【ありブラ vol.23】360°全天球型ホラー体験「VR蟲姫」開発秘話(前編) | GameBusiness.jp

【ありブラ vol.23】360°全天球型ホラー体験「VR蟲姫」開発秘話(前編)

PS4でVRが体験できる「PlayStation VR」も発表され、「Oculus Rift」の製品版も本年中には予約が開始されるのではないかと言われております。一方で「Google Cardboard」も新バージョンになり、スマホをVR化するようないわばカジュアル系VRも続々と製品化されています。

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GameBusiness.jp、インサイドをご覧のみなさま、こんにちは!

PS4でVRが体験できる「PlayStation VR」も発表され、「Oculus Rift」の製品版も本年中には予約が開始されるのではないかと言われております。一方で「Google Cardboard」も新バージョンになり、スマホをVR化するようないわばカジュアル系VRも続々と製品化されています。

当初はクリエイターやエンジニアのあいだだけの盛り上がりに見えたVRも、だんだん一般消費者にとっても身近なものになってきている気がします。

個々人にVR機材が行き渡るような世界はまだまだ先かもしれませんが、ゲームを問わずアトラクション目的や旅行体験やウォークスルーなどの各種シミュレーション、教育、店頭プロモーション、業務ユースなど、何らかの形でみなさんがVRと接する機会は確実に増えていくでしょう。

以前、当ブログ上でも、このVRについて少し触れましたが(参考:【ありブラ vol.20】ツールやミドルウェアの「導入障壁」と向き合う(その3~完結編~))、今週からはVR特集でお届けします。

今回は、『蟲姫』というコミックコンテンツを題材にして制作された全天球VR動画コンテンツ(以下、『VR蟲姫』)について、開発元である株式会社ファンタジスタの高野寛嗣さんにお話を聞きました。

事例の少ない全天球VR動画というコンテンツを、技術的にもコンテンツ的にも試行錯誤を繰り返しながら、手探りで開発していったという『VR蟲姫』。しかも、単なる全天球動画ではなく、Sofdec2だけが持つ「アルファムービー機能」を活用して、他にはない、とても独創的な世界観と独自のUI/UXを実現しています。

それでは「ありがとう、ブラックボックス」略して「ありブラ」、今週もスタートです!ぜひリラックスしてお楽しみ頂ければと思います。

▲Oculusで体験可能な『VR蟲姫』(画像はOculusからキャプチャしたもの)


CGプロダクションが仕掛ける新規事業



インタビュー対談形式にてお届け致します。



高野 寛嗣
株式会社ファンタジスタ
取締役 メディア事業部 部長

聞き手:幅 朝徳(CRI・ミドルウェア)


幅朝徳(以下、幅):最初に、ファンタジスタさんについて教えて下さい。

高野寛嗣(以下、高野):はい。ファンタジスタは新潟に本社のあるCGプロダクションです。社員数は25名ですが、ほぼ全員が3DCGのデザイナーとなっています。主となる事業はCG制作ですが、2006年、創業2年目を機に何か新しい事業に挑戦していこうという方針のもと、メディア事業部という新しい部門を設立しました。この部門の立ち上げの際にファンタジスタに入社しました。

メディア事業部としては、オリジナルマンガの投稿サイトや、電子書籍の配信・販売サービスである「mixPaper」を開発してきました。クライアントからの希望に応えるかたちでアプリ開発を手掛けたりもしています。

ファンタジスタの代表取締役である栗原(栗原弘樹 氏)と私は、2人とも新潟コンピュータ専門学校の講師だったんです。同校で長年講師を勤めていましたが、生徒として平成生まれが入学してくる前に「そろそろかな?」という感覚もあり(笑)、会社設立に至りました。

今でも、ファンタジスタと新潟コンピュータ専門学校との接点は多いです。同校を卒業した学生が就職しようとしても、なかなか県内に就職先を見つけるのが難しいという事情もありまして、積極的に同校の卒業生を雇用しています。実際、ファンタジスタの創業メンバは、私たちの教え子でもある卒業生で構成されています。

専門学校の講師は8年ほどやりましたが、東京にある商社系の会社で2年ほどプログラマーとして働いたこともあります。その時に手掛けていた案件がB2Bの業務システム系案件ばかりだったので、「いつかB2C案件がやりたいなぁ」と思い続けていました。

幅:メディア事業部では、どのようなことを手掛けられているのですか?

