【DEVELOPER'S TALK】手のひらサイズでも「ACE」級、iPhoneアプリ『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』開発チームのチャレンジ | GameBusiness.jp

【DEVELOPER'S TALK】手のひらサイズでも「ACE」級、iPhoneアプリ『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』開発チームのチャレンジ

バンダイナムコゲームスがiPhone/iPod touch向けに配信中の『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』は、バンダイナムコゲームスとして初めて、シリーズを手掛けてきたメンバーが直接iPhoneに挑んだ作品であり、シリーズの原点に立ち返った作品でもあります。新しいハード

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バンダイナムコゲームスがiPhone/iPod touch向けに配信中の『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』は、バンダイナムコゲームスとして初めて、シリーズを手掛けてきたメンバーが直接iPhoneに挑んだ作品であり、シリーズの原点に立ち返った作品でもあります。新しいハードに挑戦し、試行錯誤の末に導いた解答は何だったのか、得られた経験は何だったのか、品川シーサイドの未来研究所にお邪魔して話を伺いました。

■参加者

バンダイナムコゲームス

加藤 正規 コンテンツ制作本部 企画ディビジョン第2企画ユニット企画4課
本作のプロデューサーを務める。過去には『ワギャン』シリーズや、PSでの『エースコンバット』シリーズに携わる一方、海外チームでローカライズも経験。ハードでも初代ガンコンやネジコンの設計にも携わる。

江藤 元治 コンテンツ制作本部 企画ディビジョン第2企画ユニット企画4課
本作のディレクターを務める。商社やレコード会社を経てゲーム業界へ。バンダイナムコゲームスでは宣伝やプロデュースなどを経験。『エースコンバット』シリーズのファンということもあり企画から参加。

山崎 正通 コンテンツ制作本部 企画ディビジョン第2企画ユニット企画4課
本作ではディレクターをサポートする傍ら、サウンド仕様の決定などにも携わる。過去にはDSの『平成教育委員会 DS』シリーズ、『眼力トレーニング』(任天堂)、PSP『機動戦士ガンダム 戦場の絆ポータブル』などの企画を担当。

上田 にき NE事業本部 コンテンツディビジョン NE営業企画部 グローバル推進課
ネットワークコンテンツを担当するNE事業本部で、iPhoneビジネスを推進。本作では自ら全国行脚に出るなど、プロモーションにも尽力。

インタビュアー

幅 朝徳 CRI・ミドルウェア iPhone & SmartPhone 推進室長
CRI・ミドルウェアでiPhone/スマートフォンビジネスを推進。過去には『エアロダンシング』シリーズ全タイトルにも携わる。

・金子幸史 CRI・ミドルウェア 研究開発部
iPhone/iPod touch版ミドルウェア開発のコアメンバー。過去には『エアロダンシング』シリーズを手がける。

・土本学 インサイド編集部

『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』AppStoreで好評配信中


―――まずは『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』の配信開始から2週間が経った今の心境を聞かせてください

加藤氏
加藤: iPhoneで『エースコンバット』と呼べる作品を作れたという満足感はあります。お客さんにも楽しんでいただけるものをまずは完成させることができたと思っています。有難いことにAppStoreでも1位も取らせていただくことができました。

これまでの家庭用ゲーム機はじっくりとテレビの前に座って遊ぶという環境がある程度想定できるものでした。しかしiPhoneの場合は、途中で電話がかかってくるかもしれないし、目的地に着いたり、待ち合わせの友達が着たりと、中断せざるを得ない状況が起こることが考えられます。そういう意味で未知の環境で、どういったゲームを提供すべきなのかと悩み抜いた一つの回答です。

それがある程度の好評をいただけているのは嬉しいですね。もちろん全てが良い評価ばかりではありませんが、これから修正していける環境というのも新鮮ですね。

―――開発現場の雰囲気は今までとは違ったのですか?

加藤: そうですね。今までのようにパッケージタイトルであれば、マスターアップした段階で「できた!」と喜んで一息つけるのが、今回はマスターアップしたらすぐ次にバージョンアップ版や追加データ等の対応をしなきゃいけないので、その暇がないのが新しい体験ですね(笑)。

江藤: まるでトライアスロンですよね。水泳が終わったと思ったら次の競技が出てきて・・・(笑)。

■iPhoneでの『エースコンバット』とはどんなものなのか

―――ズバリ『エースコンバット』の最新ターゲットのハードとしてiPhoneを選んだのはどうしてなんでしょうか?

