「Ingressで地域振興」、成功のカギを握るのは? | GameBusiness.jp

「Ingressで地域振興」、成功のカギを握るのは?

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ポータル申請合宿の一場面。学生の視点から「ここに来てもらいたい」という場所を探すのは楽しい
  • ポータル申請合宿の一場面。学生の視点から「ここに来てもらいたい」という場所を探すのは楽しい
  • イングレスのゲーム画面。リアル(現実)空間がゲーム空間になる
  • 企業とのタイアップで、ローソンや三菱東京UFJ銀行、ソフトバンクショップなどもポータルとなっているが、今夏は伊藤園がイングレスユーザー向けのキャンペーンを展開、一部の飲料自販機でイングレスアイテムをゲットできる
  • たかたIngress研究会の協力により一関市で実施された初心者向け講習会の案内
  • 下北半島の知られていない名所・旧跡を探しながら、ポータル申請のゼミ合宿を挙行。多くのベテランプレイヤーの支援を受け、4日間で231カ所のポータル申請を行った。結果はいかに
  • 8月1日に開催されたFS一関
  • FSでは、グループに分かれてイングレスを楽しみながらレベルアップを図る
  • 木暮祐一氏。青森公立大学 准教授/博士(工学)、モバイル研究家として活躍し、モバイル学会の副会長も務める。1000台を超える携帯コレクションを保有
 米Googleの社内スタートアップであったNiantic Labs(ナイアンティックラボ)が開発・運営してきたスマホ向け位置情報ゲーム『Ingress』(以下、イングレス)。2012年11月にベータ版の運用を開始し、2013年10月から誰でもが遊べるゲームとして正式公開された。

 2015年3月にはアプリが日本語化されたため、日本のユーザーも急増。Googleが本年6月に公表したデータではすでに世界でアプリが1,200万以上ダウンロードされており、世界25万人以上のユーザーがライブイベントに参加している。

 日本のユーザー数はトップの米国に次いで多いという。アプリはGoogle PlayおよびApp Storeで無料で提供されており、アイテム課金も存在しない。Googleの提供するサービスとなっていたため、プレーするためにはGoogleアカウントが必要となっている。

 このイングレスは、位置情報を活用し、現実空間にある文化的・芸術的・宗教的に重要な場所が「ポータル」としてスマホ上に表示され、このポータルを巡ってプレーヤーはエンライテンド(緑)またはレジスタンス(青)のどちらかの陣営に属し争奪するという陣取りゲームとなっている。

 現実世界で展開されるというゲームの特性上、ユーザーが自分の住む地域であっても意外な名所・旧跡に出会えたり、地域のプレーヤー同士によるコミュニティが形成されるなどの面白さが認知されるようになり、日本語化と相まってユーザーは順調に増えているようだ。さらには岩手県や神奈川県横須賀市など、イングレスを観光振興に活用しようとする自治体も出現している。

■Googleから独立することになったイングレス

 そんなイングレスだが、これまでGoogleが一部門のサービスとして提供してきたが、12日(米国時間)にNiantic LabsがGoogleから独立。Nianticとして「イングレス」、およびNiantic Labsが運営してきた観光案内アプリ「Field Trip」とともに独自に運営していくと、アプリを利用するユーザー向け告知メールが配信された。

 これによると、ユーザーのすべてのイングレス関連データはGoogleからNianticに自動的に移管されるという。移管作業は告知日(12日)から30日以内となっており、移管を望まない場合は期間中にWebページからオプトアウトする必要があるとしている。オプトアウトすると、9月11日までにすべてのユーザーデータは削除され、元に戻せなくなる。

 Googleはこの前日、持株会社Alphabetの設立とGoogleの完全事業会社化を発表している。NianticがAlphabet傘下の独立企業になるのか、あるいは完全にGoogleを離れるのかは不明だが、いずれにしてもこの再編の一環と考えるべきであろう。

 位置情報を使ったゲームという性格上、ユーザーの行動履歴を含むさまざまなデータがゲームを通じてGoogleに収集されている。そのデータが移管されることになるのであろうが、そうしたデータがNianticによってどのように活用されるのかなど不明な点も多い。