高野:最近注力しているのが、「mixPaper」を中心にした電子書籍事業と、「Manga Planet」というfacebookページを活用した日本のマンガ情報の海外発信です。後者は出版社とも連携して、日本のコンテンツを海外に販売していくためのプロモーション支援を行っています。すでに67万「いいね!」を頂いていて、年内に100万「いいね!」を目指しています。

ご参考:mixPaper(電子書籍)
http://mixpaper.jp/

ご参考:Manga Planet(日本のマンガ情報の海外発信ポータル)
http://mangaplanet.jp/

とくにインドではコミックに対する情熱が高まっていて、日本とインドのクリエイターが共同で制作するコンテンツ創りにも着手しています。こちらは来年インドで開催予定のコミコンというイベントでの発表に向けて鋭意制作中です。

Manga Planet の「いいね!」も、インドや東南アジア諸国の割合がかなり多いんです。北米や欧州はすでに日本のコンテンツがそれなりに流通していることもあって、あまり「マンガに飢えている」という感じではないですね。それ以外の地域は、まだまだこれから。アニメ化されている少年マンガはそれなりに浸透していたりしますが、少女マンガはほとんど知られていません。これから成長が見込める市場なので、狙い目だと思っています。

私自身、新潟出身の人間として、マンガには強い思い入れがあります。あまり知られていないんですけど、実は、新潟ってマンガ王国なんですよ。ドカベンの水島新司さんも、うる星やつらの高橋留美子さんも、どちらも新潟のご出身だったりします。地域興しという目的でも、マンガを題材に何か新しいことを仕掛けていくことには大きな意味があると思っています。

幅:ファンタジスタさんの主力事業であるCG制作について詳しく教えて下さい。

高野:はい、売上比率的にも最も注力している領域ですので、人員的にも最も多くの人数を充てている事業になります。いろいろな案件を手掛けていますが、最近は遊技機に関するものが多いです。守秘義務の関係上、案件の詳細をお伝えするのは難しいのですが…。それ以外で最近のものだと、劇場アニメやTVアニメ用の3DCGモデルも制作しています。

VRコンテンツ開発に至った経緯



幅:それでは、今回の本題に移りたいと思います。どうして「VR」コンテンツの制作を行うことになったのですか?

高野:メディア事業部はもともと新しいことに挑戦していく部門なので、いろいろなリサーチを経て、自社のメンバで挑戦しやすい分野として「VR」を選びました。「VRやるぞっ!」って決心したきっかけは、OcuFes代表の桜花一門さんが展示していた「VRスキージャンプ」を体験したことなんです。昨年6月末にアプリ内広告の会社が主催したセミナーで桜花一門さんがスピーカーとして登壇されていました。

Oculusが盛り上がってきているというのは知っていたのですが、機材もまだデベロッパーキットの段階でしたし、「ごく一部のギークな開発者だけの盛り上がりなんじゃないか?」ってちょっと冷めた目で見ていました。でも、「VRスキージャンプ」を試してみて、一気に価値観が変わりました。無いはずの「重力」や「引力」を感じたんです。カラダが前に引っ張られる感覚があるんですよ。ここまで人間の脳というのは騙されるものなのか!と衝撃を受けましたね。

その翌日、興奮冷めやらぬ状態で、当社の代表に「Oculusヤバいっすよ!」と報告しました。さらにその翌日、サンフランシスコで行われたGoogle I/Oというイベントで「Google Cardboard」が配布されたというニュースを知り、これはもう「神の啓示」に違いない!と(笑)。

幅:ちょうどそのイベント(Google I/O)には現地で参加していました。まだ認知されていないものだったので、謎のダンボールの塊を受け取ったときは、ちょっと困惑したことを覚えています(笑)。ホテルに戻って組み立ててみて、初めてその凄さが分かりました。

高野:そうなんですよね、体験してみないと凄さが分からないのがVRなんです。「VRやるぞっ!」って決めてからいろいろと下調べをしていくうちに、あることに気付いたんです。

幅:あること?