加藤: AppStoreには一人のゲームデザイナーさんが手掛けたものから、大手メーカーが提供するものまで様々なゲームやアプリが登場していて、非常に活発で魅力的なプラットフォームという印象があります。ただ、それだけでなく、ゲームというメディアが誕生して、成熟期に入って、家で遊ぶというスタイルから脱却したのがゲームボーイならば、iPhoneはゲームが生活の中に入っていくハードではないかという大きなとらえ方をしています。改まって遊ぶ時間を確保するというのではなく、生活の一部として空いた時間を消費する、そういう遊びのスタイルを生み出しているんじゃないかと思っています。我々はそこに提供するゲームとは何なのか考える必要がありました。当然携帯電話などのモバイル機ではこれまでもやってきましたが、ハードの性能が格段に上がっています。『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』はバンダイナムコゲームスが持つ技術の全てを投入した新しいモバイルゲームの形を作り上げる挑戦でした。単純に活気のあるマーケットに参入したいという以上の意味を持ったプロジェクトだったと思います。

―――それは今までの『エースコンバット』のスタイルを変えることにも繋がると思います。これだけ成功したシリーズで、スタイルを変えるのはとても困難な決断ではないかと思うのですが、それを後押ししたのはどういったものでしょうか?

山崎氏
山崎: 今回大きなテーマとしてあったのは「原点回帰」という言葉です。近年の『エースコンバット』シリーズは大作というイメージも強いですが、元々はゲームセンターの『エアーコンバット』から始まっていて、気軽に遊べるゲームだったんです。僕はプレイステーションの1作目の『エースコンバット』をユーザの立場で楽しんだ人間ですが、当時はゲームセンターで遊べたものが家でも遊べるようになった、という印象が強かったです。そうした頃に立ち戻って作った感覚が今回はありましたね。

江藤: 忘れがちなんですよね、原点って。どうして原点が楽しかったのかということを大事にして作りました。近年の『エースコンバット』は大作然としていて、ある意味では遊ぶハードルが高かったかもしれません。今回は原点に戻って、5分、10分で気軽な操作で楽しめる作品として作りましたので、シリーズが初めてという方にもぴったりです。もし気に入っていただければPSPやXbox 360でも発売していますので、登竜門と言うと変ですが、そういう位置付けにもできるかなと思います。

加藤: 今回初めて『エースコンバット』を遊びましたという人も我々が想定した以上で、これは嬉しい誤算でした。

本作で初めて空を飛んだ人も多いとか


―――特に年齢が上がっていくと、そもそもゲームを遊ぶ時間が無くなっていく人が多いのではないでしょうか。そういう意味でも、生活の中でゲームをどう位置付けるかというのは考える必要がありそうですね

山崎: 確かにそれはありますね。自分でもゲームを遊ぶ時間が減っているのは実感しています。なかなか大作に手を出す気にならないので。自分が上手ければ短時間でクリアできるようなアクションなんかを遊びがちだったりしますので・・・。

加藤: 子供たちと一緒に遊ぶ時間は増えていくけど、一人で遊ぶ時間は減っていきますね。一人でゲームを遊んでると「パパばっかりズルイ」って子供たちに怒られちゃって・・・。

―――今回の『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』の開発規模や開発期間はどのくらいだったのでしょうか?

加藤: 開発メンバー全体では十数人で、開発期間としては実験期間を含めて約1年くらいでしょうか。モバイルのコンテンツとしてはかなり大規模だと思います。

江藤: 初めてのハードだったので、技術検証や操作まわりの試行錯誤などにかなり時間がかかりましたね。

■操作に試行錯誤

―――タイトルにもありますが、今回はPSP『エースコンバットX』の世界観で描かれたのでしょうか?

加藤: はい。『エースコンバットX』で描かれたオーレリアとレサスの戦いという世界観をベースにしていて、『X』ではグリフィス隊の視点から描かれているのが、『Xi』では、グリフィス隊と同時に影で動いていたファルコ隊の視点から描いたストーリーになっています。

―――ゲームシステムは『X』とは全く違うものになったと思いますがいかがでしょうか?

