル化の波が訪れ始めたテレビ事業に異動し、6年間欧州に赴任。デジタル一眼カメラα(アルファ)の事業立ち上げを担当した後、メディカル分野でソニー・オリンパスメディカルソリューションズの初代社長を担当。その後ソニーに戻り、2021年12月現在はソニーグループのCEOとしてR&Dの責任者を務めています。「そうした経験から得られたものの中で、特に大切にしていることは二つあります」と勝本氏は続けます。

一つ目は「ダイバーシティ&インクルージェント」。欧州赴任時は放送のデジタル化に関するプロジェクトを統括するも、チームは欧州各地から集まったメンバーで構成されており、意見がなかなか一致しなかったとのこと。しかし、チームとして脆弱であったかというと反対で、「それでいて強いチームだった」と勝本氏は補足します。

「その理由は、さまざまな視点からの意見を出し合って、それを納得いくまで議論して。ひとつの確たる意見を見出したらそこに向かって力を合わせて取り組めるチームだったからです」。

いろいろな意見が集まる場では、穏便に済ませようと平均化・平準化してしまいがちになるが、そうしてしまうと強い競争力を持てずに終わってしまうとしました。

「競争力とは、他者との違いをはっきり出すことです。そして、その力は極端なものにこそ秘められていると思っています」。

併せて、テクノロジーにおけるダイバーシティ&インクルージェントで大切なことは、多様な事業領域での活用を逐次検討することだと語りました。一分野だけでの活用を考えるのではなく、それぞれの事業に合う活用法を納得いくまで議論して見出す。時には、自分たちが想像すらしていなかった事業領域の方が、競争力の強さを引き出す可能性を秘めています。

勝本氏が大切にしていることの二つ目は「現場を深く理解すること」。かつてコニカミノルタやオリンパスなど他社との協業に臨んだとき、それまでの経験や成功体験から「こうに決まっている」という思い込みを抱いていしまったために新たな領域でのチャレンジがなかなか軌道に乗りませんでした。

しかし、同じ日本語でも企業が違えばまったく異なる使い方をすることがあるように、「テクノロジーの活かし方を考えるには、まずお互いを深く理解し、事業の持つ背景を理解する」必要があると悟り、まずは何が求められているのかをしっかり認識することが肝要であるとしました。

次に、今回の講演「Creativity x Technology - How To Fill The World With Emotion(クリエイティビティとテクノロジーで、いかに世界を感動で満たすか)」の議題にあらためて言及した氏は「このテーマは、ソニーの存在意義とも重なります」と続けます。

現在はゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エレクトロニクスプロダクツ&ソリューション、イメージング&センシングソリューション(半導体)、金融など幅広い事業で存在感を発揮するソニーですが、元々はテープレコーダーやラジオ、テレビなど、その時代における新たな体験を提供するエレクトロニクスや半導体製品などの開発・販売がメインでした。

勝本氏はそうした社史を軽く振り返りながら「製品はテクノロジーによって作り出されます。そして我々は、いつもクリエイティビティにも目を向けて新たな感動の創造や提供に努めてきました。我々は感動を提供する企業であり、感動にはクリエイティビティとテクノロジーが欠かせません」と続けました。

それでは、クリエイティビティとテクノロジーで同社はいかにして感動を生み出してきたか? それは「」と「映像」という二つの側面から語られました。

音―トランジスタラジオとCDが世界にもたらした感動

1955年、ソニーの前身である東京通信工業は、世界初の自社製トランジスタによるラジオ「トランジスタラジオ TR-55」を発売し、その後続モデルは世界的なヒットを記録しました。

小型ラジオの実現にはテクノロジーの革新があったのはもちろんですが、成功の要因は当時のアメリカにおける音楽の流行にもありました。トランジスタラジオが登場する前のラジオはもっと大型で、当時のアメリカではそれをリビングに設置して家族全員で聴くスタイルが一般的で、必ずしも小型化が求められてるわけではありませんでした。

しかしそんなとき、ロックンロールが若者に大きな流行をもたらしました。そしてロックは家族と聴くものではなく、自分の部屋で、もしくは友人などと一緒に聴くものとして急速に広がっていきました。

東通工はそこに小型化のニーズを見出し、トランジスタラジオを大ヒットに導きました。「世の中に新しい体験を届け、それを感動へとつなげるにはテクノロジーだけで十分とは言えません。"そのテクノロジーが提供できる価値はユーザーに響くものなのか"も非常に重要です」。

次に、音に関する事例の二つ目としてCD誕生に関するエピソードが披露されました。CDは、レコードなどのアナログメディアに代わるデジタルの記録媒体として、ソニーとフィリップスの共同開発で誕生しました。

ところが、その開発段階においてソニーとフィリップスの間で主張が異なる点がありました。フィリップスはディスクの直径をドイツの標準規格に適合する直径11.5cmに収め、記録時間はそのサイズに収められる60分がよいと主張。ヨーロッパ市場でのカーオーディオの将来性を評価しての判断でした。

対してソニーは、「オペラの幕が"途中で切れては"ならない」、「ベートーヴェンの交響曲第9番もきちんと収録できる時間でなければならない」という前提の下、直径12cm、収録時間74分42秒を主張しました。こちらはクラシック音楽の95%以上を収録できる長さです。