高野:はい。OculusでVRコンテンツを開発している方って、大半がプログラマーなんです。技術的にとっても先進的なことをしているのですが、やっぱり画的な魅力が乏しいんですよね。エンジニアリングに理解のある方のウケは良いのですが、一般人にとってはちょっと見劣りしてしまう。スペック的な制約もあるので「仕方なく省いているんです」という事情は理解できるのですが、それって一般人にとっては関係ないことですからね。普段、据置ゲーム機でリッチな映像表現を見慣れた人にとっては、現状のVRってガッカリしてしまう部分もあるのかな、と。

当社のCGクリエイターに協力してもらうことで、この現行VRの課題の部分を解決し、インパクトのあるものを創れるのではないか、と思いました。

とはいえ、内部のスタッフを使うとなると、他案件との兼ね合い、リソースやコストといった現実的な課題もいろいろと出てきます。



そこで、Manga Planetですでにお付き合いのあった大日本印刷(以下、DNP)さんに、VRコンテンツの共同開発のご提案をしました(Manga Planet はファンタジスタとDNPの協業プロジェクト)。百聞は一見に如かず、ということで、当時、東京ビッグサイトで開催されていた「コンテンツEXPO」にDNPさんに同行して頂きました。VR系のさまざまな出展物をひととおり体験してもらい、VRのポテンシャルを体感して頂きました。

VRという新しい題材で、しかも、ファンタジスタが擁するCGデザイナーが活躍できて、さらに、DNPさんから研究開発予算としてのご支援も頂ける、ということで、いよいよプロジェクトがスタートしました。昨年の7月のことです。

DNPさんとの共同研究開発とはいえ、かなり自由なモノづくりを許して頂きました。1点だけ条件があり、それは「画楽ノ杜というコミックサイトに掲載されているコンテンツの中から題材を選んで欲しい」というものでした。

私たちが作ろうとしていたVRコンテンツは、最終的に、出版社に対して提案/展開していくことを前提としていたので、それならば最初から出版社と連携していこう、という意図です。

幅:なるほど。「蟲姫」という作品を選ばれた経緯は?

高野:VR化に際して、当初2つの候補作がありました。1つは「蟲姫」で、もう1つがSF作品でした。いろいろと社内でも議論を行ったのですが、最終的に「蟲姫」に決まりました。理由としては、SF作品の場合は作りこみにけっこうお金がかかってしまうという点でした。ホラーの場合、極言すれば「真っ暗で無音がいちばん怖い」ものなので、ある程度、作り込みの物量を減らし、狙いを絞って試行錯誤することができます。

VRという初めての案件にチャレンジするからには試行錯誤が絶対に必要なので、作業量そのものは少なくできる題材をチョイスしたほうが良いだろうと思いました。そのほうがいろいろな表現を試すことができて、結果的に高いクオリティのものを作ることができるだろう、と。そうした経緯で、「蟲姫」に最終的に決めたのは、11月頃でした。

CGデザイナーとプログラマーが初コラボ



幅:技術的な調査はいつ頃からスタートされたのですか?

高野:昨年7月頃です。ゲームエンジンの「Unity」や「Unreal」を試しはじめました。当社の数少ないプログラマーが、この技術検証を担当しました。どちらのエンジンも初めて触るものだったので、それぞれ1ヶ月ずつ試してみて、今回のプロジェクトは「Unity」で行こう!と決めました。当時の開発者コミュニティの盛り上がり具合やアセットストアの存在が、選択の大きな理由です。

Unity に決めた9月から、本格的に開発を始めました。3D空間上にカメラを試しに置いてみたりしながら、出来ること/出来ないことを見極めていきました。ここで大きな課題となったのが、プログラマーとCGデザイナーの文化の違いなんです。

これまで、プログラマーとCGデザイナーが協力しながら進めていく案件って実はあまり無かったんです。プログラマーはエンジニアなので、あまりクリエイティブなことはよく分からない。CGデザイナーは当然、プログラミングの詳細は分からない。進捗や工程管理に対する考え方そのものも違っていました。

VR案件に挑戦することによって、創業以来、初めてプログラマーとCGデザイナーが交流する必要が生じたわけです。最初は大変でしたが、時間の経過とともにお互いに少しずつ歩み寄り補完しあうようになっていきました。あくまで内輪の事情にはなりますが、社内的には「創業10周年記念事業」という大きな意味を持つ案件になりました。

▲東京ゲームショウで出展された「VR蟲姫」(CRIブース)


幅:Oculus の実機は開発の初期から入手されていたのですか?