加藤: ゲームシステムは完全な新作に近い考えで作りました。というのも、ユーザさんが遊ばれる環境が今までのシリーズとは全く違うものになっています。であれば、ゲームもお客さんが一番気持ちいい形を考えなくてはなりません。ゲームを遊ぼうと思って起動してもらうのか、それとも色々な物事の中で息抜きとして起動してもらえるのか、その環境に『エースコンバット』を適応させるというのが一番大変で苦労した点でした。

―――中でも全く家庭用ゲーム機と異なるのが操作まわりではないでしょうか?

江藤氏
江藤: 普通のゲーム機ならボタンがあるので、それをどう割り振るかを考えれば良いのですが、iPhoneには表面上ボタンが1つしかありません。上司にも「ボタンが何もないんです・・・」と相談しながら(笑)。一番苦労した点ですね。

加藤: 操作は何ヶ月もかけて検証しました。最終的にはiPhoneを傾けての操作に落ち着きましたが、そこにも色々と試行錯誤がありました。基本的な考えとしてあったのは、まずはiPhoneでの基本となる形を作ろうということです。基本さえ作れば、次のバージョンでもっと改良したり、他の手段を提供したりといった事が出来ます。『エースコンバット』は毎回何か新しい驚きを提供しようと思っていて、iPhoneであればユニークなインタフェースを使う他にないだろうというのもありました。それで本体を操縦桿のように傾けるという操作に落ち着きました。

―――なるほど。非常に戦闘機を操作している感覚があるインタフェースです。でも、電車の中などで遊びにくいんじゃないかという心配もあったのではないですか?

江藤: 確かに電車の中では遊びにくいというのは正直なところそうだと思っています。直感的な操作で、手軽さを追求した結果のトレードオフではないかとも思っています。もちろん、『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』はこれからも改良を加えていきますので、次のステップとして他の操作方法の導入も検討します。人が操作するものですから、操作性を向上させることは常に認識しています。

加藤: 先ほどもあったように、今回配信を開始した「バージョン1.00」では最も遊びやすいモデルケースを実現するのに注力しました。最初から多くのことをやりすぎると方向性を失ってしまう場合もありますので。もちろんゲームを遊ぶシチュエーションは様々ありますので、多くの状況に適応できるゲームスタイルを作っていきたいと思っています。

―――ミサイルやガンはバーチャルパッドでの操作ですが、配置や大きさなどの苦労は?

加藤: バーチャルパットも数、場所、大きさで試行錯誤がありました。ボタンの配置でかなり操作性が異なってきますので。以前に、ネジコン(※)を開発したことがありまして、久しぶりにコントローラーの構造設計を考えているような気分を味わえて、懐かしかったですね(笑)。

※ネジコン・・・ナムコ(現バンダイナムコゲームス)がプレイステーション向けに開発した、レースゲーム向けコントローラー。その名のとおり、ねじることでハンドル操作などを行うことができた。

■サウンドの出来も「エース」級

―――今回は音楽もこだわったポイントだと言われていますよね

山崎: iPhoneは元々が音楽プレイヤーなのでサウンドのポテンシャルが高いハードです。据え置きゲーム機と比べても遜色ないくらい高音質のサウンドが再生できます。作り手としてもそれを視野に入れて、周波数の高い、よりダイナミックレンジが広いものを使っています。良いサウンドになったと自信はあります。

―――無線通信のリアリティやスロットルを効かせた時のサウンドなどこだわりを随所に感じます

山崎: そのあたりは特に意識したポイントですね。とはいえモバイル端末ですので、多くの制約の中で制作していて、家庭用ゲーム機と比べれば音のバリエーションは少なめではあります。これまでの『エースコンバット』シリーズは自社で開発しているサウンドエンジンをフルに使ったような贅沢な実装をしていたので、それに遜色ないサウンドに聞こえるようするためには、どの音を選べば効果的なのか、かなり吟味しながら作りましたね。

加藤: 久々にサウンドコーディネーターが職人技を活かせるゲームでしたね(笑)。

山崎: サウンド再生にはCRIさんのミドルウェア「ADX」を使っています。実は同時最大6音しか鳴っていませんが、その中で、いかにかち合わずに、自然に聞こえるか。昔のノウハウを引っ張り出して仕様を書きました。エンジン音もリアルタイムでのピッチの変更ができないんですが、色々と小技を使ってアップダウンを実現しています。