勝本氏は「フィリップスの主張も間違っていたわけありません。その主張通りでも、CDは同じように普及していたでしょう」と前置きしつつ、「それでも、音楽が途中で切れてしまうのは感動を十分に届けられているとはいえない。ここはソニーとして曲げられない大切な部分だった」と語りました。

「"クリエイターの大切なコンテンツをどのような形でユーザーに届けるか"という視点は、世の中を感動で満たすために非常に重要なポイントのひとつであると考えています」。

映像―クリエイターに向けたテクノロジーの活用事例

次に、映像分野におけるクリエイターに向けたテクノロジーの活用事例が紹介されました。ソニーが映像クリエイターに向けたテクノロジーとして代表的なものはデジタル一眼レフカメラのαのほかデジタルシネマカメラのVENICEが挙げられ、どちらもカメラマンや映画監督など、第一線で活躍するクリエイターに向けて製品化が進められてきました。

ここで映画監督のジェームズ・キャメロン氏へのインタビュー映像が流れ、同氏はその中で19年間、ソニーのカメラ・CineAltaで撮影をしてきていること、2022年公開予定の映画『アバター2』、そして2024年公開予定の『アバター3』はVENICEで撮影すると言及。「ソニーは映画製作者がどのような機能を望んでいるかを知り、その先を行った技術を開発してくれる。彼らが「できる」と言ったことはできるのだ」と深い信頼を寄せました。

勝本氏は映像を補足する形で「クリエイターのみなさんがソニーのテクノロジーをとても信頼してくれているということ。これこそが、ソニーにおけるクリエイティビティとテクノロジーの関係性です。"クリエイティビティとテクノロジーはお互いに高め合う"」とし、「クリエイター、ユーザー、そして両者をつなぐこと。ソニーではこの三つをまとめて「KANDO(感動/Value Chain)」と呼んでいます」と理念を語りました。

ソニーはクリエイティビティとテクノロジーでいかに「KANDO」を生み出そうとしているか。勝本氏はその事例、および重要なポイントとして、同社が音と映像の先にあるものとして「空間」に焦点を当てていると明らかにしました。

ソニーが見据える「空間」分野、そしてさらなる未来

昨今のコロナ禍で、遠く離れた人とのコンテンツの共有やコミュニケーションといった、リモート体験の向上が急速に求められる時代となりました。ソニーはそのニーズに応えるため、バーチャルプロダクションやボリュメトリックキャプチャーなどクリエイターの創造性を高めるテクノロジーのほか、スペシャルリアリティディスプレイ、360リアリティオーディオなどユーザーに新たな体験をもたらすテクノロジーにも取り組んでいます。

大型LEDディスプレイとインカメラVFX技術を組み合わせた撮影手法のひとつであるバーチャルプロダクションは、3DCGを中心としたバーチャル背景を大型ディスプレイに表示して現実の人物やオブジェクトをカメラで再撮影することで、後処理の必要なく実写とCGを融合させる技術です。

カメラの位置に連動して背景がリアルタイムで変化するので、3DCGを現実の風景と同じ感覚で撮影できます。車の魅力を表現する新しい手法としてトヨタの新商品カローラ クロスのCM撮影に使用されているほか、映画撮影にも活用され始めています。

「クリエイターに楽しみとインスピレーションをもたらすことができれば、それが感動を生み出す源泉になります。そのように現場をテクノロジーで支えるのが、ソニーの役割のひとつだと思っています」。

スペシャルリアリティディスプレイは、ソニー独自の視線認識技術でゴーグルやヘッドセットなどの機器を装着することなく目の位置を検出し、左右それぞれの目に最適な映像を生成することで、裸眼で4K映像の立体視体験を実現しています。

「クリエイターの製作意図を忠実に再現する」、「クリエイターにとって価値のあるものにする」というコンセプトが掲げられており、開発段階からクリエイターとの対話を重視し。SDKは3DCGの制作環境でユーザーが多いUnityとUnreal Engineに対応しています。

勝本氏はこうした事例や技術をまじえ「自社のテクノロジーや視点のみにこだわって開発すると、そのテクノロジーが持つ可能性を大幅に狭めてしまう危険があります。ソニーが得意とするエンターテイメント領域だけで開発を進めていたら今回のような協業は実現できず、新たな感動を生み出すチャンスを逃していたかもしれません。今後も、いかにユーザーに感動を届けるか、どういった体験を実現させるかの検討を続けていきます」としました。

講演の最後には、ソニーが見据える未来への挑戦が語られました。同社は「音」分野と「映像」分野の先には「空間」分野があり、さらにその先にあるものとして地球全体や宇宙、スポーツ分野におけるテクノロジーの活用と感動の創造に挑戦しているとのこと。

そして、そのような未来に向けた取り組みにおいても"クリエイティビティとテクノロジーはお互いに高め合う"ものであって、そうすることで新たな価値が創出されることに変わりはないと強調しました。

「挑戦には常にリスクが付き物です。しかし、挑戦しないリスクは挑戦するリスクよりはるかに大きい。そして、テクノロジーだけで感動を創造することはできません。そこには必ずクリエイティビティも必要です。我々一社だけでできることは限られています。ぜひみなさまと一緒に未来への挑戦に取り組み、世界を様々な感動で満たしていきたいと思っています」。

《蚩尤》

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