■地域振興に期待されているイングレス

 運営会社の動向はともあれ、このイングレスを地域振興に役立てようという動きが全国各地域で見られるようになってきた。筆者も正直なところ、1年以上前からイングレスのユーザーではあったが、当初は日本語化もされておらず、またその使い方も奥が深いため、ゲームのレベルも上がらないまま放置していた。

 しかし、スマホを使った地域振興、とくに観光振興に有効活用できる一つの手段として期待が高まるようになり、これを応用してみたいという声が地域関係者や学生の中からも出てくるようになった。

 イングレスの場合、「緑」「青」の両陣営が奪い合う「ポータル」が十分なければ面白味も半減してしまう。都心部では数あるポータルも、青森県など地方に行くと正直なところ「スカスカ」な状態である。まずは「ポータル」を増やしていくことから始めなくてはならなさそうだ。

 また、イングレス初心者に、イングレスをより一層楽しんでもらえるようにと、毎月第一土曜日に世界各地で「First Saturday」(FSと略される)というイベントが開催されている。ゲーム内の「レベル」が高いユーザーが低レベルのユーザーのレベルアップを援助したり、ゲームの楽しみ方そのものを街に出て教えあうイベントとして世界各地で開催されている。

 さる8月1日に、岩手県一関市にてこの公式イベントが開催され、筆者もはじめてFSに参加してきた。受付を済ますと、指定のテーブルに案内される。当日は12グループに分かれ、1グループ6~8名のチームを組んだ。

 このチームにはベテランから初心者までバランスよく配分され、ベテランのユーザーは、初心者にイングレスの実際の遊び方を指導する役割も果たす。イベントではイングレスがどのようなゲームであるのかを、そのコンセプトから基本的な遊び方までのレクチャーを受け(Niantic LabsのVTRを視聴するなど)、その後実際に街に出てグループで行動を共にしながら初心者のレベルアップの手助けをしていく。

 初心者はポータルをどのようにハックするのか、レベルを上げるためにはどのようなアクションをすればよいのかなどを、まさに手取り足取り学んでいく。

 このFSでは、イベント開始前と終了後のユーザーのエージェントレベル、AP(経験値)等の入力を行い、そして時間内で稼いだユーザーのAPを開催場所ごとに集計して全世界で競う。

 筆者が参加した「FS一関」は、レベル8以上のベテランユーザーに対して、それ以下のレベルのいわゆる初心者はおよそ2割。FSの全体のAPを増やすには初心者のレベル向上が最も効果的のようで、一関の場合は決して初心者比率が高かったわけではなかったが、結果的にエージェントレベルアップカウントで世界4位、日本国内で実施されたFSとしてはトップの成績となった。

 FS参加者であるが、思いのほか年齢層の幅が広いことに驚いた。大学生からシニアまで年齢層の偏りがなく、また女性ユーザーも少なくなかった。こうしたユーザーが集い、ゲームを通じて新たなコミュニティが形成されていくのである。

■観光客誘致よりも「地元再発見」が面白そう

 FS一関には、遠いところで関西や中部地方からも参加者があるなど、イベントをきかっけに観光も兼ねて参加してくるユーザーも少なくない。観光地巡りもいろいろな手段があるが、イングレスというゲームを通じて、その地域の観光スポットを巡り、同時にゲーム内のレベルアップも図ろうというパワーユーザーも増えているようだ。

 その一方で、イングレスの普及啓発に取り組む関係者は、地元のユーザーをもっと増やしていきたいと目論む。地元のユーザーが増えれば、その地域のポータルももっと増やすことができる。

 ユーザー自身も、長年その場所に暮らしながらも「こんな場所があったのか」というような、ゲームを通じて地域における新しい発見を楽しむことができるという。実際に、イングレスを使うことで、地元への関心がますます高まり、また知らなかった歴史や史跡・名所などに足を運ぶきっかけとなったという声を多数聞いた。