加藤: 家庭用ゲーム機ではかなり贅沢な同時発音数でやっていますので、それに比べると、作り方も原点回帰した形で、気持ちのいい音を、気持ちのいいタイミングで鳴らす、ということを職人技でやっていきました。それにiPhoneは音楽プレイヤーの素地がありますので、アンプはとても良いものを持っています。なので高音質で、感情を揺さぶるようなサウンドが実現できたと思います。

―――東京ゲームショウのブースにもヘッドホンがありましたね

上田氏
上田: 実はヘッドホンの設置はやめようという話もあったのですが、せっかくのiPhoneゲームなのに音を聴かせないのはおかしいと説得して実現しました。携帯機とは思えないような良いサウンドになっていますし、会場は賑やかなので、ヘッドホンで聴いてもらうことができてよかったです。プレイしていただいたユーザさんの評判もとても良かったですね。

山崎: 東京ゲームショウで予想以上に好評をいただいたので、当初の予定より頑張ってしまいました(笑)。それで無線ボイスが豪華になっています。

加藤: 東京ゲームショウでの反響もそうですが、CRIさんのミドルウェアを組み込んで、初めて音が鳴った段階で、3人とも「これはいける!」という確信はありました。それでサウンドを前面に出していこうということになりました。

■エースコンバットとエアロダンシングの夢の競演?!

―――今回は『エースコンバット』シリーズとして初めてCRI・ミドルウェアの技術を採用いただいたのですが、理由をお聞かせください

加藤: 『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』はハードの性能をフルに使わなければ快適に動かないタイプのゲームであることは最初から分かっていて、まずはサウンドに割ける限られた性能の中で、音が鳴るかどうかが最初の課題でした。もちろんバンダイナムコゲームスとしてもiPhoneでのサウンド再生技術も他のハードウエア同様、研究しています。ただ、サウンドドライバなどのツールは、道具(ツール)である以上、使用条件や環境によって向き不向きがあります。それを無視して自前にこだわるあまり、お客様に提供するものの完成度が落ちてしまったり提供時期が遅れたりとというのは、あってはならないことだと思っています。

今回、自社のものも含め、様々なツールをテストしていく中で、CRIさんのミドルウェアが、最も我々の使用条件や環境に適していて、「良いものが作れる」との確信が持てましたので、採用することに躊躇はありませんでしたね。

―――「エースコンバット」は音質ももちろんのことリアルタイム性が大事なゲームだと思います。レスポンスはいかがでしたでしょうか?

江藤: もちろんこだわっています。音を出したいタイミングで出せるように、いろいろとチューニングしています。3Dの描画とサウンド再生のバランス取りは苦労した部分です。

山崎: クイックに再生したい音はメモリ上に置いて、BGMなどのレスポンスがあまり必要ない音に関してはストリーミングで再生しています。ADXのマルチストリーミング機能を使って、メモリ消費を効率化することができました。

金子: 今回、ゲーム機向けに提供してきたADXをiPhoneに移植するにあたって、メモリ使用量やCPU負荷などかなりのチューニングをしました。家庭用ゲーム機とはちがって、iPhoneならではの苦労も多々ありました。今回ADXをお使いいただいて鍛えていただいたので、今後も継続的にブラッシュアップしていきます。

―――CRIは以前は競合とも言えるフライトシミュレーター『エアロダンシング』を開発していた会社だというのは・・・

山崎: もちろん存じておりました(笑)。

―――話をもらった側のCRIとしてはどんな心境だったのでしょうか?

幅氏
幅: 『エースコンバット』シリーズとしてミドルウェアを採用いただいたのは今回が初めてということで、CRIの人間としては感慨ひとしおでした。それに『エアロダンシング』シリーズには全て携わっていたこともありますので、フライトゲームには思い入れが強いです。。また、実は私がゲーム業界に入るきっかけとなったのが『エースコンバット2』だったんです。遊んで非常に感動、感銘を受けて「これがゲームだな」と。今回、そんな自分にとっても意味深いタイトルの縁の下の力持ちとして関わらせていただいたのはとても感慨深いですね。

幅: 実はスタッフクレジットにも名前を載せていただきまして・・・。これは自分で気づいたんじゃなくて、『エアロダンシング』時代に全国を行脚するイベントをやったのですが、その当時のユーザさんから「幅さん、エースコンバットチームに入られたんですか?」と(笑)。本当に驚きました(笑)。