高野:いえ、実機が届いたのは実は10月に入ってからでした。7月にUnityを検証し、8月にUnrealを検証し、9月に実際にUnityでゼロからプログラミングを始めたところだったので、タイミング的にはちょうど良かったと思っています。

いよいよ実機も届いたということで、それまでPC上Unityで動かしていたVRプログラムをOculusで動かしてみたのですが、これが動作が重すぎてマトモに動かないんです(汗)。ある程度は覚悟していたのですが、「うーん、やっぱり・・・」という感じでガッカリしました。動画のフレームレートも15fpsくらいしか出なかったです。もう、酔いまくりです(笑)。まだ、ごく単純な全天球動画の再生だったんですけどね。それすら動かないという・・・。

幅:最初は大変だったんですね…(汗。ちなみに、スタッフの皆さんが実機に触れるのも、この頃からですか?

高野:はい。すぐにスタッフ全員に体験してもらいました。すでにOculus向けに提供されている他社のVRコンテンツをいろいろと試してみました。数多くのVRコンテンツを体験して気付いたのですが、インタラクティビティやリアルタイムのゲーム性で攻めているものが多くて、プリレンダリング3DCGムービー素材による全天球動画ってほとんど存在しないんです。実写モノはいくつかありましたが、CGムービーはありませんでした。

だからこそ、ファンタジスタが培ってきたCGムービー制作のノウハウで十分戦える、と確信しました。別の言い方をすれば、ウチはゲーム会社ではないのでゲーム性の高いものは作れませんから、自社の持ち味を活かしたコンテンツを実現しようと思ったわけです。

全天球の3DCG動画でVRコンテンツを作る、という大方針も決まったので、ここからは、いろいろな演出手法を試行錯誤していきました。先人たちのノウハウがほぼ皆無なVRコンテンツなのでまさに手探りでしたが、VRという今はまだ特殊なユーザ体験のなかで、いくつかの法則を見つけることができました。


対談も盛り上がってきたところですが、今週はここまで。

次週更新の「後編」では、ファンタジスタ高野さんがさまざまな試行錯誤を経て発見したVRコンテンツ特有の「法則」、15fpsしか出なかった全天球動画をパフォーマンス向上させた「手法」、アルファムービー技術を活用した映像の2層化による独自の「表現」などについてご紹介します。ご期待ください。

それでは、また次回の更新でお会いしましょう!

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幅朝徳(はば とものり)

株式会社CRI・ミドルウェア 商品戦略室 室長、CRIWAREエヴァンジェリスト。学習院大学卒業後、CRIの前身である株式会社CSK総合研究所に入社。ゲームプランニングやマーケティング業務を経て、現CRIのミドルウェア事業立ち上げに創業期から参画。セガサターンやドリームキャストをきっかけに産声を上げたミドルウェア技術を、任天堂・ソニー・マイクロソフトが展開するすべての家庭用ゲーム機に展開。その後、モバイル事業の責任者として初代iPhone発売当時からミドルウェアのスマートフォン対応を積極推進。ゲーム企業とのコラボでミドルウェアの特性を活かしたアプリのプロデュース等も行う。近年は、ゲームで培った技術やノウハウの異業種展開として、メガファーマと呼ばれる大手製薬会社のMR(医療情報担当者)向けのiPadを使ったSFAシステムを開発、製薬業界シェアNo.1を獲得しゲーミフィケーションやゲームニクスの事業化を手掛ける。ますます本格化するスマホゲームのリッチ化を支援するためにモバイルゲーム開発者におけるミドルウェア技術の認知向上のためエヴァンジェリストとしての活動に注力中。最近は、ウェアラブルやIoTといった領域での新規の事業開拓や未来のサービス開発を担当、業界の枠組みを超えた協業、世の中にとって全く新しい付加価値の実現のために日々奮闘中。

趣味は、クロースアップマジックと陶芸、映画鑑賞とドライブ、鳥類/フクロモモンガ/爬虫類の飼育、そしてもちろん、ゲーム。デジタルガジェット大好きなギーク。

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《幅朝徳》

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