 FSはNiantic Labsの公式イベントとして全世界で展開されているが、正直なところまだまだ敷居が高いと感じている。筆者の場合、スマホにゲームのインストールはしており、最低限のプレー方法は理解していたので、出張先などでたまに遊んでいたレベルだ。しかしながら、イングレスは知れば知るほどいろいろな機能が内在し、またレベルがアップしていくごとにできることも増えていく。

 FSでは、実際にどうやってゲームを攻略していくかということを、短時間で実践を伴いながら学ぶ場である。初心者向けのイベントとはいえ、最低限の知識を持って臨まなくてはイベント自体の足を引っ張ってしまう印象を受けた。

 また、先だって筆者が勤務する大学のオープンキャンパスでの模擬講義(大学の授業の一端を体験してもらう高校生向け授業)内で、「イングレスというゲームを知っている人」と問いかけてみると、約150人居た聴講者(大半は高校生)のうち、挙手してくれたのは1割に満たなかった。まだまだイングレス自体の認知が高いとはいえない状況である(浸透している世代層の違いも考慮すべきだが)。

 地域をより深く知ってもらうことができるゲームと考えれば、スマホを持つシニアにもぜひとも楽しんでもらいたいところだ。そう考えると、Niantic Labsの公式イベントである必要はないので、まずはアプリのインストールから始めるような、“超”初心者向けの講習会を各所で実施するといいのではないかと感じた。

 実際に、そういう取り組みも始まっているようだ。一関市でもこうした活動が重要と考え、さる6月6日に、「たかたIngress研究会」(岩手県陸前高田市)の協力のもと、「初心者講習会&まちあるき」とした市民交流的イベントを実施している。こうした地道なユーザーの裾野を広げる取り組みは重要である。

■ポータルを増やすための取り組み

 前述のように、イングレスは両陣営で奪い合う「ポータル」が無ければ楽しむことができない。このポータルは、イングレスのアプリからユーザーがポータル申請を行い、それをNiantic Labsが認定することで、イングレスアプリ内に表示されるようになる。

このポータルについても、むやみやたらに何でも登録できるというものではない。イングレスの世界観に則ったポータルをユーザーが発見し、申請を行うことになる。

 イングレスのアプリ画面上に表示されているポータルは、エキゾチックマター(XM)という湯気のようなものが沸き立っている(ユーザーはその場所を目指して街を歩く)。

 このXMは“人間の思考に影響を及ぼすと信じられている”ので、ゲームの世界ではポータルは芸術作品や建築物、銅像、彫像、記念碑、歴史的建造物、個性的な商業施設とされている。街を歩き、そういったものを見つけ、アプリからポータル申請を行うのである。

 青森県内でも、名所が多いながらもポータルが少ない下北半島にポータルを増やす取り組みをしようと、筆者は8月8~11日の4日間、地域の商工会の協力のもと、学生5名とポータル申請の旅に出た。

 この取り組みに賛同いただいた青森県および岩手県のイングレスベテランプレーヤー(ゲーム内ではエージェントという)5名もボランティアとして協力してくださり、2グループに分かれ、あまり一般には知られていない名所・旧跡などを巡り歩いてポータル申請を行ってきた。そのトータルの申請数はのべ231カ所に上った。

 申請後、Niantic Labsはイングレスのポータルとしてふさわしいかどうかの審査を行い、適正とされたものがイングレス内に反映される。その採択率は1割程度とも言われているし、また反映されるまでに数カ月かかるケースが大半とされている。

 ただ、いずれにしても、地域のポータルが増えればユーザーが足を運んでくれる機会は増えるはずだ。このイングレスをプレーする人が集ってくれることで、微力ながらでも地域振興につながっていけば大変嬉しいことである。

 一方で、地域の一般のスマホユーザーはまだまだイングレスの存在を知っている人は多くない。一部のユーザーにとどまっているイングレスを、今後どう認知してもらい、裾野を広げていくかが課題といえそうだ。

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第82回 「Ingressで地域振興」、成功のカギを握るのは?

《木暮祐一》

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