江藤: CRIさんには非常に多大なサポートをいただいたのでクレジットにも入れさせていただきました。

―――今ではミドルウェアメーカーのCRIが当時はゲームを手掛けていたんですね

江藤: 「エアロダンシング」の編隊飛行は楽しいですよね〜。あれをもとに『エースコンバット』でオンラインで皆で編隊飛行をしている人たちがいます。シンクロナイズドスイミングのように掛け声をかけながら。通信のラグも計算して、まさに"変態"的な・・・。

加藤: まあ、操作という点では、自動車ができるまで人間は馬の速度以上を体験したことがなくて、自動車ができて何十年で時速百キロの世界を一般の人が操縦するようになったんですから、もう何百年かすれば普通の人も時速300キロも操縦できるようになるかもしれませんね。とりあえずSFに出てくる浮上式の車はきっと戦闘機と近いような経験になるでしょうから・・・。

―――その日に備えてエースコンバットを練習するのが良さそうですね(笑)


■こんな地域でも売れる

―――実際にiPhoneでゲームを作ってみて感じられたことはありますか?

加藤: 一つ感じたのは、iPhoneの遊びはアーケードゲームと家庭用ゲームの間のような存在かもしれないということです。ゲームセンターでは、色々な種類のゲームを眺めながら、自分が興味のあるゲームを選んで少しずつの時間を楽しむというスタイルです。家庭用ゲームは吟味して買ったゲームをじっくりと構えて遊ぶというスタイルです。実は私も今でこそ専ら家庭用ソフト制作に携わっていますが、入社当時はアーケードゲームを作っていました。そんなことを考えると、私としてはもう一度、自分のゲーム作りの原点に立ち返れるようなハードじゃないかと感じました。

幅: iPhoneのゲームにはアーケードとの共通点が確かにある気がしますね。昔ゲームセンターで味わった、色々な遊びが詰まっているワクワク感がありながら、現代的なネットワーク対応も備えている、不思議なポジションの製品ですよね。

―――ワールドワイドで配信できるという意味で、今まで家庭用ゲーム機の『エースコンバット』が発売されていなかった国でも購入できるようになっているんですよね

江藤: 凄く面白いデータが出ています。今まで発売してこなかったような中東や中国、ロシアといった地域でも反応が良いんです。ランキングも上の方にいっていて、ロシアでは2位になっていました。残念ながら今回はロシア語には対応してないんですけどね。ロシア語なのでレビューは読めないですが、星は付いていたので、ちゃんと直感的に理解されているんだなあと。主要地域の事情はある程度把握できるんですが、通常の家庭用ゲームソフトでは我々に入ってくる情報が少ない地域でも意外と買っていただいていて、国境はないんだと実感するばかりです。

左:加藤氏、右:山崎氏
加藤: 反応については江藤の言った通り「おおー」という感じですよね。実際の声は、私には読めない言語の地域も多いので、星でしか判断できませんが・・・(笑)。

江藤: 家庭用ゲーム機の市場はまだ難しい地域が沢山あると思います。そういうところでアップルさんがこともなげにやっているというのは、ただただ驚きです。気軽にアプリを買えるというのが大きいと思いますが、10年前では考えられなかった世界ですね。

加藤: そういう意味ではiPhoneが基本は電話であるという強みがあるかもしれません。携帯電話は、起きている時はほぼずっと身につけている、現代で最も身近な道具になっています。「遊び」自体は人間にとって欠かせないものと思いますが、ゲーム機、エンターテイメント機は生活と心にある程度のゆとりを持てないと入れ込めないものです。、iPhoneは生まれは日常に必須の、人間に最も身近な道具の一つで、そこに我々が蓄積してきた、幅の拾いエンターテインメントを提供する場所を作ってくれたという気がしますね。

―――iPhoneで成功する方法のようなものは見えてきましたでしょうか?

加藤: まず、ビジネス的な観点でいくと、家庭用ゲーム機と同じ体制で挑むと痛い目を見るなと途中で気づきました。途中で気づいたのでなんとか結果的に痛い目を見ることはなかったのですが(笑)。一つには、ユーザに何を楽しませるかという取捨選択を、目的を明確にして果断速攻で臨む必要があると思います。考えがブレると手戻りがあったりと途端に手間がかかって、ビジネスとしても難しくなります。もちろん家庭用ゲーム機でも同様でありますが、より精度とスピードが求められるんじゃないでしょうか。

上田: ワールドワイドで配信でき、パッケージのように流通や製造コストがかからないのは利点ですが、配信されているアプリ数が膨大で玉石混交の市場になっています。弊社のように、お金をかけてハイクオリティのゲームを作る会社としては、いかに埋もれずに競争できるかが課題ですね。

―――まさに玉石混交ですよね

加藤: 玉石混交なのはまだ健全な市場だと思います。しかし、そういう状態の中で、夢をもってコンテンツを作っていくというベースそのものが壊れてしまわないか心配しています。アメリカでは数十年前にアタリショックというのを経験していて、粗製乱造によってゲーム市場が完全に崩壊したという例があります。第二のアタリショックは絶対に来てほしくない。目先の利益のために、中身のない飾り付けばかりのものを売ってしまう、ということが氾濫しなければいいなと思います。

―――少し戻りますが、115円のゲームが氾濫している中で900円という価格はどのように考えられたのでしょうか?

加藤: 紆余曲折ありました(笑)。我々はクリエイターとしてゲームを作らせていただいている一方で、ソフトウェアビジネスをやらせていただいているので、そもそも赤字になっては企業としての在り方を問われてしまうことにもなります。価格設定は、赤字にはならないようにと考えましたが、どういう状況で赤字にならないかは色々なパターンを考えました。日本、北米、欧州、世界中で売るものですから、どこに落ち着ければそれぞれの地域のユーザさんに納得いただけて、我々も上手くいくかという折り合いをつけた価格になります。

―――企画の当初から追加コンテンツはビジネスモデルとして考えられていたのでしょうか?

加藤: そうですね。そういう場所も挑戦しなければならないという危機感はありましたので、そのための戦略というのは当初から組んでいました。

―――最初の段階から追加コンテンツとして機体の販売をやられていますが、反応はいかがでしょう?

上田: 予想以上に追加で機体を購入していただいているお客さんが多いですね。気軽にどこでも買えるというのが一つ大きいのかなと思います。115円ならダウンロードしてみてもいいかなと思ってくださるお客さんがいらっしゃるということでしょうか。

―――今後の配信予定などがあれば教えてください

上田:ミッション数と実機体が増えた新バージョンを先日リリースしました。来年も1月に入ってからミッション数と実機体が増えたバージョンが配信されます。こちらは本体のバージョンアップということで、無料でボリュームが増えてます。追加コンテンツの方も、大手メーカーの実機を順次追加していく予定です。

既に第一弾のアップデートは実施済み


■ダウンロードコンテンツの未来

―――ダウンロードコンテンツの販促には各社さん苦労されているようですが、いかがでしたか?

加藤: いわゆるパッケージコンテンツの場合には、プロモーションやTVCMをする際に目標とするのは、いかにお店のゲーム売り場に行って手に取って貰えるかという点になります。ダウンロード販売の場合は、足を運ぶ必要がないので、その敷居は格段に低いんです。逆にお店のように整然としていないので、ぶらりと回って買うというのはまだ難しい状態です。

今回上田が全国を回ってプロモーションをしてくれたのですが、上田が現地に赴いてユーザに「エースコンバット」を紹介する場所、そこ自体が売り場になるんです。パッケージ販売からダウンロード販売になって、売り場がiPhoneの画面やPCのスクリーン上だけに集約されると思っていたのですが、逆にあらゆる空間がゲーム売り場になってしまったんです。それはやっていて面白いと感じましたね。

江藤: 本当に新しいマーケットという言葉がしっくりきます。

加藤: ユビキタス社会がいよいよコンテンツの分野にも来たということでしょうか。色々な意味で感動しました。

上田: 発売時にセール価格で600円に設定したんです。するとTwitterなどで、なぜか販売価格は1200円という噂が瞬く間に広まったんです。イベントで「本当は販売価格900円です」と言ったら、半日後にはまた「900円だった」というのが広まったので良かったのですが。口コミはすごく効果が高いのですが、同時に誤解が誤解を生んでしまう可能性があり、気をつけないといけない部分でもありますね。

―――iPhoneを見て思うのは、モバイルと家庭用ゲームの境目がなくなっていることです。今回のチャレンジは、家庭用ゲーム機の今後、デジタルディストリビューションが主流になるという未来まで視野を入れてやられたものなのでしょうか?

加藤: 物体としての所有の楽しみもエンターテインメントの一つですから、パッケージ販売が急に縮小することはないと思いますし、すぐにデジタルディストリビューションが『主流』になるかというと、そうは思いません。しかし、家庭用ゲーム機のダウンロードビジネスは将来的にはもっと比重が高まっていくでしょうし、バンダイナムコゲームスとしても、避けて通れないものだと認識しています。iPhoneはダウンロードビジネスの中では最も世界で普及した端末ですので、非常に有効なモデルケースになると思います。

現在、全ての家庭用ゲーム機でダウンロードビジネスがありますが、パッケージ販売と同じ商品で、同じビジネスモデルでは本当の意味での発展はないと思います。残念ながら弊社も含めて、そこに適合するビジネスは明確には提示できてないとも思っています。しかし当然、そのトップを走りたいと考えていますので、パッケージとしてではなく、コンテンツそのものの価値を売るという、ある意味エンターテイメントの原点に立ち戻って、あるべきビジネスモデル、あるべきコンテンツのコンセプトを確立したいと思っています。今回の作品は、我々にとって、その足掛かりとなる重要な要素の幾つかを含んでいると思います。

―――最後に、毎回恒例の質問なのですが、ゲームを遊んでいただいているユーザさんと、iPhoneにこれから挑戦しようというようなゲーム開発者さんに一言ずつコメントをいただけますでしょうか?

江藤: 『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』はこれからも進化を続けていきたいと考えています。ぜひ注目していただければと思います。これからiPhoneの開発をやられる方には、iPhoneをなめてかかっちゃいけないとお伝えしたいですね(笑)。僕は初めは軽い気持ちで開発していたのですが、大変な壁にぶつかってブルーになった時期がありました。家庭用ゲーム機をやってきた人間にはインパクトが大きいハードでした。ボタンが何も無いのは本当に大変でした(笑)。ただ、その分だけ可能性はあると思っているので、何十回も試行錯誤を繰り返せば、何か答えは見つかると思います。

山崎: 傾き操作で遊べる『エースコンバット』ということで、今までの感覚は一回クリアしてもらって、楽しんで欲しいですね。音も頑張って作ったので、ぜひヘッドホンで聴いていただきたいです。開発者の方には、色々と工夫のし甲斐があるハードですので、作っていて面白いと思います。やりがいのあるハードです。ハイエンド機からモバイルまで、色々と学ぶ物が多い昨今ですが、置いていかれないように頑張っていますので、一緒に頑張りましょう。

上田: 『ACE COMBAT Xi Skies of Incursion』はまだまだ終わりませんので、今後のバージョンアップにも期待してほしいです。開発をされる方には、高品質なアプリをどんどん出して欲しいですね。ゲーム機としても認められつつあるプラットフォームなので、玉石混交に負けず、良いゲームを出していきましょう。

加藤: 本作は『エースコンバット』の最もベーシカルな部分を楽しめる、初心に戻ったゲームです。まだ『エースコンバット』シリーズを体験したことのない方はここから入っていただけるゲームなので、ぜひ触っていただきたいなと思います。また、『エースコンバット』をこれまで遊んでこられた方には、まだまだ進化を続けるつもりなので、今後にご期待いただきたいと思います。開発者の方には、iPhoneは低い敷居でありながら、クリエイティビティを反映させられる、価値のあるハードだと思います。その逆に、今現在は、敷居が低いために、長い目を持たなければ、クリエイティビティを発揮しなくとも、上辺だけでそれなりにビジネスができてしまう怖いマーケットでもあります。それだけに、プレイヤーのために本気で作る開発者の方にどんどん挑戦していただき、活気あるクリエイターのためのマーケットになって欲しいと思います。
―――本日はありがとうございました!

バンダイナムコゲームス 未来研究所にて


ACE COMBAT Xi Skies of Incursion © 2009 NBGI
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《土本学》

メディア大好き人間です 土本学

1984年5月、山口県生まれ。幼稚園からプログラムを書きはじめ、楽しさに没頭。フリーソフトを何本か制作。その後、インターネットにどっぷりハマり、幾つかのサイトを立ち上げる。高校時代に立ち上げたゲーム情報サイト「インサイド」を株式会社IRIコマース&テクノロジー(現イード)に売却し、入社する。ゲームやアニメ等のメディア運営、クロスワードアプリ開発、サイト立ち上げ、サイト買収等に携わり、現在はメディア事業の統括。

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